波平さんがバトルロワイヤルを主催するスレ
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|/ _|||||||_\| < おまえたちに
\ \_/ / \ ころしあいをしてもらいます
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レ::::::::::::::::::|/::: ̄`ー‐---‐′ 夕日が町を照らす中、いまや電車が発着することの無くなった駅の前の大通りを、壮年くらいの男と小学生くらいの少女が並んで歩いていた。
遠目には親子か親戚同士にも見えなくは無いが、仔細に見ればその様子が普通では無いことに気付く。
「ね、ねえヒロコちゃん、やっぱりこんなことはよそうよ……」
スーツ姿の、恐竜のパキケファロサウルスに似た風貌の男が隣を歩く少女にそうささやきかけると、少女のほうは男の手の甲をつねる。
「何今更弱気なこと言ってんの? あんたみたいな地味な男が生き残るには、私たちの指示を黙って聞いておくのが一番なのよ」
「イテテ、そ、そりゃあそうかもしれないけど……」
「ふん、果たしてそれがあんたの本心かしら?」
ヒロコと呼ばれた少女はそう言って、挑発するようにシャツの胸元を広げた。
肝心なものが見えそうで見えないその胸元に、パキケファロサウルス似の男、岡島は思わず足を止めて見入った。
「なによ、どこをジロジロ見ているの?」
「え、い、いや、そりゃあ……」
慌てて取り繕うとする岡島の手を強引に取って、
「あんたは胸よりも、むしろこっちに触りたいんじゃないの?」
そう言って自分の尻に触らせた。
「う、うひ……」
ヘタレな下衆みたいな声をあげて、その感触をなるべく長く詳しく楽しもうと手を動かす岡島。
「ダメよ、今日はここまで」
少女はその手をはたいて、のろのろと歩く岡島を急き立てた。
(花沢さんのおじさんの言うとおりだ。本当にこうすれば何でもいうことを聞くし、僕が男の子だってことにすら気付かない)
目深に被った帽子の下で、少女、いや少年――中島ひろしはあまりにあっけなく事が進むので拍子抜けするような気分だった。
花沢花之丞から彼が課された役目は、女装して岡島を誘惑し、表立って行動させること。 花之丞が町内に張り巡らされているネットワークは、広範にして正確だ。
彼は磯野波平の同僚である岡島という男が、パキケファロサウルス似であることのみならず真性のロリコン、いやむしろペドであることもつきとめていた。
中島が女装して接近すれば必ず言いなりになる。そこで、実際に殺害する標的を選び、手を下すことは岡島にやってもらうというのが彼らの計画である。
もっとも、岡島の気の小ささを警戒し、まだ彼に殺人までやってもらうつもりだということまでは伝えていない。
あくまでも町内を偵察して欲しいとだけ言ってある。
(ま、この様子だと大丈夫そうだな。僕のことなら何でも聞くようになってるし、このおじさん)
中島はほくそ笑みながらも、虎視眈々と尻を撫でようと狙う岡島を目で牽制し続けた。
しばらく歩いていると、中島の尻ばかり見ていた岡島が
「おや?」
と声を上げて立ち止まった。そこはある飲食店の前だった。
「どうしたの、おじさん?」
「あ、いや、ここのお店って確か子供はお断りじゃなかったかなあって思ってね」
「そんなこと、どこにも書いてないじゃない」
「でも前は確かにそう書いてあったんだよ。そういえば、波平さんがここはすごくおいしいお店だって言ってたなあ」
岡島は腹をさすりながらそうつぶやく。
「何言ってんの、余計なことをしているヒマなんかないわよ」
「でももうお腹ペコペコだよ、ね、おじさんがごちそうしてあげるから、ね、ね?」
卑屈なイヌのように懇願して、中島の手を握ろうとする岡島。
「わかったわよ」
その手をはたいて、中島はしぶしぶ答えた。
「まあ、駅前の飲食店なら大勢の人が来るだろうし、情報の収集にはちょうどいいかもしれないわね」 店の中に入ってみると、晩御飯時だというのに他の客は誰もいなかった。
(本当においしいお店なの?)
そう目で聞く中島に、岡島は弱ったような笑みを浮かべるばかりだ。
あの波平と比べてなんて頼りの無い男なんだ、と中島は呆れた。
「注文は?」
厨房に立っていた店主らしい男が出てきた。どう見ても怒っているとしか見えない顔だ。
「あ、ええとその……」
一気に威勢を失って口ごもる岡島に代わって、
「カレーライス二つ」
と、店の前の看板を見ていた中島が即答した。
店主は返事もせずに厨房に引っ込んでいった。
「な、なんか知らないけど怖そうな人だねえ」
「でもああいう偏屈な人の料理のほうがおいしそうじゃない?」
席についた二人が話していると、厨房から
「店の中では帽子くらい脱いだらどうなんだ」
という声が聞こえてきた。
「あら……ふふふふ」
中島は笑いながら帽子を取り、厨房に向き直った。
「ごめんなさいね」
「なんだ、やけに嬉しそうな顔をしてるじゃないか」
「おじさん、私の知っている人に雰囲気が似ててちょっと面白かったんです」
中島の笑みに見入っていた岡島は、
「それって、誰のことだい?」
と尋ねた。
「私の友達のお父さんです」
「俺も知っている。磯野波平という男だろう」
厨房からまた声がした。
「おじさんも知り合いですか?」
「ああ」
そう一言言ったきり、もう彼は何も言わなかった。
中島も何も言わなかった。この店が「小学生以下お断り」の看板を外すきっかけを作ったのが波平であることなどは知る由も無かったが、なんとなくそうであるような気がした。
ただ岡島だけが、話についていけないような曖昧な顔をしていた。 「あ、あの、このお店って前は子供お断りでしたよね?」
間を持たせようと発した質問に答えが返ってきたのは三十秒ほど後だった。
「俺が嫌いなのは子供じゃない、店の中で騒ぐ子供をちゃんと叱れない親だ。
それと、自分の娘の体をじろじろ見たり、隙を見て触ろうとしたりする親も本当ならお断りだな」
岡島は肝を冷やし、中島は心の底から笑った。
【六日目・午後六時】
【駅前・がんこ亭店内】
【全自動卵割り機】
状態:破損(命に別状なし)
装備:なし(支給品焼失)
武装:なし
思考:
1・………
【中島】
状態:健康 女装
装備:支給品一式
武装:ナタ
思考:基本・カツオ以外を皆殺しにし、カツオを優勝させる
1:岡島を体で操って人殺しをさせる
【岡島さん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:中島タンハアハア 【がんこ亭店主】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・殺し合い中でも変わらず店を開ける
1:中島と岡島に料理を出す。べ、別にお客さんだから仕方なく作るだけなんだからね!!
2:全自動卵割り機を保護する。べ、別にただ怪我をしてるのに放っておけないだけなんだからね!! 世田谷の地下を走る下水道を、長靴を履き、手には懐中電灯を持ってゆっくり歩く一人の男がいた。名簿では部長と呼ばれている男だ。
さっき地上に出たときに仕入れた新聞の日付を見ると、殺し合いが始まってからすでに六日が経過したらしい。
ということはこの暗くて腐臭が漂い、湿度も皮膚を溶かさんばかりに高い空洞に身を隠してからすでに六日が経ったということらしい。
中間管理職であるという点を除けば単なる会社員にすぎなかった彼が、突然見知らぬ男に呼び出されて殺し合いを強制されるという、人類史上前代未聞と言っていいだろう事態に巻き込まれてすでにそれだけの時間が経過した。
殺し合いの首謀者が自分の部下の義父であるなどとは露知らぬこの男、この町に在住していないにも関わらず町から出ることを禁じられてしまったのでまずは潜伏場所を探さなければいけなかった。
真っ先に考えたのは部下であるマスオの家を頼ることだが、こんな非常事態に巻き込まれている時に赤の他人をいい顔をして家に泊める人間はいまい。
マスオ自信は部下としても人間としても信頼に足る男だが、彼の家族までそうとは言い切れない。
そこで思いついた身の隠し場所は、足元にあったマンホールの下――この地下空洞だった。
殺し合いに積極的に加担する人間が出現するとしても、最初はこんな場所までは目が回らないだろう。
それに風雨もしのげるし、暗いのと臭いのさえ我慢すればそれなりにいい隠れ家だといえた。
心配だった食料は、最初から自分のサイフを持たされていたし、地上に出て銀行で自分の口座を見てみると一ヶ月普通の生活はができるほどの金額が振り込まれていた。
その金でどこかのアパートを借りるという手もあったが、この町で唯一の不動産屋も殺し合いに参加していると聞いてそれはやめることにした。
毎日数時間だけ地上に出ては食料や必需品を調達し、情報を収集するという異常な生活にも慣れてきたが、会話相手がいないことは堪えた。
部下であるマスオとアナゴはどうしているだろう。放送を聴いた限りではまだ命は落としていないらしいが、家のあるマスオはまだしも自分と同じ境遇であるアナゴなどはどうしているのか。
そもそもなんでこんなワケのわからないことになってしまったのか。 暗闇にいて何もやることが無いとなると色んな考えが頭をよぎってしまうが、その全ては徒労に終わった。
やがて何度めかの曲がり角を曲がったとき、それまでもずっと聞こえていた水音に混じって妙な音がするのに気付いた。
それは誰かの足音だった。
この地下道で誰かと鉢合わせるのは初めてだ。懐中電灯を消そうかとも思ったが、位置から考えて相手はすでに自分の存在に気付いているだろう。
怪しまれる素振りをするのは逆効果というものだ。
相手も同じようなことを考えているのか、明らかにこちらに気付いているようだったが、一歩一歩ゆっくりと歩み寄ってきた。部長も同じようにした。
やがて、足音の主は犬だとわかった。
「やあ」
先に声を発したのは犬のほうだった。
「これはどうも」
自分で言っていながら、サラリーマンくさいセリフだなと苦笑した。
「どうだ、ここはお互い何も見なかったことにして通り過ぎるってのは」
「ええ、どうやら詮索し合わないほうがいいようですね」
「全くだ」
犬は鼻を鳴らしたようだった。
「こんなところでコソコソしてる奴らなんて、ロクでもないことを考えているに決まってる」
「お互いの抱えている面倒ごとに、お互いが巻き込まれるのもゴメンですしね」
実際には自分の身には今現在大したことは起こっていないが、彼はそう言って苦笑してみせた。
「じゃあ、どうかお元気で」
「ああ、旦那さんもな」
そしてお互いに、息を合わせるようにして決して広くは無い地下道の中ですれ違った。
数歩進んでほっとため息をついた彼の耳に、立ち止まった犬から次のような忠告が聞こえた。
「俺は犬だから、人よりも鼻も耳も利くんだ。ここで会ったのもなんかの縁だから教えてやるが、そのまま進めば行く手が二方向に分かれている。
そこは右の道を進め。さもないとロクでもないことに巻き込まれるぞ」
犬はそういい終わると、長居は無用とばかりに足早に去っていった。
部長はあの犬はなんでこの道を通ったのかについて想像しながらも、その忠告を受け入れるかどうか考えていた。 【六日目・午後五時】
【下水道】
【部長】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・しばらくは地下に潜伏して様子見
1・部下のマスオとアナゴが心配
【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:……
(行った……)
血まみれの手でほっと胸を撫で下ろす。
町中の人間の死角になっているだろう下水道で他人と遭遇するという不運な事態は免れたようだ。
誰だかは知らないが、この場所に接近していた男は別の道を選んでいった。
(でも……てことは、ここをこの死体の隠し場所にするのはマズかったかも)
すくなくとも、無造作に下水の中に打ち捨てておくのは危険かもしれない。
解体作業中だった三河屋の奥さんの死体を前にして、ワカメは思案した。 >>1
乙
ハチは何で下水道にいるんだよw
続きが気になる 「さあイクラ、お昼寝の時間よ」
タイ子はおやつを食べ終えて眠そうに目をこすっていたイクラに言い聞かせて布団に寝かせた。
イクラはここ数日は、ずっとノリスケとタラオはどこにいるのかと尋ねている。
まだ言葉も満足に話せないイクラに、死というものなど理解できるはずは無い。
タイ子はたった一人で肉親の死に向き合わないといけなかった。
夫のノリスケが死んだというのに葬式も出せず、それどころか遺体との対面すらも叶っていない。
そしてタラオも命を落としたという報を聞いて急ぎ磯野家に駆けつけたタイ子が目にしたのは、かつての楽しい磯野家を知る彼女にとっては忌まわしいとすら言える光景だった。
サザエは正気を失い、まだ息子が生きているという幻想を見続けている。
そのサザエにずっと寄り添うようしていたマスオと、すっかり表情が乏しくなってしまったワカメ。
そして壊れたような家族をいつもと変わらない暖かい眼差しで見守るフネの姿がそこにあった。
(ちがう……こんなの、間違ってる)
生きている家族が弔わなければ、死んでいった人たちは誰が弔うというのか。
タイ子はノリスケを殺したのは誰かといったことはそこまで知りたいと思わない。
それよりも、ノリスケがこの世界に生きていたことを忘れないでいようと思った。
磯野家がノリスケのことを忘れても、自分だけはずっと忘れないでいようと誓った。
そしていつかイクラが成長したときに、父親がどれだけ立派な人物だったか教えてあげよう。
「す、すいません!! 開けてください!!」
激しく戸を叩く音がした。それも尋常ではない慌て様だ。
「この声は、甚六さん!?」
知り合いだったこともあって、迷わずに鍵を開けた。どれだけ走ってきたのか、クタクタに疲れ果てている。
「どうしたんですか、甚六さん?」
「と、とにかく、水をぉ……」
タイ子は台所に戻ると水を一杯汲んで甚六に飲ませた。
「ふう……すいません、この近所で知り合いの家というとここしか思いつかなかったので……
あ、それよりも早く鍵を―――」 その時、甚六だけでなくタイ子も感じた。
目の前に存在する生命を全て破壊しようとするかのような、濃厚な殺意を。
それは空気に混じり、外から聞こえる音に混じり、二人を包み込んでいた。
「あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、あなた、
あなたのために私は、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、
みんな、みんな殺す、みんな殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
玄関先、開いた扉の向こう、甚六のちょうど背後にその女はいた。
一見するとどこにも変哲は無い普通の主婦だ。しかし、首から下は返り血に染まっていた。
「甚六さん!!」
女が血に塗れた包丁を振りかざすのを見たタイ子は咄嗟に彼の手を引いた。女の包丁は床に刺さった。
「ひいいいいいいいい!!」
少女のような悲鳴を上げて腰を抜かせる甚六。女は余裕すら感じさせる動作でゆっくりと包丁を手に取った。
タイ子は甚六とともに一歩ずつ後ずさりながら考える。
(あなた……あなたなら、こんな時はどうするの?)
喉を硬い唾が落ちていった。
女は絵画のような笑顔のままでこちらに一歩一歩近づいてくる。
「甚六さん……お願いがあります。イクラを連れて、窓から逃げてください。
甚六さんなら、イクラを抱いたままベランダ伝いに下まで降りることができるでしょう?」
「あ、は、ハイ!!」
甚六は何も聞き返しもせずに、言われたままに這うようにして奥の部屋に向かう。
タイ子のその言葉が彼女のどんな覚悟を意味しているのか、考えることすらもしないままに。
「ふふふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふ」 目の前の女が正気を失っているのは疑う余地も無かった。それもサザエのそれとは全く異質な狂い方をしているのも明白だった。
「あなた、ふふ、いますぐにこの私が、ふふ、助けてあげるんだからね……」
女は極めてゆっくりと、しかし逃げるのを許さない迫力で一歩一歩タイ子の元に歩み寄る。
もはや対話するのは不可能だと思われたが、彼女がうわごとのように述べるセリフからは、彼女を狂気に走らせたものの正体を類推することができた。
(この人は、自分の夫のためにこんな風になってしまったんだわ……)
一瞬、彼女のことを羨ましいとさえ思った。
自分もそうなれればどれだけ幸せだっただろう。亡きノリスケの無念を晴らすために誰彼構わず襲う修羅になれたなら。
イクラとの日常生活を守るよりも、それは遥かに楽なことだったかもしれない。
(違う!! ―――そんなの、間違ってる!!)
タイ子は奥歯をかみ締めて自分の幻想を押し殺した。
ノリスケがそんなことをして喜ぶわけがない。自分がやるべきことはノリスケやイクラのために人を殺すことなんかじゃない。
ノリスケが守ろうとした家を、家族を守ることだ。
こんな正気を失った女性なんかに、負けはしない――
タイ子は玄関に置いてあったノリスケのゴルフクラブを手に取った。女はそれを見ても怯む様子を見せない。
いっそのことと、思い切ってゴルフクラブを振りかざして女に向かって突進した。
タイ子が渾身の力で振り下ろしたノリスケの遺品は、しかし空しく虚空を切った。
そして次の瞬間、タイ子の懐に飛び込んだ女は、瞬く間に彼女を八つ裂きにした。
「あは、あは、あははははははは!! うちの主人に近寄る人間なんかみんなこうしてやるのよ、あははははははははは!!」
女は哄笑しながら、抵抗もしない獲物の体に刃を次々と突き刺していく。
その意識を占めているのは、彼女の頭の中にしか実在しない夫という名の幻想だった。
一方激痛の中で意識を削り取られていったタイ子は、今際の際まで自分の愛した家族ことを思い続けた。
(あなた……イクラ……)
やがてその最後の祈りも殺人鬼の哄笑の中に失われ、タイ子は夫の顔を思い浮かべながら旅立っていった。 【五日目 午後5時】
【波野家】
【アナゴ婦人】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:鉈
思考:
基本・アナゴ以外の参加者を皆殺しにする
1・甚六を殺す
【波野タイ子 死亡確認】
「ふう……な、なんとかなるもんだなあ」
イクラを抱いたまま窓から脱出し、下の階の部屋のベランダに一階ずつ降りながら壁を伝うように移動していた甚六は数十分後、ようやく地上に到達した。
全力疾走の直後にちょっとしたアクションまがいのことまでやらされたせいで体力は限界に来ていたが、当面の危機は回避できた。
イクラがここに至るまで目を覚まさなかったことも幸いした。
「さて、今のうちに逃げないと……」
イクラを抱いたまま急ぎ足で車道に出た甚六は、ほどなく自分にまっすぐに向かってくる「殺意」を感じ取った。
振向くと、額に「あさひが丘駅」と表示した一台のバスが通常ありえない速度でこちらに突っ込んでくるところだった。
そのバスに自分への殺意があることは明白だった。
「う、うわあああああああああああああ!!」
甚六は抱いていたイクラを投げ出して一目散に路地裏に逃げ込んだ。
バスは速度も落とさぬまま、路上に無慈悲に投げられた幼児の体をいとも無残に引き潰した。 【五日目 午後5時】
【波野家の近くの路上】
【甚六】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:なし
思考:
基本・アナゴ婦人から逃げる
【波野イクラ 死亡確認】
「大人の男のほうは逃したなあ……どうする?」
バスのハンドルを握っていたのは見間違えるはずもない醜い顔を持つ男、アナゴだった。
そしてその隣に座るはノリスケの手による奇跡の発明品、グルグルダシトールである。
「深追いは無用。他のもっと狙いやすい標的を探すべきである」
「そいつぁ同感だあ。そいじゃ、マスオ君を探しがてらこのままドライブと行くかねえ」
「貴殿には格別の信頼を置いているが、勘違いされては困る。私の望みはノリスケ様の仇を打つことのみ、
貴殿の言うマスオという男もその対象だ。無論、さっきのようなノリスケ様の家族であってもだ」
「それはこっちのセリフでもあるよー。最終的にはキミだって、マスオ君を生き残らせるために死んでもらうしかないからねえ」
そして二人の男は、バスを走らせながら顔を見合わせて陰湿に笑った。 【五日目 午後5時】
【波野家の近く・バスの中】
【アナゴ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:いつもは毎朝マスオや波平を乗せているバス
思考:
1・マスオ以外の参加者を皆殺しにする
2・今はグルグルダシトールと共闘
【グルグルダシトール】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考: 基本・ノリスケの行方を捜しつつ、他の参加者を殺す
1・今はアナゴと共闘する 「やはり、ここもダメか……」
警官隊によって完全に封鎖された町境を見て、伊佐坂難物はため息をついた。
数日間かけて町を回って得た結果は、とてもここから脱出することなど不可能だという事実を思い知らされたことだった。
町境には隙間無く警官隊が並んでおり、正面突破は論外、隙をついてこっそり外に出るのもまず不可能だった。
ヘルメットを目深に被った警官たちの表情はうかがい知れなかったが、彼ら相手に交渉などしたって何の意味も無いだろう。
難物は人の壁に背を向けて、重い足取りで逆方向に歩き始めた。
(磯野さん、あなたは一体ここまでして、本当は何をしたいんですか?)
難物の胸に去来するのは波平との楽しかった思い出ばかりだった。
一緒に囲碁を打ったこと、一緒に花火を見たこと、一緒に酒を飲んだこと。
作家と会社員という違いはあったが、少なくとも自分はそんなものは全く気にならなかった。
それどころか、家族を愛し不正を許さない波平の生き様を尊敬すらしていた。
しかし今、難物は波平を許す気にはなれなかった。
彼が、自分からノリスケを奪っていったからだった。
ノリスケの鬼のような原稿の取立てを疎ましく思ったこともあったし、恨んだことさえあった。
しかし、彼がいなければ作家・伊佐坂難物の作品のほとんどは世に出ることさえ無かったはずだ。
実際にノリスケを手にかけた者が誰かはわからなかったし、それを詮索するつもりも無かった。
だがこんなことが起こるそもそもの原因を作った波平のことは、絶対に許すことは出来ないと思った。
(待っていてください磯野さん、私は必ずあなたに会いに行きます。もう一度あなたと話をするために――) 気がつくと伊佐坂難物は、いつも馴染みの三河屋の前に来ていた。
ただ通り過ぎようとしていた難物は、中から激しい言い争いの声が聞こえてくるのに気がついて足を止めた。
「バカ野郎、何を腑抜けたことを言ってやがる!! 殺し合いの最中だろうがなんだろうが、商売をしねえ通りがあるか!!」
「目を覚ましてくださいよ、そんな理屈が通用する時じゃないんです!!」
(この声は、三河屋のご主人のもの。それにもう一人は……)
息を殺して店の中を覗くと、三河屋店主と御用聞きのサブが今にも掴みかからんばかりに睨み合っていた。
「よく考えてくださいよ、ここにはこれだけの食料があるんですよ? いつまで普通に食べ物をお金で買ったりできるかわからないのに、
なんで他人にくれてやる必要があるんですか?」
「てめえ、それでも三河屋か!! 俺たちのやるべきことは、客に注文の品を届けることだけだろうが!!
大体醤油と味噌と酒だけで生きていく気かてめえは、食い物に関してはお互いに助け合わないとしょうがねえだろ!!」
「でも八百屋さんも肉屋さんも魚屋さんも死んで、スーパーだっていつまで営業してるかわからないんですよ!!」
「てめえ……もう今日は俺が御用聞きに行ってやるから、少し頭を冷やしてやがれ!!」
憤然とした顔でサブに背を向けて立ち去ろうとする店主。その背後で、サブが中身の入った瓶ビールを手にしたのを難物は目にしていた。
「いけません!!」
難物は店内に駆け込んだ。ちょうど店から出てこようとしていた三川屋とぶつかりそうになる。
驚く三河屋の体を右に押しのけた伊佐坂難物の頭に、三河屋の後頭部を狙って振り下ろされたビール瓶が激突した。
瓶が割れ、中のビールが散乱した。 【五日目 午後5時】
【三河屋】
【三河屋店主】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明
【サブちゃん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:不明
(あれ……私は、死んでいなかったのか?)
次に目を覚ました時、伊佐坂難物は何故か路上にいた。
なぜ三河屋の店内からここに、と首をひねる難物は、続いて体のどこにも痛みを感じないことに気付いた。
頭から出血したような様子も無い。一体何が起こったというのか。
(とにかく、一度家に戻りますか)
そう思って歩き始める。
頭を強く殴られた後遺症のせいか、周りの家の屋根や塀や電柱がやけに高く感じた。
やがてしばらくすると、傍から聞きなれた声がしてきた。
「お父さーん、お兄ちゃーん!!」 「あの声はウキエか!!」
難物は急いで声のしたほうに駆け寄った。そこには父と兄を探すウキエと、妻のオカルの姿もあった。
「おおい、私はここだぞ」
そう言いながら彼女らに近付いた難物だったが、その足は途中で止まった。
おかしい。彼女たちの身長が、あまりにも高すぎる。錯覚で説明ができるような範疇ではない。
そして自分の姿をその瞳に入れたはずの二人の家族の口からは、耳を疑うような言葉が出てきた。
「あら、どうしたの? 迷子?」
「お母さんとはぐれてしまったの?」
そしてそこにあった床屋のガラスに映った自分の姿を見て初めて、伊佐坂難物は自分の身体が十歳ほどの年齢の少女のそれになっていることを知ったのだった。
【五日目 午後6時】
【駅前・床屋の前】
【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・呆然 【伊佐坂オカル】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・難物と甚六を探す
【伊佐坂ウキエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・難物と甚六を探す
「ご先祖様……いらっしゃいますか?」
モニタールームで殺し合いの成り行きを見守っていた波平は、この異常な事態を見て直ちに協力者の一人を呼び出した。
「なんじゃ、どうした波平?」
波平の背後に、和装の波平と瓜二つの男が現れた。体は半分透けている。
「ちょっと、どういうことか説明してはもらえませんか?」
「なに、たまにこんな余興があってもいいと思ったものでな。伊佐坂先生にこんなに早く退場してもらうのも残念であるし、
彼の魂を、たまたまほぼ同じ時間に死んだ女の子の中に移し変えたのだ」
画面に映る、まあかわいい部類と言っていいだろう少女の呆けたような顔を見ながら波平はため息をついた。
「まあいいでしょう、本当は一度死んだ人間が復帰するのは反則ですが、確かにこれはなかなか面白いし今回限りということで……」
そう言いながら、手元の死亡者一覧の中の伊佐坂難物の名前を消した 【五日目 午後6時】
【主催本部】
【磯野波平】
状態:健康
思考:
1・殺し合いの完遂
【磯野藻屑】
状態:健康
思考:
1・波平をサポートする
※主催側の人物です
独り言……なんとか、強引ながらも参加者全員を一通り出せた 殺し合いが始まってから、五回目の夕日が今まさに沈もうとしていた。
カツオは一人街角の空き地で自分の長い長い影を見ながら佇んでいた。
今日は一日中桜井マホの行方を捜していたが、何の手がかりも得られず、途方に暮れていた時に町内の掲示板が目に入った。
そこには町内有志によって調べられた町内の死亡確認者の一覧が張り出されており、その中には桜井の名前も記されていた。
散々走り回って疲弊していたカツオはそれを見て一気に全身の力が抜けた。
気がつくとここに来ていた。
かつて中島や橋本、西原らと一緒に草野球やサッカーを楽しんだ空き地。しかし今は誰も寄り付かないさびしい場所になり果てた。
(父さん……僕たちはそんなに、悪いことをしたのかなあ……)
橋本、カオリ、ノリスケおじさん、タラちゃん、タマたちはみんな命を落とし。
中島は殺人に走り。
そして―――
「あらカツオ、こんなところにいたの?」
カツオの姿を見つけたサザエは無遠慮に歩み寄る。
「どこ行ってたのよ、もう夕飯の時間よ」
聞き分けのない弟を諭すいつもの口調で、カツオを連れ帰ろうとする。
「姉さん、まだ目が覚めないの?」
「あら何よカツオ、そんな元気の無い顔をして珍しいわねえ」
サザエはそれだけ行って、買い物籠を手にさっさと帰ろうとする。
「姉さんわかってる? 家に帰ったってもうタラちゃんはいないんだよ?」
「何言ってるのよ、タラちゃんならさっきお昼寝してたわよ」
いつもはカツオの風刺めいた言い草にムキになって怒るサザエは、淡々と振り返りもせずにそう言った。
愉快で明るい姉の姿はそこには無く、ただ息子の死も殺し合いも無かったという幻想だけを見続ける弱い人間がそこにいるだけだった。 「どうしたのよカツオ、なんか様子が変よ?」
「……父さんって酷いよね。僕の大切なもの、全部、奪っていったんだ」
カツオは顔を上げて、サザエのあとを追って歩き始める。
口うるさく、目ざとく、でもどこか抜けていて、調子が良くて、誰とでもすぐに打ち解けて仲良くなる姉が大好きだった。
こんなのは僕の好きな姉じゃない。
だったら、一層のこと―――
一時間ほど前に、ワカメから「これはお母さんからよ」と言って巾着袋を渡された。
中には包丁が入っていた。おそらくは護身用にと持たせてくれたものだろう。
カツオはその柄に手をかけた。
やめろよ。そんなことをしたらカオリちゃんや橋本やノリスケおじさんを殺した連中と同じになるんだぞ?
中島を止める資格すらもなくなってしまうんだぞ?
いや……姉さんのことを考えたらこれこそが一番いい手なんじゃないか?
こんな状態で生きていても生きているなんていえやしない。
姉さんにとってもこうするのが一番いいんだ。
自分がサザエの背中に刃を立てる場面を想像する。
うまくできない。
いいや、余計なことは考えずにただ刺すことを考えろ。
しかし仮にも大人と子供、上手く行くのか?
いいや、やる。やるしかないんだ…… 「あら見てカツオ、電線のところにムクドリがとまってるわよ」
「え?」
顔を上げてみると、確かに三羽のムクドリがとまっていた。
大きなムクドリが一羽と、小さなムクドリが二羽だ。まるで家族のように、寄り添うようにとまっている。
「ねえカツオ、知ってた? ムクドリって、生まれたヒナが自分よりも後で生まれたヒナの子育てを親鳥と一緒になって手伝うんだって。
まるで私たちみたいね」
やがてムクドリが羽ばたいた。小さな二羽のムクドリは、大きなムクドリの後を懸命に追いかけていく。
「先に生まれたヒナは、自分の弟や妹たちにエサをあげたり毛づくろいをしてあげたりして大変なのよ。
私だってカツオとワカメの世話は大変だったんだから、もっと感謝しなさいよね」
そう言ってサザエは得意顔で胸を張った。
「なんだよ、そんなの……どうせ、テレビか何かで見て……覚えただけなんじゃ……」
「あら、どうしたのよカツオ? 急に泣き出すなんて変な子ねえ」
怪訝な顔をするサザエの前で、カツオはひたすらに嗚咽を上げながら、零れ落ちる涙を拭い続けた。
【5日目・午後六時】 【空き地】
【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:……
【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・タラオ、ノリスケ、中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
2・中島の目を覚ませる
3・絶対に殺し合いを終わらせる 「本当に、もう行くと言うんですね?」
「ああ。世話になったな」
朝日の差し込む病院の中。麻雀医師の問いかけに、警官は力強くうなずいた。
「本当だったら、あと一週間は入院していただくところなんですけどね」
「そうもいかない。こうしている間にも次々に市民が命を落としているのだからな」
腕にはギプスを嵌めたままで、松葉杖が無ければ歩くこともままならない。
それでも警官はこれ以上立ち止まることを拒否した。
「先生、私からもお礼を言います。ありがとうございました」
警官の荷物を変わりに持った泥棒が頭を下げる。
「あなたの荷物は本当にここにおいていていいのですか? 私としては全くかまいませんが」
「ええ、あっしはおまわりさんの分の荷物を持つだけで精一杯ですし。ここにもちょくちょく戻ってこさせてもらいますんで、
残りの荷物はその時にでも」
「左様ですか。では、是非またお互い無事のままお会いしましょう」
「へい」
「無論ですとも」
三人は互いの顔を見てうなずきあった。
「その時には、今度こそ麻雀にお付き合いいただきたいですな」
「いやあ、あっしは盗みも賭け事も苦手で……」
別れを惜しみながらそんなことを話していると、不意に麻雀医師が診察室のほうを振り向いた。
「今、何か物音がしたような……」
「そうですかい? あっしには何も……」
警官も何も聞こえなかったらしく、首を捻っている。
「まあ私の気のせいかもしれません。それでは、どうかお元気で」
「へい、先生も」
名残を惜しみつつも、警官と泥棒は病院を後にした。 松葉杖を片手で使ってどうにか歩きながら、警官がつぶやくように言った。
「案外と信用できそうな男だな」
「あのお医者さんがですかい?」
「いや、お前だよ」
泥棒は驚いて思わず歩調を緩めた。
「お前は本官が寝ていてあの医師も留守にしている好きに、本官の荷物を持ち逃げすることだってできたはずだ。
いや、本官と医師を殺して全てを奪って逃げることだって……」
「そ、そんなおっかねえ真似があっしにできるもんですか!? 滅相もない!?」
本気で怯えた顔をする泥棒を見て、思わず警官は噴出してしまう。こんなヤツでもこの町では一番の悪人なのだと思うとおかしい。
もちろん、この殺し合いの主催者を除けばの話だが。
「お前は昔からそんな奴だったよ。何度もわざわざ同じ家に入って捕まったり、そのくせ人だけは傷つけない。
けしからん奴なんだか殊勝と言うべきなんだか……」
「へへ、これだけお巡りさんへの心証が良かったら情状酌量の期待も……あっ!!」
「どうした、何か忘れ物か?」
「お巡りさんの拳銃っすよ!! うっかりあっしの荷物と一緒にしていたせいで、持ってくるのを忘れちまいました。
物が物ですから早く取りに……」
次の瞬間。
爆音と地響きに腰を抜かした二人が急ぎ振り向いてみると、さっきまで自分たちがいた病院が一体の巨大なロボットの手によって完全に崩壊させられていた。
「うん、なかなかいい調子だ!! 三日で造ったにしては上出来だろう」
二階建ての建物ほどある巨大なロボットの操縦席に座るのは、このロボットの設計・製作者、大工の棟梁。
長年家の建築に携わり、木材の性質の全てを知り尽くしていた棟梁にとっては、木材で巨大ロボットを作ることなど造作もないことだった。
材料の木材は花沢不動産に調達してもらった。
その見返りとして花沢不動産側から求められたのは、この町内にあり、花沢不動産が取り扱う家以外で棟梁が建築に携わった家の設計図の提出。
花沢家はそれを利用してあくどいことをしようとしているようだったが、棟梁の興味の及ぶところでは無かった。
「さあ、ジミー。このロボットを使ってお前を守ってやるからな!!」
棟梁の威勢のいい声に合わせるように、ロボットは二本の腕を振り上げ、最後の仕上げとばかりに両の拳で病院を叩き潰した。 「よし、強度も問題ねえな。じゃあ次はスーパーでも潰すか」
民家は出来るだけ壊さないでくれと花沢不動産側には言われているが、棟梁が標的に考えているのは病院や店などの公共施設だ。
それらの場所が機能しなくなれば住人全員に致命的な影響が出るため、ゲームに乗っている人間の間でもこれらの場所を攻撃するのは
避けるというような不文律めいたものがあった。
しかし、独自の物資調達ルートを持つ花沢不動産がバックについているとなれば話は別だ。
自分は物資の不足などに怯えることなく破壊活動を行うことができる。
だが、足からジェットを出して飛行体制に入ろうとした棟梁の胸に激しい痛みが走った。
それにわずかに遅れて聞こえる破裂音のような音。
狙撃されたのだ、と気付いたのと、操縦桿から指が離れて操縦席の床に頭を叩きつけるのとは同時だった。
(ジ……ミー……)
最愛の弟子の名を思いながら、棟梁は自分の建てた家が並ぶ町の中で事切れた。
「いたたたた……」
地面にうずくまって手首を押さえるのはホリカワ。
その傍らには一丁の拳銃。
小学生の腕力では持ち上げるのもやっとで、撃ってみたら反動で手首が壊れるかと思った。
実際にひびくらいは入っているのかもしれない。
そんな状態で撃った一発が棟梁の胸を貫いたのは、まさに偶然の産物だとしか言いようが無い。
「いてて……そ、そうだ!! ボクはツイてるんだ!!」
たまたま忍び込んだ病院で拳銃を手に入れ、病院から逃げ出したその直後に今度はロボットを手に入れるとは、なんという幸運だろう。
例え手首を壊していようが十分におつりが来る。
「そうさ、このロボットもボクのものなんだ!! ボクはこれで必ずワカメちゃんを守ってみせる!!」 「先生!! 先生!!」
わずかな時間の間に瓦礫の山と化してしまった病院の跡地で、必死に医師を探す泥棒。
その傍らで、警官はギプスのせいで瓦礫をどかせることもできずに、松葉杖を放り出して呆然と座り込んでいた。
(あの時、あの物音に本官も気付いていれば……本官も一緒に確認しにいっていれば……
本官がもう少しでも長く、ここに留まっていれば……)
医師を探す泥棒の声すら、警官には遠すぎて聞こえなかった。
【6日目 午前10時】
【麻雀医師の病院】
【警官】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:警棒
思考:基本・あくまでも警官としての職務に従い、住人たちを守る
1・深い後悔
【泥棒】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・警官に従う 【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメを守る
【大工の棟梁 死亡確認】
【麻雀医師 死亡確認】(名簿外) 「私と主人が、結婚二十年目に記念に行ったお店の名前は?」
「お父さんが、中学校の入学式の日に私に買ってくれたものは?」
昨晩の帰宅直後から、わずかな睡眠の時間を挟んで延々と続く妻と娘からの質問。
少女の姿となった伊佐坂難物は、その問いに淀みなく矢継ぎ早に答えていく。
そのため、最初は全く信じていなかった二人も、目の前の少女が伊佐坂難物であるということを認めざるを得なくなりつつあった。
「ここまで正確に答えられるってことは、やっぱり本当にお父さんなの?」
「最初からそう言っているだろうに」
「喋り方はクセはあの人そのものだし……ああやだやだ、ただでさえひどいことが起こっている最中にこんなことが起きるなんて」
オカルは顔を手で覆ってふらふらと立ち上がった。
「少し寝させてもらいます。そうしないと頭がもたないわ」
幽鬼のような足取りで部屋に引っ込んでいくオカルの背中に、さて何と声をかけたものかと思っていると、ウキエが
「お父さん、コーヒーでも飲む?」
と尋ねた。
「いや、今はいい」
「そう。あと、もうお酒はダメよ。中身はお父さんに違いないとしても、体は子供なんだから」
「やれやれ、また十年かそこら待たないといけないというわけか。それにしても甚六は何をしとるんだ、いつまでも部屋に引きこもって」
「精神的に参ってるんじゃないかしら。状況が状況なんだもの、ムリもないわよ。
あとで朝ごはんを部屋に持っていくから心配しないで」
そういい残すと、彼女も自分の部屋へと戻っていった。
二人とも、かなり動揺はしているがなんとか事実を受け入れたみたいだ。難物はそれだけでずいぶん救われた気がした。 甚六も心配だが、精神的に参っているのなら今の自分が顔を見せるのは得策では無いだろう。
庭を見てみると、殺し合いが始まって以来ずっと変わらない、気持ちのいい快晴だった。
窓に映る自分の姿を見ながら考える。どうしてこんなことになったのか。
あの時、自分は確かに死んだと確信した。ビール瓶で頭を砕かれる感触を今でも思い出すことができる。
ならば自分は今、死後の世界で夢を見ているのだろうか? そのほうがいくらかマシかもしれない。
庭ではハチが寝ころがっていた。難物が庭に下りると、ハチは起き上がって難物の足元にまとわりついてきた。
「そうか、お前は私のことをわかってくれるか」
難物はしゃがんでハチの頭を撫でた。小さかったハチが、この体だとずいぶん大きく感じられる。
その時、突如ハチの様子が、外敵を警戒するそれに変わった。
ハチがうなり声を上げてにらみつける先を見ると、
「伊佐坂さんですね?」
見知らぬ少女が立っていた。
「いや、そんな姿でもあなたは伊佐坂難物さんのはずだ」
驚愕のあまり二の句が告げない難物の変わりに、少女は難物の知りたいことを口にした。
「まずは自己紹介からいきましょうか。私は、このお隣の家のカツオくんとワカメちゃんも通う学校の校長です。
そして見ての通り、この殺し合いの中で自分の体を失った、あなたの同類です」 【六日目 午前10時】
【伊佐坂家】
【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・校長に若干の警戒心
【伊佐坂オカル】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・ちょっとパニック
【伊佐坂ウキエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・ちょっとパニック
【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:不明
【校長】 (名簿外)
状態:健康 体は十歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・元の体に戻る
正午、本来であればマスオは会社にいるはずの時間だった。
その必要が無くなった今では、この時間は家族で食卓を囲む時間になっていた。
だが、家族といってもそこにいるのはフネとサザエの二人のみ。
学校に行っているカツオとワカメはもとより、本来ならいるべき波平、タラオ、タマの姿も無かった。
「ねえあなた、さっきサブちゃんが来てなかった?」
そんな家族の足りない食卓に何の疑問も感じていないサザエがマスオに尋ねた。
「そうだったかい?」
「おもてにサブちゃんのバイクが停まってたと思うんだけど」
「気のせいだと思うよ」
サザエは家族の死と殺し合いという現実を認識していないが、その他のことに対する判断力はいささかも曇っていない。
これは気をつけないとな、と思いながらマスオは味噌汁をすすった。
フネとサザエがいなくなった後も、マスオは居間に残ってさっきのサブの言葉を考えていた。
突如マスオの元を訪れたサブの語った内容は、にわかには信じがたいものだった。
三河屋の店主との口論で激高した末に誤って伊佐坂先生を殺してしまったが、すぐにヘリに乗った男たちがやってきて伊佐坂の遺体を回収してしまったという。
実際マスオの調べでは同時刻に町ではヘリが目撃されており、あながちサブの話をデタラメと片付けるわけにもいかないが、
今まで死亡者の遺体を波平側が回収したという情報は無く、この話をどう考えていいものかマスオは悩んでいた。
さらに調査すると、同様のケースがもう一件だけあった。
カツオたちの通う学校の校長の場合がそれで、こちらもワカメの担任教師との激しい口論の末に殺害されてしまったのだが、
加害者が少し目を話した隙に死体が消えてしまったのだという。
こちらは波平側が死体を処分するところが目撃されたわけでは無いが、状況的に他の人間の手によるものだとは考えにくい。
果たして伊佐坂先生と校長の間にどんな共通点があるのか、大いに疑問なところだが今のところは考えてもわかりそうにない。
(しかし、死体が消えた話は置いとくとしても、三郎くんにも困ったものだな)
マスオは勝手な判断で計画外の殺人を行おうとしたサブのことを憂慮した。
一歩間違えればマスオの目論見が完全に瓦解していたであろう事態だ。
サブだけに情報収集役を任せるのはリスクが高いというべきだろう。しかし今になって他の人間を探せるのだろうか。
(全く、どうしてこうも次から次へと厄介ごとが増えるんだあ?)
サブのこと。伊佐坂先生や校長のこと。他の殺人者のこと。サザエのこと。カツオやワカメやフネのこと。
これらの問題が複雑に絡み合いながらマスオの双肩にのしかかる。
マスオとしては防衛戦としての殺し合い参加に平行して波平の本心を探るということも行いたかったが、これではとてもそこまで手が回りそうに無い。
相談できる相手など誰もいない。全て、自分がどうにかしなければ。
一体どれだけの時間、そうしていただろう。
同じ問題を何回も何回も考え続けて、もう目が回りそうだった。
その時、目の前に盆に乗ったビールの瓶とグラスが置かれた。
「お義母さん……」
「何かひどくお考えのようですけど、一息入れられてはどうですか?」
「でも、こんな昼間っから……」
「たまにはいいじゃありませんか」
そう言って微笑むフネの顔には、一遍の思惑すらも感じられなかった。
「本当ならこれはサザエの役目なんですけど、サザエはあの調子ですからねえ」
「本当に、いいんですか?」
「ええ、お父さんがいないせいでなかなかビールが減らなくて困っていたところでもありますし」
「それでは、遠慮なくいただきます」
思わず顔が綻んだ。
ふと気付いた。こんなに自然に笑ったのは何日ぶりだろう、と。
「その代わり、マスオさん」
「はい、なんでしょうか?」
「みんなのこと、本当にくれぐれもお願いしますね」 その時の彼女の笑顔は、辛いことも受け入れられないこともすべて飲み込んだ上での優しさを湛えているような気がした。
マスオは思わず息を呑んだが、それ以上は考えずにビール瓶の栓を開けた。
【六日目・午前12時】
【磯野家】
【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを利用する。切り捨てることも覚悟の上
2・サブに代わる手駒を探す
【磯野フネ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・家族を守る スレ主来ないな〜
地震あったから心配だが無事でいてくれ 「ほーらお兄ちゃん、起きないとまた姉さんに叱られるわよ」
朝一番に毎日聞く、妹のからかうような声。それを聞いてしぶしぶながら眠い目を擦る。
「うーん……わかったよ」
しぶしぶ居間に向かうと、母さんや姉さん、それに父さんやマスオ兄さんも揃っていて、
「なんだカツオ、こんな時間まで寝ておったのか」
「急がないと遅刻しちゃうよ」
なんて言葉を眠い耳で聞き流しながら母さんの作ったご飯を食べて……
「ねえカツオ、タラちゃんを見なかった?」
そう、そのちゃぶ台にはタラちゃんも座ってて、「カツオ兄ちゃんはボクよりお寝坊ですー」なんてちょっぴり生意気なことを言ったりして……その横にはタマもいて…… 「ねえカツオ、聞いてるの? ノリスケさんちに行ってるのかと思って電話してみたけど、お留守なのか誰も出ないし」
そして学校に行けば、中島や橋本や西原、そしてカオリちゃんたちもいて……
そんな暢気で平和な世界で、ずっと生きていくんだ。
「ところでカツオ、今日のおやつは何がいい? たまにはリクエストを聞いてあげるわよ?」
ああ、僕だってわかってるさ。そんな生活はもう、二度と戻っては来ないんだってことくらいは。
だから姉さん、お願いだからやめてくれよ。
父さんが殺し合いなんか起こさなかった、かのように振舞うのは。
姉さんがそんなんだと、僕はどこにも、逃げ場所なんか無いじゃないか。
「何よカツオ、返事もしないなんて変な子ねえ」
僕はたまらずに、居間から逃げ出した。 姉さんがたとえどんな人間になったって、僕はずっと傍にいる。ずっと守ってみせる。
そう決意したとは言っても、正直言ってきついものがある。
僕もただの小学生だ。家族や親族の相次ぐ死と、姉さんの異常とを同時にまともに受け止めれるほど強くなんかない。
おかげで中島を探すという当初の目的は、全然進んでいない。今は外に出る気力すら無いのだ。
「お兄ちゃん、顔色悪いわよ」
子供部屋に戻ると、ワカメが僕の顔を見るなりそう言った。
そういうワカメだってずいぶんとやつれたように見える。
「そりゃまあね……うちも随分と寂しくなったもんだよなあ」
「うん……そうよね。タラちゃんもタマもいなくなっちゃったし、ノリスケおじさんも……」
ワカメはそこで言葉を切ると、自分の席に座って僕に背を向けた。なので僕もそれ以上は話しかけないことにした。今は誰としゃべるのも少し辛い。
「ねえ、お兄ちゃん」
僕に背を向けたまま、ワカメが徐に口を開いた。
「もし、もしもの話よ?」
「なんだよワカメ?」
「もし……私が、人を殺したらどうする?」
ああ、もう。
なんでそんなバカなことを聞くんだ、この妹は。
「ワカメ」
そんなことを聞かれたら、こう答えるしかないじゃないか。 「例えワカメが人殺しをしようが、どんな悪いことをしようが、僕はずっとワカメの味方だから。
僕は磯野家の長男なんだから、ずっとみんなの味方になるんだ」
守るって決めたんだ。
姉さんも、ワカメも、母さんやマスオ兄さん、それに中島も。
そして、父さんも。
たとえ世間が誰も許さなくたって、僕がみんなを許して守るんだ。
「……そっか。ありがとう、お兄ちゃん」
「家族なんだから当然じゃないか」
僕は照れくさしにあくびをした。
ワカメの声が震えてたように聞えたけど、気のせいだよな。
【六日目・午前3】
【磯野家】
【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:…… 【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
2・中島の目を覚ませる
3・絶対に殺し合いを終わらせる
【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・目撃者をどうにか始末する >>225
ごめん、ただネタが浮かばなかっただけだったり……
心配かけて申し訳ない; 本編にジミーが久々に登場して正直ほっとしたw
名簿に入れて良かったかどうか不安だったので
(まあそれ言ったら全自動卵割り器とかどうなんだって話だが) 久々に見たらスレ主来てたw
マターリと続き楽しみしてるよw 「まったく……おかしな客だったな」
店じまいを終えたがんこ亭店主は、店の椅子に腰を下ろしてため息をついた。
今日来た客は結局あの二人組だけ。まあこんな時にわざわざ外食をしたいと考える人間が少ないのは当然だが。
それにしてもあの二人組の様子は常軌を逸していた。
片や自分の娘に人目もはばからず欲情している下衆、もう片方は一見おとなしそうな少女に見えたが……
「ありゃあどうみても男だなあ」
本質を見抜く男、がんこ亭店主の目はごまかされ無かった。
あの二人が一体何を企んでいるのかは知る由も無いが、ロクなことでないのはおそらく間違いない。
「まあ、関わらなければどうってこともないだろうが」
がんこ亭店主は、殺し合いだのなんだのという話には何の興味も無かった。
ただ自分の役目はここでこの店を切り盛りしていくことだけ。
他の連中が何をしていようが、関心の及ぶところでは無い。
ただ、一人だけがんこ亭店主がわずかながらも気に留めている存在があった。
全くの偶然から出会った、全自動卵割器。
ただのなりゆきで家につれて帰った(とがんこ亭店主は思っている)が、何かが原因で心に深い傷を負っていると思われる彼に対して、出来ることが何もないわけでもないと思っている。
(まあ、色々考えるのは後にして、とりあえずは明日のための仕込みだな)
毎日の日課に戻ろうとしたがんこ亭店主だったが、その時に店のドアの外の人影に気がついた。
本日閉店の札は出しているはずだが、立ち去ろうとする気配がない。ただの客ではないらしかった。
「どうした、用か?」
声をかけると、外にいた人物は意を決したように店の中に入ってきた。
それは一疋の犬だった。
「もう店じまいは終わったそうだが……」
「ああ。だが、客じゃないなら入ってきても悪い道理はあるまい」
そう告げると、犬はやけに愉快そうに笑った。
「こんなナリだが、これでもこの殺し合いの参加者の一人でな。ちょっとした取引を持ちかけさせに貰いに来た。もっとも、正規の参加者ではないあんたには乗る義理なんかこれっぽっちも無いわけだが……」
「そうかどうか決めるのは、話を聞いてからだな」
そう言って、がんこ亭店主が店の椅子の一つに腰掛けたちょうどその時。
激しい地響き、雷鳴のような轟音、皮膚もつんざくような衝撃波、それらが一片に襲ってきた。
店のドアを突き破って、一台のバスが店内に突っ込んできたのだ。
瓦礫が舞い落ち、椅子や机の上の調味料が床の上に無残に散乱する。
そしてバスの運転席に座る男と機械は、冷徹な笑みを浮かべていた。 【六日目・午後十時】
【がんこ亭店主】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・殺し合い中でも変わらず店を開ける
1:目の前の状況に対処。べ、別に店を守りたいだけなんだからね!!
2:全自動卵割り機を保護する。べ、別にただ怪我をしてるのに放っておけないだけなんだからね!!
【ハチ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・自分の家族を守る
1:不明 【アナゴ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:いつもは毎朝マスオや波平を乗せているバス
思考:
1・マスオ以外の参加者を皆殺しにする
2・今はグルグルダシトールと共闘
3・がんこ亭を制圧する
【グルグルダシトール】(名簿外)
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考: 基本・ノリスケの行方を捜しつつ、他の参加者を殺す
1・今はアナゴと共闘する
2・がんこ亭を制圧する 腕時計を見ると、予想通り、もう六日目も終わりを迎えようとしていた。
地下道に潜伏してすでに数日が経っており、太陽がおがめないせいでさっぱりだった体内時計も少しずつ機能し始めたらしい。
ついでに、最初は閉口するばかりだった地下道の異臭も、ねばつくような湿気も、すっかり慣れてしまった。
(全く、住めば都とは良く言ったもんだなあ)
課長はため息をつく。
地上で集めた情報によれば、彼の部下のアナゴとマスオはまだ無事――かどうかはともかく命だけはあるようだが、すでにマスオの家族には犠牲が出ている。
おそらくは安全圏にいるであろう自分の妻子よりも、むしろ彼らのほうが今は気にかかった。
マスオとアナゴは、社内でも特に中のいい同期である。
控えめで人に付け入られやすいが、その分人あたりのいいマスオと、ずうずうしさが服を着たような食えない男ながらも行動力は人一倍のアナゴは彼から見てもいいコンビだ。
(なんとかして、もう一度彼らと働きたいものだが・・・・・・)
湿ったコンクリートの上に腰を下ろして、ここ最近の取引について回想する。
うっかりすると、家族と引き離されてはいない彼らのことが羨ましく思えてしまうことすらある。
殺し合いの場に家族がいるよりも、いないほうがずっと幸運であるはずなのに。
どうもこんなところに潜んでいると、考え方まで汚水の匂いに蝕まれてしまいそうになる。
おまけにここ数日、ほとんど誰ともまともに口を聞いていないときている。
(鉄仮面? 岩窟王? そんなガラでも無いか)
気を取り直して、今日の寝床――雨水が流れ込んできても濡れないであろう安全な場所を探そうと立ち上がった時だった。
頭上で、鉄球を激しくぶつけたかのような轟音と振動がした。
「殺し合い」などという異常事態にも関わらず律儀に明かりを灯し続けている街灯の間を、一人の少女が脇目も振らずに走り抜けていた。
その後からは、小山のような見慣れぬ物体が地響きを立てて迫ってくる。
それは、棟梁が五日の時間を費やして完成させた木造のロボット兵器だった。
しかしコックピットに座るのは棟梁ではなく、棟梁を射殺しロボットを奪ったホリカワである。
その挙動は遠目に見ても、行き当たりばったりの無計画なものだった。
家、電柱、街灯など手に触れた全てをとりあえず破壊し尽くしてはいるが、動作は無駄と隙だらけで真っ直ぐに進むことすらもままならない。
本当にリカを標的にしているのかどうかすらも判然としなかったが、しかしリカの目には、何よりもその巨体だけでそれは十分な脅威に映った。
それだけではない。このような騒ぎに、殺し合いの他の参加者たちが気付かないわけはない。
もし彼らがここに集まってきて、その中の誰かに見つかったら、戦力の無い自分などは圧倒的に不利だ。
「こっち、こっちだ!!」
悪い予感が的中したのかと思い心臓が跳ね上がった。
振向くと、薄汚れた背広を着た中年の男性が手招きしていた。面識は無い男だ。
信用するか、しないか。
迷うのは命取りだと知りながらも、即座に決断できないのは幼さ故だった。
ロボットの足音がこちらに迫ってくる。
恐怖と逡巡により動けなくなっていたリカの体を、疾走してきた部長が抱き上げた。
ロボットはリカを見失ったのか、ピタリと動きを止めた。
その間に、部長はリカを抱えたままマンホールの中へと飛び込んだ。
【六日目・午後十一時】
【下水道】 【部長】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・しばらくは地下に潜伏して様子見
1・リカを保護する
2・部下のマスオとアナゴが心配
【リカ】
状態:健康
装備:無し
武装:無し
思考:基本・この殺し合いの「主役」になる
【町の南部】
【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメを守る 名簿外キャラも出したいキャラはほぼ出し尽くしたので(あとはヤカマシさんとフネの地元の住職、波平の幼馴染くらいだけど
この人たちは外部勢力向きかなと思うので)今後はどんどん削っていきます
新作キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
投下乙 伊佐坂家の応接間は、本来であれば老いた作家と中年の編集者が向き合って座り、打ち合わせなどをするための空間である。
しかしこの夜、そこに座っていたのは普段とは随分と違う面子だった。
一人は丈の短い和服を着た少女。
もう一人は、どこで売っているのかもわからない、子供サイズのグレーのスーツを着たやはり少女である。
二人とも顔立ちは人目を惹くほどに整っているが、居住まいや仕草は明らかに子供のものではなく、歳を経た老人のそれである。
そしてその小さな口から出る言葉も、やはり見た目の印象を裏切るものであった。
「つまり、校長先生も私と同じような状況で、というわけですか?」
口を開いたのは和服姿の少女――の姿をした、伊佐坂難物その人である。声と顔は幼女でも抑揚は老人なのでとても違和感がある。
しかし対談相手はそんなことを気にしなかった。
「ええ、私はてっきり自分はもう死んだと思っていました。まさかこんなことになるとは・・・・・」
スーツ姿の少女がそれに応える。
やはり子供らしからぬ口調だが、同じ老人めいた口調でも、やや神経質そうな響きのある伊佐坂とは違って鷹揚さが垣間見える。
その正体はかもめ第三小学校の校長。全生徒の氏名と顔だけでなく、その父兄まで覚えているという模範的教育者である。
彼がいささかに語った内容を要約すると、彼は自分の学校の校長室で何者かにコーヒーに毒を入れられるか何かして死亡したらしい。
とにかく、コーヒーを一口含んだ瞬間に彼は気を失い、次に目が覚めた時は今の姿になっていたというのだ。
事切れた自分自身の肉体はその時すでに校長室から消えうせていた。おそらく波平側が手を回したのだろう。
(それにしても・・・・・・) 伊佐坂は考える。こうして第三者的な立場で聞いてみてもあまりにも荒唐無稽な話である。
もし自分自身がその当事者で無かったら到底信じることなど出来なかっただろう。
事実は小説より奇なり、か。しかし今の自分がその言葉を使うと、色々とシャレにならない。
「しかし、弱りましたねえ」
校長はため息をついてみせた。
「私と同じ目に遭ったと聞き、伊佐坂先生と話してみたら何かわかるのではないかと思ったのですが・・・・・・」
前の体の時についたクセなのだろうが、しきりにハンカチで額を拭いている。
「校長先生は、この後どうされるのですか?」
伊佐坂の問いに、校長は苦い顔で答える。
「私は何があってもわが校の教職員、および生徒を守る必要があります。
しかし、この姿で出て行って他の教職員に私が校長だとわかってもらうのは骨ですし、それに・・・・・・」
「自分を殺害しようとした誰かに、まだ自分が生きていることを知られてしまう」
校長はうなずいた。
それはもちろん、伊佐坂自身の問題でもある。
「幸い、明日明後日は土日です。その間にどうにかして学校へ潜り込む方法を考えますよ」
「校長先生、もし良かったら今日はうちに泊まっていきませんか? その・・・・・・女の子が一人というのは危険ですし」
「ありがとうございます。しかしその前に寄らないといけないところが・・・・・・」
その時、机の上に並んでいた二人分の湯のみが倒れた。
振動に伊佐坂は腰を抜かし、校長は立ち上がってカーテンを開いた。
窓の外、月の下、木製の巨大ロボットが街灯を揺らしながら歩いていた。 【六日目・午後十二時】
【伊佐坂家】
【伊佐坂難物】
状態:健康 体は10歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・ノリスケの仇を討つために波平を倒す(殺し合いには乗らない)
1・動揺
【校長】 (名簿外)
状態:健康 体は十歳の少女のもの
装備:支給品一式
武装:不明
思考:基本・元の体に戻る、生徒と教職員を守る
1・ロボットの正体を探る
【磯野家周辺】
【ホリカワ】
状態:手首に損傷
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、拳銃、巨大ロボット
思考:
1・ワカメを守る 今の磯野家の中には、日常と非日常が同居していた。
殺し合いが始まる前と全く同じ生活を送ろうとする、サザエ。
「父さんとタラちゃんは一体どこに行っちゃったのかしら、それにタイコさんに電話しても出ないし」
などと言いつつも家事や買い物をこなす。
彼女に自覚できる変化と言えば、カツオがイタズラをめっきりしなくなったことだった。
「なんか最近不気味なくらい大人しいわよねえ、逆に気味が悪いわ」
カツオの顔を見るたびに、そんなことを言う。
カツオは軽口を二、三言返すくらいで、そんな態度がサザエの疑念をますます膨らませるのだが、しかしそれ以上は追求されなかった。
そして六日目のこの日も、サザエは晩御飯の後片付けを機械的に済ませ、マスオに「タラちゃんをお風呂に入れて」と頼んだ。
自分が風呂から上がった後で、
「タラちゃん、どこなの?」
と家中を探し回る。しかしいつものように、マスオが
「僕が探しておくから、君は先に休みなよ」
と、サザエを寝かしつけた。
カツオは自分の無力さを一日経つごとに強く感じていた。
連日学校もほとんどサボりながら中島や花沢の行方を捜しているのだが、一向に手がかりも見つからない。
前回の波平の放送では名前を呼ばれなかったのだが、すでにあれから丸一日以上経っている。
その間に、どれだけの死者が出ているのかわかったものではない。
それに、中島や花沢と再会した所で果たして何が出来るものだろうか。中島を説得することが本当に可能だろうか。
守ると決めたはずなのに。
家族も、仲間も、みんな守ると決めたのに。
いっそ、食料を買い込んだ上で家族みんなで磯野家に篭城したほうがいいのかもしれない。
自分でも自分らしくないと思うような消極的な戦法が脳裏によぎる。
だが、他の家族たちは、それを許してくれそうに無かった。 カツオと同様、一日中家を忙しそうに出入りしているワカメ。殺人と死体処理も身についてきた。
幼児や同級生など、自分の力でも難なく殺せそうな者は一人でも多く殺した。
大人であっても、油断していたりする者は機会を得ればすぐ殺した。イクラとタイコも、先に死ななければ自分が殺していた。
この六日間で十数人はすでに処理している。
問題は、波平の名簿の中にいるメンバーをさほど削れていないということだ。
名簿の中でも最も殺しやすそうなリカは、行方をつかめない。
ハチは住んでいるのが隣家だ。家族に気付かれるリスクの高さから、流石に手を出しにくい。
同様の理由で裏の老夫婦もだ。もっとも、裏のおじいちゃんはしばらく姿が見えないようだが。
それに、あの目撃者探しもある。いつまでも先延ばしにするわけにはいかない。
幸い、夜になるとサザエ、カツオ、フネは完全に眠り込んでしまう。彼女の深夜の外出を咎める者はいない。
怖い父親も、もういない。
いつものように、深夜になってから布団を抜け出す。隣で眠っているカツオを起こさないように、足音を殺してそっと襖を開ける。
しかし玄関の扉を開けようとした時、思わぬ声に呼び止められた。
「ワカメちゃん」
驚いて振向くと、マスオがどこか悲しげな顔で立っていた。
しまった、どういい逃れよう。だがワカメが口を開くより前に、マスオが言葉を続けた。
「もう、いいんだ」
最初は何を言っているのかわからなかった。
「もう、いいんだよワカメちゃん。君はそんなことをしなくていいんだ」
はっとして体ごと向き直るワカメの目をまっすぐに見て、優しく微笑んで言った。
「そんなことは全部、僕がやる。みんなを守るために、僕が全部やるから」
しかしワカメが何かを応えるよりも前に、二人は、何か巨大なものが地を揺らしながら歩み寄ってくるのに気がついた。 【六日目・午後十二時】
【磯野家】
【フグ田マスオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
基本・何が何でも家族を生き延びさせる。そのためには他人を利用することも厭わない
1・サブを利用する。切り捨てることも覚悟の上
2・サブに代わる手駒を探す
【磯野ワカメ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:ワイヤー、文化包丁
思考:
1・家族以外の人間を皆殺しにする
2・目撃者をどうにか始末する 【フグ田サザエ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:……
【磯野カツオ】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・中島、西原、花沢、ハヤカワの捜索
2・中島の目を覚ませる
3・絶対に殺し合いを終わらせる 「ハチー、どこに行ったの?」
街灯と僅かな家の明かり、それに月しか光源のない深夜、伊佐坂家の庭に若い女の姿があった。
この家の娘、ウキエである。
彼女は犬小屋の前で何度も何度も愛犬の名前を呼んだ。しかし返事は無い。
すぐそばにいるのだろうか。怖いと思いつつも、門のほうまで歩いていく。
一人ではもはや家の敷地から出るどころか、屋外に出ることすらも躊躇われたが、あんな状態の家族に同伴を頼むわけにはいかない。
「ハチ……まさか、もう……」
思えば、あんなに賑やかだった隣家から、子供たちの笑い声もカミナリ親父の怒鳴り声も聞こえなくなってからどれだけ経っただろう。
彼女の家庭も、負けず劣らず……などという言い方はどうかとも思うが、とにかくめちゃくちゃになってしまった。
兄、甚六は、気の毒によほど外で怖い思いでもしたのだろう、部屋に引きこもって出てこようともしない。
父、難物は少女の姿に変えられてしまった。どれだけ不安、どれだけ屈辱であろうか。
我が家では最も熱心にこの殺し合いからの脱出方法を探っていたようだが、もはや外を出歩かせるわけにはいかない。
母、オカルは数々の心労が祟って寝込んでしまった。
こうしてみると自分はおそらく一番運がいい。まだ本格的に怖い思いをせずにすんでいる。
だがなかなかハチが見つからないことが不安となり、その不安はウキエの中でどんどん膨張していった。
その時、ウキエの耳にも聞こえた。
巨人がのし歩く足音のような、大きな音と激しい地面の揺れ。
「な、何今の?」
家の中に逃げ帰ろうとしたが、その前にまずは状況を確認しようと思った。
ウキエは十分に用心しながら、門の外にそっと顔を出した。
胸に刃物が突き刺さった。
「はあ、あああああ、あなたあああああ、どこにいるのおおおおおおお、あなたああああああああああ……」
ついさっきまで若い娘が立っていた伊佐坂家の庭に、今は別の女が立っていた。
返り血で真っ赤に染まったエプロンで、血がまとわりついた鉈を拭っている。
伊佐坂家の家人たちはみな迫り来るロボットに気を取られ、庭への侵入者には気がつかない。
もっとも侵入者自身、自分が何をしでかしているのかもわかってはいなかった。
「おかしい、おかしい、おかしいいい……こんなにいっぱい、こんなにいっぱい殺したのに、なんで、なんで、あの人はまだ、
なんで、なんで、なんで……帰ってこないのおおおおおお、あなたあああああああ」
そのうめき声も、ロボットの足音にかき消されて、伊佐坂家の人々の耳には届かない。
一方アナゴ婦人は、その足音にすら気付いていない。
それよりも、流石に疲れて眠くなってきた。
ついさっきも、たまたま道に飛び出してきた若い女を殺してバラバラにしたところだ。疲労も限界である。
寝床を求めて、彼女はあまり深く考えもせずに、鍵の開いた出窓から伊佐坂家の中に入っていった。幸い、今にはもう誰もいなかった。
【六日目・午後十二時】
【伊佐坂家】
【アナゴ婦人】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:鉈
思考:
基本・アナゴ以外の参加者を皆殺しにする
1・少し休む
2・甚六を殺す
【伊佐坂ウキエ 死亡確認】
残り35人 殺し合いとかなんとか言われても俺にはとんとわかんなかったが、だがここまで町の連中がバタバタしているとなると俺にも少しは事情が飲み込めてくるってえもんだ。
だれそれが死んだとか、だれだれがどこのだれに殺されたとか、そんなこたあ、俺にとっちゃあ正直たいしたことじゃあねえ。
随分な冷血漢じゃねえかってえ? まあそうさね、あんたらにはそう思われても、まあしょうがねえってとこだな。
だけど、ちょっと考えて見てくんねえか。
例えばあんたは道端で虫が死んでても、悲しく思ったりするかい?
あるいは川の中で魚がいっぱい死んでても、取り乱したりはしねえだろ?
こんなこと言ってる俺だってもちろん、魚を食うときに罪悪感なんざ感じたりはしねえ。
生きものってのはそういうもんじゃねえか。同情できるのはあくまでも自分と同格な相手だけよ。
もっともこないだ死んだ俺の仲間の一人は、そういう考えじゃなかったみてえだけどな。まあそりゃそいつの勝手ってもんだ。
俺にとってそれよりも危急的な問題は、もうここ何日もその魚を食ってねえってことだ。
今までは魚が食いたくなったらあの家に行けばよかったんだが、流石にこうなっちゃあそういうわけにもいかねえ。
俺だってその程度の空気くらいは読めるってもんだからな。
もっともメシには苦労していねえ。奇特な奴がいて、この殺し合いのドタバタの中でずっと宿無しだった俺を家に招きいれてくれた。もちろんメシと昼寝つき。
こいつが何を考えてんだかはさっぱりわかんねえが、まあどうでもいいさ。
それに俺にはこいつらの考えなんかさっぱりわかんねえからな。あんたが虫の考えを理解できないのと同じことだな。
今俺は、この家の主人であるそいつの隣でいつものようにウトウトしている。
周りにはそいつの娘だという女の子と、もう一人別の帽子を被った女の子、それに中年くらいの男がいる。
いかにも神経質そうな中年男は、隣に座った帽子を被った女の子の胸やら尻やらに手を伸ばそうとしてはひっぱたかれている。いつものことだ。
どうもこの男はこのくらいの歳の女が好みのようだな。もっとも、同い年くらいのもう一人の娘には目もくれてないが。 その時、主人の机の上の電話が鳴った。
主人はすぐに受話器を取って、なにやら話し込んでいた。声のトーンからしたら随分深刻な話みてえだな。内容はわかんねえが。
受話器を置いた後、即座に男は言った。
「岡島さん、中島くん、ちょっと頼みたいことがある」
おーおー精が出ますなあ。でも俺まで巻き込まれるのはゴメンだから、俺は「にゃあ」とあくびをすると、机の上から飛び降りてさっさと退散した。
【六日目・午後十二時】
【駅前・がんこ亭店内】
【花沢花之丞】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考: 基本・ 殺し合いの中で不動産を売りさばいて利益を上げる
1・中島と岡島を動かす
2・花子の命は最優先で守る
【中島】
状態:健康 女装
装備:支給品一式
武装:ナタ
思考:基本・カツオ以外を皆殺しにし、カツオを優勝させる
1:岡島を体で操って人殺しをさせる
【岡島さん】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:中島タンハアハア 【花沢花子】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:毒薬
思考:
基本・恋敵は殺す。他の人間は未定
【お魚咥えたドラ猫】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:なし
思考:花沢父の傘下で大人しくしておく
※花沢陣営の一員です 「結局、また一足遅かったみてえっすね……」
割られた窓、荒らされた部屋、そして畳の上に横たわる、血に染まった男の亡骸。
男を殺した者の姿はすでに無かった。
泥棒は、胸を切り裂かれて生涯を終えた男の傍らに座ると静かに手を合わせた。
「まだ数時間と経っていないな……本官たちがもっと早く、ここに来ていれば……」
「おまわりさん……」
泥棒と警官、本来なら決して相容れない立場である二人の男は互いに目配せをして、どちらからともなくよろよろと座り込んだ。
もう何度、こんなことを繰り返しているのだろう。
住人の中で誰が殺し合いに乗っているのかがわからない、いや、今は乗っていない住人でも誰がいつ乗るかわからない以上、地道に町中を回って殺し合いが起きないように目を光らせるしかない。
だが、警官と泥棒が目にするのは、すでに殺された犠牲者の姿ばかりだった。
目にした殺人現場の状況や位置から推測し、次に殺人が起きそうな場所に先回りしたこともあった。
だが、それも無駄に終わった。彼らが到着する時には、例外なくすでに殺人が行われた後なのだ。
「おまわりさん……もう限界じゃねえすか?」
泥棒は腰を下ろしたまま、弱々しく声を吐く。
「やり方を変えませんか? こんなことをいつまでも続けるわけにもいきやせんぜ」
「いや……他にアテがあるわけでもない。しばらくはこのまま続けるしかない」
そう応えながらも、それが無意味な行為に終わるであろうことは警官にもわかっていた。松葉杖の表面を意味も無く撫でる。
「俺たち、あのまま先生と一緒に死んでいたほうが良かったかもしれねえっすね……」
「そんなことを言うものでは無い」
自分たちを救ってくれた麻雀医師を見殺しにしたのみならず、他の人も、誰一人救えていない。何度も続く不運を嘆くことしかできない。 いや、本当に「不運」なのだろうか?
(おかしい。いくらなんでも、ここまで何度も続けて逃げられるものか?
あるいは、こちらの行動が読まれているのか? それとも……)
警官は、職務上の勘から、何かがおかしいということに気付き始めていた。
だが断定するには、根拠が少なすぎる。
それに、心身共に疲弊した今では頭もロクに回らなかった。
もとより、松葉杖とギプスが不要になるまでは本調子は出ない。
「……今日はここまでだな」
警官の宣言に、泥棒は黙ってうなずいた。すでに深夜だ。
いくら町民を守りたいとはいえ、二人だって食事と睡眠は取らないといけない。
今夜の寝床を探そうと、重い体を立ち上がらせた時だった。
二人のいる家の傍らを、一台のバスが走りぬけた。
警官は顔を強張らせた。自らの経験で判ったのだ。
ああいう走らせ方をする運転手は、高い確率で事故を起こす。
その直後、響き渡る衝突音。二人は家を飛び出した。
表の道に出ると、一軒の飲食店にバスが突入しているのが見えた。
その店の看板には、「がんこ亭」と書かれていた。 【六日目・午後十時】
【駅前・がんこ亭近くの路上】
【警官】
状態:健康
装備:支給品一式、不明支給品
武装:警棒
思考:基本・あくまでも警官としての職務に従い、住人たちを守る
1・状況を把握
【泥棒】
状態:健康
装備:支給品一式
武装:不明
思考:
1・警官に従う _
/ \
| ^o^ |
\_  ̄\
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| \_/
_| |_
| |
http://takes★hi3017.chu.jp/
★を抜いてね 初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る9/30(日)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?
ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。
詳しくは
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。
ついに波平ロワがロワラジオにw
楽しみにしてます。 町内のその一角は、磯野家周辺の喧騒とも、駅前商店街の騒動とも無縁の深夜に相応しい静けさを保っていた。
もちろんどの家の住人も、六日目を無事に乗り越えられたこと以上に、明日が最期になるかもしれないという不安に苛まれながら、眠れぬ夜を迎えている。
だが、その中で一軒だけ、異質な雰囲気を放つ家があった。
その家の居間では、一人の少年がテレビをつけて見入っていた。
ニュースでは相変わらず、この殺し合いのことなど報じられていない。波平の情報統制は完璧に近い。
(やっぱり磯野のお父さんをどうこうするのは無理だな。磯野と中島を生き残らせるためには、俺が頑張って他の人を殺さないと)
この六日間で果たして何人の人間を殺したのか、彼にはもうわからなかった。
「西原が死んだぶん、俺が頑張るんだ。俺が……」
そううわ言のようにつぶやきながら、少年――西原は、静かにテレビを消した。
ここは彼の家ではない。彼の友人である橋本の家である。
だが橋本家の人間は、殺し合い四日目にして全滅した。本来なら、この家に帰ってくる者などいるわけがない。
だが、自分のことを橋本だと信じる西原は、さしたる苦もなくこの家に帰還し、戸惑うことも無く家の中の道具を使って食事をし、橋本のものだった布団の上で寝ている。
それも当然のことなのだ。彼にとっては、自分自身こそが「橋本」なのだから。
「さて、そろそろ……寝るか」
彼は立ち上がって子供部屋へと向かった。
もうすでに「自分の部屋」としか思えなくなった部屋のドアを開け、間違いなく自分のものである机や野球道具を見やる。
もはや「西原」という人間であった頃の名残など、彼の頭の中には微塵も無かった。
だが……この部屋の中に一つだけ、彼の心にひっかかりを覚えさせるものがあった。
それは机の上に置かれている一枚の写真だ。
その中には四人の少年が写っている。 中央にいる帽子を被った坊主頭の少年と眼鏡の少年は、彼の親友である磯野と中島。
その両隣にいるのが、言うまでも無くこの自分である橋本と、今はもういない大切な友人、西原だった。
だが、この写真をじっと見れば見るほど、彼の中に疑問が浮かび上がってくる。
この二人の少年のうち、果たしてどちらが自分で、どちらが西原なのか。
自分の顔を忘れることなどあるわけも無い、とわかってはいても、考えれば考えるほど、心の中の焦点がぼやけてくるように、どちらがどちらだったのかが判らなくなる。
無論、今すぐ洗面所に行って鏡を見れば疑問は氷解するだろう。
しかしなぜか、それだけは、してはいけないことであるような気がした。
西原は写真から目を背けると、すでに使い慣れたベッドの上に身を投げた。
わからないことをいつまでも考えていたって仕方あるまい。
それに、大して重要なことでもあるまい。そんな気がした。
【6日目 午前11時】
【橋本家】
【西原】
状態:健康
装備:支給品一式、橋本の服
武装:小型爆弾×4
思考:基本・カツオ、中島を生き残らせるために他の参加者を殺す
※錯乱の末、自分のことを橋本だと思い込んでいます
ジミーの職業は大工である。
だがまだ見習いであり、独立にはほど遠い。
しかし、いくら怒鳴られ、しごかれながらも棟梁の下を離れる気にはならないのは、棟梁の中に自分が欲していたものの存在を見ているからである。
それは、強い父親だった。
ジミーにとって、何よりも欲しかったものはそれだった。
厳しく叱りながらも、行くべき道を指し示してくれる、大きな背中をした父親。
棟梁が目の前に現れたその時から、ジミーにとって棟梁が世界の中心であり、世界の全てだった。
だが一度だけ、あまりの厳しさに音を上げ、棟梁の下を離れようとしたことがある。
その時自分の軽率さを諌めてくれたのが波平だった。
誤った道を行こうとした自分を正しく導いてくれた。
それ以来、波平もまた、彼にとって棟梁と並ぶ父親代わりとなった。
「ん……ここは……」
ジミーが目を覚ましたのは見知らぬ部屋だった。自分の家でもなければ、磯野家でもない。
「おー、気がついたか」
だがそう言って顔を覗き込んでくる男には見覚えがあった。
この町内における重要な食糧供給拠点の一つ、三河屋の店主。
「道の真ん中でぶっ倒れてたからよお、サブにバイクでここまで運ばせたのさ。
何しろほら、ここんとこ物騒だしよお」
思い出した。確か自分はリカの荷物を盗んだはいいものの、その中身が……いや、思い出すのはよそう。
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