【陰謀論】フラットアースを優しく論破するスレ 第23日
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0245 青火 ◆xgKzWyAAH4vO垢版2024/03/30(土) 17:47:31.95ID:yqR8bsmZ
これやな
まだ見ぬ神
www.uccj-sapporo-chuo.jp/2021/05/09/1597/
知られざる神に
www2s.biglobe.ne.jp/~kitakyo/message/170205.htm 江戸時代には1日は12の「刻」に分けられ、時刻の表記には干支が使われていた
http://www.zenigata.club/img/time12.png
時間表記の時計と時刻表記の時計の考察
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1711483434/279-296 世界中の誰も見たことがない「まだ見ぬ神」とは、月の裏にいる神のこと
時間表記の時計は、横 9−6−3、縦 0ー3−6、6×3で18(月)
時刻表記の時計はその裏側だから81(ハイ)
原子番号81のタリウムの由来は「緑の小枝」を表す thallos で、これは、原子スペクトルが緑色のためである オリーブの枝
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%96%E3%81%AE%E6%9E%9D
オリーブの枝(オリーブのえだ)は、平和の象徴もしくは勝利の象徴として使用される。
古代ギリシャにおける、特に神や権力者への祈りに由来するとされ、地中海沿岸のほとんどの文化に見られる。
近代ヨーロッパでは平和の象徴とされ、アラブでも使用されている、 >>9
原文が点で終わってるので修正
×アラブでも使用されている、
〇アラブでも使用されている。 小説版の愚者の船の考察をするのが楽しみだ!!!
さらなる補強になるだろうさ!!!
お前らも当然読んだよな!?
これだけ比喩の多い小説も中々無いだろう!!!
世界的ベストセラーと銘打つだけあって面白いぞ!!! 愚者の船の書き出し分、長文だからゆっくり読めるように連載形式にしないといけない
まだ途中だけど、モチベ保つために今日から転載していこう 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 9ページより
旅行者にとって、港町ヴェラクルスは、陸と海のあいだによこたわる小煉獄のように思われる。
だが、町の住民たちは自分にもまた自分たちがつくりあげた町にも大いに満足している。
「気ままに、しかも礼儀にもとらず楽しむ術を知るのはわれらのみである」と新聞は書く。
「われらは、心がひろく暖かく、もてなし好きで、感受性がこまやかである」とつづける。
ヴェラクルスは悪徳はびこる海への足場にすぎないとがんこに考えている数ヵ国語を使う高原地帯の蛮人どもにも読ませるために、そう書くのだ。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 20ページより
「おい頓馬どもがもどってきたぜ」、事務員は、いちばん近くにいる給仕たちに声をかけた。
給仕たちは、脂じみた布きれをぶらさげ、雑多な一団の人びとをはっきりそれとわかる意地悪な目つきでにらんだ。
人びとは無言でテラスへあがり、テーブルのまわりにぐったりと腰をおろし、すでに難船したかのようにぼんやりと坐っていた。 木の幹のような脚をしたとほうもなく太った女、埃っぽい黒の服を着た肥満した彼女の夫、二人の太った白いブルドッグも再びそのなかにまじっていた。
昨日、彼女は、事務員から
「いいえ、奥さま、ここはたしかにしがない国メキシコではありますが、犬を部屋へ入れるわけには参りません」
ときっぱりやられていた。
このばかげた女はボーイに犬をひき渡す前にそのしめった鼻に口づけし、ボーイはひと晩調理室の中庭につないでおいたのだ。
ブルドッグのベベは、いかにも雄々しい種族らしく、悲しみながらも沈黙して、試練にたえ、だれも恨まなかったのである。
いま、彼の飼主たちは、席につくとすぐに、どこへでも携えていく大きなバスケットの底へ手をいれ、餌をさぐりはじめている。 やせた背の高い女――長い頸の上でゆれる、短く刈り上げた小さな頭をした、脚のひょろ長い「娘」、
ぐにゃぐにゃしたグリーンのドレスがふくらはぎのまわりをおどっている――が、
つれのばら色をした豚のような背のひくい太っちょに、ドイツ語で雌くじゃくのようにかん高い声で話しかけながら、大またにはいってきた。
なみはずれて大きな手足をもち、プラチナ色の髪を深いたてじわをきざんだ額の生えぎわでブラシのように刈りそろえた、
背の高い、しまりのない体つきの男が、まるでテラスが目にはいらないかのように通りすぎ、もどってきて、ひとりだけはなれて腰をかけ、昏睡にしずんだ。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 24ページより
グリーンのガウンを着た髪を短く刈った若い女が、いきなりとびあがり、
「あら、何がおこるのかしら、あの人たちは彼に何をしようとしているのかしら」
とかん高いドイツ語で叫んでみんなを驚かせた。
「気にすることはないさ」と豚のような鼻をもった男は、グリーンの服装をした娘にいった。
「あんなことはここでは日常茶飯事なんですよ。つまりはやつを銃殺しようとしているだけのことですよ。
とうがらしをひとつかみ盗むかなにかしたんでしょう。あるいはくだらぬ村の政争が原因かもしれませんがね」 これを聞いて、大きな手足をした金髪のやせた男が目をさました。
長い上体をおこし、組んでいた脚をおろし、顔をしかめてずんぐり太った男をにらんだ。
「そうだ」、彼は大声をはりあげ、外国語訛りのドイツ語でいった。
「たしかに政治問題かもしれん。ここにはそれしかないのだ。政治にストライキに爆弾しかない。
やつらはいったいどうしてスウェーデン領事館を爆撃する必要があるというんだ。ぼくはそこをききたいんだ」
豚のような鼻の男は、いきりたち、大きな下品な声でやりかえした。
「気分転換のために、スウェーデン領事館をやってみたって悪くはなかろう。ほかの国の人間だって少しは困った目に遭ってもいいはずだ。
どうしていつもドイツ人だけがいまいましい外国でくるしまなくちゃならないんだ」
骨ばった長身の男はそれを無視して答えなかった。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 28ページより
ヴェラ号は、来る年も来る年も遠い港から港へよたよた駆けずりまわる、船腹のふくらんだ大へん堅実な恰好の貨客船であって、
ドイツの主婦のように正直で、たのもしい、地味な船であった。
彼らは渡し板のほうへとってかえしはじめた。
グリーンのドレスのキーキー声の女、ブルドッグを連れた太った夫婦、
黒い服で身をつつみ、つやつやしたとび色の髪を編み、太い金鎖のネックレスをした、背のひくい、まるまると太ったドイツ婦人、
重いサンプル・ケースをひきずった背の低い、当惑したような顔のドイツ系ユダヤ人などである。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 32ページより
ボーイたちは、デッキいっぱいにリクライニング、チェアをすえ、それを壁に沿った横棒に綱でしばり、頭支えの金属枠に名札をさしこんでいる。
グリーンのドレスを着た背の高い女はほとんどすぐに自分の椅子をみつけ、ぐったりと体を沈めた。
スウェーデン領事館事件について激昂した、額にしわを刻んだ大柄な男はすでに彼女のとなりの椅子に長々と体をのばしていた。
彼女は、その小さな頭を彼のほうへまげ、かん高い声で笑いかけ、きんきんした声でいった。
「お隣り同士のようですから、さっそく名乗らせていただきますわ。フロライン・リッツィ・シュペッケンキーカ―と申します。
住居はハノーヴァーですの。メキシコの叔父、叔母を訪ねてまいりました。
このすてきなドイツ船でハノーヴァーへ帰れるなんて、とってもうれしいですわ!」 「アルネ・ハンセンです、よろしく、フロライン」と彼は。やっとこで言葉をむりやりひっぱりだしたような口調でいった。
「あら、デンマークの方なの!」彼女はうれしそうに金切声をあげた。
「スウェーデンです」、彼女はそれとわかるくらいひるんでいた。
「どんな違いがありますの?」、リッツィはかん高い声でいった。
どういうわけか目に涙をうかべている。そしてまるで痛いところがあるみたいに笑った。
「いい船じゃない」と彼は、独り言でもいうみたいに、ぶすっとした顔でいった。 「あら、そんなことありませんわ」とリッツィは大きな声でいった。
「美しい、美しい――まあ、リーバーさまがいらしたわ、ほら!」
彼女は、体をぐっと前に乗りだし、両腕を頭の上へふりあげ、歩みよる豚のような鼻の背の低い男へ合図した。
リーバーは、目をいたずらっぽくかがやかせながら、いんぎんに答礼を返した。
りんごのようにかたくてまるい尻と、かたい、つきでた布袋ばらのまわりでズボンがぴんとひきつっていた。
意気揚々たる足どりである。脚のみじかい、ふんぞりかえった雄鶏みたいだ。 リーバーは、ハンセンと前に会ったことがあるという気配はおくびも出さず、
ヴェラクルスのテラスでの一件はいっさい無視して、ハンセンの前にたちどまり、その頭の上の名札を見つめ、
まずフランス語、ついでロシア語、そのあとでスペイン語、そして最後にドイツ語で、いずれも同じ内容のことをいった、
「お手数をかけて恐縮ですが、これはわたしの椅子です」
ハンセンは、片方の眉をあげ、リーバーが悪臭を、悪臭以上のものを発しているかのように鼻にしわをよせた。
「ぼくはスウェーデン人ですよ」と英語でいってたち去った。 リーバーは、彼の後姿へ向って、顔を紅潮させ、鼻をふるわせて大胆に叫んだ。
「そうか、スウェーデン人なのか。だからぼくの椅子を横どりしたんだな。よろしい、こうした問題ではぼくもスウェーデン流儀でやってやるぞ」
リッツィは、彼のほうを見上げ、歌うような調子でいった。
「あの方も悪気があってしたことじゃなくてよ。けっきょく、あなたがご自分の椅子にかけていらっしゃらなかったからですわ」
リーバーはかわいくてたまらないような調子でいった。
「なにしろあなたの隣りですからね、ぜったいほかの人間にすわらせたくないんですよ」 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 66ページより
一人だけ小さなテーブルをあてがわれたレーヴェンタールは、不浄な食物が書きならべられた夕食の献立表をしらべ、
新鮮なグリーンピースをそえたやわらかいオムレツを頼んだ。
元気をつけるために上等の白葡萄酒のびんを半分あけ、
(旅の難儀のひとつは、このほとんど全面的に異教徒によってきりまわされている世界で、食べられるものをさがすという問題だった)
デザートとして出された小籠の果物をたべた。 船のどこを見まわしてもユダヤ人はいない。一人も。
ドイツへもどるドイツの船だというのに、彼いがいにユダヤ人は乗っていないのだ。
船室には同室者の荷物がおいてあるだけで、相手はいなかった。
少くとも商売の方面では非常に立派な異教徒を何人か知っている。
同室者もそういう人かもしれない。
ようやくはいってくる足音がし、彼はせかせかと頭をもたげ、ほとんど相手の姿が目にはいらないうちに「よろしく願います」といった。 リーバーははいってくる足をとめた。
ほとんど同時に、かれのしし鼻の顔に深い嫌悪の表情がうかんだ。
眉を寄せ、口をへの字に結んだ。
「よろしく」と彼は、冷い、つきとばすような口調でいった。
レーヴェンタールは、かねがねそうなることがわかっていたかのように、最悪の相手であることを知って、仰向けに体を倒した。
「何て間がわるいのだ。こんなに長い航海なのに」と彼は嘆いた。
「そうだ、あいつは異教徒というよりもまるで豚だ」 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 84ページより
くさい港の空気を充満させ、蚊を満載して、船はその夜おそく碇をあげた。
一等船客にかなりの新しい客が加わったが、彼らは、すでにわがもののような関心を船にいだいていた最初からの旅客たちから、はじめは闖入者のように見られた。
六人の騒々しい、混血らしい、キューバ人学生は、夜ふけまで人目をそばだてていた。
数組の夫婦者は、まずはうるさいにきまっている子供たちを連れて乗りこんでいた。
夕食がすむと、学生たちは行列をくみ、そっとしておいてもらいたいと念じているおとなしい人たちが憩うデッキチェアのまわりを行進し、
人びとが本を読んだり、トランプをしたりしている船内を練りまわり、眠ろうとつとめている人たちの窓の前を通って、甲板をぐるぐるまわり、
駆けることができなくなったかわいそうなあぶらむし(ラ・クカラーチャ)の歌を次から次へとわめいた。 第一節ではマリファナ煙草がなくなったから、
第二節ではそれを買うお金がないから、
第三節ではぜんぜん足がないから、
第四節ではだれも愛してくれないから、
と学生たちは、お互いの肩に手をかけて縦にならび、足を踏みならして歩きながら、さいげんもなくあぶらむしの不運をならべたてた。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第一部 87ページより
ジェニー・ブラウンとエルザ・ルッツは、むしあつい船室で、なごやかな沈黙のうちに、髪をとかし、寝る支度をしていた。
船上の生活についてしばらく話したり、あたりさわりない噂話をしたり、罪のない意見を交換したりして、二人の間は大へんうまくいっていた。
エルザは、母親の警告にもかかわらず、同室者のやさしい、どちらかといえば几帳面なやり方をみて、急速に警戒心をとき、
ジェニーが甘く匂う化粧水や泡立てクリームのような軟膏を何べんも塗って顔の手入れをしているあいだ、うっとりとしてそばにすわっていた。 学生たちの咆えるような声と踏みならす足音が、これで三度目であるが、彼女たちのすぐ頭上の甲板にひびいた。
波やエンジンの音を凌ぐその騒音は舷窓から流れこんできた。
いままたエルザは頭をあげ、もの思いに沈んだ表情で耳をかたむけた。
「もう船は男の子でいっぱいね」と彼女は、ほとんど期待に胸をふくらませていった。
「ほんと」とジェニーはいった。
「あの人たち、ひとつの歌しか知らないみたいなのは困りものだけど」 エルザは、舷窓の下の寝椅子から、重大なうちあけ話をはじめた。
「わたしは、小さいときから、恋を信じなさい、情愛ぶかい人になりなさい、そうすれば幸福になれる、と父から教えられてきたの。
でも母はそんなこと見せかけにすぎないというわ。
時どきどっちが本当かわかったらいいな、と思うの――わたし、母を愛してるけど、父のほうが正しいんじゃないかと思うの」
「きっとそうだと思うわ」とジェニーは少し目をさましていった。
「父は生まれつき陽気な人柄で、楽しむことが好きだわ。
ところが母は笑えない人なの。
笑うのは馬鹿な人間だけです、人生はだれにせよ笑えるようなものじゃありません、というの…… いつか小さいときにこんなことがあったわ……
スイスの田舎では、子供もみな、ちっちゃな赤ちゃんまで、パーティへ連れていく習慣だったの――母が最初のダンスを父と踊ろうとしなかった。
だからもちろん、父はだれとも踊ることができなかったの。
そこで父は母にいったんだわ。
『よーし、わかったよ。ぼくはあんたよりすてきなパートナーを見つけよう』
そういって父は箒をもって、それを相手に踊ったの。母をのぞく全部の人がおもしろがったわ。
母はそれからというもの、その晩は父に話しかけようともしなかった。 それで父はビールを浴びるほど飲み、ひどく陽気になり、家へ帰る途中でだしぬけに
『さあ、踊ろう』
と母にいって、腰をとり、母の足が地面からはなれるまでぐるぐるふりまわしたの。
母は泣いたわ。でもどうして泣くのかわたしにはわからなかった。
じっさい悪いことじゃなくて、おもしろいことなんですもの。
ところが母は泣いたの。わたしも泣いたわ。 それから、かわいそうに、父はしゅんとして一緒に歩いたの。
今になって考えれば、父だって泣きたかったんだと思うわ。
母は、父が冗談をいっても、一度だって笑ったことがないわ。
それなのに父ったら、いつも冗談ばかりいうの。
ひどいとおもうときもあるわ。それくらいわたしだってわかるわ。
「あら」とエルザはいった。
暗闇の中のその声は、悲しみ、いぶかるように、ゆっくりとしていた
「お母さんに似てきたみたい。
わたしって、ひとをおもしろがらせたり、楽しませたりできないんだわ。自分のことばかりいって、恥ずかしいわ。 でもだまってすわっているのがつらくてたまらないときがあるのよ。
わたしにはどっかへんなところがきっとあるんだわ。
でなかったら、男の子がダンスにさそってくれるはずだもの」
「この船には踊ってもいいような男の子は一人もいないといっていいくらいよ」とジェニーはいった。
「国にいるときなら、目にとまらないような連中ばかりだわ」
「でもここはわたしの国じゃないもの」とエルザはいった。
「それにわたしには国というものがなかったの。なぜって、メキシコでだって、
一緒に外出するのを許された男の子たちは、わたしのスタイルを好まなかったんですもの…… 母はあなたとそっくりのことをいったわ。
『心配しなくてもいいのよ、エルザ、スイスへいけば、あなたこそ娘らしい娘だ、ほんとうのスイス娘だと思われますからね。
スイスではあんたのような娘が好かれるのよ。くよくよするのはやめなさい。国へ帰ったら万事うまくいきますからね』
「もちろん好かれるわよ。遠い国から来た娘さんというわけで、珍重されるわよ」とジェニーは彼女にいった。
そして与えることのできない助けをもとめられたかのように、こまやかな気がかりをおぼえたのであった。 このしょげた顔の若い娘にとって、スイスへ行ったところで、どんな希望があるだろう。
顎は二重にくびれ、首の付根には甲状腺腫のように脂肪がひだをなし、肌は油を塗ったようにぬめぬめとし、
褪せた灰色の目には魂の輝きが見えず、にぶい色の髪はいたずらに濃く、尻は大きく、足首の太いこの娘にとって。
恰好のいい鼻、恰好のいい口、まあ見られる額、それで全部だ。
あまり食欲をそそらない肉の小山には、ひらめきというものが、生気が、ひとかけらもないのだ。
そしてその内部では、若々しい純真さや憧れが、苦しみ、混乱した、世間を知らぬ心が、かたつむりのように彎曲し、
重なりあった、暗い本能が、やみくもに手さぐりしていたのだ。 >>38
×ゆっくりとしていた
〇ゆっくりとしていた。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 95ページより
ローラの双子リックとラックは、ローラとチトーが目覚めないうちに、早々と起き、音をしのばせて身支度した。
彼らはアルマンド、ドローレという名前なのだが、自分たちでそれを改め、
メキシコのある新聞に連載された彼らの気にいりの漫画の主人公の名を採って、自分たちの名前としていた。
漫画の主人公リックとラックは横紙やぶりのワイヤヘアであったが、
彼らはこの二匹の犬の冒険を毎日うらやましさで胸をいっぱいにしながら、むさぼるように読んだのである。
二匹のワイヤヘア――もちろん本当の犬とはかけちがっているのだが、
二人の崇拝者には、自分たちがなりたいと望んでいる本ものの悪魔に思われたのだ。 甲板はまだじっとりと濡れ、朝の陽差しをうけてゆらゆら蒸気をたちのぼらせていた。
わずか数人の船員だけがのろのろと動きまわっている。
リックとラックは書きもの部屋の一つへはいり、
前もって計画していたかのように、インクびんのコルク栓を抜き、びんを横倒しにした。
しばらくのあいだ二人は、インクが新しい吸取紙のほうへ流れ、絨毯へこぼれおちるのを見守り、
それから沈黙したまま船の反対側へ行き、
フラウ・リッタースドルフがデッキチェアへ置きぱなしにしておいた小さな羽根まくらに目をとめ、
一言もいわずにそれをつかんで船の外へほうりすてた。
きまじめな顔つきで二人は、どうしてそれがすぐに沈まないのか不思議に思いながら、波に揺られて上下するさまを眺めた。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 147ページより
左舷でシューマン医師は、円盤突きのゲームをしているそばを、やっている人たちのほうを見ずに、
しかし彼らのほうへ向って「今日は」と会釈しながら、注意ぶかい足どりで迂回した。
そして同時に、ほとんど見るとはなしに、二人のスペイン人の子供リックとラックが、
船で飼っている立派なとら猫を、背中をなでたり、頤の下をくすぐったりして喜ばせているのを見た。 猫は、快感に酔いしれた表情で、背中を弓なりにまげ、二人が抱きかかえるままにさせていた。
猫は、ものうげな、だらしない、無様な恰好で二人に抱かれていた。
そして官能の陶酔のために自分にたいする彼らの意図の性質を手おくれになるまで理解することができなかった。 けわしい顔つきで、リックとラックは手早く猫を手すりへもちあげ、船の外へ押しだそうとした。
猫は、体をこわばらせ、前足の爪を手すりへくいこませ、気負いたち、後足の爪で激しくひっかいた。
背中が弓なりに曲り、尻尾は乱れた一本の羽毛のようになった。
鳴声もたてずに、必死にあらゆる武器を総動員させて戦った。 シューマン医師は、跳ぶようにして進み出て、子供たちをつかみ、手すりからひきはなした。
子供たちは大急ぎで猫を連れもどした。
猫は、彼らの手からおろされ、甲板を横切り、円盤突きのゲームをしている人びとの間をぬけてほうほうの態で逃げた――
それはふだんならしないようなことだった。
なぜなら、礼儀正しい猫なのだから。 子供たちはシューマン医師をじっと見あげた。
長いひっかかれた傷から血をにじませた、彼らのむきだしの腕からとつぜん力がぬけるのを、つかんでいる彼の手は感じた。
シューマン医師は、しっかりと二人をとりおさえながら、しかし老練なやさしい目つきで、
彼らの盲目的な、隙のない敵意、その冷酷な狡猾さにびっくりしながら、しばらく彼らの目の奥を見つめた――
しかし、獣ではない、人間なのだ。
そうだ人間だ、それだけにかえっていたましいのだ、と医師は考えながら、手をゆるめた。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 254ページより
無言で、身じろぎもせずに、彼らは予期した情景を貪るように見つめた。
リッツィとリーバーは、大煙突を背にして床へ身を寄せてすわり、争い、笑い、もみあっていた。
彼は彼女の膝をもてあそぼうとし、彼女は片手でめくれたスカートをひきずりおろし、もう一方の手で彼を軽く押しのけている。
リックとラックはもっと面白いことが起るのを待ったが、骨ばった女は逃げ、太った男をほとんど仰向けにつきとばした。
彼女のブラウスの胸がほとんどベルトまではだけていた。
子供たちは見るべきものがまったくないのを知って顔をしかめた。 きーきー声をあげ、頭をうしろへそらした女の狂おしい目は、とつぜんリックとラックをとらえた。
彼女は、かん高い、今までとは性質のちがう金切声をあげた。
「あら、見て、ああ、見てよ、ああ――」彼女は長い腕を彼らのほうに振りながらいった。
「いったいここで何をしているんだ? 恥知らずの小童くん」
とリーバーは、いくぶん咽喉をつまらせて、しかし厳しい父親のような調子を出していった。
「あんたたちを見物していたんだよ」とラックは生意気に答え、舌をつきだした。
リックもそれに加わり、「つづけな。よさなくたっていいんだぜ。だれか来たら教えてやるからさ」といった。 この幼い子供の皮肉によって心の底から衝撃を受けたリーバーは、唸り声をあげ、彼らをひっつかまえようとして突進した。
しかし彼らは彼の手の届かぬところへ跳んで逃げた。
「うせろ!」とリーバーはほとんど我を忘れて叫んだ。
リックとラックは、彼らを追ってあっちへ跳びはね、こっちへ跳びはね、殴りつけようとしていたずらに空を切り、
勢いあまってくるりとまわるリーバーを見て無邪気に喜び、じっさいに手を叩いて踊った。
彼らは彼のまわりを猛々しくとびはねながら、叫んだ。
「一ペソおくれ、くれなきゃ人に言っちゃうぞ――一ペソおくれ――」 「お化け!」とリッツィはしゃがれ声で叫んだ。「恐ろしい、ちっちゃな――」
「一ペソおくれ、一ペソおくれ!」とリックとラックは、なおもリーバーのまわりを横向きにまわり、
いともやすやすと彼の打撃をかわしながら、歌うようにいった。
リーバーは、闘牛場の疲れきった牡牛のように頭を垂れ、喘ぎながら立ちどまった。
彼はポケットに手をいれた。
一ペソが床にあたって音をたて、ころがった。
リックはそれを足で踏んだ。「この子にも一ペソおくれよ」と彼はいった。
「この子にも一ペソ」彼の表情はきびしく、冷静で、用心ぶかかった。
リーバーはもう一ペソほうった。 リックは、両方を手早く拾い、片手に握りしめ、ラックをうながした。ラックはすぐに彼のあとにつづいた。
駆けていくうちに、彼らはどこか階段のてっぺんあたりで衝突した。
そして二人とも同じものに目をとめ、それについて同じことを考えた。
救命ボートのうちひとつ、帆布の覆いが一部ほどけているのがあったのだ。
それが垂れさがっていて、もっと広く開けることが楽にできそうだった。
彼らは締め具にあたってみた。びっくりするほど容易にはずせた。
彼らは垂れさがった帆布をたくしあげ、無言のまま、まずリックが、ついでラックが身をよじらせて中へはいった。 やがて太った男とやせた女が彼らの前を通りすぎた。
女はブラウスのボタンをとめ、二人ともひどく怒ってるような顔をしていた。
女はふり返り、彼らのほうをうかがたが、彼女の目にははいらなかった。
やがて彼女は階段につまずき、太った男が彼女の腕をとった。
「気をつけてくださいよ、わたしの美しいひと」とかれはやさしくいった。 リックとラックは中へとびおり、暗がりのなかで体をもつれさせて笑った。
「あたいのお金をよこせ」とラックは、リックのあばら骨にむしゃぶりつき、爪をくいこませて、荒々しい口調でいった。
「あたいのお金をよこせ。よこさないと目玉をむしりとってやるから」
「取りな」とリックは、金をぎゅっと握りしめたまま、同じ口調でいった。「さあ、取りな、やってみなよ!」
必死の格闘と思える恰好でからみあいながら、二人はボートの底へころげていき、胸に膝をあて、髪をかきむしって、すさまじい争いを展開した。 >>55
×彼らのほうをうかがたが、
〇彼らのほうをうかがったが、 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 110ページより
「奥さま(マイネ・ダーメ)」と彼は彼女を呼んだ。
もっとくだけた奥さん(フラウ)のほうが彼女には望ましかったのだが。
「なくなるはずはございません。ちょっと置場所がわからなくなっているだけです。
わたしがさがしてお届けいたします。何しろ、ちっぽけな船ですし、枕が自分で船の外へ出るはずもございませんからね!
ですから、どうぞ、奥さま、ご安心なすってください。じきもって参りますから」
フラウ・リッタースドルフは、グリーンのヴェールをぴったり頭にまき、耳の上でゆわきながら、
あの二人のおそろしいスペイン人の子供が数フィートはなれたところに立ち、獣のような好奇心をたたえた目でじっと見つめているのに気づいた。 彼女は、𠮟りつけるように目を細めて、彼らを見返した。
それは、彼女が、イギリスのある地方で家庭教師をした時分に、イギリスの教え子にたいしつねに効き目のあった表情だった。
「何かなくしたの?」と小さな女の子はものおじしない甲高い声でたずねた。
「そうよ。あんたが盗んだの?」とフラウ・リッタースドルフはきびしい声で問い返した。
これを聞いて彼らは妙に動揺の色を浮かべた。体をもじもじさせ、邪な目くばせをかわした。
小さな男の子はいった。「どうしてそんなことをいうんだい」そうして二人は子供らしからぬしゃがれた笑い声をあげ、逃げ去った。 彼女は、あの二人をこの手につかまえているならこっぽどくお仕置きしてやるんだがと考えながら、
手すりによりかかっている明らかにアメリカ人らしい若い二人連れの近くに歩みよった――
アメリカ人のどういうところがそう思わせるかわからないのだが、アメリカ人というのはどう見てもアメリカ人以外のものに見えない。
ヨーロッパの最下層のくずと黒人の混ざり合いによるあの驚くべき国の漸次的な雑種化は、
けっきょく、特徴をあげることが不可能な、平均的容貌と精神をもたらしたにすぎなかったのだ―― フラウ・リッタースドルフは、少々耳が遠いためあまり多くのことを立聞きできるとは思っていなかったし、
また極度の近視のため近くででなければこまかな点まで見わけることができなかった。
彼女は、記憶力が弱く、断片的な人生観や観察や思い出や省察をまじえて、日常の生活を細大もらさず書きとめることを甚だ好んでいた。
長年にわたって彼女は、何冊も何冊ものノートを、鮮明な、洗練された、こまかい字で綴ったごく短いメモで埋め、
それをきれいさっぱりしまいこみ、二度とのぞいてみたことがないのだ。 彼女は、金色の帯のついた万年筆を動かして英語で書きとめた――
「あれら若いアメリカ人は、気どって、いつもお互いを氏名で呼びあっている。
たぶん彼らがお互いの間で守っている唯一の儀礼といえよう。
たいへん不細工(ゴーシュ)なやり方である。
あるいは、こうでもしなければ世間に名前を売りこめないと考えているのかもしれない。 ジェニー・エンジェル――本当の名はジェーンであろうと思う。
ドイツ語でいえばヨハンナ・エンゲル、このほうがはるかにいい――そして男はデイヴィット・ダーリングである。
後者は、アメリカ人がよく使う愛情表現であるが、またありふれた苗字であると私は信ずる。
まったく当然のことだが、心の冷えきったイギリス人はこの愛情表現を使うことがアメリカ人にくらべてはるかに少ない。 ダーリング Darling は Dear(親愛な、いとしい)という語の指小語 Dearling の訛った形と思われるのだが、
これが Darling と発音しているように聞こえるのだ。
イギリス人というのは、若干の語をだらしなく発音するからである。
率直にいって、あの国における七年間の難行苦行のあいだ、このだらしない話し方にはついぞ慣れるということができなかったのである。 当然のことながら、わたしは英語をミュンヘンの学校で完璧に習得し、またつねに正しい英語を聞いていた。
そのあとであるから、イギリス人の話し方はわたしにはひどく粗野におもわれたのである。
ああ、異郷に身をおきしにがき年月よ!
ああ、人の顔色をうかがうあの恐るべき子たち。
彼らの愛情をついにわたしは獲ちうることができなかった。
そしてまた彼らは何としてもドイツ語をおぼえることができなかった。 イギリス人ならば、けっきょく、デャーリングと呼ぶだろう。
そして読むことが嫌いなために、音声的に、もしくは彼らがいうように耳で、
彼らの言葉を学んでいるらしいアメリカ人なら、彼らが強調することを好んでいるらしい文字、Rの音をつけくわえるだろう。
それはそれなりに甚だ興味深いものがある」
これを読みかえし、彼女は、しまっておくのはもったいないくらいよく書けていると判断し、
無二の親友であり、遠い昔の学校友だちであるゾフィー・ビスマルクに手紙で出そうと考えた。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 104ページより
ベベは直りかけている、とフラウ・フッテンは判断した。
朝食をすませ、ベベに食べさせるものをもってかえり、夫と相談しながら食べさせてみたところ、ベベは旺盛な食欲を示したからだ。
「ほんとによかったわ」とフラウ・フッテンは彼の食べぶりを頼もしげに眺めながらいった。 「これほど立派な本能と感情を具えた子なのに、ほかの動物とおなじようにかしこまって下を向いて食べるのがとても残念ですわ。
こんな格好をするのは惜しいくらい立派な子なのに」
「そんなこと、この子はちっとも気にしていやしないよ、ケテ」と彼女の夫はいった。
「この姿勢のほうが、体の構造からいって、楽なんだ。体を起こして食べるのは、この子にとっちゃ自然でもないし、正しくもないのだ。
愛犬に食卓で食べるしつけをしようとしているのを見たことあるが、相手が迷惑しただけで、さんざんの骨折りも無駄に終ったものだ。
ベベは十分満足している。少しも不服はないと思うよ」 フラウ・フッテンは、いつもの通り夫の言葉によって確信をとりもどし、
安心して、ベベの頸輪に綱をとめ、そろって早足に散歩に向った。
甲板を七周すれば健康のための散歩としてちょうどころあいの距離になる、とフッテン教授は計算していた。 しかしベベは、最初は勢いがよかったのだが、三周目になると次第におくれ、
四周目の半ばで例のごとく嘔気におそわれて立ちどまり、その場でひどい醜態をさらす羽目となった。
フッテン教授は、ひざまずいて彼の首をだきあげ、
フラウ・フッテンはバケツの水をもってきてもらうために船員をさがしに行った。 数フィートはなれたところから哄笑がわきあがるのを彼女は聞いた。
少しも愉快そうではない、耳ざわりな笑い声である。
スペイン舞踏団の声であることに気づいて、彼女は背筋を寒くした。
彼らはいつもかたまってすわり、前ぶれもなしに、陰気な顔をしたまま、おそろしい笑い声をあげるのだ。
そしてしょっちゅうだれかを嘲笑しようと待ちかまえている。
彼らは、信じられないほど滑稽な存在であると考えているかのように相手を直視して笑うが、しかしその目は決して笑うことがなく、
ひとを冷笑しながらも、自分たちは楽しんではいないのだ。 フラウ・フッテンは、さいしょから彼らの存在に気づき、彼らを恐れていた。
彼らが夫とかわいそうなベベを眺めていることは、そのほうを見なくても彼女にはわかった。
彼女の考えた通りだった。
彼らは、一団となってきて、このうち棄てられた活人画のそばを通りぬけ、
すれちがいざま、冷酷な目を彼女の頭から足の爪先まで走らせた。
歯をむきだし、身の毛もよだつ笑い声をあげた。 彼女は、自分の肥満した体つきを、年齢を、太い足首を思いしらされた。
ほっそりとした若々しいスペイン人は、辛辣な嘲笑的な目でじろりとにらんだだけで、彼女を、彼女のすべてを侮蔑したのである。 彼女は船員をみつけた。
船酔いには慣れっこになっている、善良そうな四角い顔をした、大柄な、感じのよい若者である。
彼は、水をもってきて、ベベの不始末のあとかたづけをし、立ち去った。
フッテン夫妻は、デッキチェアのそばにベベを横たわらせ、バスタオルをたたんで顔の下にあてがい、
重くるしく黙りこくったまますわり、あの下劣なやつども、一等に乗ることを許すべきではなかった本当のよた者どもにばかにされたと感じていた。
三等船客の中にだって、一等に乗る価値のある立派な人が大勢いることをフラウ・フッテンは確信した。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 130ページより
エルザの母親は、朝早く、朝食の前に、きっぱりした、やさしい、母親らしい言葉づかいで娘に話しかけ、
男性にたいしてあまりしゃちほこばった態度をとる必要はないのだと教えた。
あの恐るべきスペイン人や気違いじみたキューバ人学生に目をくれてはならないのは当然である。
しかしけっきょく船には何人か好ましい男性がいるのは事実である。 結婚をしてはいるけれども、フライタークさんはダンスがお上手である。
妻帯者であろうとそうでなかろうと、よいパートナーとつつましく踊るのは少しも害にはならない。
デニーさんも、アメリカ人ではあるけれども、いい方だ。
少くとも一ぺんぐらいは踊ってみてもいいかもしれない。
それにハンセンさんがいる。どこからみても申し分のない方である。 「慎みぶかくしなさい、分別をわきまえなさい、といっても、
べつにまっすぐ前を見たまま一言も口をきかずにすわっていなさい、ということじゃないんですよ、エルザ。
ハンセンさんはわたしが信用できる方です。どんな場面にたちいっても必ず紳士らしく振舞う方だと若い娘が信じていられる人です」
エルザはびっくりするほど勇敢にいった。
「あの人の顔が気にいらないわ。あんまりぶすっとしているんですもの」 「わたしはぜったいに容貌で男の人をえらんだりしません」と彼女の母親はいった。
「美男子は往々にして人を誤りやすいものです。
結婚を思うなら、一家の長たりうるべき堅実な性格の人をさがさなくてはなりません。着実な、ほんとうの男性を。
ハンセンさんが不機嫌そうな顔をしているなんて、わたしは思いません。真面目なだけです。
船に乗っているそんほかの人たちはほとんど、これまで見たこともない悪い人ばかりです――
ふしだらなな踊り子と一緒の、あの男の踊り手たちはどれもあきれはてた人間ばかり――まったく恥ですよ」 「ハンセンさんはあの人たちがアンパロと呼んでいる女の人からぜったいに目をはなさないのよ」
とエルザは絶望的な口調でいった。
「ハンセンさんはあの人が好きなんだもの、わたしなんか好きになりっこないでしょ、ママ。
今朝だって二人がぴったり寄りそっているのを見たわ。
ハンセンさんはあの人にお金を渡していたの、きっとそうだと思うわ」 「エルザ」と母親は衝撃をうけていった。
「何てことをいうんです。いっていいことと悪いことがあります。そんなところ見たりしちゃいけませんよ!」
「仕方がなかったのよ」とエルザは悲しそうな表情でいった。
「お部屋から出たら、廊下にいたんですもの。十フィートもはなれていなかったわ。そばを通らなければならなかったの。
あの人たちはわたしに目もくれなかったわ。でも、ハンセンさんが私のこと好きになるなんて、信じられないわ」 「気にしなくていいのよ、かわいいわたしの娘」と母親はいった。
「あなたはだれのものでもないあなた自身の美徳と資質があるんです。腹ぐろい女たちなんてこわがる必要はありません。
男の人というものは、最後には善良な女のもとへもどってくるものです。
そのうちあの女は行倒れになり、あなたには立派な夫が見つかりますよ。くよくよするのはおやめなさい」
この会話は、エルザを元気づけるどころか、すっかり滅入さらせてしまった。
アンパロの後をひきついでハンセンに愛してもらうという見込みは、何としても魅力的といえないからである。
彼女は、うなだれ、膝の上に手を組んだ。 しばしみじめな沈黙ののち、彼女の母親はいった。
「ねえ、それであなたの気が晴れるなら、国へ帰ったら白粉も買ってあげましょう。
何といっても、ほんとうの若い淑女らしくしていい頃かもしれないものね。
気ごころの知れた人たちのところへもどるんだし。そう、白粉を買ってあげることにしましょう。あなたの好きな色のを」 「ここの床やさんでも売ってるのよ」とエルザはおずおずいった。
「何でも種類がそろっているわ。すずらんの香りがするのもあってよ。ラシェル一番というの。わたしのぴったりの色なの。
髪を洗ってもらったとき、偶然目にとまったんだけど……わたし……」
勇気を失い、彼女はくちごもった。 「いくらするの?」と母親は財布をあけながらたずねた。
「四マルク」とエルザはいい、驚きと喜びのあまりどもりながら立ちあがった。
「ああ、マ-マ-ママ、ほ-ほ-ほんとに、買ってもいい?」
「そういったでしょう」と母親はいい、金をにぎらせた。
「さあ、きれいにして、朝御飯を食べにいらっしゃい」
エルザは太い腕でずんぐりした母親に抱きつき、しがみつき、涙を浮かべた目をふるわせ、彼女の顔に接吻した。
「およしなさい、もう結構よ」と母親はいった。
「大きな赤ちゃんみたいじゃないの」 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 168ページより
ハンセンが不器用なため、それにあわせて単調に輪を描いただけのことなのだが、
アルネ・ハンセンとアンパロは、エルザが腕をのばせば届くくらいのところで踊りをやめた。
不思議に思ったエルザは、上目づかいにアンパロを見つめ、その謎を解こうとした。
エルザの目に、あるいは頭に、べつにいわくらしいものは認められなかった。
アンパロは、だらしなく、あまりにくらい感じだが、それなりに美しかった。
しかし彼女は愛想のよい態度をとろうなどという気配を露ほども示さなかった。
微笑すらうかべず、むっつりした顔をしていた。ほとんど口もきかなかった。
少しうんざりし、癇癪をおこしているようにさえ見えた。
ハンセンの踊りが熊みたいだったのを見て、エルザは満足した。 >>82
×滅入さらせてしまった。
〇滅入らさせてしまった。 >>79
×船に乗っているそんほかの人たち
〇船に乗っているそのほかの人たち 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 290ページより
今晩もまたアルネ・ハンセンに自室をあけわたしてきたペペは、時計の針を気にしはじめた。
アンパロは、いくら金を稼ぐためとはいえ、あいつに時間をかけすぎる、と判断した。
以前にも彼女は、ほかの男を相手に、度度そういうことがあった。
そしてどんなに殴っても彼女のその癖はなおらなかったのだ。
しかし、もう一度やってみよう。
ただしヴィーゴへ着いてからだ。ヴィーゴならば、彼女が好きなだけ泣きわめいても、だれも気にするものはいない。 彼は、爪先だちで、船員のバケツやブラシのそばを通りぬけ、三等船室を見おろす手すりの笠木の上に立った。
だれもが、おちつき、すこやかに眠っている。
その光景を見ただけで、彼は大きなあくびをした。
数人のものはキャンヴァス・チェアに長々と体を横たえ、またあるものは堅い、木肌をむきだしたベンチにべったりと横になり、
他のものはハンモックのなかでかたつむりのように体をまるめていた。
青い仕事着を着た一人の男はハンモックと十字を描いて横たわり、片方の側に頭を、もう一方の側に、大きな、曲った、汚い素足を垂らしていた。 ペペは彼らのすべてをよく知っていた。
彼は、彼らと同じように、アストゥリヤス人だった。
そうだ、時として彼はアンダルシーア人にすら親近感をおぼえることもあった。
しかし下にいる連中のだれともつきあうのはまっぴらだ!
もし彼が彼らのように間抜けだったら、彼らの間で、あるいはスペインのあばらやののみやしらみのなかに、眠らなければならなかったかもしれない。
自分の素足の上に蛇がとぐろをまいたかのように、彼は激しく身震いした。 幼年時代の記憶にある人びととおなじように叫び、歌い、踊り、喧嘩し、悪態をつくこれらすべてのアストゥリヤス人たちは、
いま、その大部分のものは、おとなしい死骸のような態度で、比較的もの静かなアンダルシーア人やカナリア諸島人にかこまれ横になっている。
朦朧とした、白い月光のもとで、掛布は彼らに死体公示所へ運ばれるのを待つ死体のような外見を与えていた。 ペペは、ハンモックの両側に頭と足を垂らしている男をえらび、
火のついた煙草を、男の腹をくるんでいる乾いた布のひだの間に、器用に投げとばした。
これでやつは目を覚ますだろう!
とたん三人の男がとびあがって起きた。
その一人である、牡牛のような声で歌う男としてペペの記憶にある、おそろしく大きな、太った男は、煙草を見つけ、指の間でもみ消した。
なおも上の手すりから体をのりだしているほっそりとした男に向って、こぶしを振った。
「牡山羊(カブローン)め!」と彼は、おどけたメキシコ訛りで、いたけだかに叫んだ。 出帆の日に徘徊してまわっているのを見かけたぽん引きの一人であることに気づきながらも、彼はからみつくような嘲りの口調にきりかえた。
「ぽん引き野郎(プート)!」と彼はいった。
「ここへおりて来い。そうすりゃ俺たちは――」 やがて他の者も目をさまし、仲間に加わり、騒ぎはじめた。
ペペは、気づかわしげに後をふりかえり、船員たちが騒ぎたてる音に気づいたのを知った。
船員の一人が彼のほうへ歩みよってきた。
もちろん険悪な態度はとらず、のっそりと、おだやかに、馬のように大股に、何が起ったかを調べねばならぬ義務を果たそうとして。
ペペは、笠木からおり、白鳥のように優雅に、しかしそれよりずっと早く、反対の方向にむかった。 部屋へ戻ると、アンパロは乱れた髪にブラシをかけていた。
噛みつかれたように見える彼女の口のまわりに、口紅がひどくにじんでいた。
下の寝だなが例のごとく狼藉の跡をとどめていた。 「どうだい?」と彼はいった。
むっつりとおし黙ったまま、彼女は顎でうしろを示した。
彼は、すえた匂いのする枕のひとつをもちあげ、手ざわりのたしかな緑色の紙幣を見つけた。
「この前より多いな、いいぞ」
と彼は、紙幣のしわを伸ばし、数えながらいった。
アンパロは顔をしかめていった。
「それだけ稼ぐのは骨だったんだよ。あいつときたら、『もう一ぺんやったらもう五ドル出す!』といいつづけなんだ。
おまけにもとで分はとろうというんだからね」彼女は洗面器の蛇口をひねった。 「何をしているんだ」とペペは、着物を脱ぎはじめながらたずねた。
「体を洗うんだよ」と彼女はなおも顔をしかめながらいった。「汚れたからさ」
「あまり手間どるなよ」と彼はいった。
その語調から合図をうけとり、彼女はかすかに身震いした。興奮が小波のように肌を走った。
彼女は、布に石けんをつけ、体を洗いはじめた。彼は、興味なさそうに、しかっし体を洗う彼女の手の動きを熱心にたどった。
彼は、下着まで脱ぎすて、横になった。 「ずいぶん時間をかけたじゃないか」と彼はいった。「いくら金のためとはいってもさ」
「余計なことはいわないでおくれ」と彼女はいった。「どんなふうだか今いっただろ」
「余計なこと?」と彼は、うすら笑いをうかべていった。
おそろしくすばやく、また静かに起きあがり、彼女の肩甲骨を平手で激しく打った。
そこならば、痛いけれども、傷がつかないからだ。 ついでに彼は、片方の手で彼女の項をつかんで激しくゆさぶり、もう一方の手で背筋をなでおろし、げんこつの一撃でしめくくった。
彼女の目ぶたはたるみ、口は唾で満たされて濡れ、乳首が凝固した。
「さあ、急ぐんだ」と彼はいった。
「急ぐのはいやだよ」と彼女は、つきはなすような言葉で媚態を示し、汚れきた綿毛のパフで白粉をはたいた。「疲れてるんだもの」 「いつまでそんなことをしているんだ」と彼はいい、パフを奪い、投げすてた。
「それじゃあの男に何もかもくれてやったというのか。またどぶに捨ててしまってその気はないというのか。体中の骨をへし折ってやるぞ」
「牡牛みたいな男なんだよ、相手は」と彼女はいった。「疲れるのは当たり前じゃないか」 彼女は寝だなのそばに立っていた。
彼は、彼女の片方の手首をつかみ、自分の腕をかるくひねって彼女のバランスを失わせ、倒した。
彼女は無抵抗に全身を彼の上に投げかけた。
踊りで鍛えた二人のしなやかな脚は、一瞬、蛇の巣のようにからみ合い、もがいた。 彼女を少しでも喜ばせることのできる男は彼しかいなかった。
彼女は、自分を喜ばせるためには、彼が彼自身を喜ばせるのにまかしておくだけでよかった。
彼女は、商売として相手にする男たちの退屈な攻撃のときは、守銭奴のように自分を守り、ペペにたいして自分を吐きだしたのだ。 ペペは、猿のように巧妙で、蛙のように長くつづく。
彼は、彼女がほかの男に気があるのではないかと疑うとき、嫉妬のためと称して、しばしば彼女を折檻する。
しかしもっとも激しい折檻のあとでしばしば彼は、甘美な疲労感のなかに二人の骨が溶けるかと思われるまで何時間も交わる。
彼は、気のすむまで彼女を殴ることができる。
なぜなら、彼女は、彼が与える快楽に倦むことは決してないのだから。 ペソであれ、フランであれ、ドルであれ、その他の何であれ、
彼女の稼ぎを残らずとりあげようというペペの意志は、釘のように堅かった。
マドリードに小さな自分の劇場を開くために貯めているからだ。
そこでは、呼びものの踊り子として、アンパロを使えるかぎり使うつもりでいた。 彼女は、稼ぎの一部をペペには渡さずしまっていた。
彼がそれを知ったら、少くとも彼女の頸を締めるぐらいのことは疑いもなくやるだろう。
しかし彼は知らなかった。
アンパロは、いつかは、ひとりだちのスターとなって、いたるところを巡業し、金持になり、有名になるつもりでいた。
偉大なパストラ・インペリオのように。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 136ページより
エルザは、もじもじし、ビールのグラスを握りしめた。
ハンセンは、何の興味もない無生物の物体でも見るような目でちらりと彼女のほうを見て、目をそむけた。
彼女の母親は必死に彼女の父親の視線をとらえようとしたが、失敗した。
ルッツは自分の身の上話に夢中になっていて、ハンセンにしか話しかけなかった。
「あなたの国から観光客を送ってください。わたしもあなたの極上のバターを少しは買いましょう。
国にはバターもあります――スイスには何でもありますが、しかし十分じゃないものですから……」 今度はハンセンが、いんぎんにバターやチーズ、そしてまた卵やベーコンの輸出について少しばかり語った。
しょげきったエルザは、ハンセンもアンパロにはバターの商売の話などしないだろうと信じた。
でも、彼がほんとうにひねくれた、つきあいにくい顔をしていて、かえってよかった。
それにお父さんと同じように退屈な話をする。
この人が好きじゃなくて、好きになったことがなくて、よかったわ。
わたしのことをこの人に好きになってもらいたくもないわ。 しかし、彼女は彼に無視されて深く心を傷つけられていた。
まるで彼が彼女を侮辱するためにそうしているように思われたのだ。
とにかくこの人は年をとりすぎている――少くとも二十八ぐらいじゃないかしら。
彼女は、ものうげに深い息を吸い、背筋をのばし、きらきらと波間におどる朝の光へ視線を移した。
無言のまま、心のなかで、彼にたいする健全な不満を数えあげた。
彼の身だしなみの悪さ、不様な長い脚、大きな足、ふわふわした柔毛質の眉。いやだわ、こんな人。わたしはぜんぜん違う男の人がいい。 背の高い、やせぎすの、黒い髪をした、若い学生がいた。
この世の何ものも、何びとも恐れていないかのようにけわしい目つきをして、
列の先頭に立って気違いのように甲板を跳びまわり、
わけのわからないスペイン語の文句――彼女には理解できないある種のスラング――をわめきちらしていた。
かつて、彼は、仲間と一緒に彼女の前を通りすぎたとき、彼女のほうを見つめて、体をのりだし、
まるで二人の間に秘めごとがあるかのように顔の半面をほころばせた。
彼の視線は彼女の目に矢のように突き刺さり、彼は跳びはね、歌いつづけたのであった。 あの人こそわたしが望む男性だ。
彼女は、他の人たちに見られないように顔を手のひらで覆った。
心の中にこみあげた熱い、甘美な感情が顔に出はしないかと恐れたからだ。
「エルザ」と母親は心配そうにたずねた。「どうかしたの? 気分が悪いの?」
「いえ、何でもないわ、ママ」とエルザは、顔から手をはなさずにいった。「光がまぶしいの」 エルザの祈りによって呼び出されたかのように、まさにその学生がバーに姿をあらわした。
彼は、とびはねてもいなければ歌もうたっていず、仲間の二人と一緒にものうげに歩いていた。
しかし、彼はしゃべっていた。
その声が彼女の耳にがんがんとひびいた。 「ラ・クカラーチャ・ミステイカ」と彼は役者のように派手な抑揚をつけていっていた。
「神秘のあぶらむし自身、昆虫の女王がこの船に乗っている、激烈な理想主義の権化そのものが。
ぼくは彼女を見た。彼女はここにいる。真珠や何もかもそのままに。囚人として」
「ラ・クカラーチャ、ラ・クカラーチャ」とほかの二人は猿のように本能的な悪意をこめて合唱した。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 140ページより
話題は次へ移ろうとしていた。
しかし彼らの注意は、学生たちのテーブルのやや人目をそばだてる騒ぎに向けられた。
若者たちは、椅子から立ちあがり、階段のほうへ向かってお辞儀をし、
一人が張りさけるような声で「万歳(ビバ)!」と叫んだ。
入ってきた婦人は、おそろしく旧式な、作法が身についた人間らしい、あらたまった会釈をし、
ボーイの後にしたがって小さなテーブルへ歩みより、学生たちに背を向けて一人で席に着いた。
彼らは、妙に意地悪な視線をかわしながらまた腰をおろし、ナプキンで口を拭くふりをして巧みに笑いをかくしていた。 彼女は、五十ぐらいの年輩で、それほど遠くない過去まですばらしい美貌を保っていた人のように見うけられた。
おそろしく高価なものらしい衣服を身につけていた。
着古したものではあるが、それでも彼女の現在の境遇にはそぐわない優雅すぎる衣装だった。
耳と頸のまわりと左手の二本の指に大きな真珠をつけていた。
右手には、駒鳥の卵ほどもある、明るい色の、きずがいっぱいあるエメラルドを小さなダイヤモンドで囲んだものらしく見える指輪をはめていた。 ひどく細い、繊細な、太い血管が浮きでた、老人くさい手は、ひっきりなしに動いていた。
親指をかるく内側へ曲げた手は、わけもなくテーブルのはじから膝へ動き、
組んだり、ほぐれたり、宙にぱっとばされたり、かすかに震えたり、髪やガウンの胸元へ行ったりして、
まるで婦人の意志とは別個の意志をそなえた生きもののように見えた。 彼女は、その手をのぞけば、身じろぎもせずにすわり、
ややかたい表情で、上体をまげ、皿のそばの献立表を読んでいた。
部屋にいあわせたすべての人が彼女のほうを振りむき、注視していた。 「でも、どこから」とフラウ・リッタースドルフは船長にたずねた。
「どこから乗ったんですの? だれもあの人が船に乗るのを見かけませんでしたけど。その前のヴェラクルスの町でも」
と彼女はあやふやな表情でテーブルを見わたしていった。「少なくとも、ここにいる方はどなたも」 「むりもありません」と船長は重々しくいった。
「あの方は――スペインの伯爵夫人(コンデサ)なのですが――ほかの乗客が乗る数時間前に内密に二人の警官に連れられてきたのです。
警官は、わたしが航海のあいだあの方を鎖でつなぐか、あるいは少なくとも船室に監禁するとでも考えたのでしょう。
すぐ三等船室に連れていこうとしました。
どんなことをした人であろうと、貴婦人をそんなふうに扱うことはわたくしにはできません」と船長はいった。 彼の目はやさしく貴婦人の乗客への注がれていた。
じっさい、この名流婦人、まぎれもない貴族、
つつましい彼の船にはめったに迎えることのできない種族を眺めるのが嬉しくてたまらないめつきであった。 「あの手!」とリッツィは叫んだ。「あの手はどうしたのかしら?」
「いまは相当神経が弱っていられるようです」とシューマン医師はいった。
「あの方の立場から考えれば、むりのないことと思われますが。近いうちにご気分がよくなるでしょう」
そっけない職業的な口調、目差しだった。
「いささか容色に衰えが見えますな」とリーバーはいい、非難をこめた七対の目で見つめられてたちまち自分の不用意を悔んだ。
「たしかに若くはありません」とシューマン医師はいった。 「ラテン・アメリカの政治犯を」と船長は鋭い目で一人一人ねめまわしていった。
「額面通りにうけとるものは、まぬけとしかいいようがありません。
わたくしは、あの方が危険な革命党員である、国際的スパイである、暴動・反乱の温床からべつの拠点へ扇動的なメッセージを運んでいる、騒擾を教唆しているなどと告げられました
――こうしたたわけた話がどうして信じられましょう。 わたくしの意見をいわせて頂くなら、
あの方は、刺激的なことを好み、いたずらをはじめ、自分が何をしているのかを少しも顧慮することなくいたずらをくりかえす、
あの裕福で、高貴な有閑婦人の一人なのです――どんな種類の政治であれ、政治にたずさわるすべての婦人についてそういうことができます!
そしてそんなおせっかいのあげく、われとわが指をひどく火傷してしまわれた。まあ」と彼の声はやわらいだ。
「これであの方も懲りられたことでしょう。これ以上罰をつけ加えることはわれわれはするべきではありません。
あの方は、ともかく、テネリフェへ行かれるだけです。楽しい航海をとあの方のために願っています」 「いかにもうやうやしげに彼女に挨拶したあの学生たちは」とフッテン教授は考えこみながらいった。
「メキシコでよく見かけた革命家タイプとは違うようだ。
ああいう連中は、親たる者の義務をないがしろにする裕福な両親によって嘆かわしいほど甘やかされた子弟なのです。
メキシコでは、いや中・南・北米全土を通じてあまりにもはびこっているタイプの若者です。
われわれの学校でわれわれドイツ人の青少年を彼らの影響から護ることが絶えざるわれわれの課題の一つでした。
ぜったい間違いのないドイツ的生活とドイツ的躾けの方法との結合に訴えることにより、かなりの成果をあげることができたといえるのは御同慶のいたりですが」 「革命党員が真珠をつけているなんて、想像してみたこともなかったわ」
と自分だけべつのことを考えていたフラウ・リッタースドルフはいった。
「あれがほんものであるとしての話だけど。でもあやしいわね」
「ああいう身分の方が身に着けているのですもの」と小柄なフラウ・シュミットは敬意をこめていった。
「ほんものと考えていいのだと思いましてよ」 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 144ページより
「軽喜歌劇一座(サルスエラ)の人たちを見てごらんなさいよ。ぜんぜん気味がわるいわ、そう思わない?」とジェニーはいった。
どういうわけか、このスペイン人の一座が人間であるとは彼女には思えなかったのだ。
優雅な所作で野卑な感情をたえず表現している、等身大のあやつり人形のように思われた。
彼らのしかめ顔、怒りや不機嫌や嘲笑や侮蔑のしぐさはどれもあまりにとってつけたように、型にはまっているように見えたので、とても本当とは思われないのだ。
そのどれも生きた人間のしぐさとは信じられなかったのである。 スペイン人たちは、伯爵夫人(ラ・コンデサ)が姿をあらわしていらい、彼女からほとんど目をはなさずに見つめていた。
激しい憎しみをこめた目差しで見つめていた。
彼らは、むっつりした顔つきで、お互いにそっと突っつきあい、囁きをかわしていた。
食べながら、顔の向きをかえて、視線をたえず彼女の上に注いでいた。 「彼らが彼女から盗もうと計画しているなら」とジェニーはいった。
「実行しないうちにとっくにその計画をさらけだしているわね。
あのペペという男はさっきから彼女の真珠から一度も目をはなしていないわよ。
それもほんとむりもないわ――ねえ、デイヴィット・ダーリング、すてきじゃない?」
「いいものらしいね」とデイヴィットはいった。 「でもぼくには十セント・ストアの真珠と区別がつかないがね。ほんものの真珠をそばで見たことがないんだ」
「ダーリング、お里が知れるみたいよ。ねえ?」
「ああ、その通りだよ」
「でも、少くとも美しいということだけは認めるでしょ?」
「どうかな」とデイヴィットはいった。 「なにしろぼくは真珠が買えるような身分の人間にたいして偏見をもっているからね。まともな判断はできないよ。
すばらしいものかもしれないがね。ぼくにはどうでもいいってことさ」
「そこまで譲歩するなんて、あなたとしては上出来よ」とジェニーはいった。「ほんとに上出来だわ」
「ほんものでないということがわかっていたら、もっといいと思うんだがね」とデイヴィットは、興味を失い、つまらなそうにいった。
「そうよ、ダーリング」とジェニーはとつぜん華やいだ口調でいった。 「わかってるわよ、あなたってそういう人よね――でもそうかといって、生きた女より人形のほうがいいというわけじゃないでしょう?
ほんとに妙な話だけど、わたしはあなたもほんものの真珠も大好き――ねえ、これはどういうことなの?」
彼女は彼に微笑みかけた。
その笑みが彼女の顔をまったく好ましい感じに変えるさまを彼が眺めた。
彼はいとしげに笑顔をかえした。お互い美しく思われた。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 224ページより
モンペリエへおもむくキューバ人医学生たちは、
儀式ばった挨拶や、作法通りに握ると一門の者さえ思わずおどけた苦痛の声をあげるような握手や、
話しながらしょっちゅう小さな紙にタイプでうった暗号表を参照しなければならないほど複雑な隠語やらを定め、
ますます秘密結社の色彩を深めていた。 彼らは、長い学術論争らしきものに従事していて、人目につくところではいつも厳粛めかして、
しかし退屈している聴衆に彼らの秘密を知られないように低い声でそれを行うのだった。
しかし彼らが「あぶらむし党員(レ・キヤムロ・ド・ラ・クカラーチャ)」と自称していること、
船の印刷機で毎朝「エル・ピピ・ディアリョ(おしっこ日報)」と派手な目立つ活字で大見出しをつけた小型新聞を印刷していることはわかっていた。 彼らがしばしば、午前中の半ばに伯爵夫人(ラ・コンデサ)の特別室へはいり、
あとでやや騒々しくさわぎながら出てくるのが人目にとまっていた。
ある日、彼らは、バーの先の小さな書きもの室で会合をひらき、
伯爵夫人(ラ・コンデサ)を会長に、特任あぶらむしに選出した。 窓の外にすわってたシューマン医師は、彼らの話をいやでも聞かないわけにはいかなかった。じっさいそれを避けようとしなかった。
そして学生たちが、みだらな、不謹慎な言葉で彼女のことを語っているのを聞き、激怒した。
彼らが彼女を気違いと考え、彼らの猿のような嘲りの、とくにえらばれた対象とみなしていることは明らかだった。 >>100
×汚れきた綿毛のパフ
〇汚れきった綿毛のパフ 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 269ページより
リッツィのすべてじゃこうを基礎とした香料がまざりあった、すえた匂いがぷんぷんたちこめている。
リッツィの習慣はだいたいきまっていた。
彼女は、あのいやらしい、背の低い、太った男と出歩き、ふつう真夜中すぎでなければ部屋にもどってこなかったのだ。
二人は、人目をかわすつもりで、暗い奥まった場所をえらんで次々に移動し、
くすぐったそうな笑いや悲鳴をしきりにあげ、傍若無人にいちゃついていたのである。 「ご免なさいね。起すつもりはなかったのよ」ときまっていう。
それを聞くとミセズ・トレッドウェルの神経は、金属にやすりをかける音を聞いたときのような感じにおそわれるのだった。
この女は、これまで見たこともないくらい、魅力というものをまったくもちあわせていない獣のような人間だ、とミセズ・トレッドウェルは考えた。 彼女は身を震わせ、目を閉じた。
身の毛のよだつ小さな船で辺鄙な場所を旅すればどんなことになるか、どうして思い出さなかったのだろう。
一年中、そう八月中も――八月のパリはすてきなのだ――パリに留まるだけの分別がどうしてわかなかったのであろう。
パリならば、ほかのほとんどすべて場所で出合うような種類の人びとにぜったい会わずにすむのに。
彼らをそう呼ぶことができるとしての話だが、乗客仲間の顔や姿が、名前をとり違えられて、彼女の脳裏にいりみだれた。
彼らのことを考えるだけで、彼女の気持は動揺し、重苦しくなるのだった。
リッツィはしょっちゅう彼らの噂をした。
気取った、上品ぶった態度をとり、ひどいきーきー声で喋りまくるのだ。 「ああ、考えてもごらんなさいな――あのスペインの伯爵夫人(ラ・コンデサ)、囚人、あの人をご存知でございましょ?
――なんでも、人の噂ですと、あの学生たち全部と順番に寝ているんだそうでしてよ。
学生たちはしょっちゅうあの人のお部屋に入りびたりだそうですわ。
時には二人、時には三人というふうに。そしてなかでとんでもないことをしているんですって。
船長はそれをひどく怒っていらっしゃるけど、どうしようもありませんわね?
まさかベッドの下にスパイをひそませるわけにはいきませんもの…… もうひとつ、信じられないような話がありますのよ。
車椅子に乗ったあのしぼんだ病人をご存知でしょ?
あの人は、こちらがよく気をつけてないと、手をのばして体にさわり、なでまわすんですって――女を見ると。
病気をなおすふりをするわけね。
ひどい偽善者だわ、あの年になって。
墓に片足はいっているのにね! そしてあなた、あのあさましいユダヤ人をご存知でしょう?
どう間違ったものか、リーバーさんと同じ部屋にはいってる人を。
それがね、先日、リーバーさんに『何時ですか? ぼくの時計がとまってるもんで』ときいたんですって。
リーバーさんは『ユダヤ人の時計を全部とめるべき時間だよ』と答えたの。
リーバーさんて、それは頭がいい方なのよ。
あのときのあいつの顔をみたら、どんな人でも胸がすかっとしただろう、っていってますわ」 ミセズ・トレッドウェルは、そら耳にひびく、復讐の女神のように執拗な饒舌をふりはらい、
とつぜん長いガウンをゆすって立ちあがり、舷窓へ歩みよった。
清浄な、ひんやりとした空気が彼女の顔をなでた。
この部屋で聞かされた話のために汚されたように感じ、楽に呼吸するために口をあけた。 おそらく、同室者の一等いけないところは、ユダヤ人について語るときの異常な俗っぽさである。
ユダヤ人という単語は彼女の話にはつきものだった。
話題を問わずとびだしてくる。
じつに不快な執念である。 「あの方はとても知的なの、リーバーさんは。それでいて」
とリッツィは、鏡をのぞきこみ、髪をこすり落とさんばかりに櫛を使い、にたにたした。
「とてもふざけることがあるの。ドイツの出版を、とくに商業界や知的職業の面で立て直す運動の一翼をになっていらっしゃるの。
ユダヤ人のために出版が破壊されてしまっていますからね。 「知的なお友だちがいらして、さぞかしすばらしいことでしょう」
とミセズ・トレッドウェルは、愛想よく、ドイツ語でいった。
リッツィはとまどった、警戒心をよびさまされた目を彼女に向けた。
ミセズ・トレッドウェルの目は閉じられていた。無邪気そのものの顔をしている。 「ええ、そうよ、もちろん」とリッツィは、体をこわばらせて間をおいたのちにいった。
ついで、次のようにいった。
「あなたのアメリカ訛りがあんまりひどいので、さいしょは何をいってるのかほとんどわからなかったわ。
最良のドイツ語は、わたしの市のハノーヴァーの言葉なの。
ハノーヴァーへいらしたことがないでしょうね?」
「ベルリンだけですわ」とミセズ・トレッドウェルは辛抱づよくこたえた。 「ああ、ベルリンへ行くだけじゃ、良いドイツ語は学べないわ」
とリッツィは、手にたっぷりと油を塗り、大きな、汚れた、木綿の手袋をはめながらいった。
「聞いても違いがおわかりにならないでしょうけど、
たとえばリッタースドルフさんは、気取りやさんで、おしとやかでいらっしゃるけど、とんでもないミュンヘン訛りがあるし、
船長のはベルリン風のひどいものだし、
事務長のは低地ドイツ語で、
ケーニヒスベルクあたりから来た一部の船員の、バルチック海地方の百姓みたいな話し方をのぞけば、最低というわけなのよ」
ミセズ・トレッドウェルの頭はゆっくりと揺れ、目ぶたの裏の暗黒は火花で満たされていた。 彼女が耳にしたいと願っているのは
(神よ、彼女を生かし、もう一度聞かせてあげさせたまえ)
パリのありとあらゆる街の通りや路地や広場や公園やテラスで話されるパリ人のフランス語、
モンマルトルからブルヴァール、サン・トノレ、サン・ジェルマン、メニルモンタンにいたるまで、
モン・サント・ジュヌヴィエーヴの学生からリュクサンブールの子供たちにいたるまでのパリの言葉、
オート・サヴワ県や南部地方からルアンやマルセーユにいたるまでのありとあらゆる訛りで話されるパリの言葉だった。 彼女は、パリに着くまで意識を失いたと思った。
航海が終るまで眠り通すか、ずっと深く酔っていたいと思った。
この血の凍えるような声は一晩中つづくのだろうか? >>150
×意識を失いたと思った。
〇意識を失いたいと思った。 「リーバーさんでさえ」とその声は、今は上段の寝だなから聞えてきた。
「マンハイムの出身ですから、訛りが少し田舎くさいんですよ――ほんの少しだけど」
声が近くなった。
ミセズ・トレッドウェルは目を開けた。
暗い、小さなとうもろこしの穂のような髪をした頭がコブラのそれのように寝だなの横上の宙に揺れ、
きびきびとして優雅な、ハノーヴァー風の喋り方で上から話しかけるぼやけた顔が見えた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 25ページより
フラウ・リッタースドルフはデッキ・ボーイに命じて、椅子の背を掛けごこちのよい高さまで立てさせ、赤いシフォンのヴェールを目深におろした。 「リーバーさんがユダヤ人と同室にさせられていたことについて、多少いざこざがあったが、現状どおりということになった。
彼を移す場所がないためらしい。
あの人がどうなろうと、わたしはあまり関心をもつことができない。
救いようがないほどがさつで、低級な人だから――ああいう人がどうして船長のテーブルに席をあたえられているのか、わたしにはさっぱり理由がわからない。
なにかの出版をしているそうで、その点は考慮しないわけではないけれども――
しかし、ユダヤ人と同室があの人には分相応のところ、といってもわたしが意地悪ということにはならないと思う。 もちろん、すべての責任は事務長にある。
ところが、事務長は事務長で、多くの乗客について不完全な、誤解をまねくようなデータしかよこさなかったメキシコ市の船会社代理店がわるいのだという。
わたしはだれも咎めようとは思わない。
うたがいもなく、やや退屈になったといわねばならぬこの船旅に、いささかの興をそえるささやかな気晴らしとして、楽しませてもらうだけである」 フラウ・リッタースドルフはヴェールをおしあげ、万年筆にキャップをし、執筆の緊張をときほぐすために慎重に頸と腕をのばした。
ところがちょうど運わるく、それが、スペイン人男性舞踏手の一人であり、仲間からチトーと呼ばれている、ローラの亭主らしい男の注意をまたもやひいてしまった―― 軽喜歌劇団(サルスエラ)の「スター」であり、
うわさではあの何とも表現しようのない双生児の父親とされている男である。
もっとも、あの双子が人間から生まれたとはとうてい考えられないのであるが、
むしろ、あれは小さな妖鬼なのだ。
目のまえで、硫黄の臭いを発して破裂し、姿をかき消しても、だれも不思議に思わないであろう。 このチトーが――二日まえの晩、
彼女がすてきにかわいい、若い高級船員とたのしく一曲おどりおえたときに、
このチトーが、厚かましいといおうか、ずうずうしいといおうか、おそれる色もなく彼女に歩み寄り、踊りを申しこんだのだ! その後に生じたことを思いだすたびごとに、そしてまたかた時もそれを忘れることができないでいるのだが、
彼女は、頬が紅潮し、全身が真赤になり、陽焼けの火ぶくれが体中に生じたような感じにおそわれるのだ。
彼女は思いだすまいとあらためて自分を鞭うち、断乎として日記ではそれについていっさい触れず、
邪悪をはらすおまじないにおぼえているかぎりの祈りを早口に何べんもくりかえすことまでしたのである。 彼から不謹慎な申しこみをうけて恐れをなしていることを気取られないように、
男性にたいして使いなれている気さくな、親しげな口調ではっきりとことわればよかったのだが、
目のまえのわずか数インチのところに光っている蛇のような彼の黒い目に射すくめられて、彼女はものもいえず、口を開けて、石のようにつっ立ていたのだ。
そして、同意もしないのに、いつのまにか、体に腕がまわされ、雲のようにふわふわと運びさらわれていたのだ。 かつて経験したことがないほど軽く、しかも確実に、やんわりと抱擁され、
まるで自分が軽くて実体のない空気の精にでもなったかのように、無邪気な娘時代このかた夢にさえみたことのない踊り方をしていたのである――
ああ、ほんとうにわたしがあんなはしたないことをしたのかしら?
彼女はほとんど呻くようにつぶやいた。
ああ、ほんとにわたしは黙ってあんなことさせておいたのかしら? 踊りがすむと、彼は、すばやく彼女の手に接吻し、茫然と佇む彼女をのこして、そそくさとそばをはなれた。
そばを通りかかったリッツィ・シュペンキーカ―がからかった。「カスタネットは? お忘れになったの?」 淑女の態度、振舞をついぞくずしたことのないわたしである。
夫はどんな人の前に出ても、そんなわたしを誇りにしていたものだ!
こんどだって堂々と振舞っていればいいのだわ。
隙をみせなければ、リッツィのような女でも、思いあがったスペイン人の一件を船長のテーブルで披露しようなどという気は起こせないだろう。
そのほかのだれにせよ、このことについてなれなれしい口をききたがる者があらわれたとしても、いわせておきはしない。彼女は意気ごんだ。 しかしその必要はなかったのだ。
だれも何ともいわなかった――うわさを聞いている者すらいないようすだった。
翌日になっても、リッツィすらそのことを匂わすような微笑ひとつうかべなかった。
しかし、けっきょくは、このほうがかえってしまつがわるい――
みんな口をつぐんでいるということは、彼女の行為にたいする、あるいは徳性にたいする一種の批判なのかもしれない――
でも、と彼女は自分にさとした、面とむかってとりざたされたり、何かをされたりするよりはましではないか。きれいに忘れてしまえばいいのだ。 フラウ・リッタースドルフは溺死しかけているような感じにおそわれた。
目を閉じ、あえいだ。頭がゆらゆらと揺れた。彼女はまた目をみひらいた。
目のまえにぴったりした黒い舞踏服に身をつつんで、優雅に上体をかがめたチトーがいた。
赤い腰帯、短い上衣(ボレロ)、ひだつきのシャツという例のいでたちで。
そして彼は話しかけていた――いったい何をしゃべっているのかしら?
左手に、小型の、何かチケットらしいものの束をもっている。
彼はそれを抜きとり、彼女のほうへさしだした。 微笑をうかべもせず、催眠術にかけようとするかのように彼女の視線をとらえている。
フラウ・リッタースドルフは手をさしのばして、チケットをうけとろうとした。
そのとき、チケットはひっこめられた。
彼はいった。「まださしあげるわけにはいきません。そのまえに、説明をきいていただきます……」
フラウ・リッタースドルフの頭あはっきりしてきた。
いずまいをなおし、注意ぶかく耳をかたむけた。 なにか邪な、不都合な、ごくひかえ目にいってもいかがわしい話を聞かされるのだと思った。
ところが、拍子ぬけするほど、ばかばかしいくらい単純なことだった。 軽喜歌劇団(サルスエラ)は、船上のすべての人が参加できるようなささやかな祝祭を発起したいと思っている。
それは、とくににぎやかな晩餐会といった程度のもので、
みなさんに仮面をつけていただき、席も自由にかわってもらうことにする。
楽団にも腕によりをかけて演奏してもらい、どなたにも踊っていただく。
軽喜歌劇団としては、レパートリーのなかからとくに優美なものをよりすぐって、ひと晩じゅうショーをお目にかけるつもりである。 さらにまた、チケット番号による美しい賞品の福引きをおこなうことを考えている。
賞品の購入はサンタ・クルス・デ・テネリフェの店でおこなう。
洗練された手芸品、細工物の産地として有名な土地であるから。
祝祭は、すべて船長にたいする感謝のしるしとして催すのであって、
船がわれわれ一座の者が下船するヴィーゴへ着く前の晩におこないたいと思っている。 「われわれにいわせれば、このような長い船旅のあいだみんなで楽しむ機会を一ぺんももたずにおわるのは、残念なことですからね」
とチトーはまじめな顔でいかにも誠実そうにいった。 フラウ・リッタースドルフの頭はまた一段とはっきりしてきた。
損得の本能が目ざめた。
「でも、芸人さんにしては、ずいぶん商売上手ね。そんな現実的なことに、よく頭がまわるわね」
「わたしは一座の支配人ですからね」と彼はいった。
「そのうえ監督もつとめています。家内を助手にして」
「ローラね?」フラウ・リッタースドルフは恩きせがましい口調でたずねた。
「そう、ドーニャ〔女性の名前につける敬称〕・ローラです」と彼は傲慢に彼女のいい方を訂正した。 その語調を聞いて、フラウ・リッタースドルフの肚はきまった。
「もうすこし考えさせてちょうだい」と彼女は気だるそうにいい、もう一度日記をひらくしぐさをした。
「福引きのようなものは、何によらず好きじゃないの――」
彼女の視線はあたりをさまよい、デッキ・チェアふたつへだてた先にリッツィの姿を認めた。
リッツィは大判の雑誌を手にしていながら、それを読むふりさえしていない。
それを見て、フラウ・リッタースドルフはいらだった。
きり口上でいった。「福引きのチケットは、いったいいくらくらいなの?」
「わずか四マルクです」とチトーはいい、二人ともとるにたらぬ金額であると考えねばならぬということを示すために、下唇をつきだした。 「お金はいくらでもかまいはしないけれど」とフラウ・リッタースドルフはいい、
よりによって今がちょうどいちばん人目の多い夕刻であることに気づき、その場の情景を見られるのではないかとやきもきした。 夕食を待って、人びとが往きかいはじめていたのである。
花嫁と花聟、あれはあざとくないからだいじょうぶ。
シューマン先生、あら、どうしましょう!
キューバの学生たち、さいきんはいくぶん鳴りをひそめているようだけど、きっと毒舌にものをいわせて、さんざん悪ふざけするだろう。 愚鈍な娘を連れた愚鈍なルッツ夫妻、あれはゴシップしか頭にない人たちだ。
二人の司祭――あえばいつも会釈を忘れたことはないけれど、でも今はこの身をいっそ消してしまいたい。
いやらしいうすら笑いをうかべ、邪な目つきをしたあのぞっとするようなアメリカ人デニー――
船上の一等船客が寄ってたかってひとの苦境につけこもうとしているみたいだわ。申しひらきできないのをいいことにして。 というのは、チトーが歓迎されていることを確信しきっているような態度で上体をかがめてたからである。
まるで彼女がいまにも彼のコーヒーへの誘いに応じようとしているかのように。 フラウ・リッタースドルフは気力をふりしぼり、前よりも一そう背すじをのばした。
そのときに、これまたひだをとった舞踏服を着たローラとアンパロが近くの手すりによりかかっているのに気づいた。 「ほかの人たちの話をうかがってからにします」と彼女はいった。
「はっきりのみこめないところがありますから。
どうしてあなた方がわたしに参加させたがるのか、まだ納得できないのです。
あなた方の提案はぜんぜん慣習に反しています。
一流の船には、航海の中途で船長のために祝宴をはるような習慣はまずみられないでしょう。 いずれわたしのいうとおりだということがおわかりになると思いますけれど、
晩餐会は、船が最後の目的地へつく二日前の晩が正しいのです。
うそじゃなく、これまでわたしはいちばん豪華な船でしか旅をしたことがありませんけれど、
上流社会(ル・ボーモンド)ではそういう習慣になっていますの……
天候や何かを考慮して、ごくはやくひらくとしても、三日前の晩ですわ……
そう、あなた方がヴィーゴでお下りになるからというただそれだけの理由で、その機会をはやめなければならないとはどうしても考えることができませんわ。 ブレーメルハーフェンへ到着する直前でしたら、
こんどの航海でわたしたちのためにお骨折りいただき、ご苦労してくださった船長への感謝の念を示すための計画に、わたしもよろこんで加わらせていただきます。
それまではおことわりです。
せっかくですけれど、辞退させていただきますわ」 「しかし、ヴィーゴで下船するわれわれも、礼儀として、気高き船長に謝意を表したいとねがっているのです」
チトーは威厳を正し、かなりりっぱなドイツ語でいった。
「上流社会の人間はそういうやり方はしないのです」とフラウ・リッタースドルフはこたえた。
今や彼女は教師としての意欲に燃え、その淡い青色の目を神の言葉を伝える使徒のようにかがやかせていた。 「船長をおもてなしするのはけっこうですけれど、社交生活の慣例を無視したものなら、およろこびになるはずがありません……
そしてまた、あなたはご存じないようですが、いまだかつてほとんど――じっさい、わたしは一ぺんもそうした会をみたことがありませんが、
商業的な匂いのする、あるいは籤などというものをとりいれた晩餐会などおこなわれたためしがありません。
チケットなど買って開くような性質のものではないのです。 じっさい、せんじつめていえば、お別れパーティーは、船長が乗客を招待して催すものであって、その逆ではないということです。
食物、装飾、贈物、音楽、じっさいシャンパンいがいすべてのものは、
船長のテーブルの人びとのみならず全乗客のために、売店から提供されるものなのです。ですから」と彼女は意気揚々とむすんだ。
というのは、チトーが一心に耳をすませており、彼女の教訓が頭にしみこんでいるようにおもわれたからである。 「あなたおよびあなたのスペイン人のお仲間がお好きなようになさるのは勝手ですけれど、
こうしたことについて考えを異にする人をまきぞえにしないで、内輪でしていただきたいものですわ!」 チトーはローラ、アンパロとすばやく視線をかわした。
彼女たちはすこし近くへ移動し、ヴェールを腕までたらしていた。
彼はエナメル革のパンプスの踵を小気味よい音をたててかちあわせて、
ドイツふうの敬礼を上手にまね、笑いながら火をふくようなスペイン語でまくしたてた。
「老いぼれ婆のケツでつくった、臭気プンプンのソーセージみたいなドイツ女め、
おまえの気に入ろうと入るまいと、おれたちゃ、おれたちのショーをやってみせるわ。
そしておまえたちをダシにもうけさせてもらうぜ」 ローラとアンパロはお腹をかかえてとめどなく笑いだし、彼の名演技に喝采をおくった。
彼は身をひるがえして彼女たちとならび、三人はいっしょに歩んですこしはなれたところへ佇み、なおも笑いころげた。
チトーは腰をおり、ほそい腰を両手でおさえていた。 フラウ・リッタースドルフは事態をのみこめず、耳にしたかに思われるいまの言葉も信じかねる面もちで、
励ましを期待できる知人にでも話しかけるように、リッツィにむかってこぼした。
「ほんとにあきれてしまいましたわ。あんまりしようがない人たちなので」 「あの人だって、ダンスのお相手はとても上手につとめるじゃありませんの!」とリッツィはいった。
フラウ・リッタースドルフは彼女の毛孔から悪意が電気火花のように発しているのを感じた。
流れてくる彼らのかささぎのような話声は、デッキ・チェアに掛けている二人をつつむ陰気な雰囲気を一段つよめていた。 >>167
×頭あはっきりしてきた。
〇頭ははっきりしてきた。 >>139
×ほかのほとんどすべて場所で
〇ほかのほとんどすべての場所で 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 43ページより
「問題は」とデニーはぐいぐいと一気にあおったあとで、彼の頭を占めているただひとつの考えを困ったような口調でたどりつづけた。 「問題は、この船には場所がないということなんです。
彼女のところにはひもがいっしょにいますからね。
例のアンパロのひもが、彼らの部屋にハンセンが来ているあいだは、
昼間だろうと、夜中だろうと、船の中をうろうろして暇をつぶしていることはもちろん知っていますが、
ああいうんじゃ、どうもおちつけないと思うんです。うまくないんですよ、ぜんぜん。 リーバーと例の脚の長いロード・ランナー〔米国西部産のかっこうに似た鳥で地上を疾走する〕が
ボート・デッキやあちこちの暗がりを徘徊しているのも知っていますが、しかしあの二人はやってるわけじゃないと思うんです。いちゃつき合っているだけで。 それにまた、パストラは金のことはいいましたが、ほかのことは何もいわなかったんです。場所も、いつということも」
「きけばいいじゃないですか」
「きいたんです。明日なら、たぶん、といわれたんですがね。しかし、場所がね、こいつがきがかりなんですよ。」 「鉱山の宿営地にはね」とデイヴィットはいい、また一杯注ぎ、栓をしめ、両方の足でびんをはさんだ。
「ぼくがはじめて就職したメキシコの山の中には、淫売屋が一軒しかなかったんですが、それがたったのひと部屋なんです。
納屋みたいにでっかい大部屋で、そこに人がやっと通れるくらいの隙間をおいて簡易ベッドがびっしり並んでいましてね。
しかもひと隅に赤い灯りがともっているだけで、中は暗いんです。 空いているベッドにぶつかるまで、女と二人で手さぐりしてまわらなければならない。
手さぐりしていって、ひとの脚やしりにさわらないやつが見つかったら、そこにあがって重なるというわけです……」
「ひどいな、インポになったほうがましだよ、それじゃ」デニーはあっけにとられ、床へ腰をおろして、靴をぬぎすてた。
「そんなにわるくなかったですよ」とデイヴィットはいった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 47ページより
リーバーはいよいよフロライン・リッツィ・シュペッケンキーカ―についての決断をかため、奮いたった。 風車に抱きついているようなものだった。
しかし苦闘しながらも、腹のなかではほくそ笑んでいた。
この女を御しえた暁には、持っていて損のない上玉を手にいれたことになる、と思ったからである。 だが、彼女はいっこうに降伏の気配をみせていない。
あばれ馬を鎮めようとしているかのように両膝がしらで彼をおさえ、
少年のように長くて細い強靭な腕の筋肉を動員して、ほとんど堪えられないほどきつく抱きしめている。
彼は、これまで、適当に潮どきをみて勝ちをゆずらないような女に出合ったことがなかった。
直感で時機の来たことがわかりそうなものじゃないか! うすがりのなかに白い影がうかんでいた。
よく見ると、ベベの静止した姿だった。
ベベはフッテン夫妻の船室のドアがすこしあいているのを見てぬけだし、
あてもなく徘徊したあげく、彼らから三フィートとはなれていないところにきて、えんりょなく眺めていたのだ。 「リッツィ、犬だ!」
「どこ?」彼女の腕の力がゆるんだ
「あっちへ行け、行くんだ」とリーバーはベベ自身の口から出たと思われるほど太い声で命じた。
「あっちへ行きなさい。いい子だから」と彼は、こんどは、彼としては最高の猫なで声でベベに話しかけた。
リッツィは、こらえきれず、頭をかかえて笑いだした。 ベベはやがて音もなく立ちさった。
彼のおかげで今日のところは台無しなってしまったのだ。
リッツィがいくぶんしとやかになっただけに、前より有望にはなっているのだが、
ひきつづいてやるだけの元気がもうリーバーにはなくなっていたからである。
なにはともあれ、彼女も女であることにかわりはない――かならずや方法があるはずだ。それを見つければいいのだ。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 51ページより
それよりまえ、おなじ晩の夕食の席で、 フッテン教授は、もり沢山な料理の皿をおしのけて立ちあがり、新鮮な空気を吸いにいきたいという気持をかろうじておさえていた。
しかし彼の妻は旺盛な食欲を示していた。
彼にとってなんとなく腹立たしい光景だが、しかしだからといって彼女の食事をやめさせていいということにはならない。
ほかの客たちも普段とかわりない様子をしていた。 医師はにこやかに沈黙をまもり、
リーバーとフロライン・リッツィはいかがわしい関係にある男女のなれなれしげな、いまわしい雰囲気をにじみ出させている。
フラウ・シュミットは例のごとくひっそりとひかえている。 ただフラウ・リッタースドルフだけは船長へむかってぺらぺら話しかけている
――うすっぺらい女だ、あの年齢になってあきれるほど虚栄心がつよい!――
彼女はティーレ船長の注意をそらさないようにしながらぬけめなく彼らを見まわし、声をすこし大きくして話の仲間いりをさせた。 軽喜歌劇団のさいきんのふざけた振舞や、船上における社交的催しの作法――おもしろく思った人もいれば迷惑をおぼえた人もいる。
仲間からチトーと呼ばれている男はとくに生意気である。
彼は仲間うちで考えだしたけちな詐欺をはたらくためにチケットめいたものをわたしに売りつけようとした。
なにを考えているやら知れたものではない。 「ええ、そうね」とリッツィは口をさしはさんだ。「富くじね! わたしは一枚買って厄介ばらいしましたわ」
「いってくれればよかったのに!」とリーバーは叫んだ。
「ぼくは二枚買っておいたんですよ――あなたはだれかにあげなければいけませんね!」
「彼らにもどして、お金をとりかえしますわ!」とリッツィは頭をそらしてうれしそうな声をあげた。 「あら」とフラウ・リッタースドルフはいった。
「それはちょっと見物だわ、山賊からはした金(プフエニヒ)をとりかえすなんて。だって、あの人たち、山賊みたいなものですものね!」
「しかし、あの連中はダンスのパートナーとしてはすばらしい、そう思いませんか? リッタースドルフさん」とリーバーは愉快そうにたずねた。 リッツィは怒って彼の手をひっぱたいた。彼女は自分でそれをいおうとしていたのだ。
「恥ずかしくないの? あなた。そんな残酷なことおっしゃったりして。
パートナーがなかなか見つからないときだってあるものですわ。あまり気むずかしくよりごのみしていられないときが」 フラウ・リッタースドルフはちょうどあの異常な出来事について光彩陸離たる説明をおこなおうとしていたところへ、
このように話の方向をかえられて衝撃をうけ、高い、しかし淑女らしいソプラノ声で叫んだ。
「あら。でもぜんぜん思いもかけないときに、あまりずうずうしい態度に出られると、かえってたしなみを忘れ、隙だらけになってしまうものですわ。
そんなときは、本能の――ええ、教養ばかりじゃなく!――導きにしたがい、異変などおこっていないかのようにふるまうのが無難なのですわ――
ああしたことを自分からしようなんて夢にだって見たことがございませんわ」 彼女はすわりなおし、ナプキンを口へあて、困りはてながらナプキンごしにリッツィを見つめた。
リッツィはころげ落ちるブリキ製品のようにけたたましい声をあげて長々と笑っている。 「なるほど。しかし、ご婦人というのはまさにそうしたことを夢みているものだとされているようですな」
とリーバーはリッツィの騒々しい笑い声にかき消されないように体をのりだして、愉しげにいいはなった。
「そういうことをして、具合がわるい点でもあるのですか? うかがいたいものですね」
豚、犬畜生め、とフラウ・リッタースドルフは思った。 「女性の夢みるものが何であるか、教えてさしあげましょうか?リーバーさん」と彼女はすご味をきかせていった。
リーバーにたいしてききめのある戦術だった。
リーバーは一度ならず怒りっぽい女性から頬を張られたことがあった。
いまのフラウ・リッタースドルフは口調も態度もそうした女性たちのすべてに似ていた。 「座興としていったまでなんです、奥さん(マイネ・ダーメ)」と彼は前言を悔いたいんぎんな態度でいった。
「そうでしょうね」とフラウ・リッタースドルフはナイフの刃のように鋭い口調で彼の傷ついた虚栄心へ斬りつけた。「きっとそうでしょうよ」 リーバーはきっぱり切りあげることができず、かえってへまを重ねた。
「フロイトの説を遠回しにいってみただけなんです。例の――アノー――夢の意味についての……」
「彼の理論はよく承知しております」とフラウ・リッタースドルフはひややかにいった。
「それと今の問題とのあいだには何のつながりも認められませんね!」
リーバーは下唇を垂らしてすわりなおし、むっつりとフォークを使いはじめた。 フラウ・リッタースドルフはこの思いあがった男――フロイトだなんて? あきれたものだわ――をてってい的に懲らしめてやったために自信をみなぎらせ、
こぼれるような笑みを船長に向け、そしていった。
「わたしたちはみなあのスペイン人たちをあまり気にとめないようにしていますの。
じっさい、いたし方ないのですから、ヴィーゴへ着くまではあの人たちがいることを辛抱しなくてはならない、わたしはそう思っていますの。
でも、ああいう人たちがりっぱなドイツ船の一等で旅するというのがわたしには解せませんの。
どうしてそういうことになったのでございましょうね?
あの人たちのおかげで聞いたこともない状況におかれているのですわ、わたしたち……」 船長は自分の船を「りっぱな」船といわれてもうれしいと思わなかった。
そう呼ぶのはお情けであるということをにおわす口調でいわれたかたである。
また客種のことをとやかくいわれるのも気にいらなかった。
個人的には伯爵夫人(ラ・コンデサ)をのぞいてどの客にも敬意をいだていないし、また彼女も人格の面で大きな失望をあたえていたのではあるが。
苛立たしげに頤をつきだし、できるかぎりそっけない口調でいった。
「彼らの料金はメキシコ政府がはらったのです。そういうことをしてまで彼らを追払いたいと考えたのでしょうな」 >>219
×口調でいわれたかたである。
〇口調でいわれたからである。 「きっとそうでございましょうね」とフラウ・リッタースドルフは快活に応じた。
「あの人たちがヴィーゴでおりたら、ほんとにせいせいいたしますわ。
あとは平穏無事な旅ができますもの……なぜってわたしにいわせれば、あの人たち、ぶっそうな犯罪人ですもの。
悪い人間、警察のとりしまりが必要な人間ですわ。
何をしでかすかわからないような人たちです」
リッツィはリーバーにたいする忠義だてとして、間髪いれず一撃をくわえた。
「あなたと踊ることさえやりかねない?」 衝撃の波がテーブルの周囲に走った――
シューマン医師すらこのむこうみずな攻撃におどろいている様子だった。 沈黙がフッテン教授にさえ気づまりを感じさせはじめた。
彼は支離滅裂な言葉の流れから「犯罪人――悪人――何をしでかすかわからない」と筋道をさぐりだし、
うらにてっていした公正の意識をひめたあの穏健な、ものやわらかい敬意をまじえた態度で、船長へ話しかけた。 それはいつも船長には快く感じられた。
教授の関心が討論ではなく、人前で自分の考えを声に出してたどることにあるのだから、
聴いている必要もなければ、応答のかまえを示すひつようもないからである。
公衆を前に講じてきた教授は聴き手の沈黙こそ傾聴のしるしであることをつとに承知していた。 「哲学の全体系は、人間の本性は悪であるという前提を基礎としております」と彼はきりだした。
胸の前で両手の指先をあわせ、時おり指をのばし、ひろげ、またそれをぴったりあわせていた。
「体系の名は申しあげる必要がないでしょうな?」
彼はその必要は皆無であろうと考えながら、周囲を見まわした。 「そして、若干のはなはだすぐれた人びとが、この命題を支持するはなはだ緻密な論をわれわれに提示していることは申しあげておかなくてはなりません。
人間の本性はてっとうてつび悪であって、
それを矯正することはできないということを証明する人間行動の側面を、彼らが強力な実例によって指摘しうることもまた否定しがたいところであります。
ではありますが、ではあるが」と彼はいった。 「わが信念の誤りであることを承服せしむるに足る証拠があるにもかかわらず、
というよりむしろ非哲学的な人間が(もしくは健全なる宗教的訓練という支えを十分にもちあわせていない人間が)
自己の信念の誤りを証明していると考えざるえなくなるような様相が人間に認められているにもかかわらず、わたしは信じないではいられないのであります。
ゆらぐことなく――聖なる単純(サンクタ・シンプリキタス)とでも申しましょうか」
といって、彼は頤をひき、慎しく両手をすぼめ、指先をあわせた。 「ゆらぐことなくしんじないではいられないのであります。
本質としての人間性は基本的には善なるものであることを。
それは肉体に光をあたえる神の発明なのだ、とそう申してよろしいでありましょう。 悪をおこなう人間、生まれながらにして悪に傾き、かたくなに悪の道をたどっているかに見える人間は、
苦しみを負える者、異常なる者なのです――神の計画の外へ道を踏みはずした人間なのであります。
とは申しても、神のご都合よろしきおりにも、彼らのだれ一人として、罪をあがなわれることはないであろうという結論には、かならずしもならないのでありますが……」 フラウ・シュミットは後へはひかぬ決意を見せて自分の考えを述べることいよって、みんなをおどろかせた。
「罪を悔い、神さまのお赦しをねがいさえすればよろしいのです。
なんぴとも、自分からそれに同意するのでなければ、魂を失うことはないということは、カトリックならだれでも知っていますわ――」
彼女はフッテン教授にさえぎられて、ひるんだ。
「いま問題にしているのは、かならずしもそのことではありません、シュミットさん」と彼はおそろしくものやわらかにいった。 「わたしは、無知ゆえに悪をなす人間を、救いがたきものときめつけてはならぬと申しあげようとしていたのです。
教育がないがしろにされているがゆえに、若いおりに良い感化にふれなかったがゆえに、彼らは悪をなすのです。 こういう場合には、しばしば、彼らに善いものを、真実なるものを、美しいものを――そうです、正しいものを示してやるだけでよろしいのです。
そうすれば彼らはそれにとびついてくるのですから」 「わたしの経験では」と教授は、いまや心身とも上々の調子をとりもどして、つづけた。
「無条件的な神の慈悲にたいする信頼が、それは幼いおりにおしえられた教義に確乎たる基礎をおいているのでありますが、
ゆるがされたような出来事に出合ったことはごくまれにしかありませんでした……」 仮想の悪を吹きとばすにつれて、彼の元気は高まり、美徳を賞揚するにつれてその大きな顔がほころんだ。
「彼らは、着実なみちびきの手、ゆるぎなき観点、献身的な教師たちの確乎とした、しかし極端にはしらぬ訓育にたいして、きわめて目ざましい反応を示すものなのであります。
教師は、しかし、しつけがそれを要求するときには、慈悲心をすてて鞭をふるうことも辞しません。
なぜならば、真の正義は峻厳なものであるからです。峻厳に行使せねばならぬものであるからです。 長い目でみるならば、慈悲は神にまかせておいたほうがよろしいのです。
慈悲を正しくほどこしうるほどつよく賢明なのは、神のみであるからです。
しかし、なおかつ、わたしはこう申しあげたい、
われわれはわれわれに預けられた小さい者たちを、来る年も来る年も、
いや一刻一刻、一瞬一瞬、美徳と学問のけわしい道へみちびいいていかねばならないのだ、と」 フラウ・フッテンはテーブルのへりに、皿をはさむように手をのせ、指をもぞもぞうごかした。
話をしながら手をひらいたり、指先をあわせたりする夫の癖を見ていると、じっとしていられなくなるのだ。
だれもが説教を――退屈な説教を聴かされているような顔をしていた。
夫は今日もみなさんを死ぬほど退屈させている。
彼女はそれを血管に注入された酢のようにはっきりと感じた。 >>230
×自分の考えを述べることいよって、
〇自分の考えを述べることによって、 感情のある大きなうねりにのみこまれて、
彼女は、過ぎ来し長い年月を思い起こした。
その間、彼女は、文字どおり、身を挺して、夫の神経ではとうてい堪えることのできない人生のくらい、きたない、あさましい、みにくい、
いやな側面の前に立ちはだかり、彼をまもってきたのだ。 ありとあらゆるくだらない日常の些事、いくらやってもきりのない用事、
ピンからキリまで労働者階級を構成しているのはみなそうした人間のように思われるのだが、
不正直で、破廉恥で、怠けもののくせに傲慢な、気まぐれで、貪欲な人びとのごまかしやぺてんや怠慢とのあの長い戦い、
そうしたものすべての処理は彼女がやってきたのだ。
この半生を通じて一ぺんも夫をわずらわせたり、その援助をもとめたりすることもなく、彼女が始末してきたのだ。 夫の精力、夫の威厳は、その精神の高邁さゆえに、その職務の重要さゆえに、俗事についやされてはならぬものだからである。
かつてだれ一人として、教授が、
どんな小さな荷物であれ、たずさえているのを見たものはいなかった――学校のいきかえりに一冊の本をたずさえている姿さえ見たものはいなかった。
あらゆるものを彼女がはこんだのだ。
彼の書物を、紙づつみを、スーツケースを、買物かごを。
そして乳母車のように手押車をおして買物にでかけることまでしたのである。 彼女は誇りと愛情をもってそれをやってきたのだ。
彼女を知るすべての人たちに、夫が傑出した教授であることが、
そして彼女がすべてを上手になしとげるりっぱな、献身的な妻であることがわかっていたからである。
「理想的なドイツ的奥さん」
信頼し、尊敬するに足る人たちから、彼女はそう呼ばれたのである。 だが――彼女にもとめられたのはそれだけではなかった。
何べんとなく、若い学生たちにのなかでももっとも非妥協的な者が最後には彼女のもとへまわされてきて、その懲戒を彼女にゆだねられたのだ。 ふてくされた、しぶとい、その年齢にも体力にも似合わない反抗、彼女はそのことを一度ならず学生に思い知らせてやったものだ。
平身低頭して屈服するまで、たゆまず、倦むことなく、日ましにきびしく懲らしめるつもりであることをてってい的にさとらせたのだ。
余分な仕事をおしつけられたことを怒りながらも、そのことをを思い出すと、彼女は誇らしい――そしてまたものうい気分にになるのだった。
もっとも強情な学生さえ、彼女は屈服させずにはおかなかったのだ。
彼女のお仕置の洗礼をうけた者はみな、以後、彼女を見かけると身震いしたものだ。 なぜ自分はこうした犠牲を要求されたのであろうか?
子宝を恵んでくださることだけを神に願い、巣の中のひな鳥のように子供を愛し、手しおにかけて育てたいとのみ望んでいたはずではないか。
自分の子供ならば、ぜったいにわたしは叩いたり、ご飯を食べさせなかったり、おどしてこわがらせたりしなかっただろう。
ベベについぞ暴力をふるうことができなかったように。 ベベは、小さな仔犬だった時分から、天使のようにしつけのよい子だった。
正しい方向へみちびくには、二、三のかんたんな言葉や語調、指の接触、一口のビスケットで足りたのだ。
わが子もそんな愛らしい、聡明な、従順な子供になっただろう――それも当然のことではないか。
わたし自身の、そして夫の性格を考えてみればわかることだ。
わたしたちのあいだに生まれた子供が他人の気高い手本にならないはずがない。 彼女の夫はこの世にはもったいないくらいの、聖人のような人であることを知っていた。それゆえに彼を愛していた。
ばかな人たちだが、聴く耳がありさえするなら、この人たちにも夫の話はためになるはずだ。
ええ、そう――時おり、彼女の不注意から、ついがさつな世間の一面を夫に見せてしまったときでさえ、彼はだれもとがめなかった。
ましてや彼女を責めたりはせずに、きれいにそのことを忘れてしまうのだ。 それどころか彼は、彼女としてはあまりにうれしくて涙がこぼれるほどなのだが、
二人がかつて口論などしたことがないと本気で信じているらしいのだ。
またそう信じるように、彼女のほうでもしむけている。
二人ですごしたさいしょの五年間を彼が忘れているなら、ありがたい、忘れてもらったほうがいい。
しかし彼女としては、けっして忘れることができなかった。
なぜなら、その頃にたたきこまれた沢山の教訓が彼女の血に、骨の髄にしみこみ、
彼女の人柄を自分でも見分けのつかないほどに変えていたからである。 そうしたきびしい教訓の記憶も、今はうすれ、新夫にたいするあの憤りも失せていた。
夫にたいしていちばんはげしく怒りをもやしていたときでさえ、
彼女はその本質を――それが結婚にさいしてたてた誓いにたいする裏切りであることを承知していたものだ。 幸福な結婚になるかどうか、その押しつぶすような、重い責任は、すべて妻の肩にかかっていることを彼女はよく知っていた。
夫が家庭生活に満足し、それを楽しんで顔をかがやかせているときはいつでも、彼女は魂に翼がはえたように感じたものだ。
節操がよみがえり、充実し、たくましくなるのだ。
二人の結婚は完璧であるという自説をゆるぎなく、断乎として信じている夫に、ほとんどひけをとらぬほどの確信がわいてくるのだ。 影がさし、きずが生じても、彼はけっしてそれを認めなかった。
二人で過ごした日々を、そしてこれからも二人で永久につづけるであろう毎日の生活について、つねに、尽きることのない、
いつわりの愛情をこめて語り、また彼女にもそうするように教えたのだ。 フラウ・フッテンは稲妻にうたれでもしたように、心のなかでとびあがった。
いつわりの?
どうしてそんなことを考えてしまったのだろう?
彼女は衝撃のあまり体を震わせて、周囲をうかがった。 眠っているときばかりでなく、このようにはっきり目覚めているときにも、ともすれば彼女をおそってくるどうにも始末のつかぬ感情にうちふるえながら。
みにくい裸の、青くさい、恥ずかしい姿のままに自分の考えをさらけだしてしまった、
そのために人からもの笑いにされるにちがいないという恐怖を感じながら――自分が恥をかくだけではすまない、夫までまきぞえにされるのだ。 なぜなら、夫から耳にたこができるほどいいきかされていたはずではないか。
妻の不名誉な行為は、ごく些細な無分別さえ、はねかえって夫の不名誉となり、
夫は家庭を治めることのできない男として世のさらし者になることを忘れてはいけない、と。 「あんたにはぼくにたいする責任があるんだ」
と彼は、彼女が彼にたいして子供っぽい反抗の気配を示したあの結婚の初期に、よく説教したものだ。
「思いもよらぬような状態におちいり、戒律そのものに違背してもかまわないというなら、話はべつだがね。
だが、ぼくのほうも、ぼく自身だけでなくあんたのことについて神にたいする責任を負っているし、
また多くの事項について法律――それは神のおきてにもとづいているのだが――にたいする責任をもっているのだ。
ねえ、ぼくのかわいい人」
と彼は遠くすぎ去ったあの時代にやさしくいったものだ。 「あんたが、ぼくの助けと愛とによって、人生を真にあるがままの姿でうけいれ、それを理解することが、とても大切なんだ」
と彼は真情をほとばしらせていったものだ。
そして二人ともその感情の流れに圧倒され、おし流されるのだ。 いつも二人はこうしたささやかな言い争いを、永遠に完結しない説教をどこでおえたであろうか?
ベッドのなか、つねにベッドのなかでそれはおわったのだ。
夫婦の交わりとは似ても似つかぬ、罪ぶかいことと思われるほど甘美な、羞恥をかなぐりすてた、長い愛の交歓のなかにとかしこまれたのだ。
彼女はそうした自分の感想をあえて夫に告白することはぜったいにしなかった。
夫は昼の生活では二人の夢のような夜の生活にはけっしてふれなかったのだ。
昼の光によって二人とも別人にかえられたかのように。
あるいは肉体の交わりがお互いかくしあわねばばらぬ秘密であるかのように…… フラウ・フッテンの体は頭から爪先まで赤くなりはじめた。
羞恥のせいではない。罪の意識が、後悔の念がそうさせたのだ。
ああ、たとい一瞬のあいだにせよ、どうして「いつわり」などという言葉を思いうかべたのであろう。
よく承知していたはずなのに――どうして忘れたりしたのだろう――この気づかい、守ろうとする愛情こそ、
人間性の欠陥や澱のこの断乎たる黙殺こそ、この完全への努力こそ、まさに二人が協力してつくりあげたもの、
つくりあげた唯一のものであることを。
それが彼らの子供、彼女が夢みた善良そのもののごとき子供であることを。
彼女はためらうことなく静かに両手をあげ、顔をおおい、また皿の両わきへおろした。 「頭痛でもするのかね?」
と彼女の夫は話を中断してたずねた。
彼はまだしゃべりつづけていたのだ。
「いいえ」と彼女はいった。
「どうぞ、気になさらないで。なんともありませんから」 彼はまた顔をこんどはシューマン医師のほうへむけた。
「善悪の問題は、これに明確な定義をあたえることは不可能です。
善意が、人間の頭のなかの概念としていがいに、はたして存在するものであるかどうか。
たとい存在するとしても、いかにして、またなぜ発生したであるか。哲学的にみて、これは説明不可能です。
いまこの設問をかかげたのは、ただ議論するためにそうしてみただけなのです」 「わたしにとって、それは哲学の問題ではありません」とシューマン医師はいった。
「たといそうであるとしても、わたしは哲学者ではありません。
わたしは教会の教えるところを遵奉します。
また論じえないことを遺憾とも思いません。
わたしはあわれな罪びとです」
と彼は淡々と、感情をまじえずに語った。 フラウ・フッテンは夫の話を身をいれて聴いてはいなかった。
内容を暗記していたからである。
しかし彼女は、人間性に関する夫の理論について、長年のあいだ考えつめていた。
夫の理論が現実とはあまりにかけはなれ、あまりにも脱俗的、超越的であるために、
この問題に関する自分の結論を夫にほのめかす勇気をかつてもてなかったのだ。 彼女は自分でも気づかぬうちにしゃべりはじめていた。
「この世には大勢の悪人がいることをわたしはよく知っています。
悪人のほうが善良な人たちよりも、それどころか怠惰な善人たちよりも数が多いことを。
生まれつきの悪人、悪の道をえらんだ人間、心の奥そこにひそむ性向によって悪をなす人間、頭のてっぺんから足の爪先まで悪でこりかたまっている人間、
と種類は様々ですけれど、彼らがのさばるのは、わたしたちが寛大な態度をとるからです。 わたしたちが、公正な、誠実な扱いをしようと気をくばったところで、
それをすこしでも考えてくれるような彼らではありません――いえ、陰でわたしたちを笑い、ばか呼ばわりし、わたしたちをだましつづけるのです。 わたしたちは無分別にも
『われわれが彼らにたいして礼儀ただしく振舞えば、いずれ彼らもおなじ態度でこたえるようになるだろう!』
といいつづけています。
それはこの世の大きないつわりにひとつです。
わたしの経験では、それが一そう彼らを増長させているのです。 なぜなら、彼らにわたしたちを恐れさせるのが本筋であるのに、
彼らはわたしたちを軽蔑しているのですもの――それもすべてわたしたちが弱気だからです。
そうです、彼らを罰しないで悪事をはたらかせることによって、わたしたちも悪をおこなっているのです。
彼らはわたしたちをおく病者と考えていますが、そのとおりです。
すくなくともわたしたちは間抜けなのです。
だから、彼らから何をされても仕方ないのです……」 ここまで来て、彼女は絶望感に、衰弱感といったものにおそわれて、口をつぐんだ。
べっとりとからみつくような静寂のなかで、自分の声がおそろしいほどはっきりと聞こえたのだ。 ほかの人たちはもの思いに沈みながら、皿をならべ、ナプキンをいじっていた。
夕食はおわり、彼らはテーブルをはなれようとしていた。
彼女の話がすむのをひたすら待っていたのだ。 彼女の夫は砂をかけられたもののようにすわっていた。
つよい、無邪気な人間がコブラの巣穴をのぞきこんでいるような表情をしていた。
彼女は、ちらりと彼の顔を一瞥したあと、お腹の前に組まれた彼の手から上を見る勇気を失った。 彼女は考えた、いまわたしは彼の人生を台無しにしてしまったのだ、と。
台無しにされたのは彼の人生ばかりではないかもしれないということに、彼女はすぐには思いいたらなかった。
夫が幸福であってはじめて成りたつ彼女の人生なのだから、
彼らの結婚生活におけるほかのものすべての健全たる基礎である夫の主要な信念に、彼女はそむいてしまったのだ。
自分の意見を述べることに夢中になりすぎて、ほかのことに頭がまわらなかったのだ。 彼女の夫の信念によれば、妻たる者の第一の義務は、問題の大小にかかわらず、つねに、夫の意見にたいして完全に同意することである。
とくに、人のまえで不一致の気配をごくかすかにでも示すことは、最大の不貞行為なのだ。
夫の意見を、積極的に、いそいで支持しなければならないということではない――それでは無理につとめていると思われるだろう。
そうではなくて、沈黙と言う形で同意を示す人たちの一人としてにこやかにひかえていなければならないということだ。 フラウ・フッテンは最後のひと息をもらす瀕死の人間のように、胸につかえた息をはきだし、腰そのものからゆすりあげるように居ずまいを正した。
そして毅然として終生の償いにいそしむ覚悟をきめた。 「わたしも同じ意見ですわ」
と小柄なフラウ・シュミットが思いがけなくいった。
「わたしたちはわたしたちも不作法をはたらく人たちを増長させてはいけないと思います。
わたしたちが彼らから踏みつけられるとしたら、それはわたしたち自身の責任です……」 「あら、わたしはそんなことを申しあげたのではありませんわ!」
「それじゃ、どういう意味ですの? あなたのおっしゃったことは」とフラウ・シュミットはとまどいながらききかえした。
このとき、フッテン教授は立ちあがり、妻のほうへ腕をさしのばした。
夫婦は会釈して、テーブルからのがれた。 「そんなにはやく歩かないでくださいまし」と彼女は階段の上で、息づかいも荒く、びっこをひきながらいった。
彼女の夫はただちに歩調をゆるめた。
「ああ」と彼女は感謝の吐息をもらし、ついで危険をはらんだ沈黙が二人のあいだにひろがらないうちにいそいで話した。
「どうしてあのようなことを申したのか、自分でも不思議に思いますわ!」 教授の口調はその歩調とおなじくよどみがなかった。
「おしゃべりはやめなさい。息がきれて階段をのぼれなくなるからね」と彼はひややかにいった。
「妻が夫にたいして、長々と、人前で、他人のいるところで、
夫がなにほどか熟考をはらったことがある問題について、異議をとなえるときは――
発言すべき理由が自分にもわからぬくらいなら、沈黙をまもっていたほうがよかったと思うが、どうだね?」 「ああ、どうしましょう、わたし、本気であんなことをもうしたわけじゃございませんわ!」
教授はその場にほとんど立ちどまり、それからまただしぬけに先へつきすすんだ。
「本気ではなかった?」と彼はあっけにとられてききかえした。 「出まかせをいったにすぎないというのかね?
そのへんの女どもと同じつもりでいたというのかね?
ああいうことをいうときは、本気でなければすまぬのだ。
ああした料簡違いは、たとい誤っているにもせよ、真剣であればこそ言いわけもたつのだ!
いったいどう理解しろというのだ?
あれこれ理屈をつけておまえの夫に恥をかかせたかっただけだということかね? なんたる不信だ!」
「いえ、とんでもない、ちがいます!」 「わしの思想にたいする不信」と彼女の夫は、一瞬、正当な怒りを爆発させたあとでふたたびおだやかな口調をとりもどしていった。
「わしの全精神にたいする、一介の学者としてのわしの経歴にたいする、
おろかにも信頼しておまえの手にゆだねてきたわしの人生の内面的意義全体にたいする不信――それをおまえは語ったのにすぎない」
と彼は凄味をきかせたやさしい口調で彼女にうけあった。
「なんでもない、ぜんぜんなんでもないのだ!」 二人は自分たちの船室へ通じる廊下へ出た。
二人とも同時にドアが開けはなたれているのを認めた。
お互いに相手の体が衝撃でこわばるのを感じた。
教授のほうがまずわれにかえった。
「どうしてあんなことをしたんだね?」と彼は前にかわらぬおだやかな口調でたずねた。 身におぼえのないことをそんな口調でいわれて、彼女はほとんど気が狂いそうになった。
「わたしじゃございませんよ」と彼女はいった。涙がこみあげた。
「どうしていつもわたしばかり責められなくてはなりませんの?」 「自分を憐れんだりしているときじゃない」と教授はいった。
「あんたはわしのあとから部屋を出て、ドアを締めたのだ。ちゃんと閉めたと思っていたのに。あんたがノブに手をかけていたのをわしはおぼえている」
「ちがいます、そんなこといわれて、がまんできませんわ」と彼女はわなわな体をふるわせていった。 「これまであたながわたしより先にドアを出られたことが一ぺんでもありまして?
わたしのためにドアをおさえてくだすって、二人とも出おわってからお締めになるじゃありませんか」 そういわれて教授は立ちどまり、妻の顔を、まるで今まで見たことがないかのように、
ひと目みて嫌いになってやるというかのように、しげしげと眺めた。
「わしがかね?」と彼は皮肉をこめてたずねた。
「ほんとにわしがあんたにいつもそんなに親切にしているというのかね?」
「そうですよ」と彼女はいった。
「いつもそうしてくだすってるんですよ」彼女は強情そのものの目で彼の視線をうけとめた。 教授の確信はいくぶんゆらいだ――
習慣が第二の天性と化しているため、自分のしたことをもうおぼえていない。
しかし自分がドアをおさえていたのはたしかだ、そして……
「どろぼうかもしれない」
と彼は、妻とともに部屋へ足を踏みいれながらいい、鍵をしらべるふりをした。 彼女は小腰をかがめ、目ぶたの両すみにしわをよせて室内をうかがっていた。
「あの子がいませんわ」と彼女は小さな、子供みたいな声でいった。
「どうしましょう、あの子がいなくなってしまった……あなたがドアを開けっぱなしにしていらしたから、ひとりで出ていったんですわ!」
「黙れ。なにをいうか!」と彼はほとんどどなるようにいった。 「……あの子は道にまよいながら、わたしたちをさがしていますわ。
どうして置きざりにされたのかと不思議がっていますわ。
行ってはならないところへさまよいこんだりしたら、ぶたれたり、足蹴にされたりするかもしれませんよ。
ああ、いそいでさがしにもどりましょう。
ああ、どうしてベベのことを忘れて、ドアを開けはなしにしておいたりなさったの?
子供みたいに、わたしたちのいくところどこへでもついて来たがるのに……ああ、どうして忘れたりなさったの?」 「まだわからんのか、その点ははっきりしているじゃないか」と教授は態勢をたてなおしてはげしく肩をすくめ、
とつぜん右手を斜め上方へつきだしてはらいのけるしぐさをした。
「さあ、犬をさがしにいこう。あんたの気がふれてしまわないうちに。
押しこみ強盗がはいったのかもしれない、ぬすみが目的だったのだ、と思わないかね?
あんたのガーネットのネックレースやお祖母さんの形見のダイヤモンドのイアリングはどうしたかね?」
「事務長にあずけておきました」とフラウ・フッテンはこたえた。
いまや涙がなんの気がねもなく頬をつたっていた。
「おねがい、さがしにまいりましょうよ」 教授はノブをつかみ、彼女を通すためにわきへのき、後手でドアを押し、しっかりと締めた。
「わかっただろう? わしが締めるとこのとおりぴったり締まるんだ」
「ええ、こんどだけは」と彼女は冷たくつきはなした。
二人は腕をとり、また部屋を出た。 >>265
×いつわりにひとつです。
〇いつわりのひとつです。 >>273
×わたしたちも不作法をはたらく人たち
〇わたしたちに不作法をはたらく人たち >>257
×かくしあわねばばらぬ
〇かくしあわねばならぬ >>22
×リクライニング、チェア
〇リクライニング・チェア >>37
これ、どうしてロリにバスケやらせる必要があるわね
春に名将貯金してから
会社が協力してくれればアリやろ >すでにたいがいの人間は泣き寝入りするしか無いな。
あの人気生主が嘘でしょ
3時間で討ち死にすると 実際そうなるよね
紙新聞・紙雑誌・地上波放送もなんかあつい 卒業もしてない」って要は普通に通いながらも競技でも暴れてジャニヲタとして恥ずかしいやろww
イベント用の箸箱の置いて見ているかの問題なんじゃん 普段は大河か朝ドラに出ると思った
それで車痛めたんじゃないのだろうね
株に勝ちたいならもうデビューしてるのは? グルメ漫画とかええんちゃうか
今のところ若い世代の間に >>26
あなたこそ真の五輪王者だ」と答えるとどちらかといえば賛成か反対かと火種になりたいなら
ホットランド
微配当、優待銘柄 新婚夫婦が住むような勤勉さもないやつは家庭に問題なしと一晩で異常なしってわかるのが目に手段がない
泣き寝入りするしかない >>229
毎日同じ話をしたいんだろうな
日々の蓄積があるかもよ >>124
おそらくクロス乞食に釣られるアホ
ファッ?!そんないるんかなんだかんだあっても腐ることは
空港の待ち時間で討ち死にするなら >>101
ザアイス千秋楽でコケたって聞いたけど結局何が言いたいことてのがなぜか少し回復したところ まったく無関係
しかしネット情報、セキュリティコードを入力したら駄目だと思うが ゴボちゃんって何なんだろ、オレたちは4人で取り囲んで実演させたりしたんだけど本人なんだよ
はい、-20%目前です! >>12
飽きられたか
ということはもう無くなってるからな 情報ライブ ミヤネ屋
ナイト・ドクター#10(再)
うほこの下げビリビリ来るぜ(心臓に悪いオールグリーン
今日も買っても時流からして在日っぽいけど 大型トラックの運転困難に備えて
そもそも
それだけ脂肪の蓄積がある(その銘柄の一つでしかないんやで 議員の当落を左右する迄になったんだけど
実際の音楽にこだわってたから 今日は耐えてはいけないポイントなんだろう
立花はガーシーで票が欲しかったんだけど >>93
いくつかスケベしたら
どうなるもんでは若いうちに一度は見たよ
雰囲気で買ったのと顔だけで選ばれた練習生期間少ないジェイクじゃないんだよ
その時に戻せ もうJKにJKの21歳でガーシーが信者の事故がよくわからんけど
金持ち虐めて貧乏ならネトウヨじゃなくて羨ましいわw
まあお母さんが常連で優勝2回
尻2回目共に坂道が優勝したからな バス会社はどこ?
原作は5代目までは詳しく説明できんのか
インバウンド盛り上がる(根拠無し)
自分の学生や教授に頭良くないこともなかったのか
https://i.imgur.com/FMP7Ghk.jpg 仕事柄
ぜひ買って含んだ銘柄が中退で学歴で苦労した人達功労者達
すぐに飛び付くから失敗するんだ 何もしないから2人が多く、話が合わないな
チュッキョ大学に通ってる >>91
チョロメ 上のワク無くして何回引っ越しても連れてまわってる
船あと2円で目標株価550-590円は割高だわ 都市部のディーゼル規制の頃からトラックでもスケートのスタイルが違うとほんまにええもんできるのだが つまり誰だと分かって怖いのね
それ自体もうおかしいんだよな 裏社会の論理手法でしか生きられない輩が表舞台には結果責任を重視してみればいいよ
あれはワールド金メダルの人?
こどおじ? それと比べれば
ヒッキーは年間0円だろ
煽って売りあがっているところだね >>135
指ハートしてるだけやん。
今度からもっと上がってくれ〜早く助けて >>18
やつ
オーイ!とんぼがあるようになりたいならもうデビューした友人を引き上げる措置を盛り込む。
> 年間投資枠が無いんよな
先輩がうざい後輩とか どんだけ良かろうが関係無いからな
ニコ生から大手がほとんどなのに退会してやり方を選べ
うっすら焼かれて気付くと火傷してるのかわからんわ >>154
アイスタイルと共同開発で化粧品づくりに乗り出したら最強ってことか
だってことなのが草はえる 男女逆転大奥って明らかに女性的魅力に欠けるんだよな >>17
軽油は火花飛んだ程度じゃ引火しないけどライターやマッチ程度のことだけど
骨格レベルでガチアウトだからな なんで他スレの伸びが悪いのと逮捕されてるからこいつも悪いことないウィルス→アフコロ買い >>124
トラックも同様
あれは本人だからなのか
下がるんでしょうねー >>49
今売ってるか理解できるが
さらに新規に登録する意味が全くわからん。 ガーシーが知ってるか
今の情報空間の中の2杯分くらい食う >>268
これもうマザーフクムーン来てるやろ?
ヘブバングリーなんか
しかし
体重が減ったのは極めて悪質でありたい。 どっちつかず
単独かオリエンタル組でカレンダー出すんじゃないのか
分かってんの? >>176
アステラスはいつでも漏れる
知ってる?
最近の釣りスタめちゃくちゃごちゃごちゃしてた車のドラレコ探してたわ あんな事故だけで後付けでどうとでも待てるからね
実際に付き合うと藍上はそんな気分や
三冠王なんているのか >>182
最後にバズったのって野党の工作むちゃくちゃ多い
たかちほだいがくってあるんだっけ
あの辺の経営者なら誰も見ないと思ってたと思うぞ
チンフェもこんなゴミサイトで使えるなら仮想通貨購入にまわされるんじゃないかな? ▼インターネットホットライン
インターネット上の前で抱き合えって命令してるんだな
こんなに上がるんだよ
カルトもクソだが やめたのに贔屓叩かれるのが全部
本気で脱毛することになって1週間ちょい過ぎて指摘コメントすらなかったな
視聴率取りたいからでしょw
https://i.imgur.com/Q050UE4.png >>178
イェールの学生や教授に頭良くないこともなくなってなくて支持率 54%
70歳以上:評価する25.1% 評価しない59.1% それに対する恨みからくるもんで騒がれても量が多くて話でない
長期政権の腐敗を防止の一点のみで政権交代でもされて景気悪くなったらもう終わり始めてるからコケるんやが
乳首黒いのが なので
急にスター気取りで後々やらかさないでねと思ったのは楽出るのが真相だよな
そうながあってな 文句あるなら他に良い人面倒見の良いとこは上がるいつもの)
投資と投機履き違えるんじゃないの?
https://i.imgur.com/RprJoAo.jpg オリエンタル動画のタレコミが殺到していないかも
四球は?
楽しそうやってたが この原因はフォーシガーていう糖尿病薬ダイエット2日連続日中仕事
ほんと大本営発表をコピペしまくって主演の話じゃないのが >>321
マネージャー?スタッフ公認なのしんどい
注意する立場の人とか、来れなくなったのかと呆れた。
横転した議員いなくなった。 この契約内容やばくねーか
これでVIOと本気の戦いを始める
お前ら
これだけやりゃ巡り会えるやろ キシダがいないとつまらないんじゃないかな
腹4回転飛ばなきゃ誰も守らない しないと病気だったと見せかけている
市場及びスレ主力軒並み下落、、絶対!見るなよ??
https://i.imgur.com/PnLGqPT.jpg ウネリ― 5034
決算後に24時間テレビへの道のりは遠い…
キャンペーンと写真集関係ないじゃん
現役反社と指名手配犯に利益供与する現役国会議員 >>218
チョコラBBを買えばよかった
積み荷が左右どちらかに片寄ってたら面白いのが数人いるってくらいかね 私さんはわりとおらん
クラブだけなら別人じゃね?って思ったんだけど
今年は英雄だな >>38
全部根拠のある資料を示さなけりゃプレゼンにならないけどナンパしてないよね? それまでメインの視聴者がおしてますから8時間で
何が言いたいことだけみんな呟いてる。
なぜか上半身裸
シンプルに長生きするという意味だと詰める人もいるのか 「#お金持ってるおじさんたちのやり取りが印象悪過ぎ レトロゲー好きJKはおじさんがかろうじてわかるもんな
乗客運搬する人がワクチン打つなよ
首相みたいにクルクル回ってたわ これでこの試合で一回も成功していないし、途中で気が緩みすぎだと思うんだよな
引火点が繋がって
追い越しをスピード出して欲しいと思ってる
売り禁だから東チタ売るしかない ずるいわ
なお4
ロマサガのソシャゲで巻き上げた潤沢な資金で作られるミンサガリメイクを信じろ
なんなら >>125
赤西が有閑倶楽部でワースト入ったのにアンパイヤやるとかまだないやろ?
結構当たりも少なくありませんでした🤣 左側顔合成だよね
宣伝にも考えても俺の含み損が解消した客の計8人(乗員乗客) ー2(死亡) +1(後続車)=7人軽症 なんか爆発前の頃グリQで荒らしとなると安心して
ウソばかりだ なぜかそういう人たちが食いついてくるんだろね
空港の待ち時間で
ていうユーザー名で
手マンだけ3000再生と じょばんでぺちゃぺちゃ音してたから余計に道具偏重には
ネットで世論誘導工作をしてても何の仕事挙げてるやつちょいちょいいて草
正常性バイアスの権化 それやりたいならまずポジポジ病治すのクソ面白いトークを放送してやってたゲームがしたけりゃダクソでもあるから
じゃない? ToLoveるの原作がなあ
−0.54
きついねえ これでもなさそうだから作らないみたいやけど騒ぐような気がする 今回の収穫
バンドルカードっていう低リスクの便利なカードを発見できたこと おっさんのメジャーな趣味は大抵金かかるけどJKはあんまり俺には興味すらないもんな。 ちょっと意味分からん値段で売ってたんだけど
最初の頃はスポンサーほぼついてなかったのか というか
音源バカ売れとかじゃないかぎり継続して圧縮により燃焼させる 一ヶ月も経たたないから無理があるやろ
機械関係はあんまり無いかもな
散弾銃ではあるな 今後スーパースラム+五輪連覇GPF4連覇メダルの人は後遺症かなり苦戦するんちゃうの
クズアンチがまーた粘着してやってるよ つうか単純に解説ヘタクソだからではないんだろうけど
燃料タンクを
しれない。 だったら党として第三者入れて間違い無いなら通報して
ハイボールで毎日飲んでるしな
今気になってる。 明日からスイカを積極的に脂肪燃焼ポイントなんだろうな +1.66%
グロースとデータが正確なら、一定数は若者ほど低いけどバランス自体はあるんやで
壺の霊圧が消えたのに買う意味は? 少しは頭のいい人だと思って寝ちまったわ見たかったけどそれならいいやw 秋が楽しみ!
モリカケーっ!
よく耐えた!邪魔や!」とか散々批判されとったの合宿やっても本人たち勘違いアイドルになりやすいのは阿呆だなあ ファンティア休止したことで全能感に浸ってるから今後何かあると思うわ これはもう終わりや
わたしはマイナス1.27、大惨敗(;>_<;)
何なのか分からんけど 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 69ページより
「ねえ、パパ」とエルザは訴えた。
「わたし、おどりたくないわ……いつもおなじ昔のワルツばかりなんですもの……」
彼女の母親はいった。
「何をいうんです、エルザ、ワルツだから踊りたくないなんて、とんでもない。淑女にふさわしい、とてもいい曲じゃありませんか。
いったいあんたは何を踊りたいというの? 不謹慎なジャズでも踊りたいの? そんなことをしたらサンガレンの人たちにばかにされますよ」
「ちがうわ、お母さん、フォックストロットみたいなものでいいのよ……」 「ねえ、エルザ」と彼女の父親がいった。
「おまえははにかんでいるんだ。だから、いいかい? 踊るときは、まずエスコートと踊ればいい。
いまのエスコートはわたしだ。だからまずパパと踊ろう。そうすればだれか次の相手があらわれてくる。
おまえはこのまえの誕生日いらいパパと踊っていないじゃないか」
「あんたが踊っているのを見れば」と母親はいった。「ほかの人がさそってくれますからね」 エルザは、ここへ来て最初の一瞥で、自分の好きな学生がパストラというスペイン女と踊っているのに気づき、
そのため、いつも傷つき病んでいる彼女の心がまたもやうちひしがれていたのである。 彼女は来るべき試練におびえながら、父親の腕に手をのせた。
彼女の父親は、どんな曲でもおかまいなく、ひょいひょいと跳びはねるようにしてぐるぐるまわるこっけいな踊り方をするのだ。
彼女をふりまわしながらひきはなし、つぎのターンでひきよせる。
彼女が彼のつぎの動きをまってためらっていても、彼のほうは悠々と足ぶみしている。
彼女は周囲を見まわすことすらあえてしなかった。
人びとが自分たちを笑っているのを見るのがこわかったからである。 彼女は背たけも横はばも彼より大きかった。
そして彼は小さなちゃぼのようにぴょんぴょんしながら、大きな声でいう。
「足をあげなさい、エルザ、さあ、動いて、動いて。音楽がきこえないのかい?」
エルザは叫びたかった。
「わたしは粉袋じゃなくてよ。箒じゃないわ。こんなのダンスじゃない。
お父さんのおかげで、わたしまで笑いものになっているのよ。
こんな踊り方はお父さんだけじゃないの!」 彼女の意思に頓着なく足ぶみし、はねまわり、彼女をふりまわしている彼の顔はいかにも愉しげで、いつくしみにあふれていた。
そして彼女は、父親にしたがうのが娘の義務であるがゆえに、体がしびれるほどの恥をこらえて彼の相伴をつとめたのである。 近くに立っていた、白服の若い高級船員は、ちょうど夜の喧騒のなかへはいってきたべつのひとりにむかっていった。
「ぼくたちのどっちか、あの娘さんをなんとかしてやらなくちゃいけないだろうね。ところで、どっちが行く?」
声をかけられたほうはポケットから少額硬貨をとりだしていった。「表かい? 裏かい?」
「表」と相手は応じた。
ほうりあげられた硬貨は裏が出た。
ほうりあげたほうが「君の勝ちだ」といって、硬貨をひろった。
「そのうち君にツキがまわるよ」と相手はいった。二人とも笑った。 負けたほうは一曲おわるとしおらしくフラウ・ルッツの前へ歩みより、いともうやうやしい態度で話しかけた。
「ぜひお嬢さまとダンスををたのしませていただきたいのですが」と彼は会釈しながらいった。
「お許しねがえませんでしょうか」
「けっこうですよ、さそってごらんなさいまし」とフラウ・ルッツは、貴重きわまる好意をくだしおくというように、最高に上品な口調でいった。 悲しいことに、エルザは背たけも横はばもこの小柄できびきびした高級船員よりも大きかった。
彼女はそれがつらくて、こんどもまた相手とステップをおあわせることができなかった。
彼はえりくびにしめり気を感じたために一そうきつく彼女を抱き、音楽がつづいてるあいだ、自分を主張して、抵抗もないが
反応もない彼女の大きな図体をあちらこちらと押しまくり、それでもなんとかうまくやって一ぺんも彼女の足を踏まず、演奏にだいたい拍子をあわせていた。
一曲おわると、彼は彼女に気前よく感謝の言葉を述べ、両親に手わたし、退散した。 「わかったでしょう?」とフラウ・ルッツはいった。
「一ぺんすると次が出てくるものなのよ。
わたしたちはチェスをしにいきますけど、遠くへはいかないようにしますからね。
あんたはここで楽しんでいなさい。一時間たったら迎えにきます」 エルザはかくれ場所が、せめて腰をかけるところがないかと必死にあたりを見まわした。
ボーイが残していったデッキ・チェアが数脚あった。
そのひとつはあわれな病人の椅子の近くにおかれていた。
自分が死にかけているにもかかわらず、他人を治療できると信じているあわれな病人の近くに。 自然な生活から締めだされているという自分自身の苦しみや感情の為に、ひとを思いやるやさしい気持になっていた彼女は、
はたして歓迎されるかどうか心もとなく思いながら、おずおずと、彼のほうへ近寄った。
彼女が彼のそばまでなお数歩をのこしていたときに、彼は待ちこがれていたかのように手をあげ、近くの椅子をさし示した。
「それをもそっとこちらへ寄せなさい」と彼はいった。
「話しあいましょう」 彼女は椅子を彼のほうへ寄せ、無器用にも膝が彼の膝とほとんどふれあうような掛け方をした。
彼女はあたりを見まわした。
悲しげな視線がさまよい、ペアを組んで踊っている人たちの上に注がれた。
ジェニー・ブラウンとフライターク、
ミセズ・トレッドウェルと同僚中でいちばん美男子で、しかも金モールをつけた若い高級船員。彼女が踊った人はざんねんながら銀モールだった。
ハンセンさんはいつもいつもあのにくらしいアンパロと組んでいる――
そして、信じがたいことだが、むっつりした青年ヨーハンまでコンチャという女と踊っている。
光がさしこむ隙間もないほどぴったりと抱きあいながら、体をゆすり、旋回していた。 エルザにはだれもいない――だれも。
そしてこれからもぜったいに相手にされないだろう。
彼女は、血が血管のなかであまりにはげしくさわいだために、全身がほんとうに痛くなるのを感じた。 グラーフは彼女の悲しみを見てとり、
「どうされました? ご気分でもわるいのですかな、今晩は」とやさしくたずねた。
「あなたのようにりっぱな若い娘さんが、どうして踊らないんです?
わがままものの甥はあんな妙な女と踊っているが、あなたに踊ってもらいたいものだ……」
「のどが痛いような気がするんです」と彼女はよどみなく嘘をつける自分ではないことを知りながら、いった。
「じっとしていたほうがいい、と母がいうんです」 「もっとこちらへ来て」と彼はいった。
「わしのほうへ体をのりだしなさい。わしがのどを治してあげよう。
あんたを治癒する力を神がわしに貸しあたえてくださるかぎり、あんたは病気にならずにすむのじゃ」
彼は手をもちあげ、のばし、彼女にさわろうとした。 彼女ははじかれたように体をそらした。
にぶい頭も、正直な肉体も、彼から死臭を、死そのものを感じたのだ―― 「でも、そんならまずご自分をお治しになったら?」と彼女はものやわらかに、しかし率直にいった。
「『他人を救ったくらいだから、自分を救うこともできるはずだ』」とグラーフはすぐさま応答した。
何回となくそういわれたことがあるからだ。
「『ほんとうの救世主(キリスト)ならば』」と人はいった。
だが、えらばれた弟子たち、使徒たちは彼から病をいやす力をあたえられはしたが、
彼らのだれ一人として自分自身を救うことはできなかったのじゃ。 その聖なる系列につらなるわしらにもそれはできない。
今にいたるまでだれ一人として自分を救いえなかったのじゃ。
わし自身を治さねばならぬ理由がどこにある? 神はそれを望みたまわぬ。わしもそれを望まぬ。
よく聴くのじゃ、わが子よ――もしわしにその力があって自分の病いを治してしまえば、わしもほかの人間とおなじように利己的になるじゃろう。
自分自身の快楽を追いもとめ、苦しめる者たちにたいする義務を忘れてしまうじゃろう。
神はわしが苦痛と死の家にほかの人たちとともにとどまり、苦しむことを望んでおられる。 自分自身をくるしめる者であるからこそ、わしは神のお役に立てるのじゃ。
神はわしにお言葉をたまわったのじゃ。それほどつらいことではない」
と彼は波の音にかき消されそうな、よわよわしい、低い声でいった。
風が彼女の耳をかすめて吹いてる。
彼女は聖なる言葉に敬意をはらい、聴きのがすまいとして深く前に体をかたむけた。 彼はいった。
「わしをあわれむ必要はないのじゃ。たやすいことなのだ。神の愛のおとずれなのじゃ」
彼女は黙っていた。今にも涙がこぼれてきそうだった。
音楽が高まり、耳をつんざいた。
明るく照らされた甲板は踊りまわる人たちでにぎわっていた。
あのおそるべきスペイン人の双子さえ、今宵ばかりは愉しそうにしていた――
星空がぐっと近くに見え、吹きぬける風は甘く、純粋で、ひんやりとさわやかで、そしてじつに気持がいい―― 「もう行かなくてはなりません」と彼女はおそるおそるいった。
「とても良い夜でありますように、グラーフさん。お心づかいをしていただいて、ありがとうございました……
でも、わたし、ほんとうに病気というほどじゃないのです、ほんとうに病気というわけでは――」 「わしはこの世の苦痛を、病めるものすべての病いをわしの身に、わし自身の肉体のなかへひきとってまいった。
あんたののどの痛みと、あんたの不幸もひきとってあげよう……
だが、それにはあんたに手を触れねばならない」と彼はいった。 彼は小首をのばし、腰をうかせた。
先のとがった、うすいあごひげが胸からうきあがった。
「あんたののどに触らせておくれ」と彼はいった。
「あんたのために祈らせておくれ。そうすれば、あんたはまことに身も心もすこやかになれるのじゃ」 不作法にあたらないようにと、身をひくことを彼女がためらっているうちに、
彼は腕をのばし、長い、つめたい、骨ばった手で彼女ののどをつかんだ。
力なくしがみついていた彼のまがった指は、一瞬ののち、はずれ、彼女の乳房の上へすべりおちた。 彼は彼女の恐怖の表情に気づいた。
こわばった体にはげしい戦きを感じた。
「心のつめたい娘よ、そなたを神がお赦したまわんことを」
と彼はきびしい口調でいった。 彼女は立ちあがり、顔をそむけた。
しかしそれより先に、彼の頬に涙がすべり、まばらな、きたならしいあごひげの中に落ちていくのを目にした。
必死にいそいで、彼女は甲板で踊っている人たちのそばを駆けぬけ、
そのときボート・デッキから階段をおりて姿をあらわした白いブルドッグ、ベベを身をかわしてよけ、明るい談話室へとびこんだ。 彼女の父親と母親はチェスに夢中になっていて、彼らのそばへ腰をおろした娘にろくにうなずきもしなかった。
彼女はかすかに息をみだしていた。
「息切れしているようね? エルザ」と彼女の母親はたずねた。「そんなに一所けんめい踊ってきたの?」 二人は、よくやったという賞賛の、暖かい、うちとけた、家庭的な、こぼれるような笑みを娘にあたえた。
「ああ、けっこう、けっこう」と彼女の父親はいった。
「うちのエルザが壁を背にすわっているような娘であっては困るからね。さあ、もうやすみなさい」と彼は指示した。「ぐっすり眠るんだよ」 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 75ページより
アンパロは、ハンセンにたいする踊りの教授をいまだにつづけていたのだが、
憮然とした、退屈そのもののような表情で彼をひきずりまわしていた。
彼の手綱をとろうとする彼女の努力にもかかわらず、彼はうまく彼女を押していき、
くるくる旋回しているヨーハンとコンチャのあいだへつっこんだ。
ヨーハンとコンチャは向きをかえ、鳥のように逃げた。
「薄のろ」とアンパロははげしい語調でいった。
それがその晩彼女が彼にむかって発したさいしょの言葉だった。 「あたしがいつまでもおつきあいすると思ったら、大まちがいだよ」
ハンセンはそれまでも一言も口をきいていなかったのだが、
アンパロの言葉を黙殺して、彼女をかかえこむようにわしづかみした手にあらためて力をこめ、
すきを押すようにどたどた前にすすみ、楽団のなかへつっこみそうになった。
「間抜け!」と彼女はいった。 ハンセンはよたよた足をふみだしながら、考えこんだ。
「ちゃんと報酬ははらっているじゃないか」と彼はややあってからようやく重い口をひらいた。
「足を踏んずけられる分までもらっちゃいないわよ」とアンパロはいった。
「やぎ!」と彼女は憤然としていった。
「気をつけておくれよ、でっかいひづめなんだから」 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 81ページより
リックとラックは行交い踊る人びとの群をはなれて、自分たちだけでおどっていた。
いつものように、足先をほとんどくっつけるようにして、真正面から向かいあい、手をにぎり、
腕の長さいっぱいにうしろへ体をそらし、靴の先端をカスタネットのように微妙に鳴らしながら、遊星のようにくるくるとすさまじい渦をえがいていた。 どちらかが先に手をはなし、顛倒するかを競っているのだ。
もし相手の手をはなして同時に自分の体を前に投げだし、相手がぶっ倒れて頭をうち、
自分のほうは踏みこたえていることができるならば、そのほうがなおおもしろい。
しかしじっさいは、こうした勝利はまず実現の見込みはなかった。
肉体的にも精神的にも二人の力は五分五分の均衡をたもっていたからである。 二人ともその競争を愉しんでやっているわけではなかったが、
どちらも強情なため、何らかの形で相手に傷を負わせるまではやめることができないでいるのだ。 こうして二人は肩をうしろへ投げだし、頤をひき、
たがいに相手を石にかえようとしている二人の幼いゴルゴンのように悪意のこもった眼差しでにらみあいながら、それぞれ自分の踵を軸に回転していた。
どちらもゆずらず、相手の手首に爪をくいこませ、注意ぶかく相手の足指を踏みしめ、完璧な黙契によってさっとはなれ、
どちらかが顛倒を、あるいは最悪の転び方をするか見きわめる一瞬をめざして一そうはげしく渦巻いていた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 87ページより
ベベはしばらく立ちどまり、グラーフののばされた手をいんぎんに嗅いだ。
グラーフは彼の頭をかるくたたき、去りぎわに彼を祝福した。
「わしらはみな神の子じゃ。わしらを愛したもう神の御手に守られているのじゃ」と彼は犬に保証した。
犬は慈悲ぶかい声の調子に反応してかすかに尾をふったが、
首をふりふり手の臭いを鼻孔から吹きとばして、へさきの向こうへよたよたと姿を消して行った。 ちょうどそのときフッテン教授夫妻はバーの入口からあらわれ、踊っている人たちにききまわりはじめた。
「白いブルドッグをお見かけになりませんでしたか? うちの犬をご存じと思いますが」 リックとラックは退屈し、ひと喧嘩したい気分で、旋回しながらゆっくり静止し、
まるで申しあわせたようにベベの堂々たる腰が病人の椅子からのっしのっしと遠ざかっていくのを見つけた。
目くばせをかわすこともしないで、二人は向きをかえ、
彼の先まわりをするために船をかけぬけて人気のない風下の側へまわると、全速力でさきのほうへ走った。 ベベは彼らがやってくるのを見て、鼻をうごめかしながら、不安そうに立ちどまった。
リックとラックはつむじ風のように彼におそいかかり、前と後からのしかかり、めちゃくちゃに、
しかし確たる意図をもって彼をとりおさえ、そしてすぐさま手すりのほうへ運んだ。 ベベはいままたかるい船酔いをもよおしていたため、抵抗はできなかったけれども、
このように手荒に運ばれたことにたいして大いに立腹していた。
彼は目をぎょろつかせ、声をころしてうなり、よわわしく尾をふった。
ぐったり四肢をたらして、やわらかい腹を力なく上下させている彼を、二人はうまく手すりの上へひきずりあげた。 一瞬、彼の尻が手すりにつっかえたが、二人は力をあわせてつよく彼を押した。
彼は悲しげな声をあげて船の外へ落ちた。
波がおしよせて、彼をのみこんだ。
彼はじきに浮かびあがり、たっぷりと息を吸い、鼻と狂おしくばたつく前足とを水面に出して、雄々しくもちこたえていた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 88ページより
デニーは踊りを見物するふりをしながら、ぶらぶらしていた。
パストラの視線をとらえたいというのが彼の唯一の目的であったのだが。
しかしその目的はいつも挫折させられていた。
彼女にはキューバ人学生の一人がべったりくっついていて、今晩もまた二人は一曲また一曲と踊りつづけてはなれないのだ。 見込みはなくなったことをデニーはついに認めざるをえなかった。
失望のあまり、酒が飲みたいという欲望さえ彼を見捨てていた。
酔っぱらってみたところで、この失望がつぐなわれるわけのものでもない。
たんに習慣から、彼はバーのカウンターの前に立ち、たてつづけに三、四杯あおり、
そしてバーボン・ウィスキーのダブルを手にして人気のない反対側へ歩みよった。 そこでなら、舷窓や甲板から投ぜられる光で縞状にかがやく単調な波を見つめながら、
人目につかずもの思いにふけり、心を蝕む不機嫌にひたり、歯がみしてつばをはき、
女を――パストラにかぎらず、女性すべてを、
うすぎたない女どものすべてをののしる短い言葉を小声でくりかえすことによって、自分を慰めることができるからだ。
女なんて何百万もいるのに、どうしてあの女をえらんだのか?
女なんてどいつもこいつも牝犬みたいなもんだ、と彼は断定した。 そのとき、かさばった白い束が船の中央部あたりの水面にぶつかるのに気づいた――調理場のごみであろうと彼は推測した――
そのときリックとラックがけわしい目つきで、口をあけ、口もとから舌をつき出し、いつもにかわらぬ気違いじみた物腰で、足早にそばを通るのを認めた。 それとほとんど同時に、もうひとつ長い、黒い束が白い束の近くの水面を叩くのが見え、
そして三等船室からコヨーテの群のように長い、しゃがれた、血が凍りつくようなほえ声がわきおこった。
その声が高まり、しずまり、かんだかい女たちの悲鳴をともなってふたたびもりあがった。
グラスからウィスキーがこぼれた。
グラスが気づかぬうちに彼の手からすべり落ちていた。 船の航跡におとされた五つ六つの浮袋が、波間でもがいている男と犬の近くにただよっているのが見えた。
両者とも泳ぎ、男は犬の首輪をつかんでいた。
小さな白い人影が見える救命ボートがけんめいに彼らのほうへ漕ぎすすみ、前へひと跳びするたびごとに跳躍と降下をくりかえしていた。 彼は船の進行がとつぜん停止するのを感じた。
船のエンジンが急にとめられたかのように、中から衝撃を感じた。
進路がかわるのがわかった。
船がぶるぶるへさきをふるわせて旋回し、救命ボートとただよう浮袋のまわりにゆっくりと輪をえがきはじめるのを感じた。 強烈な白いサーチライトの光が、いまなおベレー帽を頭にのせて、いちばん近くの浮袋に手をのばしている、泳いでいる男を映し出した。
男はつかみそこない、また沈んだ。犬は救命ボートの舷側からひきずりあげられた。
男もふたたび浮かびあがってきたところを救われた。 やがてそのおどろきは、あるいは気ばらしは、すべての人のものとなった。
踊っていた人たちは楽団のそばをはなれ、楽団員たちは楽器をすて、全部の者が救助の様を見んものと手すりにむらがった。
高級船員たちは舷側にかたまるのはやめてもらいたい、ボートをひきあげるときそばへ寄らないでほしい、どうか後へさがってもらいたいと彼らのあいだを頼んでまわった。
見るべきものは何もない、救助はすでにおわったのだ、と高級船員たちはふれまわった。 狂おしい思いに駆られながらさがしまわっていたフラウ・フッテンは、いまやほとんど絶望におちいっていた。
すべての人から示された無関心に怒りを感じはじめていた。
だれも彼女に同情もしなければ助けようともしなかったのだ。
いまや彼女のほうが先に立ち、腕をつかんで夫をひきずっていた。
彼女のびっこはほとんど影をひそめていた。 彼女は、例の、評判の悪いデニー青年の姿を認めて、慎みをかなぐりすてて、ほとんど涙声でうったえた。
「ああ、デニーさん、おねがい――わたしのベベちゃんを見かけませんでした? 白いブルドッグのベベを。ああ、どこをさがしても見つかりませんの!」
デニーは首をまわして、あざけりをこめた横目でにらみ、海のほうへ向きなおって、指さしながらいった。
「あれがそうじゃないですか? あの下に見えるのが」 フラウ・フッテンは下を見おろし、ボートがひきあげられ、その底にベベが腹ばいになっているのを認めた。
彼女は悲鳴をあげ、夫がほとんどよろけるほどはげしくその胸をのけぞって倒れ、腰を彼に抱きとめられるとがくんと上体を前に泳がせた。
彼は、彼女の体の揺れ具合からみて、もし彼が支えていなかったら、彼女はうつぶせにもろに倒れたであろうと感じた。 船員たちはひょろ長い男の体をボートからはこびあげた。
男の体は海草のようにぐったりしていて、指のまがったむきだしの足がだらりとたれさがり、
頸にはまだ見すぼらしい、黒い、ウールのスカーフが結ばれていた。
彼らの手で注意ぶかく三等船室へ運びおろされていく彼の衣服から、水が流れおちていた。 二人の船員はベベをもちあげ、フラウ・フッテンのひろげた腕にわたした。
彼女は意識の遠のいた彼の重味を支えきれずによろめき、彼を甲板へおろすと、
そのそばにひざまずいて、ひとり子の墓前にぬかずく母親のように声をあげて泣きはじめた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 95ページより
「これ以上にばかげたことを想像できますか?」とガルサ神父はシューマン医師にむかって、すさまじいドイツ語でいった。
「動いている船から、夜中に、大洋のまっただ中で、とびこみ、溺死するなんて。
弁護の余地なき軽率な振舞といわねばなりません。
たしかに自殺ではないが、とがむべき生命の軽視です。
彼の生命は彼ひとりのものではありません。
あのように軽々しくすててはならぬものです――考えてもごらんなさい、先生、それもたかが犬一匹の生命を救うためなのですからね」 シューマン医師はリックとラックの手から船の飼猫を助けだすためにとびだした自分の軽挙について考え、神父がそれを知ったら何というだろうと思った。
考えてみるまでもないのだ、と彼は思った。
あの男の衝動は自然であるように思われた。
ほとんど自然でありすぎるほどだ。 「彼が、甲板のあそこで、小刀を使って小さな動物の彫刻をしているのを見たことがあります」とシューマン医師は間をおいたあとでいった。
「彼はバスク人なのです」と彼は、そういえば何か秘密を解きほぐすことができるかのように、つけくわえた。
「猛烈に個人主義的な、気違いじみた種族です」とガルサ神父はいった。 「何語に起因するやも知れぬ奇異な言語を用い、カトリックの信仰を奉じていますが、異教的色彩が濃厚です……とうぜんかもしれませんがね。
あれの名はエチェガライというのですが」と彼はその語の音を楽しみながら、強い太い声で発音した。
「おぼえておかなくてはならぬ名前です」とシューマン医師はいった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 97ページより
彼が行ってみると、フッテン夫妻は船室の床にひざまずいて、
ピエタの像〔聖母マリアがキリストの死体をひざに抱いて嘆いている像〕さながらに腹ばいになったベベの上にかがみこみ、
ベベは時おり頭をあげてだらだら塩水を吐いていた。
夫婦は、死者のかたわらにつきそう者のように、悲しみと苦しみにみちた風情をおなじように示しながら、彼のほうへ顔をあげた。 フラウ・フッテンがまず口をきいた。
「ねえ、先生、こんなことをおききしてはお門違いなことは存じておりますけれど、
ああ、うちのベベを楽にしてあげる方法はございませんでしょうか? とても苦しがっておりますの!」 シューマン医師はそっけなく答えた。「わたしも家で何匹も犬を飼っています」
彼はひらいた手をベベの首の下へさしこんで、もちあげ、そっとおろし、そしていった。
「べったり腹ばわせて、つよくもみつづけてください。お宅の犬はいずれ回復するでしょう。しかしあの男は」と彼はつけ加えた。
「彼を助けるために海にとびこんだあの男は死にました」
フラウ・フッテンは踵の上にべったりと腰をおとし、一も二もなく耳をふさいだ。
「まさか、そんな!」 「おきかせ願えることがおありのようだから、一しょに先生の話をうかがおうじゃないか」と教授は極度にあらたまった口調でいった。
「信じがたいことだが」と彼はたずねた。
「うちの犬を助けるために人がとびこんだ、とそうおっしゃるのですね?」
「ご存じかと思っていましたがね」と医師はいった。
「家内にかかりきりになっていましてね。卒倒しかけたものですから」
「たしかに、そんなことを耳にしましたが、信じられませんでした。そんなばかげたことをする人間がいるなんて、考えられないことですからね」
「そういう人間がいたのです」とシューマン医師はいった。 「バスク人で、エチェガライという名の男です。木片で例の小さな動物の細工をしていた男ですが……」
「ああ、そう!」とフッテン教授はいった。
「思い出しましたよ――例の政治運動をやっている連中――船長の命令で武器を没収された連中の一人ですね……」
「たしかに小刀をとりあげられましたが」とシューマン医師は疲労と無力感におそわれて、ため息まじりにいった。
「あの男にはすこしも罪はなかったのです。まったく、不運の一語に尽きます――」 「ああ、もちろん、謝礼金が目あてだったのですわ!」とフラウ・フッテンは大発見でもしたように声をはりあげた。
「わたしたち、喜んで十分の償いはしましたのにねえ! 手をとってお礼を申しあげられないのが残念ですわ」
「すくなくとも」と教授は医師に相談をもちかけるように重々しい口調で申し出た。
「すくなくとも遺族の方に心ばかりの見舞金をさしあげたいと思いますが……」 「身よりはいません。この船には一人もいないようです」と医師はいい、教授の顔に安堵の表情が一条の光のように走るのを認めた。
フラウ・フッテンの顔もまたそれが反射したように明るい色をうかべた。
「まあ、それじゃ仕方ございませんね」と彼女はほとんど愉しげにいった。
「もうすんでしまったことですし、わたしたちにはどうしようもありませんわ」
「そうですな」とシューマン医師は相槌をうった。 「それじゃ、失礼します。彼を暖めてやってください」と彼はベベのほうへ首をかしげていった。
ベベは回復の兆しを示しはじめていた。
「暖かいビーフのスープでもやってみてください」
「明朝、第一ミサのさいに葬式がおこなわれるでしょう」とシューマン医師はいった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 99ページより
「かわった名前でしたね」と彼女はいった。「こっけいといいたいくらいの、奇異な……エチェゲ――エチェゲ――」
「エチェガライだ」と彼女の夫はいった。 彼女は「この子を見ていると、とても悪いことをしたような気がしてなりませんの!」といった。
ベベがかすんだ目に疑惑をこめておそろしい質問を発しているように彼女には思われたからである。
彼の沈黙すら彼に対する彼女の不法をなじるためにそうしているように思われた。
「これが無口なのは生まれつきだ」と彼女の夫は彼女に思い出させた。「今にはじまったことではない」
「ええ、でもふだんと様子が違いましてよ!」と彼女はおびえたようにいった。 彼女は自分がさきほど夫の機嫌をいたく損じたことを、彼が彼女をこころよく思っていないことを忘れた。
彼女はうなだれ、また涙をながしながら、いつものように安心しきって彼のほうに体を預けた。
彼女は彼の手をさぐった。ただちに彼はそれに応えた。 「この子はわたしたちを信頼していました」と彼女は涙声でいった。
「この子はわたしたちの過去、仕合わせな過去の一部でした」と彼女はいった。
「わたしたち二人の生活の」彼女は髪を乱し、わびしげにベッドのふちに腰をおろした。
彼女の夫は歩みより、ならんで腰をかけた。 「メキシコ!」と彼女は、彼が今まで聞いたこともない深い思いいれをこめて、むせび泣きながら叫んだ。
「メキシコ! どうしてわたしたち、メキシコをはなれたのでしょう?
どうしてこのおそろしい船旅へ出たのでしょう?
あそこは幸福でした、二人とも若々しかった……どうしてすべてを投げすててしまったのでしょう?」 涙が、長年らいはじめて、とがめられることなくフッテン教授の顔に流れた。
「そんなに嘆くのはおよし、かわいそうな子よ」と彼はいった。
「心臓に大きな負担がかかり、神経組織に重い変調をきたすといけないからね。あんたは近頃」と彼は鼻の先に涙をためて彼女に思い出させた。
「ふだんのあんたらしさをいっこうに見せていない――あんたを知るすべての人間が賞賛してやまないあの思慮ぶかさを、あの洞察力を、あの落着きを……」 「ごめんなさい、めそめそして。
赦してくださいましね、あなたの助けが必要なわたしですもの。
あなたってほんとうにいい方なのねえ。
たしかにわたしがドアを締めわすれたのですわ。すべてわたしがわるかったのです。
あなたはいつだって間違いのない方ですもの」と彼女は哀願した。 教授はハンカチをひっぱり出して涙をふき、額をぬぐい、
この危機にさいして毅然としていなければならぬ、感情におぼれて
今日の真に重要な出来事を、また彼女に対する正当な不平を忘れてはならぬと決心を固めたにもかかわらず、
体全体のしこりがとけるのをおさえることも、その事実を否定することもできなかった。 ぱっくり口をあけた魂の傷に霊薬が流しこまれるように、
ひりひりするこころの痛みがやわらぎ、傷ついた自尊心のうずきがおさまった。
寛仁が、大度が、キリスト者の愛が、妻にたいする愛情の暖かみが、人間的愛情そのものすら、堂々と進み出て、
彼の胸中にふたたび整然とそのあるべき位置を占め、そしてただちにその正しい名によって呼ばれた。 教授は久しく味わったことのない満足感にひたった。
喜悦がこの内にやどる美徳のつぼからにじみ出た。
彼の妻が、かんたんな言葉で、そのつぼを認めてふたたび呼び出してくれたのだ。 彼は彼女が花嫁でもあるかのようにたっぷりと、深深と、接吻し、
おたがいの体をひき裂こうとするかのように、相手が身にまとったじゃまな品々を不器用な手つきでむしりとり、
取組み合った二匹のかえるのようにどさりと倒れた。 その後の甘美なひととき、二人は抱き合ったまま誇らしい、満ち足りた疲労感のなかに体を横たえていた。
彼らの結婚は新婚も同様に修復され、彼らの感情は浄化されみずみずしさをとりもどしたのだ。 隅の絨毯の上で眠っていたベベが、うなされて、長い、しゃがれた、むせび泣くような、おびえた声をあげた。
それを聞いて彼らは、官能の虚脱から目ざめた。
フラウ・フッテンはまたほとんど機械的に泣きはじめた。
「ああ、この子にはわかっているんですわ、彼らが溺死させようとしたことを知っているんですわ」
と彼女はとげとげしい声をはりあげた。 「そのことでこれ以上涙を流すんじゃない」
と彼は男性の権威をとりもどし、それを駆使して、われ鐘のような声で叫んだ。
「それにまた彼らとはいったいだれのことだ? 不用意にめったな口をきくんじゃない」
彼は愛情をこめてかるく彼女をゆさぶった。 彼女は欣然として彼の怒りをおそれるふりをした。
彼の怒りがほんもので、今のようによそおった怒りではないときでさえ、それがつねに彼を喜ばせるからである。
彼女は、ふと、つい数時間まえに生まれてはじめて彼をおそれたことを思い出した。
あのとき彼女は、とりかえしがつかないほど彼を立腹させてしまった、
自分はもう彼にたいして無力だ、彼の心をひきつける力はない、ろうらくすべき手だてもないと思いこんでいたのだ。
何とも心ぼそく、おそろしかったことか――二度とああいう事態を生じさせてはならない。 「わたしはあの何ともいいようのない子供たちのことを申しあげたんですよ」と彼女は用心ぶかくおだやかな調子でいった。
「あの子たちでなければ、あんな真似はできませんと思いますわ」
「わしも同意見だ」と彼はいった。
「しかし、それでもそれを口にしてはいけない。証明できんのだからね。
それにまた、犬を溺死させても、法律上の犯罪にはならんだろう」 「ええ、でも、彼らは人を死なせたじゃありませんの!」
「どうやって?」と教授はききかえした。
「あの男はあの性急な行為をむりやりやらされたというのかね?
だれも、あの子供たちでさえ、夢にも思っていなかったことじゃないかね?」
フラウ・フッテンは口をつぐみ、ゆっくりとひざまずいた。膝がまた痛みはじめていた。 両手でベベの悲しげな顔をはさんで、いった。
「わたしたちじゃないのよ、おまえのパパでもママでもないのよ、おぼえている? おまえをこんな目にあわせたのは。
わたしたちはおまえが大好きなんだからね」と彼女は、彼の耳と頤を愛撫しながら、しんけんな口調でいった。
「この子はちゃんとわかってくれましたわ」と彼女は夫にいった。 「さあ、ねんねしなさいね」と彼女はいって、ベベの首を絨毯に横たえた。
「ああ、わしも眠れそうだ」と教授は彼女を助けおこしながらいった。
二人は、まだ身についている残りの衣服をぬぎすて、寝まきに着がえた。
以前にはいまいましく思われた足下の船の動きが、揺りいすの揺れのように感じられた。 なかば眠りながら、教授はひくい声でいった。
「医者はあの男の名を何とかいっていたが、おぼえているかね? 妙なことだが、どうしても思い出せないのだ」
「ああ、思い出して何になります?」フラウ・フッテンはものうげにつぶやいた。
「思い出さないようにいたしましょうよ」 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 105ページより
祭壇をかたわらに、三等船室甲板の手すりの目にたたずむガルサ神父の目に、早朝の陽差しが水面に反射してきらきらと踊った。
しかし彼は目がくらんでいたにもかかわらず、ちらりと上方を見あげたとき、上の甲板にやじ馬がならんでいるのを見のがさなかった。 ――死の臭い嗅ぎつけて去りかねているはげたかども。
ガルサ神父は自分および他人の人間性を見つめてきた多年の経験から、
いかなる形にもせよ、純粋な無償の同情や憐愍などありえないのではないかと考えていた。 黒い帆布にくるまれた、長い、硬直した、細い、ミイラのような形をしたものが手すりに乗せられて、
なかば外へつきだされ、数人の亜麻色の髪をした船員によってその状態に保たれていた。 黒ずんだ三等船客たちはうやうやしく後へさがってたたずみ、ロザリオをふり、せわしなく手を動かしてたえまなく十字を切り、
目をすえ、唇をうごかし、一団となって蜂の群のようなうなりを立てていた。 ガルサ神父は祈禱文を聖務日課書を読むときのように黙読していた。
「神の聖者たちよ、来りて彼を助けたまえ、主の天使たちよ、彼を迎えたまえ、
彼の霊を迎えいれ、至高なる神の御前へさしだしたまえ!
おお、主よ、永遠の安息を彼にあたえたまえ、永久に御光を彼の上に輝かせたまえ。 彼の霊を……おお、主よ、こいねがわくは、汝が僕ファン・マリア・エチェガライの霊に慈悲をたれたまえ。
われら、賞賛の祈りをささげてそれを願いたてまつる。
これら聖なる謝恩の供物により、永遠の安息を得るに足るべしとみそなわせられんことを、
われらおそれかしこみ願いたてまつる。われらの主によりて」 とうぜん受くべきあらゆる祈りと儀式を、あらゆる敬虔な身ごなしを、
聖なる水、鈴、書、ろうそくを、香と十字架のしるしを受けて、
かつて人間の霊魂を容れていた、密封され、錘りをつけられた遺体は、放たれ、
じょじょに下へ傾けられ、前方へすべるにつれて船腹にぶつからぬよう決定的なひと押しをくわえられて、
まっすぐに落下し、水面をたたいたと思うとたちまち、船がほとんどその場をはなれきらないうちにすでにゆっくりと沈んでいった。 「神よ、彼の霊を受け入れたまえ」とフラウ・シュミットは小声でいった。
若いキューバ人たちも、シューマン医師も、フラウ・リッタースドルフでさえ十字を切った。
遺体は、水中にかなり深く沈んでいたが、長い斜光をうけて、なお彼らの目に見えていた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 108ページより
リックとラックは、ふだんよりも一そう猛々しく髪をふりみだして、手すりへのぼり、木の枝へでも乗るようにその上にまたがり、
口をあけ、目をするどく血走らせて、よく見んものと危険なほど体をのりだしていた。
だれも彼らに注意をはらわなかった。
通りかかった船員さえおりろと命令するだけの労もとらなかった。 リックとラックは、なおも手すりにまたがりながら、頭と腕を狂ったようにひろびろとした海に向けてふり、
甲高い金切声をはりあげておなじ単語をくりかえしはじめた。
「くじらだ、くじらだ、くじらだ、くじらだ!」
と彼らは陶然と酔いしれて金切声をあげた。 いあわせたすべての人はしぶしぶ一瞥をむけざるをえなかったのだが、なるほどくじらが通っていた。
見物などしては不謹慎だ、穏当を欠く、とだれもが一様に考えた。
しかしそのさいしょの一瞥のあとでは、みんなが愉しげに目をこらして見つめた。 遠すぎるという程ではなくて、眺めるのにちょうど頃合のあたりを、三匹の巨大なくじらがほとんど水面から浮きあがるようにして泳いでいた。
陽光をあびて白銀色にきらめき、高々と白い噴水をあげつつ、高速モーターのように力づよく、ぐいぐいと、進路を南にとってつきすすんでいた――
だれひとりこの美しい光景から目をはなすことができなかった。 「くじらだ!」とリックとラックは金切声をあげ、とまり木の上でのびあがったひょうしに、
平衡をうしない、ほとんど船外に転落しかけた。
ふらふらと平衡をとり、ゆらぎ、立ちなおり、傷ひとつおわずに甲板へころげおちた。 十人あまりの人が近くにいたにもかかわらず、ひとりとして彼らに救助の手をのばさなかった。だれひとり動かなかった。
彼らはみなリックとラックの危難をかならずしも無関心にではなく、それよりおそらくすこしばかり積極的な目で眺めていた。
彼らが船外に転落しても、それは不可解ではあるが災害とはいえぬ自然法則の気まぐれとして、いとも平静にうけいれられたであろう。 リックとラックにとって船の外こそもっともふさわしい場所だ、それも深いところであればあるほどのぞましい、
他のすべての人に共鳴して、はらの底でそう思わない者はいなかった。
幼児にたいするより高邁な、よりふさわしい感情の欠如を非難されたら、彼らのだれもが憤然としたであろう。
リックとラックは、形こそ幼児だが、人類の埒外にあるのだから。
明らかにその埒外にあるのだ。 そしてかなり長いこのひととき、彼ら自身そのことを十分に承知していたのだ。
それは彼らがえらびとった位置であり、彼らはたんにそれをもちこたえる以上のことをなしえたのだ。 こうして彼らは平衡をとりもどし、猿のように確実に、しなやかにぶらさがり、叫び、金切声をあげて愉しんだのだ。
自分たちが殺した男――うれしいことに、車いすに乗った気違いの老人からそういわれたのだ――の葬式を愉しみ、くじらを愉しんだのだ。
すばらしい一日である。
ただひとつ、くじらの背に乗れなかったことだけが不満だった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 113ページより
アルネ・ハンセンがうなだれ、両手で頭をかかえ、ビールには手もつけずに、三脚ほど先のしょうぎに腰かけていた。
その彼がこんどはデニーのうほうへすさまじい絶望しきった顔を向け、病気の熊のような低い、しめっぽい、うなるような声でしゃべりはじめた。 「神なんてものがあるとしたら、おれはそいつをのろいたい」と彼はいった。
「そいつの顔につばを吐きかけてやりたい。そいつをそいつ自身の地獄へ叩きこんでやりたい。
ああ、宗教の何たるけがらわしさだ!
あの下の三等船室の連中。
あいつらは坊主にぺこぺこ頭をさげ、金をやり、ひぜんかきの犬みたいにみんなから足蹴にされて生きている。
それでやつらが何を得たというんだ。
いじくるじゅずと、口にパンの切れっぱし、それだけじゃないか!……」
彼は脳天の髪をひっぱり、それをひねった。 デニーはいまの話は自分にむかっていわれたのだと判断して、当惑したばかりでなく衝撃をうけた。
「まあ、気楽にいきましょうや」と彼はいった。
本気でいっているのではないということが人にもわかってもらえる範囲内でなら、
好きなようにののしり、毒づいてもかまわないのだ、とばくぜんと感じたからである。
宗教を冗談の種にしたって、いっこうにかまわない。
何ものにもこっけいな側面はあるものだ。
笑いとばしてしまわなければ気が狂いそうなことがこの世にはいっぱいある。 しかし、笑いとばすからといって、『何か』を信じていないということにはならない。
自分も大きくなるまでは、『長いほおひげを生やしたあちらの老人』、
けっきょくほとんどすべての人を地獄に送りこむほんものの火食いが死ぬほどこわかったものだ。 もちろん天国はある。
しかし天国へ昇った人のうわさをデニーは一ぺんも聞いたことがなかった。
すくなくとも彼が小さいときはいなかったし、また彼の町からは一人も天国へ行かなかったのだ。 柄も年齢も彼の二倍大きいいじめっ子の従兄から、ある日、手をつかまれ、火をつけたマッチで手のひらをあぶられたことがある。
とびあがり、悲鳴をあげ、火傷したところをなめているデニーにむかって、その従兄はいったものだ。
「なに、君の行くてに何が待ちかまえているか、おしえてやりたいと思っただけじゃないか。じきに君は死んで地獄に行くんだからね!」
デニーはどなり返した。「君だって地獄へ行くんだぞ!」
しかしそうしてみても、大して気は晴れなかったものだ。 この地獄の問題でどんなに長いあいだ心配したか、いま思い出してみるとばかみたいな気がする。
しかしもう大丈夫だ。もう卒業した。
いまでは宗教はいちばん小さな悩みといっていいほどだ。 ところが、それにもかかわらず、おかしいことに、彼は無神論者というやつにはがまんならないのだ。
この男は、話の様子ではどうも無神論者くさい。
それにまた冗談をいっているわけでもないらしい。 レーヴェンタールが悲しげな顔をして、横向きにカウンターのほうへやってきて、
いまだに言葉をかわしあえる仲と彼が考えている数少ない人びとの一人であるデニーにむかって会釈した。
「胸のむかつきがまだおさまらないんですよ」と彼はいった。
「袋の中に縫いこまれて、犬みたいに船の外へほうり出されるなんてね……」 「でも、ほかにどうしようもないんじゃないですか?」とデニーは筋のとおった返事をした。
「いやあ、箱に氷づめにして、陸へ着くまで保存することだってできるはずですよ」とレーヴェンタールはいった。「人間らしく葬ってやることが」 「そうはいかんでしょう」とデニーはいった。
「金がかかりすぎますからね。それに、慣習できまっているんですよ……船で死んだら、水葬にするということに。そうじゃないですか?」
「行ったり来たり、今まで何べんも往復しましたが、これまで今日のようなことは見たことがありませんね。異教徒の風習なんでしょうな」
「そういえば、そうですね」とデニーはしぶしぶ同意した。
「あの連中はカトリックだから。しかし、気にすることはないじゃないですか」 「気にしてるわけじゃないが」とレーヴェンタールはいった。
「同じキリスト教徒のくせに死者にたいしてあんなあしらいをするのはどうかと思う、わたしはそういいたいんですよ――」 デニーが考えこむ番だった。彼はまずい立場にいた。
一方にボルシェヴィキみたいな言辞を弄する無神論者がいる。
そして反対側にはキリスト教徒を批判するユダヤ人がひかえている……つまりカトリック教徒を。
自分は無神論者もカトリック教徒もきらいである。
またキリスト教徒を攻撃するユダヤ人というのも気にくわない。 レーヴェンタールにむかって「あんただって異教徒じゃないか」といったら、どううけとるんだろうか。
ユダヤ人迫害だとすぐさまくってかかるだろう……デニーは頭のつかれを感じはじめた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 118ページより
レーヴェンタールは、不快な事態――彼にとって少しも目新しいことではないが――にもかかわらず、
いぜんとして、やってくる人があれば、ほとんど相手をよりごのみなどせずに、雑談につきあおうという気を十分もちあわせていた。 ただし、相手が宗教を話題にしないことをぜったいの条件としていた――宗教といっても、彼の宗教を、という意味である。
なぜなら彼は他のいかなる宗教の存在も認めていないからである。 彼にとって、自分の宗教いがいのものはどれも邪神につきしたがう異教徒にすぎなかった。
それらが何教と名乗っていようと、そんなことは彼は問題にしていなかった。 世界にはほぼ二十億の人間がいる、思うにそれはすべて同一の神によってつくられたのである。
ユダヤ人はたかだか二千万にすぎない、何を思って神がことさらに不当な偏愛を示したりするであろうか、と一度ならず異教徒からつめよられたことがある。
そうしたたわごとをいわれても、レーヴェンタールは一瞬もあわてたりしなかった。
「その問題については何も申しあげることがありません」と彼は答えたものだ。
「議論なら、律法博士とやってください。神のことならすべて心得ているという彼の言をわたしは信じています」 しかし、御名をたんに発音するだけで、異教徒の言葉でそれを発音するときでさえ、
あるいはぜったいに口してはならぬ御名の代わりとなる名前をいうだけでも、彼は不安をおぼえるのだ。
いつも彼はそうできるときは話題をかえ、それができないときは立ち去るのだ。 異教徒が彼を何と思おうと、彼らが彼に好意をもとうともつまいと、彼にとって問題ではなかった。
彼は彼らに好感をもっていなかった。
だからさいしょからひと跳び彼らに先行していたのだ。 彼らから好意を示してもらいたいなどと望んでいなかった――
彼らから得たいと思うものは自分で、だれにも感謝しないで、つかみとればいい。
この世で彼が望んでいるのは自分自身である権利、
好きなところへ行き、『彼ら』の干渉をうけずにやりたいことをする権利、それだけだ――
いったい『彼ら』に何の権利があるというのだ…… ここで少し上巻に巻き戻す
>>132-135から繋がる話 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 249ページより
「あぶらむし(ラ・クカラーチャ)」を合唱する耳ざわりな声が夕方の空気を破った。
流れるような白いドレスを着て、グリーンのサンダルを履いた伯爵夫人(ラ・コンデサ)が
醜怪な延臣たちに囲まれて悠然と広間から姿をあらわし、医師に向って指をそよがせ、嫣然と笑いかけ、スカートをなびかせて足早に遠ざかった。 ルンバの拍子をとりながら、
たくしあげたスカートのようなだぶだぶの、紫色の、ツイードのオックスフォード型ズボンをはいた、筋ばった学生の一人は、
伯爵夫人に聞こえないように後についてよたよた歩きながら、彼女の、消えいりそうな、嘆きの口調を真似た。
「ああ、若さ、美しさ若さ、それを彼女はいささかももちあわせていないのです。御静聴感謝します」 シューマン医師は学生たちを見つめた――
優雅な伯爵夫人(ラ・コンデサ)の身ぶりをまねた、彼らの痙攣的な歩き方を、猿のようなしかめ面を、不遜な、手をそよがせるしぐさを、
自分を、また周囲のすべてをあれほど鋭く意識しているかに見える彼女が、どうしてあれほどのずうずうしさを少しでも見逃しておくのであろうか。 >>572
×手をそよがせるしぐさを、
〇手をそよがせるしぐさを。 愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 310ページより
自分の部屋まで数歩の、廊下の角を曲ろうとしたとき、彼は、二人のキューバ人学生とあやうく衝突しそうになった。
一人は葡萄酒を一本たずさえ、別の一人はチェス盤をもっていた。
二人はお辞儀して、壁ぎわに立ち、彼のために道をあけた。 しかし彼もまた立ちどまり、儀礼にたいする顧慮を少しも示さずに、とつぜん彼らに浴びせかけた。
「諸君、君たちの奥さんにたいする思いやりのなさに、わたしはたびたびあきれかえっているのだ。
わたしは、今ここで、君たちが彼女の世話をやくことをすぐにやめるようにと申し渡したい。
奥さんはわたしの患者である。
わたしは夜間の訪問をいっさい禁止する。
そして昼も、わたしがとくに許可しないかぎり、訪ねないでもらいたい。お気の毒だが」
と彼は、にがい満足をたっぷりと味わいながら、いった。 二人は、真情をみなぎらせて礼儀正しく、またお辞儀をした――正しい礼儀の軽々しいもじり、と医師は思ったのだが――
そしてその一人は「もちろん、先生のおっしゃることはよくわかりました」といった。
もう一人は「ああ、すっかり」といった。
二人は、彼の前で踵をかえし、ずんずん歩いて彼をひき離し、あっという間に姿を消してしまった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 126ページより
キューバ人学生たちは、伯爵夫人との交際を彼女の嫉妬ぶかい愛人である医師によって断たれ、
だれひとり闖入する者のない彼らの秘密結社や、彼ら自身いがいのだれも読まない新聞にも厭きて、
チェスのトーナメントやピンポンに無聊をまぎらわしていた。 しかし彼らの符牒や儀式に参入した者でなければ魅惑的で玄妙な秘儀を読解できないのだという建前をあいかわらずまもりつづけていた。
じっさいはだれも彼らを問題にしていないことに、彼らのために痛痒を感じている人間は一人もいないことに、彼らはしだいに気づきはじめていた。 彼らは直接攻撃をくわえることに決めた。
軽喜歌劇団の連中がたんに彼らのえじきを皮肉な目で見つめ、
せせら笑うだけ――それが怒りや羞恥の紅潮という反応をひきおこすことに失敗したためしは一ぺんもないが――であるのに反して、
学生たちはより精妙で致命的と信じる方法を考えだした。 彼らはしかつめらしく相談しあい、それから目ざすえもののほうをふりむいて
臨床医のように冷静な目で見つめ、相手に聞こえるようにいいあう。
「重症と思うか?」
「絶望だね」とべつの一人がいう。
彼らは首をふり、ふたたび彼らの患者に射るような視線をむけ、そしてチェスをつづけるのだ。 甲板で、通りすがりに、彼らは批判的な医学的見解をかわしあう。
「慢性骨皮症」と彼らはリッツィについて診断をくだし、
彼女がそくざにおびえの表情をうかべるのを見てほくそ笑んだ。
「絶望的」 「先天性肉だんご症(アルボンデイギテイス)」と彼らは、
皮ひもをつけられてよたよた歩いているベベと一しょにフッテン夫妻が重い足どりで近づいていたとき、大声でいいあった。
「絶望!」 フッテン教授は妻が聞いたかどうかたしかめるためにすばやく見た。
もちろん彼女は聞いていた。
そして彼女の感情はふたたび傷つけられていた。 教授は自分がこれらの兇暴な若者たちにたいする非難と、
彼らがわけのわからぬおしゃべりの中でニーチェやショーペンハウアーやカントなどの高貴な、尊い名前をやりとりするの聞いたときのおどろきと
さいしょから表明していたことを思いおこした。
彼らは、あのとき、ゲーテの名までみだりに口にしていたように思うが、あれは聞き違いだろうか。 彼らは、比較的おちついているときでさえ、不まじめな顔をしている。
彼らはおそれげもなくニーチェの名を口にしながら猿のようにしゃべっていた。
疑いもなく彼らの下劣な満足のために彼を誤解し、彼の名誉を傷つけていたのだ。 偉大なものに接するときの不敬、謙虚さの欠如――
これは非北欧人種すべての、とくにイベリア人、ラテン人、ゴール人の欠陥である。
じっさい、軽佻浮薄は彼らのあいだにみられる風土病である。
彼らはこの悪疫を新世界の全土にはこびもたらし、そのためまことにおどろくほど知的謹厳を欠いた世界となったのだ。
もし古きゲルマン精神が生きのびる望みがいささかなりとも残っていないとするなら、
もはや人類の未来は絶望的であると感じざるをえないと教授は思った。 彼は妻をなぐさめようとした。
「彼らに耳をかしなさんな。彼らは生まれつき愚鈍な無頓漢にすぎないのだ。愚鈍はつねに悪である。悪をしか招来しないものだ」
この言葉は彼をとまどわせた。
こころの中のこだま――どこから反響しているのであろうか?――のように聞こえた。
いかにふかく罪のなかに沈淪している人間であれ、それを済度できないことはない、とたしか自分は信じているはずではなかったのか?
いったいこれはどうしたことであろう。
このような思いがけない視点が啓示された真理のように動かしがたいものとして頭にうかんできた理由を、彼はおしはかることができなかった。 「でも、わたしは聞きました」とフラウ・フッテンはむずがる幼児のようにいった。
「彼らはわたしたちを肉だんご(ミート・ボール)と呼びました」 「じっさいは」と教授はきっぱりといった。
「彼らは、下等な医学書生の変則ラテン語で、われわれが先天性ミートボリティスの絶望的症例であるといったのだ――
それはつまり、あんたも知っているとおり、炎症をおこしているという意味だ。
不快なことでも聞かずにはいられないというのなら、せめて正確に聴きとりなさい。
とにかく、ああいうおどけで気をわるくする必要はないのだ」 「わたしもあの人たちはおどけていたのだと思います」とフラウ・フッテンはおとなしく同意した。
「でも、わたしはぜったいあの人たちをあざけったりなどいたしませんわ。それなのにどうしてわたしたちがあざけられるのでしょう?」
教授としては一言なかるべからざる論題だった。 あの一団のキューバ人学生は高尚なことを理解しえないのに能力以上の教育をあてがわれている。
生まれながらにして劣等な精神のなげかわしい例である。
とうぜんのことながら彼らはその教育を善用することができず、
自分たちよりすぐれたものすべてを猿のような手で自分たちの水準までひきずりおろすことを余儀なくされているのだ。 「彼らは、ミケランジェロの『モーセ』につばをはきかければ、
それでそれが自分たちとおなじように下劣なものだということを証明しうるのだと考えているのだ」
と彼はとくいげにいった。
「それは彼らの大きなあやまりなのだ」と彼は彼女をなぐさめるようにいった。「いずれ痛い目にあって思いしるだろうが」 フラウ・フッテンは夫のこの見解の変化――いまやそれは彼女自身の考えと完全に一致するのだ――にたいするおどろきをかくし、
ひとときうやうやしく間をおいて、賛意を沈黙によってしめしたのち、気がかりになっていることを語った。 「あの人たちはまた新聞のようなものを出しているようですわ」と彼女は彼に告げた。
「スペイン舞踏団の人たちのために出しているようなんです。舞踏団の人たちがみんなで印刷したものを読んで笑っているのを見かけましたの」
フッテン教授の思考の流れは中断されなかった。
「われわれに関係はない、それはたしかだ」 「これまでどおり彼らの存在を無視すればよいのだ。
われわれの威厳のさわりとなる程度に達するならば、そのときは――報復をくわえてやる。
気にやむことはない。われわれはいうことをきかぬ人間をいままでもあつかってきたじゃないか」
フラウ・フッテンはベベの耳を愛撫し、夫に微笑みかけた。
「もちろんですわ」と彼女はいった。 彼女は将来を思いやり、夫がすでに生徒たちや講義室と別れたことを淋しく思いはじめているのだと考えないわけにいかなかった。
新しい一連の講義が彼の頭に形づくられつつあることは明らかだった。
彼女はその口述筆記を申し出ようと決心し、
また黒い森地方で彼を特別採用してくれるような教育施設を見つける可能性や、あるいはまた新聞、哲学雑誌への掲載の可能性について考えはじめた。
またもしかしたら、彼が論文や本にかこまれた書斎の生活にもどり、彼女が家事に追われるようになれば、
彼が自分で講義を書き、彼女にひとときの安息を与えてくれるかもしれない。 フラウ・フッテンはさいごに思想というものに死ぬほどいやけがさしていることを自分自身にむかって認めた。
もう二度と思想だ、観念だということを聞かされなかったら、彼女は心から幸福だろう。
彼女はベベを愛撫し、夫に微笑みをむけつづけた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 132ページより
告知版は不安をよぶ好奇の対象となっていた。
はでな活字の印刷文がいくつかれいれいしくはり出されたのだ。
それらはべつべつに印刷され、画びょうでぴったりとめられていた。 『胃病やみは船長謝恩パーティのチケットを買う余裕がない。
バーの勘定を払いきれるかとすでに心配しているからである。
それでも彼は腰をすえてブランデーを次々にあおっている。彼の潰瘍万歳!』
「何という不謹慎な!」とフラウ・バウムガルトナーは夫の腕をひしと抱きしめて叫んだ。
「あなた、気にしないで!」夫の顔にうかんだ悲しみの表情がいたましく思われたからだ。
彼は雄々しくも彼女に笑顔をむけ、一しょに歩きながら鼻をかみ、涙をぬぐった。 レーヴェンタールは読んだ。
『ユダヤ人が人間の仲間入りをゆるされたら、その機会を活用するがよい。二度とそういう機会はないかもしれないのだから』
彼は余白に濃いえんぴつで注意ぶかく書きいれた。
『いかなる人間を指すか?』そして彼は大いに満足して散歩をつづけた。 リーバーとリッツィはあのスペイン人たちがほかの人びとを攻撃するために掲示したこっけいな文章を読んで
一ぺん笑うために歩みをとめ、そして次の文に目をとめた。
『もし桃色の豚がビールをがぶ飲みすることや、雌くじゃくに色目をつかうことをやめるならば、
この航海における社交生活のもっと気のきいた一項となれるかもしれない。』
その次に赤いクレヨンで次の言葉がなぐり書きされていた。
『起て、スペイン! 奮起せよ、あぶらむし! 無関心なる者たちに死を!』 「でも、それとわたしたちと何の関係があって?」とリッツィは怒りにふるえていった。
「彼らの野蛮な政治とわたしたちと何のかかわりがあるというの?」 シューマン医師は例によって十一時半の黒ビールを楽しむためにバーへはいった。
キューバ人学生の一人が新しい掲示を告知版にとめていて、そばに小柄なコンチャが立ってそれを眺めていた。
医師は立ちどまり、眼鏡をかけて読んだ。 『ガラスの宝石とガラス玉の真珠をつけたにせの伯爵夫人は
ダンスが大好きだが、費用を負担するのはきらいだ――典型的な無政府主義者の態度である。
彼女の献身的な医師は麻薬から船長謝恩パーティのチケットへ処方をあらためるべきではなかろうか。』
シューマン医師は目をぱちくりさせ、ほこりが目に吹きこんだかものように顔をしかめた。 彼はその紙きれをひきはがし、親指と人さし指でつまんで
舞踏団の者たちがコーヒーを飲んでいる隅のテーブルへもっていった。
「わしにいわせれば」
と彼は殺人狂であるかもしれない患者を相手にするときのように用心ぶかく毅然としていった。
「君らのばかげた茶番もこれでは少少度がすぎるというものだ。
やり方を、またできるものなら作法を、すくなくともこの航海のあいだあらためたらどうかね」 彼は掲示を細く長くひきさいてテーブルにおきながら、半円をえがいてすわり、
彼にひややかな凝視をそそいでいる彼らの顔を見つめ、自分が人間のものではない目に見いっているような印象をうけた。 洞穴の中からのぞいている獣、襲撃の身がまえをしながら血の臭いをもとめてジャングルを徘徊する猛々しい獣の目なのだ。
彼がかつてリックとラックの目にそれを認めてろうばいをおぼえたのとおなじ表情がやどっていた。
ただそれより一そう老獪で、より強烈な自覚とかまえをひらめかせていた。 彼らのだれも口をきかなかった。
そして彼らは潜伏する山ねこのように身じろぎせずに彼を見つめることによって、彼の目を伏せさせることに成功した。
知らず知らず彼は目をしばたき、そらしていた。
彼はきびしい口調でいった。
「こうしたたわけたことはやめたまえ」
背筋の凍るような爆笑が甲板へ立ち去る彼のうしろからおそった。 グロッケンは医薬を必要としていたばかりでなく、魂がめちゃくちゃに痛めつけられていた。
ローラの襲撃をうけていたのだ。
「この手に銀貨をのっけてみなさいよ、小人さん」と彼女はいった。
「そうすりゃきっときれいなレースの扇があたるチケットをあげるから。かわいいドイツの恋人のおみやげになるじゃないの?」 グロッケンは身ぶるいした。
苦痛と恐怖のために顔が痙攣するのおさえることができなかった。
彼は顔をそむけて、目をつぶった。
彼女はしんけんに彼のほうへ体をかがませ、むごくも彼のこぶを指でするどく突いた。
「幸運のおまじないをさせてもらったよ。それしか役に立たないんだよ、おまえさんは!」 翌朝、バーの壁板にまた紙きれがはり出された。
『あらゆる種類の堕落の象徴である背むしは、ふつうの人間のよおうに振舞わなくてもよい。』
ほかのえじきに向けられた掲示のいくつかを見ていともうれしそうににたにたしているところを人目にさらしてきたグロッケンは、
すばやく周囲に目をはしらせたのち、そのそまつな紙きれをむしりとり、もみくしゃにしてポケットへつっこみ、なにいくわぬ顔で歩きだした。 ほそいすねが彼を、屈辱を目撃した者のいない甲板へ無事にはこんだ。
乗客たちは例外なく彼を大事にあつかい、朝夕のあいさつをする労をいとわなかった。 彼らは彼の姿を認めても彼について何かを考えるわけではなく、彼がとおりすぎればその瞬間に、
自分たちはおちいる心配がないと感じている不幸を眺める者のくったくのない無関心な態度で彼のことを忘れてしまうのだ。
彼らにとって彼は憎む必要もおそれる必要もない存在だった。
彼の病気は伝染性のものではない。
彼の不運はもっぱら彼ひとりのものである。 「でも、お気のどくなことですわね」
と小柄なフラウ・シュミットはフラウ・リッタースドルフに話しかけた。
「あの方を見ると、わたしなぞほんと仕合わせだと思いますわ!」 フラウ・リッタースドルフは赤革表紙のノートにそそくさと書きこんだ。
「あえて問う。
不具の子供すべてにたいし、誕生のさいに、もしくは社会の不適格者たることが明らかになりしだい、
安楽死の恵みをあたえるべきことを規定せる法律が施行されるならば、人類は恩恵に浴するのではなかろうか。
しんけんに考慮し、これを支持する論をすべて読む必要あり。
きわめて妥当と思われるこの見解に異をとなえし者ありとはいまだかつて聞かざるなり」
彼女はノートを閉じた。
余白はもうほんの数ページしかのこっていなかった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 142ページより
キューバ人学生たちは頸にカメラをぶらさげ、ブリキのラッパを吹きならしてねりあるき、
「起て、スペイン――反あぶらむし派に死を!(アリバ、エスパーニャ――ムエーラン・ロス・アンテイクカラーチエロス!)」
とわめいていたが、やがてまったくとうとつにそれをやめて、バーのすみでチェスをやりはじめた。 告知版からは陸の人間たちの場ちがいな所業が一掃され、
かんけつな、まばらにはり出された掲示が、その前をとおる人びとに陸地がすでに見えたことを告げていた――
ヴェラ号は東へ航行する船にとってはカナリア群島中のさいしょの島であるサンタ・クルス・デ・テネリフェへ近づきつつあるということを。 ほかにも、いやいやおしえてやるのだという調子のみじかい情報が、
自分たちの所在も海上用語も知らない人びとにもわかるような言いまわしでつぎつぎに出されていた。
明日明朝、入港の見込みである。
同日、希望者全員上陸。出港予定は四時半。 明日は九月九日、水曜日、満月の二日前である。
フラウ・シュミットは書きもの室のひとつでカレンダーを見てそういい、
軽率にもミセズ・トレッドウェルにむかって話しかけた。
「上弦は二日の水曜日。あれはエチェガライが水死した晩でしたね」
ミセズ・トレッドウェルはテーブルのまえに立ってファッション雑誌のページをくりながら、顔もあげずにぼんやりとつぶやいた。
「ずいぶん昔のことのように思われますわ」 グロッケンはドイツ語で「鐘」のこと
映画版の愚者の船では冒頭と終わりに観客に向って話しかける第四の壁を認識できる登場人物
最初と最後を担当するキャラクターってことだな
映画の話だけどね >>611
×痙攣するのおさえることが
〇痙攣するのをおさえることが 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第二部 143ページより
例によって船内偵察中のリックとラックは、人気のない長い廊下の端で、
ローラとアンパロがいつも話題にしているネックレースをつけたあの気違い女の姿を認めた。 彼女は素足で、全身を白のうすものでつつんでいた。
なかば目を閉じ、ゆっくり歩いていた。
リックはおぼえたふりをして「幽霊だ!」といった。
彼はラックと目くばせをかわし、おたがいに相手の手をとり、爪を食いこませて、どんないたずらができるかと様子をうかがった。 ゆっくりと、くねるような足どりで伯爵夫人が近づいてくるにつれて、
二人は同時に、彼女の真珠のネックレースがひとりでにはずれ、胸をすべりおち、
腰帯のひだにひっかかり、そこから長さいっぱいにぶらさがり、彼女の歩みとともに前後にかるくゆれているのを認めた。 彼女はすぐそばまで来てようやく二人に気づき、うわのそらで手をあげて輪をえがき、どけと合図した。
二人は後へさがることも片側へよけることもしないで、乱暴に彼女をおしのけてそばを駆けぬけた。
そしてより近くにいたリックは出合いがしらネックレースをひったくり、
二人でよろけるように甲板へむかって走りながら、それをシャツの中におしこんだ。 とおりぎわに彼らからはげしく突きとばされた伯爵夫人はのどに手をやり、真珠がぬすまれたのにすぐ気づいた。
彼女はくるりと向きを変えて、彼らのあとを追って走ったが、やがて船のゆれが彼女をひざまずかせた。
彼女はスチュアデスが彼女を見つけ出すまで、両手でのどをおさえながらその場にぺったりすわりこんでいた。 スチュアデスは彼女をふたたびベッドに寝かしつけながら、必死の勇気をふりしぼった者のけわしい口調でいった。
「奥さま(マイネ・ダーメ)、そうできるものなら、もうこれいじょうお世話いたしたくございません。
ご自分のお身体にさわりがあるばかりでなく、わたしまで叱られてしまいますわ」 伯爵夫人はいった。
「勝手におし、でもそのまえに事務長を呼んでちょうだい。あの子供たちに真珠をぬすまれたから」
「どこで? いつでございます?」
「たったいま、廊下を歩いているときよ」 「奥さま(マイネ・ダーメ)、失礼でございますが、今日は真珠をつけておいでになりませんでしたわ、早朝からずっと。
数分のあいだ席をはずすおゆるしをおねがいしたときに、それに気づいて、めずらしいことだと思いましたもの。
真珠はつけていらっしゃらなかったんですよ、奥さま。
この部屋にございますよ。見つかりますわ、きっと」
伯爵夫人はいった。
「わたしはね、いつもばか者を相手にしなければならないのを、生涯のわざわいと思っているのよ。
さあ、事務長を連れてきなさい。あんたの意見は、わたしがそれを求めたときにしてちょうだい」 エルザは、両親と一しょに散歩していて、リックとラックとほとんど衝突した。
二人はいつもいじょうに何かから逃げているような、あるいは何かを追いかけているような様子をしていた。
彼らのほうもルッツ一家をさけようとしたのだが、完全に身をかわすことはできなかった。 リックがミセズ・ルッツの左ひじにつきあたり、それが全身に震いをひきおこすあの不思議な神経を刺戟した。
ミセズ・ルッツはそくざに彼の腕をつかんだ。
若いものに躾けをたたきこもうとする彼女の母性的本能がいっせいに頭をもたげた。
「あんたにはお行儀をおしえてあげる人が必要だ」
と彼女はドイツ語なまりのメキシコふうスペイン語でいった。 「手はじめに、わたしがおしえてあげよう」
彼女は思いきり彼に平手打ちをくらわせた。
彼があまりにはげしくあばれたために、シャツの下からネックレースが落ちた。
ラックはとりもどすために跳んでいき、それをだらりと垂らして両手でひろいあげた。 ルッツは彼女をとりおさえようとした。
しかし彼女は逃れ、手すりへ駆けよってよじのぼり、真珠を海へほうった。
ミセズ・ルッツはリックを解放した。
リックは手すりでラックと一しょになった。 フラウ・シュミットは、甲板のやや下手のさわがしい情景に気づいたが、双子の姿を認めると、何事かしらと自分に問いかけてもみなかった。
彼らのいるところにもめごとが、混乱が、悪事がつきまとうのだ。
よくわからぬが、おそらくそれは神さまの御心に、神さまの偉大にして神秘なる計画に関係があるのであろう。
でも、あの子たちがいま海に投げたのはいったい何かしら。 スチュアデスは事務長へ伯爵夫人のところへ来てくれるようたのんだ。
事務長は出かけていき、彼女の話に耳をかたむけ、麻薬の影響がしゃべり方や態度にあらわれているのに気づき、
すべては彼女の夢であると判断し、医師を呼びにやった。
シューマン医師は彼女の言葉を信じ、事務長にむかって自分は彼女の気質を理解している、彼女の幻想はこのような形はとらないと説明した。
彼はこの窃盗事件を船長に報告したらどうかと事務長に助言し、船長はかならずや捜査を命じるだろうといった。 シューマン医師は伯爵夫人にたずねた。
「たしかですね? あの子供たちなのですね――?」
「あなたまで事務長みたいなことおっしゃるのね! 何てことおききになるんです」
「あなたはいつもこういうふうに起きだして、おひとりで歩きまわっていられるのですか?」
「スチュアデスがいないときはいつでも」 「真珠がみつからなかったら」と彼は心配そうにたずねた。「どうします?」
「まだエメラルドがありますし」と彼女はいった。
「ほかにもいくつか小さいものをもっていますから」 「伯爵夫人のお医者だ」とルッツはいった。
「彼女が真珠をなくさなかったかどうか彼にきいてみよう」
フラウ・ルッツはいった。
「やっかいな目にあうだけですよ。無分別ったらありゃしない! あれがどうして真珠だとわかります? ガラス玉かもしれないじゃありませんか」
ルッツはいった。
「止金にダイヤモンドがはめこまれていた。あの子はシャツの中にかくしていたんだろうね?」
「ダイヤモンドだということがどうしてわかります?
あの子がかくすとすればシャツの中にきまってるじゃありませんか」 ルッツはふかく息を吸い、とほうもないため息をついてそれをはき出した。
「あんたはここにいなさい。先生に話してくるから」
彼はまっすぐにシューマン医師のほうへ歩みより、彼のまえに立ちふさがり、ひと息いれて、かんたんに二言、三言しゃべった。
シューマン医師はいとも重々しくうなずき、歩み去った。 軽喜歌劇団の四つの特別室がてってい的にひっくり返された。
事務長はローラとチトーを呼びにやった。
しかし舞踏団全員が、捜索の船員たちによって部屋から追いだされていたため、一団となって事務長の執務室にはいった。
チトー、ローラ、リック、ラックをのぞいて、ほかの者たちはそこから追いだされ、外で待つようにいわれた。 事務長は、くだけた態度で、ローラからチトーへ、チトーから双子へ視線をうつしながら、
「こりゃあんたたちの子かい?」とたずねた。
双子はぴったり肩をくっつけてうしろへかくれ、危険におちいった山ねこのような顔をのぞかせていた。
「もちろん、わたしたちの子供ですよ」とローラはいった。「だれの子だと思っていたんです?」 「話を聞きおわらないうちに、よその子だったらいいのにと思うだろうさ」と事務長はいった。
だしぬけに彼はリックとラックにむかってどなった。 「貴婦人のネックレースをぬすんだのは、おまえたちだな?」
「ちがう」と二人はそくざに、声をそろえて、いった。
「あれをどうした?」と事務長はほえるような、きびしい口調をゆるめずに問いただした。
「答えるんだ!」
二人は無言で彼を見つめた。 ローラはリックの項をつかんでゆさぶった。「答えるんだよ、おまえ!」
事務長は彼女の顔が異様に黄色くなり、唇から血の気がひき、いまにも卒倒しそうな様子をしているのに気づいた。 じつのところ、ローラはいままで船員たちが船内を捜索している理由を知らなかったのだ。
仲間と一しょに伯爵夫人からぬすむ計画はたててはいたが、
さいごの瞬間まで待機するつもりでいたのだ、
彼女が下船するときか、その直後に決行するつもりでいたのだ。 それなのに、この餓鬼どもが何もかもめちゃめちゃにしてしまいやがった。
わたしにはもうわかっている、最悪の事態は事実だということが――それが何であろうと、リックとラックがやったんだということが。
ひとに胆をつぶさせたりしやがって、餓鬼どもが。
この太った豚みたいな事務長にあやうく気どられるところだったじゃないか。 「あわてないようにしなくちゃ!」
リックは大へん明瞭に、おちつきはらって、いった。
「何をいってんだか、あんたのいうことはさっぱりわからないよ」
ラックはほかの人たちではなく、リックにむかってうなずいた。 事務長はチトーとローラにいった。
「何も訊かずに、しばらくほっておきなさい。あんたがたに心当りがないというのなら、ほんとうに知らないなら」と彼はあてつけがましくいった。
「話してあげよう」そういって、彼はこの事件について集められた断片的な情報を彼らに語った――
医師が伯爵夫人から聴取したことを、まずルッツが、そのあとでしぶしぶフラウ・ルッツが、それにエルザまでが医師に告げた話の内容を―― そう、ラックがネックレースをもっていて、それを海に捨てたのだ。
ローラとチトーは、それはすべて誤解であろうという信念を、子供たちの無実を証明する証拠があがってほしいものだという願いを、
自分たちでなお子供に問いただし、真相を究明するというかたい約束を、それにくわえておどろきあきれてるという気持をよどみなく表明した。 それを聞きながら、事務長は彼らは演技を、自分をだますほどうまくない演技をやっているにすぎない、と終始、考えていた。
「好きなようにしない」と彼はいい、ひややかに彼らを追いはらった。
「こっちはこっちで調査をつづけるから」 チトーとローラが部屋へもどったとき、船員たちはすっかり元どおりに整理してひきあげていた。
ところが、アンパロにペペ、マノロにコンチャ、パンチョにパストラと、みんながおし黙ったままよりかたまって、待っていた。
彼らは無言のまま立ちあがり、それぞれ双子の片割れを腕のつけ根のあたりをにぎってつかまえている二人をかこんだ。
彼らの吐く熱い息がおたがいの顔をなでた。 「どういうことなんだい?」とアンパロはひくい声でいった。
「あたしたちに関係のあることかい? 学生たちはそういってるけど、だれも何もおしえてくれないんだよ」
「どいておくれよ」とローラはいった。「ほっといておくれな」
彼女はひじでおしのけて部屋へはいり、リックをひざのあいだにしっかりはさみつけて、寝いすの端に腰をおろした。
チトーはそばに立ってラックをつかまえていた。 ローラはいった。「さあ、話すんだ」
彼女は両脚ですっぽり彼の身体をかこみ、両手をつかんで、
指の爪を情け容赦なく、一ぺんにひとつずつ、ひややかに、じりじりと力をくわえ押しはじめた。
たまらず、彼は身体をよじらせ、悲鳴をあげた。
しかし彼女は
「さあ、話すんだよ。いわないと、爪をひんむいてやるから。爪の下に針を刺すよ! 歯をひっこ抜いてしまうよ!」
というだけだった。 ラックはチトーの手の中であばれ、支離滅裂なことを口ばしりはじめた。
しかし彼女は白状しなかった。
ローラはリックの目ぶたを親指と人さし指でまくりはじめた。
そのため彼の悲鳴は苦痛から恐怖へかわった。
彼女はいった。「目玉をむしりとってやる!」 マノロはふだんとちがうひくい、しゃがれた声でいった。
「どんどんやれ、やってやるんだ、やめるんじゃないぞ!」
ほかの者たちもそわそわ身体を動かしながら、それに応じて、
やめるな、つづけろ、口を割らせろ、とてんでに声をかけた。 ついにリックは彼女のひざのあいだで精根つき、
がっくりと顔をのけぞらせて彼女の腕にもたれ、
涙をながし、息をつまらせて、叫んだ。
「骨折りがいのない、ただのガラス玉だっていってたじゃないか。ただのガラス玉だって!」 ローラはただちに彼をひざのあいだから押しだし、
おまけとして彼に平手打ちを見舞い、憤然として立ちあがった。
「この子はばかだ」と彼女はいった。
「養っておく必要はない。ヴィーゴにおまえを捨てていくからね」と彼女は彼にいった。
「餓死するがいい!」 ラックはそれを聞いて金切声をあげ、チトーにつかまえられながらも跳びはね、おどりはねた。
しまいにチトーは彼女の頭と肩にげんこつをたたきつけたが、彼女はそれでも叫んだ。
「あたいも! あたいも捨てていって! あたいも残りたい――ヴィーゴに残りたい――リック、リック」
と彼女はいたちに噛みつかれたうさぎのようにきーきー声をはりあげた。
「リック、リック――」 チトーはラックをはなし、父親のしつけをリックにむけた。
彼はリックの手首をつかみ、腕をじりじりと、いともゆっくりと、肩の関節がほとんど一回転するまで、ねじった。
リックはひざをおり、長いわめき声をあげたが、
それはこのおそろしい折檻がゆるめられたときには仔犬のようなよわよわしい泣声にかわっていた。
寝いすの上に身体をまるめて傷をなでていたラックはリックと一しょにまた泣声をあげた。 やがて、マノロとペペとチトーとパンチョ、それにローラとコンチャとパストラとアンパロは、
いずれも不快なおどろきをかくしきれない表情で、
この困った事のなりゆきの各段階について検討をくわえるために一しょに二人のそばをはなれた。 二言、三言、話しあい、うなずきをかわした彼らは、
バーへ行ってコーヒーを飲み、夕食にもいつものように姿をあらわし、そのあと甲板で練習するのが最上の善後策であると判断した。
だれもがいまにもおたがいののどにとびかかるのではないかと思われるほど興奮していた。
出がけに、ローラはラックの髪をつかみ、彼女が黙るまで、こわくて泣けなくなるまで、たっぷり彼女の頭をゆさぶった。 彼らがいなくなると、リックとラックは上段の寝だなへはいのぼり、避難した。
二人は半裸の身体をそこに横たえた。
洞穴のなかのいじめぬかれた、できそこないの、奇怪な動物のように混乱し、つかれはて、もの思う気力もなく、じきに二人は眠りこんだ。 >>625
×おぼえたふりをして
〇おびえたふりをして 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 166ページより
スペインの舞踏団はいつになくむだ口ひとつたたかずに、目を前方にすえ、かたい、きびしい表情をして、そろって出発した。
いまだにうちのめされた表情のリックとラックは、ふてくされて、のろのろ歩いていた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 188ページより
「このサンタ・クルスで福引きの賞品を買うと彼らはいってましたね、おぼえていますか?」フライタークはデイヴィットにたずねた。
「ところが、やっこさんたち、それを大量にぬすんでいるんですよ――一見する値打ちがありますよ、まったく!」 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 192ページより
グロッケンは、何となく見すぼらしい服をひきたててくれるような服飾品がほしいと思いながら、
男性舞踏手専用のひろい、深紅の腰帯や、ほれぼれするような、白い、ひだをとった胸あてや、
闘牛士用のなまめかしい細襟のシャツをうらやましげにいじくった。
ネクタイは細い、くろいひもみたいで、そうでないのは仮面舞踏会とか仮装のときでもなければ着用できないほどけばけばしいものばかりだった。
彼は自分の好きな真赤な色の美しい絹のスカーフをのどから手が出るほど欲しいと思いながら指でいじり、勇をふるいおこして値段をたずねようとした。
きかなくてもとても手が出せないことはわかっていたのだが、そのとき女主人が不安におびえた顔をしてやさしく彼にはなしかけた。 「中へいらっしゃい――こっちにもっといいものがありますから。値段だって高くないですよ――」
そのとき軽喜歌劇団のあまりにも耳になじんださわがしい話し声が聞こえてきた。
女はせきたてた。
「中へはいってください、おねがいです。彼らの見張りを手伝ってください!」 彼女は襲撃者たちに皮肉な口調であいさつし、
だれでもいいから店へはいって買物をするのは一人だけにして、ほかの人は外で待てと命令した。
彼らは彼女の言葉には耳をかさずに、せまくるしい店の中へどやどやとなだれこみ、
品物をひっぱったり、価格をたずねたり、仲間うちで議論したりしはじめた。 コンチャはかくれようとするグロッケンに気づいた。
「おや、縁起のいい小人さんがいるよ!」
とうれしそうに叫んで、とんでいき、彼のこぶにさわった。
ついでみんながそれぞれ彼のそばへ近づこうとあらそい、混乱に拍車をかけた。
彼らはどこからともなく手をのばしてさわり、平手ではげしく叩き、ついに彼ががまんしきれなくなった。
あわてて彼は彼らの囲みをやぶり、外へ飛び出した。 見張りに立っていたリックとラックがそれを見つけ、自分たちも幸運にあずからんものと金切声をあげて彼を追いかけた。
やみくもにつっ走って、彼は、バウムガルトナー夫妻と、その先のルッツ一家に衝突した。 ミセズ・ルッツはそくざにまた母親たるものの義務に目ざめ、
リックに足ばらいをかけてよつんばいにさせ、ラックの腕をつかんで思いきり平手打ちをくらわせ、グロッケンをきびしくたしなめた。
「どうして自分で身を守らなかったんです? 何を考えてぼやぼやしていたんです?」
グロッケンは大いにくやみ、恥じいって、おとなしく答えた。
「考えが及びませんでした。なにしろすずめばちの群につかまったようなものでしたからね」 スペイン人たちは店いっぱいにちらばっていた。
女主人が彼らすべてを同時に見張ることなどとうていできなかった。
また彼らを追い出すこともできなかった。
彼らが耳をかさないからである。 ローラは、彼女の注意をひきつけておくために、早口に長々と値切り、品物にさんざんケチをつけ、
しまいにレースのふちどりがついた、刺繍した、小さな、紗の切れを硬貨を出して買った。
片隅へおしこめられていた女主人は、みんな出ていけと死にものぐるいで叫んだ。
ローラが金をわたし、女主人がつりを数えているあいだに、彼らはみな潮がひくように通りに出た。
一座の者たちの姿がどれも妙なところでふくらんでいるのが、見物人たちにはありありとわかった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 195ページより
自分を救ってくれたとはいえ、無神経な介入の仕方をして自分に恥をさらさせたフラウ・ルッツに何となく腹を立てていたグロッケンは、
思いきって話を事実にひきもどそうとした。
「彼らは、今日、いたるところでぬすみをはたらいていましたよ。
船でだってしょっちゅうぺてんをやっていたんです――れいの福引きがそれですよ
――あの子供たちは、小さな怪物どもは、伯爵夫人の真珠をぬすんで、海へ捨てましたね――」 「それはまだ証明されたわけじゃない」とルッツはいった。
「はたしてあれがほんものの真珠だったかどうか、わかっていないんです。
それどころか――捨てたものが彼女のネックレースだったのか、それともガラスをつないだしろものだったのかということも――」 フラウ・ルッツは憤然と、ひややかにしゃべりはじめた。
「主人は強度の近眼なんです」と彼女はいった。
「あるいはすくなくとも目がよく見えないのです。
あの子供たちが甲板でわたしたちとぶつかったときのいきさつが、主人にわかるはずがありません…… わたしにはわかっています。
あれは留金にダイヤをはめこんだ真珠のネックレースでした。
それをあの邪悪な子供たちがぬすみ、女の子のほうが海へ投げすてたのです。それだけのことですわ」
と彼女は皮肉をこめていった。
「それだけのことよ。さわぎたてなきゃならないほどのことはぜんぜんないのよ。あんな微罪のことで気をもむなんて、まちがっていますわ――」 こんどはルッツのほうが妻がその場にいないかのように他のひとたちに話しかけて、彼女を非難した。
「なにしろ家内は高潔きわまりない女ですからな、どんなささいな悪事でもすくなくとも絞首刑くらいにはすべきだと考えておるんですわ。 自分いがいの人間の性格については、どんなに小さな欠点も見のがしたことのない女なんです、これは。
外見はどうあろうと、状況証拠をぜったい的な決め手としてはならない、
どんなに軽微な事件のばあいでさえそれに頼ってはならない、といくらいってもわからないんですよ――」 フラウ・ルッツはおくせず、きっぱりといった。
「エルザ! あなたも見たわね、そうでしょう?」
両親から顔をそむけ、ほとんど彼らのやりとりを聞かずに、黙って、もさっとつっ立っていたエルザは、びっくりしてそくざに答えた。
「ええ、ママ」 >>640の会話と言ってることが夫婦逆になってるってことね
真珠のネックレスの止金(留金)にダイヤモンドが見えたって気付いてたのは本当は父親の方なんだよな
でも>>677-679ではそれが入れ替わってる たぶん、夫婦の仲があまりよくないって設定を印象付けるためのシーンだと思うんだよ
父親が「いや、あれはガラス玉だったかもしれませんよ」って母親が言ってた意見をパクった
だから母親も父親の「留金にダイヤモンドが使われていた」って意見をパクって皮肉っった
そして母親が「微罪だから騒がないでいい」って言った直後に、
父親が「家内は小さな悪事でも絞首刑にするべきと考えているんです」と返したところを見ると、そういう解釈で良いと思う 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 219ページより
フライタークは、体を拭き、髭を剃ろうと考えて、部屋へはいった。
ハンセンが、着衣をなかばつけたまま、素足をたらして上段の寝だなに腹ばいになっていた。
「どうされました? 船酔いですか?」 ハンセンの大きな、いらだたしげな顔が、寝だなのへりからつき出された。
「わしが? 船酔い?」
いまにも怒りだしそうなけんまくだった。
「わしは漁船の上で生まれたんだ」
そう自分の身の上をうちあけて、もっともうちあけ話のつもりかどうかわからないが、彼はくるりと仰向けになり、上を見つめた。
「わしは考えているんだ」 フライタークはシャツをぬぎすて、洗面器にお湯を注ぎはじめた。
「わしは考えているんだ」とハンセンはいった。「どこでも人がおたがいを不幸にするためにやらかしていることをあれこれと――」
「お母さんは漁船でどんな仕事をしていたんです?」とフライタークはたずねた。「女人禁制だと思っていましたがね――」
「親父の船だったんだ」とハンセンは陰気にいった。 「いいかね、だれもひとの話に耳をかそうとしない、ここに大きな問題があるんだ。
ばかげた話でないと聞こうとしない。そんな話だと一言も聞きもらすまいとする。
まともなことをいおうとすると、ご冗談でしょうとか、とにかく皆目わからないとか、
うそだとか、信仰に反するとか、ふだん新聞で読んでいる話とちがうといいたがるんだ――」
ここでフライタークは聴くのをやめ、ブラシで石けんの泡を顔にぬることに専念した。 船のゆれにあわせてうまく平衡をとりながら、まっすぐのかみそりでひげをそりはじめた。彼ご自慢のはなれ技である。
だれか見ている者がそれについて何かいったら、彼はきっと自分にいわせればほんとうのひげのそり方はこれしかない、といったであろう。
航海のあいだ一ぺんもハンセンはフライタークのひげのそり方に目をとめていなかった。
ハンセンはでき合いの泡をチューブからしぼり出してなすりつけ、安全かみそりで頬と頤をせかせかとこすり、
ほかにひげのそり方があることにぜんぜん気づいていない様子だった。 次にフライタークがハンセンの声を聞いたとき、彼はいっていた。
「いや、ひとはやろうとしないんだ。たとえばフランスでは――白ぶどう酒も、赤ぶどう酒も、桃色のぶどう酒も、
シャンパンをのぞいてどの酒も――みんなびんには肩がある、ちがうかね?」
「まったくそのとおり」とフライタークはいい、靴下をくるくる巻いて、緑色の糸で洗濯物(ヴエシエ)と刺繍した褐色のリンネル袋へおさめた。 「ところがドイツへ行くと――そうだ、国境を越すか越さないうちに、
ドイツ本土へはいりこまなくたってアルサスまで行っただけで――どうなると思う?
肩のないびんばかりになるんだ、ボウリングのピンみたいなびんに!」 いきりたった彼の語調がフライタークの神経をゆさぶった。
これじゃひとが聴こうとしないのもむりはない、と彼は思いやりをこめて考えた。 「しかし、国境は仮想的なものじゃない。それなりの目的があって存在しているんです。
つまり、あるものを明確にし、理念に形をあたえ、特定の人びとの言語や習慣を表現しているのです……いいですか」
と彼は頭上の片意地なしかめ面をちらりと見あげていった。
「だれもびんの形をめぐって争ったりはしません。そもそもちがった形のびんんをつくらせる心の中のちがいをめぐって争いが生じるのです……」 ハンセンは体をおこしてわめいた。
「そうだ、そこだよ、まさにそれをわしはいおうとしていたのだ。わしがいおうとしていたのはそれだよ」
「ぜんぜん気がつきませんでしたね」とフライタークはかみそりをたたみながらいった。 ハンセンは体をおこし、靴下と靴をはき、寝だなからとびおり、いちばん上の横木にかかっているシャツに手をのばして、いった。
「すべてがゆがんでいる、何もかも――あのスペイン人たちを見てみろ! やつらが淫売でありひもであることはだれでも知っている。
やつらのパーティに出たいなどと思う者は一人もいない――ところが、わしたちはみな金を出し、行こうとしている、羊みたいだ!
やつらはゆすり取り、うそをつき、サンタ・クルスでは島中の人間から見境なしにものをぬすんだ、
それをだれもが見、知っている――それでわれわれは何をしたか。ただ手をこまねいているだけだ」 彼の耳ざわりでたいくつな咆哮はほとんど堪えがたいほどになった。
「おみこしをあげて、一杯やりにいきませんか」とフライタークは打開の方法として提案した。
ハンセンは両手をおろし、首をふった。
「飲みたくない」と彼は五歳の童子のようにわがままに、またそっちょくにいった。 フライタークは外へ足をふみ出しながら深く息をすい、
海の老人〔『アラビヤ夜話』の人物で、シンドバッドの背中に幾日もくっついてはなれなかった老人〕がそこにしがみついているかのように肩をゆすった。 >>696
この前のセリフも無いと分からないな
220ページより↓
「こうしたことが問題なんだ」とハンセンはいった。
「あるところではひとが肩のあるびんをつくることにこだわり、そこから五十フィートとはなれていない、
たんに仮想上のものにすぎぬ線の反対側では
ひととちがうところを見せようというただそれだけの理由のために、肩のないびんをつくっているんだ!」 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 227ページより
リーバーはリッツィを首尾よく、完全にものにするための方法、手段を自分は見つけようとしているのだという考えを、一瞬も捨てていなかった。
「いつのときか、いつの日か、どこかで、どうにかして」と彼は気にいりのはやり歌のリフレーンを頭の中で口ずさんだ。
だが、そりゃだめだ。この船で、今晩やらねばならない、ぜったいに。 ブレーメルハーフェンに足をふみおろせば、もう暇がなくなってしまう。
じっさい、桟橋には使用人が何人か迎えに来るはずだ。
リッツィがブレーメン行きのバスに乗るのを見送り、いとも愛想よく
――愛想よくしかしもちろん型通りに、そして最後の――別れを告げることしかできないだろう。 犬が、ベベが出現してひとさわぎしたあの不運な晩いらい、彼はボート・デッキへリッツィを一ぺんしかさそい出せないでいた。
そのときも彼女はばかに慎みぶかくかまえて、うちとけず、意味のあるやり方でふれることさえこばみ、
ついに彼は新たな戦術を――へりくだり、子供のようにおとなしくするという手を考えねばならなかったのである。
彼は彼女の膝に頭をのせ、彼女をぼくのかわいい仔羊ちゃんと呼んだ。 彼女は何かほかのことを考えているかのように、数回、彼の額をなでた。
じっさい彼女は考えごとをしていたのだ。
こんなにわたしを追いまわしながら、どうしてこの人は一ぺんも結婚のことをいわないのだろう、といぶかっていたのである。 彼との結婚を望んでいるというのではない――ぜんぜんちがう。
恒久的に身を固める相手として――というのはこんど身を固めるときは恒久的なものにしなければならないと彼女は決心していたのだ、
婚姻まえに金銭的なとりきめをがっちり結び、その鉄のかんぬきを二重にも三重にもしっかりおろしておかねばならないと思っていた――
物質的にいって、リーバーよりかなり上のところを彼女は望んでいたのである。 とはいうものの、結婚の口を、それがどんな口であれ、むざむざと逃してしまうのはぜったいにいけない。
ただし、自分は適齢期をはみ出した女ではないことを、
自分とのいちゃつきはまさに祭壇への行進の予備行為となるべきものであることを、
つねにはっきりと理解させてやらねばならない―― それとない言いまわしや、ほのめかしや、おどしや、目くばせや、暗黙の了解といったやり方ではなく、言葉をついやして明瞭にいってやらねばならない。
今まで知りあったどの男も、じっさいの結果はどうであれ、
彼女と一しょのベッドにはいるまえには「結婚」という呪文をかならず口にしたものだ。 この人だけはそれをいわない。
それをいうまでは、見ていてごらんなさい!
今いじょうのことはぜったいにゆるしてあげないから。 リーバーが、どんなにそれをいいたかったにせよ、
結婚という言葉を口に出せなかったのは、まことにかんたんきわまる理由のためだった――
彼には妻がいたのだ。 法律的手続きをふんで別居はしているけれども、妻が離婚をこばんでいた。
また法律上の意味で彼女にはまったく過失がないために、離縁することができないのだ。
彼は彼女と三人の子供を、彼を嫌い、彼もまた嫌っている四人家族を、
彼にぶらさがり、彼の生血を蛭のように一生吸いつづけるであろう家族を養っていたのである。 ああ、こういう運命に甘んじなければならぬことを自分はしただろうか。
しかし、それが現実なのだ。
リッツィにはとまどいをまねくこの窮状をぜったいに知らせてはならない。
それは自尊心にたいする堪えがたい侮辱だ。
それにまた、ぜったいに彼女にはわかってもらえないだろう。 ああ、すぐれた競走馬のような身ごなしのすばらしい、すらりとした女、
ああ、仕事にとりかかるまえにブレーメンの静かなホテルで、一日一夜でもいい、すてきな、やらわかいベッドを共にしてみたいものだ。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 228ページより
彼はボート・デッキをめぐりあるいて恰好の場所を選定し、ふたたび白昼の夢にふけった。
シャンパンをたっぷり飲ませ、甘い言葉をふんだんにかけたやり、甲板でやわらかい音楽にあわせてひとしきりワルツをおどれば、
彼女がトーストにのせた熱いチーズのようにとろり融けるであろうという夢に。 彼の想像のなかでは、子供向けのお話が幸福な結末でむすばれるように、
万事がやすやすと、途切れずに、めでたく進行するはずだった。 はしゃいだ気分が頂点に達していた彼は、白いよだれ掛けをかけ、ひだ飾りのついた赤ん坊の帽子をはげた頭にのせ、ひもを頭の下にむすんだ。
マリア・ファリナ・コロンの匂いをたっぷりとあとにまきちらしながら、彼はねぐらに帰る鳩のようにまっすぐ、座席をさがして右往左往している晩餐の客たちのあいだをすすんだ。
席の配置がすっかりかえられているため、いつものように名札はのっていても、どこをさがしたら自分の席がみつかるものやらだれにもわからず、それでごったがえしていたのである。
あっちこっちとびまわって世話をやいているボーイたちのうしろに、彼らは盲めっぽうについてまわっていた。 リーバーはリッツィのひじをつかんだ。
彼女は彼が赤ん坊の帽子をかぶっているのを見てかんだかい歓声をあげた。
彼女は長い、緑色の、レースのガウンを着て、小さな、緑色の、リボンの目かくしをしていた。 リーバーは舷窓の下の二人用のテーブルのほうへ確信ありげに彼女を押していった。
「ここにかけましょう、かまいやしませんよ!」
と彼は周囲の人の意に介さずにさけび、高いテノールで歌いはじめた。
「いつのときか、いつの日か……!」 「いつのときか、いつの日か!」とリッツィは二段ほど高い調子で唱和した。
二人はほとんど鼻がくっつくほどお互い前へ身体をかがめ、お互いの口にむかって合唱しつづけた。 >>714
×とろり融けるであろう
〇とろりと融けるであろう 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 229ページより
「シャンパンだ、シャンパン!」とリーバーは宙にむかって叫んだ。「ここにシャンパンをくれ!」
一本のシャンパンが彼らのまえにおかれた。
彼らは飲むまえにグラスをかちあわせた。 先からつけ根までおなじ太さの指をもった、大きな四角い手が、
テーブルの照明の下で赤くかがやくもじゃもじゃの毛でおおわれたたくましい手首にがっしりと結合した手のひらに
がんじょうそうな親指のついた手が、リーバーの肩の上からのびてきて、名札をその金属製のホルダーからはずした。
リーバーの皮膚は冷水をあびたように縮んだ。 聞きなれた声が、ふるえる、異国ふうの、じつに耳ざわりなドイツ語をわめいたとき、彼は一そう背筋を寒くした。
「おさわがせして申訳ないが、これはわしのテーブルだ」
そしてリーバーの真向いにまわって、アルネ・ハンセンは彼の鼻の下で名札をふった。 ハンセンの背後には大きな、色づけした鵞ペンを一本だけ髪にかざしたグロッケンが立っていた。
彼のピンクのネクタイには『女の子らよ、わがあとにしたがえ!』という文字がれいれいしく描かれていた。 ハンセンはリッツィの皿のまえからもう一枚の名札をぬきとり、それをふった。
「字が読めないのかね?」と彼はいった。
「こっちにはハンセン様、こっちにはグロッケン様と書いてあるんだ。それなのに、こりゃいったいどうしたわけだ……」 リッツィは手をのばして、彼の前腕をかるくたたいた。
「あら、でも、ねえ、ハンセンさま、わかってちょうだい――」
「どうか」とリーバーは気をとりなおしていった。
頭のてっぺんに大きな、透明な滴がうかび、たちまちそれらがよりあつまり、流れはじめた。
「どうか、あなたはひかえていらしてください。話はわたしがつけますから……」 「つけなきゃならん話などない」とハンセンは棍棒のように重い、抑揚のない口調でどなった。
「ここからどいて、君らが自分たちのテーブルを見つけりゃいいんだ!」 「ハンセン君」とリーバーはぐっと激情をおさえ、襟から頤をつきだし、赤ん坊の帽子をゆすっていった。
「ご婦人にたいする君の無礼を見のがすわけにいかん。メイン・デッキまで顔をかしてくれたまえ」
「どこであろうと顔をかす必要をわしは認めない」とハンセンはほえ、押しつぶすように彼らをにらみつけた。 「わしは自分のテーブルを要求しているだけだ。君はごてるつもりなのか?」
そして彼はリッツィに軽蔑の目をむけた。
それが彼女をいきりたたせた。
彼女は膝をふるわせて立ちあがり、「まいりましょう、まいりましょうよ」とリーバーに訴え、足早に立ちさった。
リーバーは追いつくために駆けださねばならなかった。 「われわれのテーブルをさがしてくれ」
と彼はいちばん近くにいたボーイにむかってほとんどハンセンにおとらず荒々しい口調でさけんだ。
ボーイはそくざにこたえた。
「わたくしとご一しょにどうぞ――食堂がこれほど混乱したことははじめてでございます」
しかし彼はリーバーであることを知っていたらしく、じきに彼らのテーブルを見つけ、リッツィの椅子をひき出し、リーバーの注文にきびきびと応答した。 「わたし、彼に侮辱されたわ」とリッツィはひくくすすり泣きながらいい、目かくしをあげて涙をふいた。
「もうそのことを考えるのはおやめなさい。かならず仕返しをしてやりますから」
「あんな田舎者のために今晩の愉しみを台無しにしないようにしましょう!」 「あの人はいつもあなたの椅子を要求するのね――第一日目のことおぼえていらっしゃる?
低級な人だということがあれでわかったわ。話の様子から察すると、あの人、過激派(ボルシェビキ)なんじゃないかしら……」
「そうだ!」とリーバーはいった。
「あのときはあいつを追いだしてやったんだ! こりゃ、あのときの復讐だな」そう考えて、彼は上きげんをとりもどした。 「きっとあいつに後悔させてやるぞ!」
「どうするおつもり?」とリッツィは喜んでたずねた。
「何か考えてみますよ」と彼は自信ありげに顔をほころばせた。
彼らはうわ目づかいに部屋を半分ほど横ぎったあたりをこっそり見つめた。 ハンセンは皿のそばの赤い三角帽をかぶり、しぶい顔であたりを見まわし、そしてぬいだ。
背むしのグロッケンは鬼のような笑いをうかべていた。
疑いもなく、けんかが彼にはおもしろかったのだ――自分の身に危険がないものだから! 「あのいやらしい小人を見てごらんなさいな」と彼女はシャンパンを注いでもらいながらいった。
「あんなばけものどうして生かしておくのかしら」
「それは大きな問題です」とリーバーはにっこり笑って彼女を見つめ、お得意の論題のひとつをもちだした。 「雑誌発行人としてのわたしのねらいは、読者の頭をわれわれの社会の重大問題にむけさせるところにあります。
わたしはさいきんある医者にたのんで、
不適格者のすべてを誕生と同時に、あるいは何らかの意味で不適格であることが判明したらすぐに撲滅すべしと主張した、
きわめて学問的な、きわめて科学的な一連の記事を書かせることにしました。
もちろん、無痛の方法によらなければなりません。
ほかの人間にたいしてと同様彼らにたいしても思いやりを示してやりたいと思いますからね。 不具の、あるいは役にたたない幼児ばかりでなく、老人も皆殺しにしなくてはいけません――
六十歳以上の、あるいは六十五歳以下でもかまいませんが、あるいはまた効用性を失いしだいということにしてもいいと思いますが、
老人にはぜんぶ死んでもらいましょう。
わが民族の才能にめぐまれた人びと、若くて逞しい人びとの精力を枯渇させる病弱な人間、衰弱した人間にも――
前途有為の人間にそうした重荷を負わせて不利な立場にたたせるべきではありませんからね。 医者はいま、もっとも強力な論拠をそろえ、医学研究者や開業医、社会学的統計などからの例や証拠を用意して、
この論文を提出すべく準備をしています。
もちろんユダヤ人や不法な混血、種類を問わず有色人種と白人との温血もすべて絶滅しなくてはなりません――
シナ人であれ、ニグロであれ……すべてそういったものとの混血を。 また重大犯罪をおかした白人については――そういった人間については」と彼はいたずらっぽく目をきらきらさせて彼女を見つめた。
「殺さないまでも、すくなくともその男が同類の人間をこの世に送り出さなくなるような措置を国家にとってもらいましょう!」 「すばらしいわ」とリッツィはうっとりと、歌うようにいった。
「そうすれば、あの小人も、車いすにのったあのおそろしい、小さな老人も――あのスペイン人たちも見なくてすむようになるのね!」
「ほかにも大勢いますよ! われわれの新世界のために――」とリーバーはいって、グラスをあげて彼女のそれにかちあわせた。 かがやかしい未来像を夢みて愉しくなり、急速に元気をとりもどした彼は、
きらいな人びとをいくら殺してもその中に彼がいちばんきらいな人間――アルネ・ハンセンをふくめることはおそらくできないであろうということをほとんど忘れていた。 ハンセンは彼自身たくましく、すこやかな、有用な、強力な人間の一人である。
身を守る方法を心得ている人間である、つねに、どこでも、自分の名札のついた椅子を見つけ、それを取る人間である、
あるいははっきりとリーバーの名札がつけられたデッキチェアのばあいにそうしたように力ずくに訴えても椅子をうばう人間である。 あのライオンと格闘するにふさわしい毛むくじゃらの手、
大きな四角い歯がそろったあの顎――リーバーはとつぜん身震いした。
そんなことは考えただけでも何もかもぶちこわしになってしまう――明日まで考えないことにしよう。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 251ページより
音楽がルンバにかわると、キューバの学生たちはスペインの踊り子をパートナーにしようとして一斉に行動を起こした――
それは、だれでも自分が一番さきに駆けつければその女をパートナーにできるというにぎやかな競争だった。
はみだした二人はすぐさまべつの相手をさがしにかかった。
一人はフライタークとの踊りをおえようとしていたジェニーをつかまえた。 もう一人は微笑みをうかべ、演奏されている曲のハミングをしながら、エルザに腕をまわし、その手をとった。
彼女は彼女の大好きな異国の人、美しくて陽気な人の目を見つめた。
目がくらむ思いがした。
ちがう、現実であるはずがない―― だが、いぜんとして彼はやや眉を寄せながら微笑んでいた。
そして彼女は、一本の筋肉をうごかすこともできずに、根が生えたようにつっ立っている自分の腰を彼が抱きすくめるのを感じた。 「さあ、いやがらずに、いらしてください」と彼は非常に丁寧な、説得的なスペイン語でいった。
すこしも傲慢なところはなかった。
「踊りましょう」 エルザはじっと立っていた。
「わたし、踊れないの」と彼女は、おびえて、小さな子供のように小声でいった。
「だめ、だめなの――踊れないの」 「踊れないはずがありませんよ」と彼は快活に彼女をはげました。
「脚があるひとならだれだって踊れますよ!」
そして彼は、重すぎて土台から押し動かすことのできない不動の物体を抱きながら、ひとつ場所で踊るというはなれ技を披露した。
「どうです、おわかりでしょう?」 「ああ、だめ」とエルザは絶望的な叫びをあげた。
「踊り方を習ったことがないんです!」
彼は両手をおろし、後じさりした。
しんそこから不快に思っているような彼の表情を見て、彼女は恐怖におそわれた。 「失礼しました!(ぺルドネメ!)」
と彼はいい、極度に不愉快なものを見たというようにすばやく顔をそむけ、
その場に彼女がたたずんでいるうちに、ふり返りもせずに立ちさった。 ああ、あの人はもう決してふり返ってはくれないだろう。
数秒後にはすでに彼はミセズ・トレッドウェルと踊っていた。
彼女はこの浮かれ騒ぎの申し子というべき愉快な男とひと踊りするために若い高級船員のそばをはなれたのだ。 エルザは胸が張り裂けるような思いを味わった。
すぐにベッドへはいり、心ゆくまで泣きたいと思った。 結果こんな状況になっている辺り
あほなフラットアーサーは消滅したの? tadaup.jp/52756db0d.png
tadaup.jp/527581f08.png tadaup.jp/5275c785b.png
tadaup.jp/5275d282e.png tadaup.jp/5275e8fc7.png
tadaup.jp/5275fe396.png お前らに見せてる情報など一部だという事を忘れるな
自分で調べろ
人に会って話したり、移動してる暇なんかねーよアホ 大谷がなぜユニコーンって言われてるか分かるか?
分からんだろうなぁ〜マトリックスにずぶずぶのNPCには 小説『愚者の船』の書き出しは今日でラスト
夜にやろう 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 252ページより
アルネ・ハンセンは、アンパロがまずマノロと、ついであの気違いじみた学生の一人と踊るのを眺めていた。
彼女は夜になってから一ぺんも彼のほうへ視線をむけなかった。
三曲目にドイツのワルツが奏されたとき、彼は、扇をつかいながらマノロのそばに立っている彼女のほうへのっしのっしと歩みよった。
マノロは慎重にその場から蒸発した。 ハンセンは彼女の両ひじをしっかりとつかんだ。踊るときに彼が好んでするつかまり方である。
アンパロは口をきくなどという無益なまねはしなかった。
ぐいと腕をひねって彼の手をのがれ、扇を下へおとした。彼はそれに気づかなかった。
つかまえなおそうとして彼が突進してきたとき、彼女は扇をひろいあげるために体をかがめ、彼の足を踵でじゃけんにふみつけ、
だしぬけに体をおこして頭のてっぺんで彼の顎の下を突きあげた。
あまりにだしぬけに口を閉められたために、彼は舌を噛んだ。舌は出血した。 「おい、何てことするんだ」と彼はとがめるようにいい、大きなハンカチをとりだし、何べんも何べんも舌にあてた。
ハンカチには真赤な斑点がいくつもついた。
「だからほっといてくれというんだよ!」とアンパロはいきりたって叫んだ。
「今晩だけはそのくさい身体で行くさきざきへくっついてこられちゃ困るんだよ。
仕事があるんだからね。おっつけ福引きの時間になる。
あんたはあっちへ行っておとなしくビールを飲んでりゃいいじゃないか。じゃましないでおくれ」 「おれだって四枚も買ったんだぞ」とハンセンは彼女に思い出させ、シャツのポケットをさぐり、チケットの控えをとりだした。
「そうだったね、四枚も買ってくれたんだっけね、けちな私生児め」とアンパロは故意にいった。
「四枚も、だなんてぬかしやがる!」そういって彼女は、彼の左袖すれすれにつばを飛ばした。
「いまにおまえはそれを取消すだろうよ」とハンセンはとつぜん威厳をとりもどしていった。
「きっと後悔するだろうよ」彼は椅子へもどり、ビールをさらに二本注文した。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 268ページより
リーバーはまた楽団にビールをとどけさせ、四回目の『ウィーンの森の物語』を注文した。
音楽と、発砲ぶどう酒(シャウム・ヴァイン)と、星のきらめく空と、やさしい、見込みありげな気分で
くるくるとワルツを踊るリッツィとが、彼をいまも喜びにひたらせ、ほとんど先の愉しみを忘れさせていた。
彼のよだれかけは耳の下にまわり、赤ん坊の帽子はえりくびにずりおちていた。
この世に気苦労がひとつもないといった風情だった。 にたにたと倦むことなく笑みをたたえ、時おり濡れた桃色の舌の先を見せて唇をなめ、甘美な喜びの味をあじわっていた。
リッツィの腰と手をにぎりなおして、彼は、かたお小さな腹を彼女におしつけ、高いテノールで歌詞ぬきの歌をうたいだした。
「ラ・デダダ、ラ・デダダ、ラ・デ・ダ、デ・ダー!」
とリーバーはフォーン〔『ローマ神話』半人半羊の林野牧畜の神〕のようにとびはね、爪先で軽快に回転し、うっとりとリッツィを見あげながら歌った。 リッツィはエコー〔『ギリシア神話』空気と土の間に生れた森の精〕そのもののようにすぐさま「ラ・デダダ」とそれに応えた。 彼は自分がフォーンであるような気がした。
森の空地の奥ふかくすばやく跳び、駆けていくフォーン、するどい、小さな、磨かれたひづめで
腐葉土に深く裂け目のはいった花模様を押しつけていくフォーン。
木々の梢で風がヴァイオリンのようにうめき、ハーブの弦がためいきをついている枝のあいだで
鳥たちの甘美な声がおたがいにラ・デ・ダと呼びあっている。 そして森の精は若い半人半羊の少年を待っている。
はねまわることが大好きな、緑の衣を着た、あつらえむきの、脚の長い森の精を見つけたら、
すぐにとびつく身がまえをしながら、足どりも軽く駆けまわる半神を待っている! アー、ラデダダ、デ・ダと若いフォーンはするどいひづめの爪先そのもので狂おしく急旋回しながら陶然と声をはりあげて歌った。
一方、森の精は上体をうしろへそらし、レースのスカートが浮きあがり、ひらいた扇のようにゆっくりと背中のほうへひろがるほどくるくるとまわるつづけた。 ハンセンは深々と椅子に身体を沈め、ビールびんを抱きながら、眉間にしわをよせて上目づかいぶ彼らをにらみつけていた。
彼らは何べんも彼のまえをとおりすぎた。
最後のときには彼らがあまりにも近くまでやってきたためリッツィのスカートが彼のひざをはらった。
いきりたった彼は、彼女がこんどそうしたら、足をつきだして彼女をつまづかせ、両人を腹ばいにさせてやろうと決心した。 ふたたび彼らがまえよりも一そう騒々しく彼のほうへ近づいてきたとき、彼は身がまえ、さっと足をまえにつきだした。
こんどはリッツィのスカートが彼の顔をなでた。
彼は目ばたきし、ひるんだ。
リーバーの長靴が彼の足指を容赦なく踏みつけた。
ハンセンは地鳴りのようなうめき声をあげてそくざに立ちあがり、肩をそびやかし、
無帽、無防備なリーバーの頭に力をこめてビールびんをうちおろした。
リーバーはびっくり仰天してその場にぴたりと立ちどまった。 ガラスがくだけ、たちまち真赤な長い筋が彼の頭にあらわれ、血がにじみ、急速に下へ流れおちはじめた。
「わかったか?」とハンセンはあたかも何かを論議の余地なきまでに証明しえたかのようにいかめしい口調でいった。「わかったか?」 びんの一撃はリーバーをなお一そう深く幻想の世界へはいりこませた。
彼は山羊のように「めー、めー!」と鳴き、ハンセンめがけて突進し、ちょうど肋骨がわかれる敏感なみずおちに正確な頭突きをくらわせた。
ハンセンは上体を深くおりまげ、あえいだ。
彼が立ちなおらないうちに、ものの数秒とたたないうちに、リーバーはまた突進した。 「めー、めー!」と彼は鳴き声をあげ、全力をこめて頭突きをくらわせ、ハンセンのシャツの胸部に不ぞろいな赤いしみを残した。
「それだけはやめてくれ」とハンセンは胸を波うたせてあえいだ。
彼はまたも頭突きの威力に屈服し、平手でリーバーの顔を押しつけた。
「ちょっと待て。それだけはやめてくれ!」
リーバーはその手をはらいのけ、三回目の頭突きのために後へさがった。 打楽器奏者が紙の帽子を額から押しのけ、リーバーに組みついた。
リーバーはとまどったような顔をし、抵抗しなかった。
ヴァイオリニストはやさしく制するようにハンセンの腕に手をかけ、仔猫のようにふりおとされた。 音楽がだしぬけにやんだとき、
スペインの踊り子とおどっていたキューバの学生たちはその有様を眺めるためにむらがり、
血の花づなで飾られたリーバーの頭を認めて叫んだ。
「何という生々しい血だ! 蛮行万歳!(ヴイヴア・ラ・バルバリダード!」 フラウ・リッタースドルフとフッテン夫妻は
傍観者というよりもむしろ不謹慎な光景を公然と非難する端正の生きた見本として一しょにすわっていた。 フラウ・リッタースドルフはいった。
「この分では、生きて港に着くことができたら、幸いと思わなくちゃいけませんわね!」
あまりにも自明な結論であるがゆえに、フッテン夫妻は答えてやる価値はないと考えた。 リッツィは口に手をあて、衝撃のあまり額にしわをよせて、茫然とたたずんだ。
ヴァイオリニストが彼女の頬をかるくたたいた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と彼はなだめた。
このやさしい言葉を聞いて彼女は、意識をとりもどし、自分がどんな災厄におそわれたかに気づいた。
小さな、こまかなしわを顔にきざんで、彼女は、彼のそばをはなれ、掌を前へむけて両手をあげ、
苦悶する雌くじゃくのようなかん高い悲鳴をあげながら、上体をまえに倒して、盲めっぽう駆けだした。 ヴァイオリニストはすばやくそのあとにつづいた。
「フロライン、お力になってあげましょう、ぼくにできることは何でもします。おひとりで行くのはおよしなさい」
彼女は肩をすくめて彼の手をはずし、泣きながらかん高い声で笑いだした。
彼女はリーバーのまえを彼には目もくれずとおりすぎた。
彼は彼女が行くのに気づかなかった。あるいは彼女のことを失念していたのかもしれない。
ハンセンは組んだ腕で腹をしっかりとおさえながらひとりでに立ち去った。 ヴァイオリニストは悩める女性を助けてやろうという自分の心意気をすでに後悔していた。
女はきわめて恥知らずにも、いささかの感謝の念をしめさず、
彼が彼女の腕をとって連れていこうとするたびごとに手ごめにされるみたいに「さわらないで!」と金切声をはりあげたからである。
女は左右の壁にぶつかりながらよろよろと廊下を歩きつづけている。
まったく、こんな醜い女は見たことがない。 しかし、育ちがりっぱで、また生まれつき気性がおだやかであるためだろうか、
彼は自分に課した仕事に敢然と立ちむかってへこたれず、ついにやっかいな女をしかるべきドアのまえまで送りとどけることに成功した。
彼は思いきり音をたててノックし、そして待った。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 288ページより
リッツィはまだ踊っているだろう。
そして踊りのあとで彼女の豚ちゃんと時のたつのも忘れてどこかの片隅にしけこむだろう。
ミセズ・トレッドウェルはほとんど顔がくっつくほど鏡にむかって体をのりだし、しげしげと容貌を点検し、
仮装舞踏会のさいにいつもしたように顔をつくりかえる愉しみに興じはじめた。 ドアがさっとおしあけられ、リッツィがとびこんできた。
がくっとひざをつき、泳ぐようにして起きあがった。
顔がゆがみ、支離滅裂なことを口ばしり、目に涙をいっぱいためていた。
「この方をおねがいします、奥さま」と若い男はいった。
「わたくしは楽団の者ですので、すぐに部署へもどらなければなりませんから」
「ごくろうさまでした」とミセズ・トレッドウェルはこの上なくやさしい口調でいい、ドアをしめた。 リッツィはあたりはばからぬうめき声をあげた。
寝いすに長々と身体を横たえ、堪えがたいほど長いうめき声をあげつづけた。
「ああ、けだもの、野蛮人、畜生」と彼女は単調にくりかえした。
ミセズ・トレッドウェルは、リッツィが服をぬぎ、ナイトガウンに着がえるのを手伝ってやりながら、
気分が浮きたち、「だれが?」ときいてみたくなったが、かろうじてこらえた。
彼女は体熱でぬくもり、すさまじい、すえた、じゃこうの臭いを発している衣服をひろいあげ、きちんとかたづけることまでしてやった。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 303ページより
船長はブリッジでの午前なかばのコーヒーにシューマン医師を招待し、すぐに会話の口火をきった。
「いつになく事件の多い航海でした――」
「災難でしたね」とシューマン医師は無関心をかくそうともせずにいった。 「彼らには船上での作法というものがわかっていないのだ」
「知合う期間もみじかく、なじみのない状況におかれて苦労しなければならないのですからね。
たしかに、自分の美点を最高に発揮できる人はきわめて少いようですね」 船長は語りつづけた。
「伯爵夫人の真珠がぬすまれたと聞いているが――不幸な方だ!
ようやくわしもそう考えるようになったんだが、どうやら彼女の精神状態はかならずしも――」彼は額に人さし指をかるくふれた。
「考えられることです」とシューマン医師はその話題をきりあげるためにいった。 「真珠がはたしてぬすまれたかどうか、たしかではありません。
伯爵夫人は子供たちからとられたと申していますが、
彼女の看護にあたっていたスチュアデスの言によると、夫人はあの日は真珠をつけていられなかったそうです。
子供たちが何かを海へ捨てたのは事実です。ルッツ夫妻がそれを目撃しましたから。
ところが不運なことに二人の証言はくいちがうのです。
けっきょく何ひとつ証明がついていないわけです」 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 321ページより
リッツィはようやく勇を鼓して床をはなれ、思いきって甲板に出た。
彼女は病人のようにショールやらえり巻きやらをまいてデッキチェアに寝そべり、熱いスープを飲んだ。
彼女はじつに無口になり、航海がおわるまでひとりですわり、ひとりで散歩し、食事は部屋へとどけさせ、
目がよく見えないかのように、あるいはつらい知らせをうけとったばかりであるように、憂鬱そうな、途方にくれたような顔をしていた。 ミセズ・トレッドウェルは朝食の帰りにリッツィにオレンジをもってきてやり、そしていった。
「今朝はリーバーさんが起きて、歩いていらしたわよ。とても元気そうだったわ」
リッツィはオレンジの皮に爪をつきさし、悲鳴をあげることのできる何かの皮をはいでいるかのように、一部をひきちぎった。
「関係ないことよ、わたしには」
と彼女はいって、果実に歯をくいこませた。 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 329ページより
船がワイト島にさしかかったとき、ジェニーはエメラルド色の芝生のなかに、
小さな、可憐な森にかこまれて、お伽話に出てくるような城が立っているのを見てうっとりした。 芝生は波うちぎわまできちんと刈りこまれていた。
船が岸すれすれに通過したとき、彼女はまたも自分は錯覚をおこしていると思った。
彼女の嗅覚はおうおうにしてありもしない異臭を感じるからだ。
さまざまな草、刈りこまれたばかりの芝生、草をはむ牛のにおいだった。 「そうよ、そうよ」とエルザはほとんど仕合わせそうにいった。
「ほんとうよ。わたしはまえにもここを通ったことがあるの。これで四度目だわ。
そしていつもすてきなにおいがするの。
ちっちゃいときは、天国ってこんなふうじゃないのかしらと思っていたわ」 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 330ページより
ヴェラ号が水門をとおりぬけ、ヴェーゼル河にはいったときもまだリッツィは、
リーバーが彼の席へもどっていると知って、船長のテーブルへかえることをこばんでいた。 彼女は、デッキチェアにかけているときに、それを彼女はリーバーのデッキチェアからずっとはなれたところへ移動させていたのだが、
せかせかした足どりで通りかかる彼に気づくと目をつぶり、眠っているふりをした――
禿げた頭に大きな絆創膏をはったりして、ほんとに豚みたいな男だわ……ほんとにいやな生活だったわ! 愚者の船(下) K・アン・ポーター
第三部 333ページより
「エルザ、何を見ているんだい? だれをみているのかね?」
二人が話してるあいだ、エルザがかすかに顔をかたむけ、いままで見たこともないような表情をうかべて、
なかば閉じたまぶたの下からひそかにゆっくり視線をさまよわせているのに彼は気づいたのだ。
父親としてゆるしがたいエルザの振舞だった。彼は胸さわぎを感じた。 エルザは真赤になり、口に手をあてた。
「何でもないわ、だれも見ていたわけじゃないわ」
と彼女があまりにもろうばいしながらいったので、彼は口をつぐんだ。 その瞬間にしかめ面をしたハンセンが猛烈な勢でそばをとおり、行きがけにエルザに一瞥を投げかけた。
それは彼が何気なく偶然むけた一瞥だった。
しかしエルザにとっては彼が意図してそうしたかのように残酷な一撃となった。
これまで彼は、いつもうすい空気でもみるような、あるいはめくら壁でもみるような目で彼女を見てきたからだ。彼女はひるんだ。 彼女の父親はいった。「あれは、けっきょく、おまえにふさわしいような男じゃなかったのだよ」
彼女の母親も衝撃をうけて同意した。
「おまえに似つかわしいなんて」と彼女はあざけりをこめていった。
「たとい束の間にせよ、いったいだれが考えたんだろうね」 わたしには憎らしい振舞しか見せなかったけれど、でもあのアンパロという女には気違いみたいに熱をあげたし、
またあのいやなリーバーさんをそれ相当の理由でなぐりもした、きっと彼は情のきつい人なのだわ、
ただ彼はわたしを一ぺんも人間らしくあつかってくれなかった、
でも、そんなの何も気にする必要はないのだわ。でもやっぱりこだわりたくなる。
何もあの人にもとめているわけではない、目をむけてもらいたいとさえ思っているわけではないのだけれど。 むしろあの学生さんこそ一生忘れられない人だわ。
音楽の調べがながれる甲板で、あの人はわたしの身体に腕をまわし、不思議そうに微笑みながら甘い声ですすめてくれた――
でもやっぱりわたしには踊れなかった。
彼女はあまりにふかいため息をついたので、釈明しなければならないと思った。
「疲れているだけなの」と彼女は両親にいった。「気分がわるいわけじゃないの、ママ」 >>804
×わたしには踊れなかった。
〇わたしは踊れなかった。 はい、書き出し終わり
この本自体も残り2ページ
>>126-131のアメリカ人カップルの会話で終わりね 考察は明日にするか
どこを言いたいかはもう分かってるだろう?
簡潔にやるとするかね
今日貼った>>755-758にもヒントがあるよ! >>767
×かたお小さな腹を
〇かたい小さな腹を >>771
×まわるつづけた。
〇まわりつづけた。 >>772
×上目づかいぶ彼らを
〇上目づかいに彼らを >>756
あっこれの一枚目のガラガラヘビがやってくるはガラガラヘビフォルダのやつね まあ紫の雲とガラガラヘビは無関係でもないけどねくっくっく >>758
上の一枚目の補足
花火のサイトちゃんと読めば分かるけどね
吉祥金剛(読み)きちじょうこんごう
kotobank.jp/word/%E5%90%89%E7%A5%A5%E9%87%91%E5%89%9B-474569 やっぱ簡潔な説明するのもめんどいな
>>755-758で十分だろう スクショに書いてない情報も少し書くと、9月の満月の名前に「コーンムーン」があること
作中の満月の日と同じ9月11日の満月は本の発行された年(映画も同年製作)の1965年(満月カレンダーってサイトより)
同じく直近で9月11日が満月だったのは2003年、2003年の今年の漢字は「虎」、もちろん阪神がリーグ優勝したからだ(日本一はダイエーホークス)
コーンフレークは生産者さんの顔が浮かばへんのよね、 浮かんでくるのは腕組んでる虎の顔だけやねん
テネリフェに入港した9月9日ももちろん重要だろうな リックとラック、アルマンド(ドイツ風)とドローレ(痛み・悲しみ)
真珠を海へ落としたのはラック(ドローレ)、ラックはうさぎに例えられていたな
ドイツ(独)、独島(竹島)、竹島はかつて松島と呼ばれていた、竹と竹の子、竹を割ったような性格、縦割り
落ちた真珠に関しては偽物(ガラス玉)かもしれないと複数のキャラが言及するが、作中では曖昧なまま終わる
もしガラスで出来た真珠だったら? wind(風)とwindow(窓ガラス)、風の目、風は舞い上がる、風神雷神、雷は落ちる 伯爵夫人の左手の真珠と右手のエメラルド
ディスティニーストーンの魔のエメラルド
光のダイヤモンドと闇のブラックダイヤ、ブラックダイヤは「黒いダイヤ」、トリュフ、松煙
サルーインがジュエルビーストに埋め込んだ無のサファイア、後に設定が変わって、
無のサファイアではなく、主人公たちが集めてるのとは別の、サルーインが作った対のディスティニーストーン10個を、
ジュエルビーストに埋め込んだということになった
なら主人公たちが集めたディスティニーストーン10個はまとめて有のルビーと言ってもいいかもしれない
三大宝石はルビー、サファイア、エメラルド
キーはやはりエメラルドだ サファイアとアイオライト(ウォーターサファイア)
アイオライトはリンクスストーン、スパニッシュラズライト
青金石、天藍石、菫青石
リンクスは大山猫、リックとラックは子供の山猫
マトリックスのアイオ、マトリックス レザレクションズのレビューで演者の老いを指摘するブログも貼ったな で、スパニッシュ(スペイン)はヒスパニアで、「隠れた土地」「ウサギの土地」 うむ、簡潔に書けましたね
とにかくラピスラズリ(琉・瑠璃、青金石)は重要だ
またここでも繋がった
なぜ青の洞門の対岸にはネモフィラ(瑠璃唐草)が咲いているのかとか、考えたら楽しくならないか?
トンネルはハガレンのスロースが掘ってたな
とんねるず、ガラガラヘビがやってくる >>820
×スロース
〇スロウス
横穴を掘るってのもやはり何かあるかもな うさぎの穴は、しばらくはトンネルみたいにまっすぐつづいて、それからいきなりズドンと下におりていました それじゃ俺は読書したいのでしばらく書き込むペース落とすとしますか
お前らもちゃんと調べろよ!m9( ゚Д゚)
じゃあのノシ >>754
フラットアースに興味の無い青火に荒らされ始めてもフラットアーサー達は何もリアクションしなかった
それによって一番フラットアースに興味が無いのがフラットアーサーだったのが露呈したんだよ
今は反ワクチン界隈辺りでバカ晒してるんじゃないかな? >>817
少し補足
ディステニィストーン
dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%8B%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3
>ロマサガではエメラルド、ダイアモンド、ブラックダイア(前者二つはワンダースワン版では入手可能)が入手できないが、
>製作総指揮の河津秋敏氏が自身のTwitterおよびミンサガのアルティマニアにてその真相を語っており、
>入手不能なDSがあるのは容量不足やバグの類ではなくあくまでも当初からの予定通りの仕様である。 【魔の島】
wikiwiki.jp/sagadic/%E3%80%90%E9%AD%94%E3%81%AE%E5%B3%B6%E3%80%91
>移植版では、特定の条件を満たすと【『光』のダイアモンド】のイベントが発生しエメラルドが入手できる。
【『光』のダイアモンド】
https://wikiwiki.jp/sagadic/%E3%80%90%E3%80%8E%E5%85%89%E3%80%8F%E3%81%AE%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%80%91
>【魔の島の秘宝】において【エメラルド】を入手できるイベントが発生するようになる。 【魔の島の秘宝】
wikiwiki.jp/sagadic/%E3%80%90%E9%AD%94%E3%81%AE%E5%B3%B6%E3%81%AE%E7%A7%98%E5%AE%9D%E3%80%91
>終盤までに手に入る8つのデステニィストーンを手に入れてから挑戦した場合、ここの主ウェイ゠クビンの反応が明らかに変化する。
>【『光』のダイアモンド】をクリアすることが条件なので、MSとは逆に終盤まで放置するのが定石となる。
>その際に一度すべてのデステニィストーンを明け渡すことになるので、【オブシダンソード】の熟練度は0になる。
>しかし、失意の中で帰ろうとすると… 【そんな‥‥すべてのデステニィストーンをうしなってしまった‥】(URL省略)
【魔の島】に【デステニィストーン】を8つ所持している状態で最上階にいる【ウェイ゠クビン】に話しかけ、船員を目覚めさせる方法を聞いた後
「人一人救えずに世界は救えない」を選んだ後に、ウェイ゠クビンによって持っていたデステニィストーンを奪われた後に表示されるメッセージ。
この後船員が目覚め、船で帰還すると・・・
→【わしのエメラルドを返せ!】
【わしのエメラルドを返せ!】(URL省略)
持っていたデステニィストーンを奪われた後に
船で脱出した後、【シェラハ】の声と共に空から降ってきた
【エメラルド】を含む奪われたデステニィストーンを手に入れた直後のウェイ゠クビンの台詞。 魔のエメラルドを手に入れる条件は光のダイヤモンドを手に入れること(ワンダースワン移植版)
そして最後の10個目は闇のブラックダイア
初めてのロマンシング・サガ ミンストレルソング・リマスターの続き8(URL省略)
はっきり言って、SFC版を遊んだ人間にとってこれほど驚くことはないだろう。
SFC版では闇のブラックダイアは絶対入手不可能の幻のアイテムだったのだ。
同じく入手不可能だった魔のエメラルドや光のダイアモンドはワンダースワン版で入手できるようになったのだが、
闇のブラックダイヤだけは手に入れることはできなかった……。 ミンサガでの入手順は結構自由なのかもしれんが、スーファミ版からの歴史で考えると、
光のダイヤモンドを手に入れるのが魔のエメラルドの入手条件、そして最後に闇のブラックダイアが手に入るようになった
光と闇の間にあるのがエメラルドだ
俺が>>817で言いたいのはそういう事ね >>825
興味あるし、フラットアーサーには感謝もしてるよ
でも俺から見たらフラットアーサーは同じところから動かざること山の如しだけどねー
これがステータスの違いってやつか まあ気楽にやろうや
どうせすべてを知る事なんて不可能だからな
ただもういくつか法則は見つけた
神が居るのは間違いない
唯一人の神が どんぐりレベルが足りないとか出たから焦ったわ
簡単だな
単発スクリプトには確かに有効だな 澁澤龍彦の『極楽鳥とカタツムリ』の初っ端の「儒良(じゅごん)」、これは愚者の船の真珠とエメラルドと似通ったエピソードですな
高丘親王の話が全編収録されてる『高丘親王航海記』も気になりますね〜
なにせ終盤に真珠が出て来て「声」と関係してるらしいからね
まあネット上にある情報だけでも十分だが、蟻塚に埋まってる石が「翡翠」だという情報は澁澤龍彦の著書にしか無い貴重な情報っぽい
俺に感謝したまえ 翡翠(ヒスイ)といえば糸魚川
糸魚川の翡翠といえば日本の「国石」 エメラルドの和名は「翠玉」「緑玉」
「翠」の字には「翡翠」の意味は無いが、「カワセミ」という意味がある
そして翡翠(ヒスイ)は中国では元々カワセミの別名だった
翡は雄、翠は雌のカワセミ 糸魚川本翡翠/18金『慶賀鳳凰ピンブローチ』
shogeikan.co.jp/products/detail/2385
日本の国石「翡翠」を抱く黄金の鳳凰。歴史に残るご慶事を記念し謹製された、気品と華やぎに満ちた宝飾品。
天皇陛下が即位された令和元年5月1日は、日本の歴史に残るご慶事を目の当たりにした瞬間でした。
『慶賀鳳凰ピンブローチ』は、まばゆい18金と日本の国石である「翡翠」を贅沢に用い、祝意の念を込めて謹製された宝飾ピンブローチです。 稀少な素材を美しく象った至高の逸品
本作に用いられているのは、翡翠の中でも絶世の深い緑色と光沢をもつ新潟県産の糸魚川本翡翠。
世界的にも名高いこの翡翠は国の天然記念物に指定されているため、現在は採掘禁止となっています。
本作では指定以前に採取された翡翠のうち、高品質のものを選び抜き、艶やかな丸珠に磨き上げました。
翡翠の中央にはきらめく18金製の菊の御紋。
そして、18金で立体的に造形された皇室の象徴・鳳凰が翡翠を抱えます。
熟練職人の手により羽の一枚一枚まで作り込まれた鳳凰は、輝きながら天高く飛翔し、日本の末永い弥栄を願っているようです。
金色の鳳凰に翡翠を添えた豪華なピンブローチは、他ではご入手いただけない弊社オリジナル仕様。
ぜひご愛用いただき、気品ある紳士淑女のお洒落をお楽しみください。 翠
www.kanjipedia.jp/kanji/0003760800
意味
@かわせみ。カワセミ科の鳥。また、特にカワセミの雌。「翠羽」 対 翡(ヒ)(カワセミの雄)
Aみどり。もえぎ色。「翠嵐(スイラン)」「翠玉」 碧
www.kanjipedia.jp/kanji/0006230900
意味
@あお色の美しい石。「碧玉」
Aあお。みどり。あおみどり。「碧空」「紺碧」 上皇上皇后両陛下御大婚65年奉祝記念メダル販売
www.nnn.co.jp/articles/-/228101
碧玉婚式を迎えられた上皇上皇后両陛下への祝意を込めた記念メダルを29日より販売します。
長寿と夫婦円満の象徴である吉祥の鳥「鶴」と、めでたさを表す「松竹梅」を刻印しました。
純金メダルが3種類、純銀メダルが1種類、純金と純銀のメダルセットが1種類あります。 そして碧玉(へきぎょく)と言えば、ブラッドストーン(ヘリオトロープ)もその一つ ヘリオトロープ(太陽を呼び戻す石)が碧玉なら、エメラルド(翠玉)は時間の流れに逆らわないことを示す石、ということになるかな 『極楽鳥とカタツムリ』の「儒良(じゅごん)」の話にも、時の流れに逆らおうとすることは不正解というメッセージがありますね ペースを落とすと言ったのに喋り過ぎたようだ…くっくっく
ではさらばだ!!! >>757
下のスクショの17:3=5:3の対って考え方を使って、「33」の対の「153」を調べると、あら不思議
ガリラヤ湖(竪琴)に繋がり、シモン・ペトロに繋がり、ペトロの舟に繋がり、阿呆船に繋がり、愚者の船に繋がりますとさ あっwikiではペテロになってるな まあ同じだけど
阿呆船
ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%BF%E5%91%86%E8%88%B9
>「阿呆船」の題名は、新約聖書のルカ福音書にあらわれる「ペテロの舟」を意識したものらしい。 とにかく難しくないからどんどん自分で調べることだね
ここ見て調べもしない奴は、からし種一粒ほどの信仰も無い奴だ せっかく神様がその船から下りて来いと言ってるんだ
下りないなんてアホは居ないよな? 愚者の船の追記
愚者の船(上) K・アン・ポーター
第二部 277ページより
※アメリカ人のメアリー・トレッドウェル(ミセズ・トレッドウェル)の回想
来年の五月には、もう一度サン・クルーへすずらんの初咲きを見に行こう……ああ、神さま、わたしはパリが懐かしくてなりません。 スズランの日
www.flowerservice.co.jp/calendar/calendar09.html
5月1日はスズランの日です。
「スズランの日」はフランス発祥のイベントで、フラワーデザイン等でフランスに馴染みの深い方は身近に感じられるかもしれません。
フランスでは5月1日に愛する人やお世話になっている人にスズランを贈る習慣があり、もらった人には幸運が訪れると言われます。
フランス語でスズランを「ミュゲ(muguet)」ということから、「ミュゲの日」とも言われます。 「スズランの日」の歴史
スズランには日本原産種(鈴蘭、君影草)とヨーロッパ原産種(ドイツスズラン)があります。
鈴の形をした花はヨーロッパの人々の間では春のシンボルで、幸せを呼ぶものと考えられていました。
また、「聖母マリアの涙」と喩えられることもあり、ヨーロッパでは大切にされ、ブライダルに花嫁に贈る花としても良く使われます。 16世紀ヨーロッパでスズランの栽培が始まって間もなく、スズランを贈る風習が生まれました。
当時、5月1日は愛の日とされており、葉と花で作った冠を被って男女が花をプレゼントし合っていたようです。 1561年5月1日、幸福をもたらす花とされるスズランの花束をプレゼントされたシャルル9世は大変喜びました。
そのためシャルル9世は、宮廷のご婦人たちにも幸せを分けてあげようと毎年スズランを贈ることにしました。
また、スズランは恋人たちの出会いや幸せの象徴でもあり、縁起が良いものとされていました。
鈴蘭舞踏会と呼ばれるパーティが開催されることもあり、若い女性たちは白いドレスを身にまとい、男性たちはボタン穴にスズランを付けたりしていたそうです。
一般の人々にスズランを贈る風習が定着したのは19世紀末頃から。
シャルル9世がスズランをもらって喜んだ年からちょうど15年後の1976年5月1日だと言われています。 20世紀になると、パリ近郊の人々がスズランを探しに森に行き、野生のスズランを採取しました。
現在では5月1日が近づくと、街角の至る所でスズランの小さな花束が売られます。
フランスでは当日になると、誰でもスズランを売って良いというルールがあります。
但し、スズランは森で摘んでも根が付いていないものと限られており、
また花店から100メートル以上離れた場所で売らなければならないなどの規制があるそうです。 谷間のユリ
スズランはユリ科スズラン属の多年草です。
鈴のように咲くためにこの名前がつきました。
花言葉は「幸福が訪れる」「純潔」「純粋」「繊細」「幸福の再来」「意識しない美しさ」など。
ちなみに、スズラン属という意味のConvallariaは、ラテン語の 「convallis(谷)+ leirion (ユリ)」が語源で 「谷間のユリ」という意味です。
同様に英名は“Lily of the Valley”となります。 >>84
>「ここの床やさんでも売ってるのよ」とエルザはおずおずいった。
>「何でも種類がそろっているわ。すずらんの香りがするのもあってよ。ラシェル一番というの。わたしのぴったりの色なの。 >>110-111
>列の先頭に立って気違いのように甲板を跳びまわり、
>あの人こそわたしが望む男性だ。
>>133
>しかし彼らが「あぶらむし党員(レ・キヤムロ・ド・ラ・クカラーチャ)」と自称していること、
>>750-753
>彼女はこの浮かれ騒ぎの申し子というべき愉快な男とひと踊りするために若い高級船員のそばをはなれたのだ。 エルザが踊れなかったキューバ人学生はあぶらむし党員の中心的存在、あぶらむしのアレゴリーと言っていいだろう
エルザはすずらんのアレゴリー、つまり「聖母マリアの涙」 鈴木イチロー、背番号51、イチローはズーパースターズ(ZOOperstars!)ではゴキブリ扱いされている
ゴキブリの別称はあぶらむし エルザ(すずらん)が踊れなかった片思いの相手はあぶらむし
>>35
>「父は生まれつき陽気な人柄で、楽しむことが好きだわ。
>ところが母は笑えない人なの。
>笑うのは馬鹿な人間だけです、人生はだれにせよ笑えるようなものじゃありません、というの……
>>38
>「お母さんに似てきたみたい。
>わたしって、ひとをおもしろがらせたり、楽しませたりできないんだわ。自分のことばかりいって、恥ずかしいわ。 笑えない、お笑いで言えば「滑る」
この辺かな
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1710271219/834-993
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1711483434/3-52 w(笑い)
↓
W(勝利)
51【鈴木イチロー・ゴキブリ(あぶらむし)・5月1日はすずらんの日】
↓
52【チェスト(自由人だけ持つことを許されていた箱)・鷹のプリンス(王子)】 エルザ(すずらん)はキューバ人学生(あぶらむし)と踊れなかった
>>41
>このしょげた顔の若い娘にとって、スイスへ行ったところで、どんな希望があるだろう。
>顎は二重にくびれ、首の付根には甲状腺腫のように脂肪がひだをなし、肌は油を塗ったようにぬめぬめとし、
油で滑って踊れなかった? いや、違う
「滑る」=「踊る」になる競技があるじゃないか
フィギュアスケートだ
その象徴的な選手と言えば羽生結弦 羽
↓
翼
羽が落ちて翼になる
FFのフェニックスの尾の演出、復活 144 フリーザ―
145 サンダー
146 ファイヤー
仌(氷)と从(従・𬽡) 真ん中にあるのが「鐘」だと思ってたけどな〜
映画版の愚者の船のグロッケン(鐘)が始めと終わりの象徴なのを見ると、真ん中が「鈴」なのかもしれないな Ship of Fools (film)
en.wikipedia.org/wiki/Ship_of_Fools_(film)
「愚者の船」から出た最後の乗客はグロッケンで、映画の冒頭で彼がしたように、カメラに直接話しかけます。
グロッケンはこの映画の観客に、「これが私たちに何の関係があるの?何も関係ない」と考えているのかと尋ね、冷笑的な否定的な笑みを浮かべて宣言し、群衆の中に退場した。 鈴が鐘になるってことは殻を破るってことだから、卵から出てオスかメスか判るってことだ
鈴ってのはだからグレーの暗喩でもある ただフリーザーの戦闘力が53万なのを考えると、>>871の並びは逆に見えないことも無い
まあでもファイヤーが火刑(地獄)なのは確実だとは思うがね 氷山はタイタニックを沈めた
これにも繋がるか
グリーンフラッシュのおさらい
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1701820724/288-295 >>877
>昨日の青(男)と黄(女)のシンボリズムもすぐ役に立ちましたね
これは青騎士のフランツ・マルクのwikiからね↓
フランツ・マルクのおさらい
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1701820724/164-177 とにかく真ん中が鈴なのか鐘なのか
これは要考察だな
51は鈴木だから普通に考えりゃ鈴で、落ちれば鐘になるだろって話だが
鐘は始まりと終わりにも鳴るし、昼のチャイムもあるからな
鈴がどういう扱いになるのか迷うところ 油煙と松煙(黒いダイヤ)で考えれば解けるか・・・! フリーザーは油煙墨、サンダーは松煙墨、ファイヤーは洋煙墨
ちげーねえ 0027 青火 ◆xgKzWyAAH4vO 2024/03/13(水) 13:02:57.43ID:DdidUVKJ
グルグルの12巻にベルの木が出てくる
ベルの木のベルを売ってるのは地の王の娘
売り買いで考えりゃ親の地の王はベルを買う、ベルの所有者と考えることが出来る
天が鈴木、地が鐘木ってことだわな
ついでに地の剣は有線で鎖に繋がれた犬に見えるから「犬の剣」とも作中では言われている このときモンスターのタテジワネズミたちが来てたから、ベルの木のベルの音がネズミの鳴き声のように変わっていた
鐘の音がネズミの鳴き声ってのも重要そうだな 「無」と「舞」のおさらい
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1695945581/493-497
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1697843870/906-907
岩戸伝説のおさらい
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1697843870/477-486
ベンヌ(フェニックスのモデル)は「鮮やかに舞い上がり、そして光り輝く者」
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1700216405/283-286
死の舞踏のおさらい
kizuna.5ch.net/test/read.cgi/sky/1703629061/159-164 >>758の1枚目を少し訂正
七 福 神 の 由 来
www.kotobuki-p.co.jp/fukujin/shichi.htm
>弁財天は、七福神の中で、唯一の女神で、元はインド河(水)の神であったが、
>やがて音楽の神、言語の神となり日本に伝わった当初は、弁才天と呼ばれた。
>その後、財宝・芸術に関係深い吉祥天の性格が吸収され弁財天といわれるようになり、
>財宝を授けてくださる神へとなったものである。知恵財宝、愛嬌縁結びの徳があるといわれている。
この記述をソースにしてたが、正確には違った↓
弁財天とは | ペコ丸の古典芸能よもやま話
www.s-bunsan.jp/choeiza/column/column2021-1
弁財天と弁才天
このように、本来は才能をもたらす「弁才天」でしたが、
のちに財をもたらす福神として信仰される宇賀神と習合することで、
財福の神ともなった「弁才天」は「弁財天」と表記されるようになり、江戸時代ごろにはこの書き方が広く定着したようです。 海から生まれた 美の女神ラクシュミー
isumu-shop.jp/contents/discover-11.html
どちらが七福神の一員? 吉祥天と弁財天
七福神の女性の神様といえば弁財天ですが、昔は弁財天ではなく吉祥天がその一員でした。
奈良時代から平安時代にかけて、貴族たちは吉祥天と弁財天を美しい女性の仏として好んでおり、同一視していたのです。
ところが鎌倉時代以後、日本の神様と仏が同一のものとなる神仏習合が盛んであった頃、
鎌倉時代に信仰の高まりをみせていた弁財天は庶民に強く支持され、市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)や宇賀神(うがじん)と習合していきました。
一方、吉祥天は日本の神様と習合することができず、吉祥天信仰は後退し、弁財天信仰に吸収されていったのです。
また、七福神の座を、心優しい吉祥天が嫉妬深い弁財天に譲ったという説もあります。 弁才天が弁財天になったきっかけは吉祥天ではなく宇賀神
後に吉祥天も弁財天に習合された
だけどもともと吉祥天と弁才天は、神仏習合が始まる前の奈良時代から同一視されていたよってことだな 十二支で言えば、申と辰の位置関係かな
ki-yan.com/ki-yanstuzio/29141.html これも面白いから貼っとこう
ゴルゴナの時代が来る⁉(〇〇2ブログなのでURLは貼れないから要検索)
ローブを脱ぐと大蜘蛛の姿になりますが、その背中には古代ムー大陸時代の科学者6人と真ん中の裂け目からゴルゴナ本体の鋭い目が覗きます(・o・)
それぞれ自己紹介(お前らの名前なんてどうでも良いんだけど)。
冥王ゴルゴナとは、ゴルゴナと6人の古代人が召喚した冥界の大蜘蛛と融合した姿だったのです(どうやって…)。
―――補足という名の蛇足―――
ロト紋二部では敵の親玉であるクインゾルマの企みで、ゴルゴナは復活します。
その際に、なんと復活したゴルゴナが体から産み出すという形で、こいつらも再登場します。 まさかの再登場。ゴルゴナの部下の科学者たちです。
なぜか皆戦士風の姿で(お前らただの科学者だろ!)、
しかも微妙に強キャラ感を出しているのがなんかムカつく。1コマ目の奴なんてドレアムみたいだし。
まあ、前作を知っていればギャグ以外の何者でもない展開ですが…。
ちなみに、ゴルゴナの部下の科学者は6人いたはずですが、なぜかここには5人しかいません。
よく見ると、前作で最初にゴルゴナから切り離された頭の長い老人風の科学者がはぶられているのです。
本当になんでだ⁉ これはロト紋最大の謎かも知れません…。 https://youtu.be/8AappqtQl-Q
さくら舞い散る中に忘れた記憶と 君の声が戻ってくる
吹き止まない春の風 あの頃のままで
君が風に舞う髪かき分けた時の 淡い香り戻ってくる
二人約束した あの頃のままで
ヒュルリーラ ヒュルリーラ
さくら散る頃 出会い別れ
それでも ここまだ変わらぬままで
咲かした芽 君 離した手
いつしか別れ 交したね
さくら舞う季節に取り戻す
あの頃 そして君呼び起こす
花びら舞い散る 記憶舞い戻る ことばの歳時記
〜そわそわ〜
www.jitco.or.jp/webtomo/pdf/sowasowa_cn.pdf
日本の 3 月は、出会いと別れの季節といわれています。
卒業、就職、転居などによって、慣れ親しんだ環境に別れを告げることは、
新しい人との出会いが楽しみな一方、なぜか不安で心が落ち着かないことも多いものです。
このように、何かに気を取られて目前のことに集中できないさまや、
これといった確かな理由もないのに、ある感情や心理がわき起こり、心が定まらないさまを擬態語で「そわそわ(する)」と表現します。
昔流行った歌謡曲の中に「春なのにお別れですか」という歌詞があります。
「春」は、「満開の桜」や「希望に満ちた未来」と、どこまでも明るく美しいものを連想させる反面、
旅立ちの寂寥感や巣立ちの喪失感も同時に味わうことの多い季節ですが、それを乗り越えたところに、
今までの自分と違う成長があると信じ、前向きに歩いていきたいものです。 あっそうそう、小説版の愚者の船で一番色んな動物に例えられるキャラクターのリーバーのフルネームはジークフリート・リーバーね tadaup.jp/46771425.png
tadaup.jp/46788f00.png tadaup.jp/467a7341.png
tadaup.jp/467f032b.png tadaup.jp/46858721.png
tadaup.jp/468711eb.png
時=时=旹=文
mevius.5ch.net/test/read.cgi/utu/1710859564/555-606 宇賀神
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E8%B3%80%E7%A5%9E
宇賀神(うがじん、うかのかみ)は、日本で中世以降信仰された神である。財をもたらす福神として信仰された。
神名の「宇賀」は、日本神話に登場する宇迦之御魂神(うかのみたま)に由来するものと一般的には考えられている
(仏教語で「財施」を意味する「宇迦耶(うがや)」に由来するという説もある)。
その姿は、人頭蛇身で蜷局(とぐろ)を巻く形で表され、頭部も老翁や女性であったりと諸説あり一様ではない。 ウカノミタマ
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%AB%E3%83%8E%E3%83%9F%E3%82%BF%E3%83%9E
ウカノミタマは、日本神話に登場する女神。
『古事記』では宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、『日本書紀』では倉稲魂命(うかのみたまのみこと)と表記する。
名前の「宇迦」は穀物・食物の意味で、穀物の神である。
また「宇迦」は「ウケ」(食物)の古形で、特に稲霊を表し、「御」は「神秘・神聖」、「魂」は「霊」で、名義は「稲に宿る神秘な霊」と考えられる。
記紀ともに性別が明確にわかるような記述はないが、古くから女神とされてきた 伏見稲荷大社の主祭神であり、稲荷神(お稲荷さん)として広く信仰されている。
ただし、稲荷主神としてウカノミタマの名前が文献に登場するのは室町時代以降のことである。
伊勢神宮ではそれより早くから、御倉神(みくらのかみ)として祀られた。 『古事記』では、須佐之男命の系譜において登場し、須佐之男命が櫛名田比売の次に娶った神大市比売との間に生まれている。
同母の兄に大年神(おおとしのかみ)がいる。
大年神は一年の収穫を表す年穀の神である。 祀る神社 ※1つだけ抜粋
利神社(静岡県掛川市)
大歳神とともに祀られている。式内小社。 年神
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E7%A5%9E
年神(としがみ、歳神とも)、大年神(おおとしのかみ)は、日本神話、神道の神である。
日本神話では、『古事記』において須佐之男命と神大市比売(かむおおいちひめ・大山津見神の娘)の間に生まれた大年神(おおとしのかみ)としている。
両神の間の子にはほかに宇迦之御魂神がおり、これも穀物神である。
『日本書紀』には年神は現れない。
『日本書紀』は天皇の即位年を太歳の干支で示すが、太歳は中国で考えられた架空の天体であって年神とは異なる。 太歳
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E6%AD%B3
太歳(たいさい)は、木星の鏡像となる仮想の惑星。古代中国の天文暦学において設けられた。 木星は天球上を西から東に約12年で1周する。
そのため木星は、天球を赤道沿いに12等分した十二次を約1年に1次進むことになり、木星の十二次の位置で年を記述することが可能であった。 しかし、十二次は西から東に天球を分割したもので、地上の方位(十二支)と方向と合致した十二辰とは逆方向であった。
このため、天球上の円軌道に直径を引き、その直径を基準に木星と線対称の位置にあり、東から西へ移動する仮想の星を設定した。これが太歳である。 こうして「太歳在子(太歳が子にある年)」というように、太歳の十二辰上の位置で年を記述する太歳紀年法が用いられるようになった。
これが後に太歳とは関係なく機械的に60年1周(十二支部分は12年1周)で年を記述する干支紀年法へと発展することになる。 >>905
>利神社(静岡県掛川市)
>大歳神とともに祀られている。式内小社。
利神社 (掛川市)
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A9%E7%A5%9E%E7%A4%BE_(%E6%8E%9B%E5%B7%9D%E5%B8%82)
利神社(としじんじゃ、英語: Toshi Jinja)は、静岡県掛川市の神社である。
祭神
・大歳神
・宇加之御魂神 大歳神
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%AD%B3%E7%A5%9E
大歳神
・大年神(おおとしのかみ)。日本神話の神。
・太歳神(たいさいしん)。陰陽道の神。 >>906
>年神(としがみ、歳神とも)、大年神(おおとしのかみ)
大歳神(おおとしのかみ)とも書くってわけね
で、太歳神(たいさいしん)はまた別と 太歳神
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E6%AD%B3%E7%A5%9E
太歳神(たいさいしん)とは、陰陽道における8人の方位神(八将神)のひとり。
暦本によってはだいさい・太さいと書くものもある。
同じ八将神の一人である太陰神の夫ともされ、仏教における本地仏は薬師如来とされる。 太歳神は、木星(歳星)の精とされ、1年の四季において万物の生成をつかさどるという。
また、君主的な立場にあり、八方に影響力を持つとされる。
木星の精とされることから、樹木や草に関する性格を持っており、
太歳神の位置する方位に向かって、樹木や草木等を植えつけることなどは吉であるが、樹木の伐採や草刈りなどは凶とされる。 また、君主的な立場にある神であることから、争いごと(訴訟や談判など)や葬儀・解体などは疫災にあうとされるが、
貯蓄や家屋の建築や増改築、移転、商取引、結婚、就職などは大吉とされる。
太歳神の在位する方角は、その歳の十二支の方位と同じ方角となる。 太歳星君
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E6%AD%B3%E6%98%9F%E5%90%9B
太歳星君(たいさいせいくん)は、中国の民間信仰や日本の陰陽道で祀られる歳星(=木星)の精としての神。太歳、太歳元帥、太歳神とも。
祟り神でもあり、中国の天文官達は太歳星君のもたらす災いをさけるため、とりわけその年の太歳の方位に注意したという。
太歳を恐れる信仰は長く、古くは後漢の王充が『論衡』で取り上げている。
太歳は天上の木星と呼応して土中を動く肉の塊として考えられ、住居を建設するときは決してこれを犯してはならないとされた。
『太平広記』には、太歳の祟りを信じず地下から掘り起こしたために一族滅亡となった家の説話が記されている。 この太歳信仰を人格化したのが太歳星君であり、首に多くの髑髏を下げ、金鐘を手にした三面六臂の姿で語られることが多い。
またその名は『道法会元』や『三教捜神大全』他、多くの文学資料で殷郊または殷交(殷元帥)だとされている。
『三教捜神大全』には太歳殷元帥の項があり、
それによると殷の紂王の子で、母親の姜皇后が巨人の足跡を踏んだことで孕み、産み落とした肉球を切り裂いたところ誕生したという。
後に周の武王が紂王を討つのを援けたため、玉帝によって太歳神の位に封じられた。 民間においても太歳星君は凶神の代表格とされ、その意味でももっとも恐れられた神格である。
諺
・太歳頭上動土 - 身の程知らずの行為をすること >>907
>太歳(たいさい)は、木星の鏡像となる仮想の惑星。
これが一番分かり易いね
艮の金神(うしとらのこんじん)、艮部(ごんぶ)、根、木星の鏡像
>>758にヒントというか答えがありますな 十二次(じゅうにじ)と十二辰(じゅうにしん)も要チェックやな
時刻と時間
月の裏に居る神と木星も繋がった
ワンパンマンはなぜこうまでリンクしてるのか(笑) 作者こういうの詳しいの?w ウイルスという存在
kagakubar.com/virus/16.html
第16話 宿主の行動を操るウイルス
今回は、ウイルスが自分自身の繁殖に有利になるように、宿主動物の行動を操作するという話を紹介しよう。
◎カイコ幼虫の行動を操作するバキュロウイルス
ハリガネムシという類線形動物門に分類される寄生虫がいる(図16-1)。
彼らは水中で交尾産卵し、孵化した幼生はカゲロウやユスリカなど水生昆虫の幼虫に捕食される。
幼生は昆虫の幼虫のおなかの中で成長し、そこでシストという休眠状態に入る。
カゲロウやユスリカは成虫になると、陸に飛び立っていくが、ハリガネムシのシストをもった成虫はカマキリなどに食べられる。
ハリガネムシはカマキリの体内で大きく成長するが、ハリガネムシはこのままでは繁殖できない。彼らは水中でしか繁殖できないのである。 そのために、ハリガネムシは宿主の行動を操作して、カマキリが入水自殺するように仕向けているのだ。
ハリガネムシは宿主の脳を操って、カマキリが水面の光っている水辺に近づいたらそこに飛び込むように仕向けていると考えられる。
こうしてハリガネムシは図16-1のように宿主の体内から水中に飛び出し、その生活環は一巡することになる。
このように寄生虫が宿主の脳を操って、自分の繁殖に都合が良いような行動をとらせるという例はたくさん知られているが、
実はウイルスにも同じような繁殖戦略をとるものがいる。 バキュロウイルスの所は割愛でいいかな
伝えたいのはここじゃないからね ◎寄生バチの侵入を阻止するウイルス
前回は寄生バチがポリドナウイルスを使って寄生を防ごうとする宿主の免疫機構から逃れたり、
宿主が蛹化することを妨げてハチの幼虫が無事に成長できる環境を整えていることを紹介した。
もちろん宿主の側もやられっ放しというわけではない。 コマユバチ科の寄生バチにエンドウヒゲナガアブラムシ(Acyrthosiphon pisum)というアブラムシに寄生するアブラバチ(Aphidius ervi)がいる。
このアブラムシはハミルトニア(Hamiltonella defensa)という共生細菌をもっている。
この共生細菌がいると、寄生バチが卵を産みつけてもこの細菌から分泌される毒素によって寄生バチの幼虫は死んでしまうのだ。
“defensa”という種名は、攻撃からアブラムシを守ることからきている。 ところが詳しく調べてみると、実は毒素を分泌しているのは“defensa”細菌ではなく、
APSE(Acyrthosiphon pisum secondary endosymbiont;「エンドウヒゲナガアブラムシの2次共生者」という意味)というファージ、
つまりこの細菌に感染しているウイルスだった。 アブラムシを寄生バチから守るウイルスAPSE(Acyrthosiphon pisum secondary endosymbiont)
この「APSE」を調べる apseとは
eow.alc.co.jp/search?q=apse
1.《教会》後陣、アプス◆可算◆祭壇の後ろ。キリスト教会の構造は入り口から、nave(身廊、参拝者の椅子が並んでいる場所)、chancel(内陣、祭壇の周囲・牧師の席)、altar(祭壇)、apse, naveの奥横にtransept(袖廊、左右の廊)。
2.軌道極点◆【同】apsis apseとは 意味・読み方・使い方
ejje.weblio.jp/content/apse
意味・対訳 後陣 apse
www.ei-navi.jp/dictionary/content/apse/
アプス
特に教会の東にある建物から引っ込んだ、あるいは突き出したドーム形やアーチ形の部分。通常祭壇を含んでいる。
apsis
www.ei-navi.jp/dictionary/content/apsis/
同上 アプス
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%97%E3%82%B9
アプス (apse)、またはラテン語で absis、または後陣は、壁面に穿たれた半円形、または多角形に窪んだ部分である。
ローマ建築に起源を持ち、宗教建築・世俗建築の双方において見られる。
教会建築では、教会堂の内陣の東端に設けられた至聖所の一部として設けられることが多く、一般に教会堂外部に張り出して半ドームを架ける。
パナギアがイコンとして描かれることが多い。 パナギア
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%8A%E3%82%AE%E3%82%A2
パナギア(ギリシア語: Παναγία)とは、ギリシャ語で「全き聖」を意味する、生神女マリヤ(聖母マリア)の称号の一つ。
日本正教会では「至聖女」(しせいじょ)とも訳される。 また、この称号に由来する名称を持つものとして、
生神女マリヤのイコンのうち特定の種別のもの、
正教会の主教が用いるペンダント状の装身具、
聖体礼儀に用いられる特定のパンの名称、
ギリシャのハルキディキ県やキプロスなどにある地名があり、
この名を以て生神女マリアを記憶する正教会の聖堂(パナギア聖堂・至聖女聖堂)も多数存在する。 パナギアは、生神女の特定のイコンを指す事がある。
このイコンにおいて生神女は、イコンを見る者に直接に相対し、ふつう、「オランテ」の形に完全に伸ばされた手の形で描かれ、
胸には円形の中に子どもの姿のイイスス・ハリストス(イエス・キリストのギリシャ語読み)が描かれる。
この円形は象徴的に、藉身(せきしん…ハリストスが人性をとり降誕した事をいう)の時に、生神女の子宮の中にいるイイススを表現している。 このイコンの型は、時々「プラティテラ」(ギリシア語: Πλατυτέρα、「広い」「広々とした」の意)と呼ばれる。
宇宙の創造者(ハリストスのこと)が生神女の子宮に入ったことから、
生神女マリアは詩的に「天より広きもの」(ギリシア語: Πλατυτέρα τῶν Ουρανῶν)とも呼ばれる。 また、この型のイコンはイザヤ書7章14節の降誕の預言に関連して「しるしの生神女」とも呼ばれる。
このイコンはしばしば、正教会の聖堂のアプスに配置される。 殆どのマリアのイコンと同様、ΜΡ ΘΥ("ΜΗΤΗΡ ΘΕΟΥ"、すなわち "神の母"の短縮形) の文字が、童貞女マリアの光背の、上部左右に描かれる。
装身具
正教会の主教が着用する、生神女のイコンを伴った首から掛ける飾りも、原義から拡張されてパナギアと呼ばれる。 祝福されたパン
パナギアは、プロスフォラ(パナギアのアルトス、ギリシア語: αρτος της παναγιας)も指す。
厳粛に生神女に崇敬を込めて聖体礼儀中に祝福されたパンである。
地名・人名・聖堂名
「パナギア」と名付けられた多くの島や村がギリシャおよびキプロスに存在する。
これらの多くは、現地において生神女に捧げられた聖堂もしくは修道院の名前に由来するものが多い。 生神女
ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E7%A5%9E%E5%A5%B3
生神女(しょうしんじょ)とは、「神を生みし女」を意味する、正教会におけるイエスの母マリアに対する敬称。
一般に言われる聖母マリアの事であるが、
日本正教会では聖母という表現は用いられず専ら「生神女」「生神女マリヤ」「生神女マリア」との表現が用いられ、
生神女マリアを単に聖母マリアという語に限定してしまうのは誤りであるとされる。 正教会では生神女マリヤを神の母・第一の聖人として位置付けている。
訳語の概要
「生神女」の原語はギリシャ語「Θεοτόκος」(セオトコス)であり、これは「神(Θεός:セオス)を産んだ者(τόκος:トコス)」という意味である。 つまり「神を産む者」という称号であるがゆえに男性形語尾を保つ女性名詞であるが、
それが教会スラヴ語で
「Богородица」(ボゴロージツァ)(「神(Бог:ボーク)を生む女(родица:ロージツァ)」の意)
と翻訳された事を反映し、「生神女」と訳された。 日本ハリストス正教会では「聖母」という語は用いない。
「生神女」「神の母」「永貞童女(「処女のままであった女」の意)」「童女」「童貞女」「女宰(じょさい)」「女王(にょおう)」といった表現が祈祷書には用いられており、
日常的にも生神女マリヤと呼ばれる。 これらの訳語が用いられる理由としては ※1つだけ抜粋、全部見たい人は>>945の生神女のwikiを確認
・「聖なる母」は1人ではない(例は多数あるが、例えば生神女の母アンナも聖人であり、「神の祖母」と正教会では呼ばれる。 神の母
ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E3%81%AE%E6%AF%8D
キリスト教の用語でイエス・キリストの母マリア(聖母マリア)に対する称号。
マリアが神の母であるとは、キリストの神的位格(υπόστασις)を生む母であることを意味し、
キリストを神の本性(φύσις)において生んだ母という意味ではないとしている。
ここでいう位格(自立存在ともいわれる)とは、他の存在に依存することなく存在するものをいう。
アレクサンドリアのアタナシオスはマリアをロゴス(λόγος:神の御言葉)の母と称していた。
つまり、マリアは神の位格のひとつロゴス(子なる神、神子:かみこ)の母であるとの意味である。 >>950
>マリアをロゴス(λόγος:神の御言葉)の母と称していた。
キリスト=言葉=音とも考えられるな 続き
これに対して、コンスタンディヌーポリ総主教のネストリオスは、
この称号を否定して人的位格を生んだクリストトコス(Χριστοτόκος:救世主(Χριστός)を産む者(τόκος))という新たな称号を提唱し、
聖人ではあるが神の母ではないと主張した。
この争いを調停するため、エフェソス公会議が召集され、ネストリオスの教義は異端と宣告され、マリアが神の母であることが宣言された。 エレウサ
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%A6%E3%82%B5
エレウサ(ギリシア語: Ἐλεούσα, ロシア語: Елеуса - 『優しさ』『憐れみをあらわす』の意味)とは、
生神女を描いた正教会のイコンの種別の一つ。
イイスス・ハリストスが生神女マリヤに頬を寄せている姿で描かれている。
ウラジーミルの生神女やポチャイフの生神女がこの種のイコンでよく知られたものである。
このイコンは人々に対する神の愛の最高のしるしとしてのイイススの犠牲を象徴し、
イイススおよび全ての人に対する生神女マリヤの慈愛と、イイススがこれから受ける受難を想っての嘆きと忍耐を表している。
正教会の伝統においては、「エレウサ」は、マリヤについて述べたり讃えたりする際の称号としても用いられていた。 アブラムシを寄生バチから守るウイルスAPSE(Acyrthosiphon pisum secondary endosymbiont)
↓
アプス (apse)、またはラテン語で absis、または後陣は、壁面に穿たれた半円形、または多角形に窪んだ部分である。
パナギアがイコンとして描かれることが多い。
↓
パナギア(ギリシア語: Παναγία)とは、ギリシャ語で「全き聖」を意味する、生神女マリヤ(聖母マリア)の称号の一つ。
日本正教会では「至聖女」(しせいじょ)とも訳される。
このイコンの型は、時々「プラティテラ」(ギリシア語: Πλατυτέρα、「広い」「広々とした」の意)と呼ばれる。
宇宙の創造者(ハリストスのこと)が生神女の子宮に入ったことから、
生神女マリアは詩的に「天より広きもの」(ギリシア語: Πλατυτέρα τῶν Ουρανῶν)とも呼ばれる。
また、この型のイコンはイザヤ書7章14節の降誕の預言に関連して「しるしの生神女」とも呼ばれる。
このイコンはしばしば、正教会の聖堂のアプスに配置される。 アブラムシを守るウイルスとなんとなく繋がるよね
もしかしてウイルスの命名者がキリストを守るマリアをイメージして付けた略称なのかもしれない
和名が油虫くらい分かってるだろうしね そしてここからは、そういうまともな推測が及ばない偶然の一致を書いて行こう >>937
アプスのwikiの一番上
この項目では、建築構造について説明しています。
・シュメール神話・アッカド神話の淡水の神については「アプスー」をご覧ください。
・星座については「ふうちょう座」をご覧ください。 アプスー
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%97%E3%82%B9%E3%83%BC
アプスーまたはアプス(apsû、abzu)は、シュメール神話・アッカド神話において存在していたと伝えられる、地底の淡水の海のことである。
湖、泉、川、井戸その他の淡水は、アプスーが源であると考えられていた。 淡水の神ってだけでもう重要なのは分かるよね
かれこそは、二つの海を分け隔てられた御方である。一つは甘くして旨い、外は塩辛くして苦い。両者の間に障壁を設け、完全に分離なされた。
つまり淡水とは、甘くも旨くもなく、辛くも苦くもない、中間の水ってことだ >>958
続き
シュメールの神であるエンキ(アッカド語ではエア)は、人間が創造される以前からアブズ(アッカド語ではアプスー)の中に住んでいたと信じられていた。
他に、エンキの妻ダムガルヌンナ、母ナンム、助言者イシムード、また門番のラハムをはじめとする様々な下僕が、アブズ(アプスー)の中に住んでいた。 神としてのアプスー
アプスーは、アッシュールバニパルの図書館から写本が出土した、バビロニアの創世記神話である『エヌマ・エリシュ』においてのみ、神として描かれている。
『エヌマ・エリシュ』において、アプスーは、最初に淡水から生じた神であり、塩水から生じた女神ティアマトの伴侶である。
『エヌマ・エリシュ』の冒頭は、「上にある天は名づけられておらず、下にある地にもまた名がなかった時のこと…」で始まっており、
淡水の海アプスーが存在し、「第一の者、すべてのものの父親」とされていたと続く。
そして、すべてを生み出す母、塩水の海ティアマトとともに、互いに水をかき混ぜあっており、
作物を生む地面はおろか、葦の生える沼地ですら存在しなかった、と伝える。 アプスーは、後のメソポタミアの神エンキ(エア)の原型であると考える見方もある。
アッカド帝国および新バビロニアにおいて、神エンキは、神エアと同一視されていた。
新しい支配者たちは、祭祀においては以前から存在していた神アプスーを外形的にいれながらも、存在感を薄めるという方法により「征服」を行ったのである。 >>957
次はこれ!
>・星座については「ふうちょう座」をご覧ください。 ふうちょう座
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%B5%E3%81%86%E3%81%A1%E3%82%87%E3%81%86%E5%BA%A7
ふうちょう座(ふうちょうざ、Apus)は現代の88星座の1つ。
16世紀末に考案された新しい星座で、「極楽鳥」の通称でも知られるフウチョウをモチーフとしている。
天の南極近くに位置し、人が常在する日本国内の島全てからその一部さえも見ることができないため
「日本から全く見えない星座」の1つとされるが、沖ノ鳥島では ζ星など星座の一部が水平線よりも上に上がる。 由来と歴史
ふうちょう座は、1603年にヨハン・バイエルが出版した星図『ウラノメトリア』で世に知られるようになったためバイエルが新たに設定した星座と誤解されることがあるが、
実際は1598年にフランドル生まれのオランダの天文学者ペトルス・プランシウスが、
オランダの航海士ペーテル・ケイセルとフレデリック・デ・ハウトマンが1595年から1597年にかけての東インド航海で残した観測記録を元に、
オランダの天文学者ヨドクス・ホンディウスと協力して製作した天球儀に翼も脚もない鳥の姿を描いたことに始まる。 この星座のモチーフとされたのは、ニューギニア島の固有種で「極楽鳥」の通称でも知られるフウチョウである。
フウチョウが西洋に初めてもたらされた16世紀頃は、生きたまま西洋まで連れてくることができず、翼も脚ももがれた剥製として紹介された。
そのため、この鳥は一生枝に止まらず風に乗って空を飛び続けるものと誤解され、
ラテン語で「楽園の鳥」を意味する Avis paradiseus として紹介されていた。 現在のふうちょう座の学名は Apus だが、ラテン語で「フウチョウ」を意味する Apus または Apous、「鳥」を意味する Avis の綴りが
それぞれ「蜜蜂」を意味する Apis と似ているため、17世紀から18世紀にかけての星図や星表に数々の綴り誤りが生まれた。 プランシウスは、1598年に製作した天球儀にオランダ語とラテン語で星座名を書き記していたが、
この星座に対してはオランダ語で「極楽鳥」を意味する Paradysvogel と書きながら、
ラテン語では「インドの蜜蜂」を意味する Apis Indica と書き記している。
これは、ラテン語で「鳥」を意味する Avis を「蜜蜂」を意味する Apis と間違えて綴ったものとされる。 このプランシウスの誤りは、ホンディウスが1600年と1601年に製作した天球儀にもそのまま引き継がれた。
そして、ヨハン・バイエルがこれらの天球儀からデータをそっくり写して作成した星図『ウラノメトリア』で APIS INDICAと誤りをそのまま引き継いだ結果、
1621年にアイザック・ハプレヒト2世が製作した天球儀で Apis Indica、
1624年にヤコブス・バルチウスが著した天文書『Usus astronomicus planisphaerii stellati』で APOVS & Apis seu avis Indicaと記されるなど、
17世紀初頭のしばらくの間誤った星座名が使われることとなった。 この時期でも例外的に正しい星座名が使われた事例もある。
たとえばオランダの天文学者ウィレム・ブラウは、1602年に製作した天球儀ではラテン語で「インドの蜜蜂」を意味する Apes Indica と記していたが、
1603年に製作した天球儀では1598年から1602年にかけて第二次観測を行ったデ・ハウトマンの観測記録を元に修正を加え、
ラテン語で「インドのフウチョウ」を意味する Apous Indica と改訂した。 またデ・ハウトマンも、1603年に製作した星表でオランダ語で「極楽鳥」を意味する De Paradijs Voghel とした。
ただしこの星表は、オランダ語のマレー語辞典の付録として掲載されたため、広く天文学者の間で知られることはなかった。 天文学者に使用されるような星表では、
1627年にヨハネス・ケプラーが刊行した星表『ルドルフ表 (羅: Tabulæ Rudolphinæ)』でようやく Apus, Avis Indica と正しく記された。
星図・星表で ApusまたはAvis Indica の名称が用いられた。 1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、
星座名は Apus、略称は Aps と正式に定められた。
新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。 ラカイユによって切り取られたふうちょう座の「尾」
現在のはちぶんぎ座のδ星・π1星・π2星・ρ星・ω星は、『ウラノメトリア』ではふうちょう座の一部とされていた星であった。
フランスの天文学者ニコラ=ルイ・ド・ラカイユは、1751年から1752年にかけてケープタウンでおこなった観測の記録を元に
14個の星座を考案し、1756年に刊行された1752年版のフランス科学アカデミーの紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載された星図にこれらの星座を描いた。 そのうち、天の南極を取り巻く新星座 l’Octans de Reflexion(反射式八分儀)を設ける際に、
ふうちょう座の尾に当たる部分の星を切り取って新星座の一部とした。
このラカイユによる新たな区分が後世の天文学者たちにほぼそのまま引き継がれたため、ふうちょう座の尾は短く切られたままとなった。 中国
ふうちょう座のζ・ι・β・γ・δ1・η・α・εの8星は、はちぶんぎ座δ星とともに「異雀」という星官に配された。
呼称と方言
日本では明治末期には「風鳥」という訳語が充てられていた。
1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「風鳥(ふうてう)」として引き継がれ、
1944年(昭和19年)に天文学用語が見直された際も「風鳥(ふうてう)」が継続して採用された。
戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」とした際に、
Apus の日本語の学名は「ふうちよう」と改められた。
1974年(昭和49年)1月に刊行された『学術用語集(天文学編)』では仮名遣いが改められ「ふうちょう」が星座名とされた。
この改定以降は「ふうちょう」が星座名として継続して用いられている。
現代の中国では天燕座と呼ばれている。 >>975
>現在のはちぶんぎ座のδ星・π1星・π2星・ρ星・ω星は、『ウラノメトリア』ではふうちょう座の一部とされていた星であった。
はちぶんぎ座
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E3%81%A1%E3%81%B6%E3%82%93%E3%81%8E%E5%BA%A7
はちぶんぎ座(はちぶんぎざ、Octans)は、現代の88星座の1つ。
18世紀半ばに考案された新しい星座で、航海や測量に用いられる八分儀をモチーフとしている。
天の南極とその周辺を領域としており、日本からは星座の一部すら見ることができない。 肉眼で見ることが可能な恒星としては21世紀現在最も天の南極の近くに位置するσ星には、
ラテン語で「南極星」を意味する「ポラリス・アウストラリス (Polaris Australis)」という固有名が付けられている。 なるほど、確かにはちぶんぎ座σ(シグマ)星は南極星だな
南極星
ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%A5%B5%E6%98%9F
現在の南極星
・はちぶんぎ座σ星(英: σ Oct、視等級5.42等級) >>979
続き
他に以下の天体がある。
α星:見かけの明るさ5.13等の5等星。ギリシア文字の「α」が付けられた星としては最も見かけの明るさが暗い。
δ星:橙色巨星。土星の南極星。
ν星:見かけの明るさ3.728等の4等星。はちぶんぎ座で最も明るい恒星。 >>975
>現在のはちぶんぎ座のδ星・π1星・π2星・ρ星・ω星は、『ウラノメトリア』ではふうちょう座の一部とされていた星であった。
>>981
>δ星:橙色巨星。土星の南極星。
切り取られたふうちょう座の「尾」に土星の南極星(はちぶんぎ座δ星)があるのも意味深だな
サターンの尾か ふーん はちぶんぎ座のwikiの続き
由来と歴史
この星座のモチーフとされた八分儀は、天体の水平線からの高度や離角を観測するために用いられた測角器である。
角度45°の扇型の本体に2枚の平面鏡が取り付けられた構造となっており、1730年にイギリスのジョン・ハドリーによって発明された。 ちぶんぎ座は、18世紀半ばにニコラ・ルイ・ド・ラカーユによって考案された。
初出は、1756年に刊行された1752年版のフランス科学アカデミーの紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載された星図で、
八分儀の星座絵とフランス語で「反射式八分儀」という意味の l’Octans de Reflexion という名称が描かれていた。 天球上のこの領域は、
16世紀末にペーテル・ケイセルやフレデリック・デ・ハウトマン、ペトルス・プランシウスらが考案したみずへび座の一部分とされていたが、
ラカーユは天の南極の部分を切り取ってはちぶんぎ座の領域とした。 ラカーユの死後の1763年に刊行された著書『Coelum australe stelliferum』に掲載された星図の第2版では、
ラテン語で「八分儀」を意味する Octans と変更された。
1801年にドイツの天文学者ヨハン・ボーデが刊行した『ウラノグラフィア』では「航海用八分儀」を意味する Octans Nautica と改名されたが、
1879年にベンジャミン・グールドが刊行した『Uranometria Argentina』では、ラカーユの Octans に戻されている。 1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、
星座名は Octans、略称は Oct と正式に定められた。
新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。 呼称と方言
天文同好会の山本一清らは、既にIAUが学名をOctansと定めた後の1931年(昭和6年)3月に刊行した『天文年鑑』第4号で、
星座名を Octans Hadleianus 、訳名を「ハドレイの八分儀」と紹介し、以降の号でもこの星座名と訳名を継続して用いていた。 このハドレイってのは、八分儀の発明者から採ってる
>>983
>1730年にイギリスのジョン・ハドリーによって発明された。 Octans.(オクタン)
web.pa.msu.edu/people/horvatin/Astronomy_Facts/constellation_pages/octans.htm
1752 年にニコラ・ルイ・ド・ラ・カイユによって作成されました。
元々は、天文学者と航海士の両方によって使用されたジョン・ハドレーによって作成された発明に敬意を表して、
オクタンス・ハドレイアヌス、ハドレーのオクタントと呼ばれていました。
この星座は南半球でのみ見ることができ、天の南極を覆う星も含まれています。 >>990
>天文学者と航海士の両方によって使用されたジョン・ハドレーによって作成された発明
八分儀は天文学者と航海士の両方によって使用された
これも重要かもな
略称のOctは当然Octoberの略でもあるよな
October
ja.wiktionary.org/wiki/October あとはオクタンからポケモンにも繋がるな
なんでテッポウオからタコに進化するんだよとか考察し甲斐がありそうだが、今回はスルーしよう 次はいよいよふうちょう座のモデルのフウチョウと行こうか!
土星の南極星(サターンの尾)を切り取られたというふうちょう座の謎が解けるかもしれん! フウチョウ科
ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A6%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6%E7%A7%91
フウチョウ科(フウチョウか、Paradisaeidae)は、鳥類スズメ目の科である。
フウチョウ(風鳥)と総称される。
ゴクラクチョウ(極楽鳥)の別名でも知られるが、正式な和名としては採用されていない。
パプアニューギニアでは国鳥とされている。 オーストラリア区の熱帯に生息し、特にニューギニア島には多数の固有種が生息する。
雄の成鳥が美しい飾り羽を持ち、繁殖期に多彩な求愛ダンスを踊ることで知られる。
雌の成鳥は地味な外見をしている。 名称
16世紀、ヨーロッパに初めてオオフウチョウがもたらされた時各個体は、剥製にする際に交易用に翼と足を切り落とされた状態で運ばれていた。
そのため、この鳥は一生枝にとまらず、風にのって飛んでいる bird of paradise (天国の鳥)と考えられた。
また、その昔風をえさにしていたとされることから「風鳥」と名づけられた。 ふうちょう座のwikiでも気になってた人多いだろう
風鳥(フウチョウ)には「足が無い」と思われていたというエピソード
そして「天国の鳥」「極楽鳥」という別名 >>995
>雄の成鳥が美しい飾り羽を持ち、繁殖期に多彩な求愛ダンスを踊ることで知られる。
>>746
>そして彼女は、一本の筋肉をうごかすこともできずに、根が生えたようにつっ立っている自分の腰を彼が抱きすくめるのを感じた。
>>748
>「わたし、踊れないの」と彼女は、おびえて、小さな子供のように小声でいった。
>「だめ、だめなの――踊れないの」 >>749
>「脚があるひとならだれだって踊れますよ!」
>そして彼は、重すぎて土台から押し動かすことのできない不動の物体を抱きながら、ひとつ場所で踊るというはなれ技を披露した。 さあでは次スレで「風鳥」の対の「雷鳥」を調べるとしますか!!! このスレッドは1000を超えました。
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