実家に帰ったついでに、ガキの頃から仲の良かった友人に
俺が最近マジックにハマっているコトを教えた。
それを聞いたヤツが言ったセリフだ。

「マジックが本当にウケると思ってるバカがいるな(笑)」

まぁ、こうやって文字で書くよりも、もっと冗談っぽい言い方だったんだけど。
20代後半にもなって、突然本気でマジックを始めた俺を心配してもいるんだろう。

と言うのも、そういう彼は元吉本のお笑い芸人だったんだよ。

人を楽しませること、笑わせること、注目してもらうこと、
その場だけでも自分のキャラを愛してもらうこと、
自分がイニシアチブを取って芸を見せること、
人々の注目をどうにかして自分に集めること、
それらのつらさや難しさを肌身で感じて、経験して、
そして夢破れて、その世界を去っていった人間だ。

そんな彼のだからこそ、重い言葉だと思った。

彼だって本当は知ってるだろう。
マジックは、時と場所とシチュエーションさえ選べば、本当にウケる芸だ。

ただ、芸人だった彼に言われせれば、そんなに簡単なもんじゃないんだろう。
マジックよりも万人受けするハズのお笑いですら、とても難しかったんだろう。

手品なんかに安易に逃げるんじゃないよ、
自分の話術だけで勝負しろよ、
アイツはそう言いたかったのかもしれない。

ついに、セミプロデビューを考えていると打ち明けることができなかった。
セミプロと言っても、知り合いのバーに出演させてもらおうと考えていたんだけれど。