空海コレクション「十住心論」(ちくま学芸文庫)抜粋 02.愚童持斎心(ぐどうじさいしん) - 道徳の目覚め・儒教的境地6

・正治国王(3/3)
――「王の愛すべきもの」とは、どのようなものか。
――すべての正しい事柄をはっきりと認識し、手段をこうじて争うことなく反対派を包容する。
――倉庫の増減を考えて、物惜しみせず平等に、時候の様子にしたがって給与する。医者に食事の内容を聞いて、その指示にしたがって、分配する。

――「王の善き事柄を勤め修める」とは、どういうことか。
――国王がいて、王子・大臣と、ともに布施を実践し、受戒・瞑想をなし、護摩の息災と増益をなし、曼荼羅を建立し、灌頂を受ける。
――毎日、早朝に、この秘密主(金剛薩た)の教を、あるいは読み、あるいは唱えて、これによって修行する国王を、聖王と名づけ、法王と名づける。
――諸仏・菩薩・護法の神龍は、常に守護する。

・輪王
「順正理論」に依る。――「契経」に言う。「善王が、王族に生まれ、王位を継ぎ、仏の戒めを受けるとき、東方に金輪宝が現れる」と。
――「同経」に言う。「七宝が世間に出現する。いわゆる輪宝(密教法具)と象宝と馬宝と珠宝と女宝(理想の妃)と主蔵臣宝(大蔵大臣)と主兵臣宝(すぐれた将軍)とである」と。

「起世経」に言う。――転輪聖王が歿すれば、七宝も、みな隠れてしまう。城はかわらと土に変わり、人民が減少して滅亡してしまう。

「十住毘婆沙論」に言う。――「聖位の菩薩の、十の修行段階」のうちの、「第二の境地」にいる菩薩が、まだ欲望を離れていないならば、転輪聖王となる。