田中れいなちゃん主演の小説を書いた
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二十時をまわったあたり、新宿歌舞伎町の一角を少女が歩いていた。何かから逃げるように、それでいて何かを待つような足取りだった。
少女の目が喫茶店を向く。看板には【麗奈(れいな)】と描かれていた。足が自然と店へ向いた。
店内に入ると客は彼女だけだった。
少女がカウンター席に腰をおろすと、奥から女性が出てきた。
「珍しいお客さんっちゃね」
少女は一瞬びくりと体を震わせる。
「注文決まったら言ってね」
「あの、追い返さないんですか?」
「え? なんで?」
「だって、私まだ中学生だし」
「ああ。子供でも客は客ったい」
その屈託のない笑みを見て、ある意味自分よりも幼いんじゃないか、と少女は思った。
「店の名前、もしかしてお姉さんの?」
「うん。なんかいな――迷った挙句、自分の名前にしたと」
「素敵だと思います。……私もお姉さんみたいに可愛くて自分の店をもてるくらいしっかりしてたら…………」
少女の目が虚ろになる。 「私、家出したんです」
「なんか不満があると?」
「いえ、これといって。でもなんか、なんか、嫌になって」
「へー、思春期あるあるっちゃね」
「お姉さんにもありますか? そういうの」
「うーん、れいなはちょっと違うけど、まあ」
「そうですか……。私、今は凄く家に帰りたい」
「帰ればいいっちゃない?」
「できません。迷惑かけちゃうから」
「なんで?」
少女は何も答えずに俯き、首を横に振った。
「言いたくないならいいっちゃけど、」
少女の顔が女性を向く。
「神様は不平等です。でも、死は平等だから……」
「君、死ぬ気?」
「今日、神様が助けてくれないなら」
「そうったい。でもまあ多分、何もしてくれんっちゃない神様」
「ですよね……すいませんでした。もう行きます」
そう言って少女は店を後にした。 少女はハイエースの助手席の窓から夜景を眺めていた。
運転席にはセットアップのジャージを着た男が座っている。開けた胸元からは和彫りの刺青が見え隠れしていた。
「良かったな遥(はるか) お前5000万で売れるぞ」
「一晩だけ?」
少女は夜景を見たまま訊いた。
男が笑い声を上げる。
「んなわけねえだろうが」
「じゃあ何日間?」
「一生だよ。お前は今日から変態爺の飼い犬だ」
少女は平静を保つことに努めた。覚悟はしていた。
家出をしてから行く当てのない自分に声をかけてきた男。柄こそ悪いが最初は優しかった。
だがすぐに本性を見せた。
男はヤクザだった。それも売春の斡旋をシノギにするチンピラだ。
初めて売春を強要されたとき、断ると殴られた。殴られる痛みよりも家族のところへ行くぞという脅しが怖かった。学生証を取られていたから、男には住所を知られていた。従うしかなかった。
それから何人の知らない男に抱かれただろう。言葉にするのも悍ましいプレイもさせられた。
待ち合わせ場所へ行く道中、毎回神様に祈った。助けてくださいと。 「おい、聞いてんのか? 遥ぁ?」
「帰りたい」
「あ?」
「もう家に帰りたい」
「おいおい泣いてんじゃねえよ。俺が勃起しちまうだろうが」
「お願い帰して」
「バカ言ってんじゃねえぞ? 大丈夫だって、金持ちの爺さんだ優しくしてくれるぜ。そうだな週一で庭の散歩くらいはさせてくれるって」
少女は首を何度も振った。
帰りたい。お母さんとお父さんに会いたい。
「おらぁ、うだうだ言ってねえで行くぞ」
男は車を降り、助手席のドアをあけると少女の腕を掴んだ。
引きずられるように車外へ引っ張り出されなすすべがない。
やはり神様は助けてくれない。もう死ぬしかない。そうすれば楽になれる。死はみんなに平等だ。
少女が舌に歯を当てた。
その時だった。 男の手が離れるのを感じ、少女は思わず膝から崩れ落ちた。
明かりがないので顔は見えないが、白く細い腕が男の顎をガッキリと掴んでいる。
すぐに骨の砕けるメキメキという音が聞こえた。
ん゛ー! ん゛ー! 男が声にならない悲鳴をあげている。
それが嗚咽へ変わるのに時間はかからなかった。
また男の悲鳴があがった。
ルブタンのつま先が燃えていた。しかも炎は蒼かった。
まるで生き物のようにつま先から膝へ腿へ腰へゆっくりと迫上がり全身を包んだ。
人とは思えない断末魔の叫びが続いた。
少女はその様子を固まったまま眺めることしか出来なかった。
肉塊となった男が地面へどしゃりと落ちた。
「神様は不平等、確かにそうっちゃん。でもね」
少女は目を剥いた。
先ほど訪れた喫茶店の店主が立っていたのだ。
「あの、あなたは――」
彼女は男を跨いで少女へ近づくとこう言った。
「死は気まぐれっちゃん。さあ帰ると、家へ」
少女は無事帰宅した。
その後、お礼を言いたくて喫茶店を訪ねようとしたがどういうわけか見つけることが出来なかった。
地図を見ても【麗奈】という店は存在していない。あれは何だったのだろうか。
本当は家出もしていなかった、すべて夢だったんじゃないかとすら思えた。 「なーに物思いにふけってんのさ」
「え、ううん。何でもないよ」
少女は一緒に下校している友達へ首を振る。
「あー、好きな人でも出来たんだろ! 教えろ〜。誰だ!」
「違うってもう!」
「あはは。そうだ、この話知ってる? どうしようもないほど困っていると助けてくれるって噂」
「なにそれ? 神様が手を差し伸べてくれる、みたいな?」
「ううん。なんかね神様じゃなくって、死(ダンスマカブル)がやってくるんだって」
少女は思わず足を止めた。
「どしたいきなり。まさか身に覚えが!?」
「ううん。だってあたし今、すっごい幸せだから」
「は? 絶対好きな人できただろー!」
「だから違うって!」
少女は心のなかでこっそりとお礼を言った。
「へっくしゅん!」
「あ? ねえちゃん、風邪かい?」
「なんかいなー、たぶん誰かが噂しとう」
「はは。そうだ名刺渡しとくわ」
「へー、金融屋さん?」
「ああ、上手いコーヒーもご馳走になったからな。サービスするぜ」
「ふーん、名前は……岡見さん、か」
「ああ。それじゃあな」
男は颯爽と店を後にした。
「うーん、これは長い付き合いになりそうっちゃん」 れいなかっけえな何者w
こういう人間離れしたキャラで人助けするって似合うね
女の子助かったし後味いい話で良かったわ
ごっつぁんでした ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています