2021年6月24日。山に入って訓練をしていた時、新人の五ノ井さんは夕食や酒のつまみを作る役割を任されていたので、天幕で料理を作っていた。天幕とは2~3人用のテントのことで、山での訓練では寝床として使用されていた。天幕で酒盛りをし、定員より多い男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて、多いときには5、6人くらいの隊員がぎゅうぎゅうになって座っていた。料理を作るためにいた五ノ井さんはその輪の中に入れられ、胸をもまれ、キスをされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられた。

 この日以降、五ノ井さんは気持ちを押し殺しながら日常的なセクハラに耐えてきたが、昨年8月に我慢の限界に達する出来事が起きた。
 8月3日から地方で約1カ月間の訓練があった。訓練場所に到着した日の夜、部屋で食事の準備をしていた五ノ井さんは、男性隊員から「料理はいいから接待しろ」と言われ、男性隊員十数人の輪の中に座らされた。宴会だったので、隊員らは酒を飲んでいた。

 一曹Eと二曹Yが格闘の話をしていたところに、男性隊員S三曹が部屋に入ってきた。するとEは、Sに「五ノ井に首をキメて倒すのをやってみろ」と命令した。Sは、五ノ井さんの首に両手を当てて、そのままベッドに押し倒すような技をかけた。

「この時、Sさんが暴走し始めたのです。股を無理やりこじ開け、腰を振りながら陰部を押し当ててきました。一人で『あんあん』とあえぎ声みたいな声を出して、それを見ている周りの男性隊員たちは笑っていました。特にEとYはこっちを見ながら確実に笑っていました」(同)

続いて、2人目の男性隊員Kも「首をキメて」押し倒し、Sと同様の動きをした。さらに続いた。3人目男性隊員Rは同様に押し倒した後、五ノ井さんの両手首を押さえつけながら、何度も腰を振ってきた。
「全力で抵抗しようと、手首に力を入れて振りほどこうとしましたが、男性の力にはかないません。諦めて、終わるのを待つしかありませんでした。終わって体を起こすと、周りの男性隊員たちはこっちを見ていました」(同)

この8月の性被害の後、適応障害と診断され、五ノ井さんは休職することになった。被害については、まず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告した。だが、一課からは「8月のセクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答された。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。

検察庁の捜査をへて、22年5月31日付で判決が出た。結果は、不起訴処分。五ノ井さんが不起訴の理由を尋ねると、検察官は「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない」という供述だったと説明された。そして「被疑者を有罪にするにはそれなりの証拠が必要だ」とも言われたという。

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