二十時をまわったあたり、新宿歌舞伎町の一角を少女が歩いていた。何かから逃げるように、それでいて何かを待つような足取りだった。
 少女の目が喫茶店を向く。看板には【麗奈(れいな)】と描かれていた。足が自然と店へ向いた。
 店内に入ると客は彼女だけだった。
 少女がカウンター席に腰をおろすと、奥から女性が出てきた。
「珍しいお客さんっちゃね」
 少女は一瞬びくりと体を震わせる。
「注文決まったら言ってね」
「あの、追い返さないんですか?」
「え? なんで?」
「だって、私まだ中学生だし」
「ああ。子供でも客は客ったい」
 その屈託のない笑みを見て、ある意味自分よりも幼いんじゃないか、と少女は思った。
「店の名前、もしかしてお姉さんの?」
「うん。なんかいな――迷った挙句、自分の名前にしたと」
「素敵だと思います。……私もお姉さんみたいに可愛くて自分の店をもてるくらいしっかりしてたら…………」
 少女の目が虚ろになる。