勝者として歓声に包まれる勇次郎。高らかに己が胸を叩きその声にこたえる。
 ――が、おかしい。観客たちは気づいていた。範馬勇次郎は決してこんなアピールはしないことを。
 勇次郎の顔面のすべての血管が浮き上がる。目は空の一点を凝視して動かない。
 激しく胸を叩く。強烈に! 胸を打ち砕かんほど!

 落ちていかないのである。飲み込んだ精液が。
 それはあたかもロケット発射口の壁にへばりつくシコルスキーがごとく食道を通過することを拒否。
 口腔の空気に触れ、ジャックのゾル状の精液は即ゲル状に変化。
 時間経過に伴い、今やそのゲル度は蒟〇畑の数倍に達していた。

 範馬勇次郎敗れる。
 敗因は、性に奔放な勇次郎と禁欲の果てに己を高めたジャックの、その粘度の差といえよう――。


――『バキらへん、完』――