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■ついに最高速度250km/hの車両まで

勢いに乗ったシュタドラー社は、1997年には同じスイスのシンドラー・ワゴン社を買収、
翌1998年にはシュルツァー社より、スイスの登山鉄道では欠かせない歯車軌条(ラック&ピニオン)システムの技術部門を買収したが、
元を辿ればこれはスイスの老舗メーカーSLM社からの技術だ。

2000年には、本格的な国際展開を行なうため、アドトランツ社と合弁事業を展開、
ベルリンのパンコウを本拠地に持つシュタドラー・パンコウを設立した。
2001年には、工場の一部と本社機能をベルリンへ移している。

その後はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、
2005年にハンガリー、2006年にポーランド、2008年には初の欧州以外の拠点となるアルジェリアに進出している。

2010年には、同社初の2階建て車両Kissが誕生すると、すぐに各国で採用されるなど人気を博す。
2013年にはオランダのフォイト・レイルサービス社を、
2015年にはスペインを拠点としたフォスロ社機関車製造部門を立て続けに買収した。
こうした事業拡大は、かつてのビッグ3を彷彿とさせる。

創業当時、バッテリーやディーゼルを動力源とする小型機関車だけだったラインナップは、買収と共にその数を増やしていき、
創業74年目となる今年2016年には、ついに最高速度250キロの中速列車(準高速列車)、スイス連邦鉄道向けEC250型をInnoTransへ出展するに至った。

これで同社は、長距離列車から都市近郊の通勤電車やトラム、貨物用の機関車に至るまで、ほぼすべてのカテゴリーをそろえたことになる。
また地元スイスにおいては特に重要な、急勾配区間用の歯車式軌条の技術も取得しており、ほとんどの登山鉄道で同社の車両が採用されている。


得意の低床構造で高い信頼性

今回、InnoTransへ実際に出展された車両のうち、特に注目を集めていた車両は、もちろんEC250型車両だろう。
同車両は、2016年12月に正式開業する予定のゴッタルド基部トンネルを通り、
スイス各都市とイタリアを結ぶルートで運行させるための車両として、シュタドラー社が受注したもので、もちろん同社初の中速車両となる。

とはいえ、これまで蓄積されてきた豊富な技術的ノウハウはもちろんのこと、
同社が躍進するきっかけとなったGTW2/6以来、得意とする低床式連接構造を採用しており、性能や信頼性に不安はない。

連接構造を採用した優等列車というと、フランスのTGVやイタリアのイタロに採用されたAGVを思い浮かべる。
いずれもフランスのアルストム社が製造しており、
前者は旧来の動力集中方式(前後の機関車が牽引・推進する)を採用する一方、
後者は日本の鉄道車両と同様の動力分散方式(いわゆる一般的な電車方式)を採用した。

世界的な流れとして、性能やエネルギー効率の面から、最近は各国とも動力分散方式を採用する傾向だが、
フランス国鉄SNCFへの取材の中で、同社は今後も引き続き、動力集中方式のTGV(Duplex)を導入していくとの見解を示している。
動力分散方式を採用し、次世代の高速車両として華々しく誕生したAGVだが、床下に機械を満載している関係で、低床化ができない点を指摘されていた。
ホームの高さが低いフランス国内の駅では、バリアフリーに対応ができないなどの理由で、AGVの本国での採用は見送られ、今後も採用予定はない。

EC250型は、動力分散方式を採用しつつ、これまで同社が扱ってきた低床式近郊電車のノウハウを活用、
長距離用中速車両ながら低床化を実現、バリアフリーにも対応している点は特筆に値する。

(続く)