広島県内の更生保護施設(刑務所を出て社会に復帰する元受刑者のための施設)で、タカタ・トシオ氏(69)は私にこう語った。
罪を犯したのは貧しかったから。たとえ塀の中でもいい、ただで住める場所が欲しかったと。

年金をもらう年になった後、金が底をついてしまったタカタ氏は、刑務所ならただで住めそうだと思いついた。
自転車を拝借して警察まで乗って行き、警察官に『ほら、こいつを盗んできた』と話したという。

作戦は成功した。62歳での初犯だったが、日本の法廷では軽微な盗みも厳しく罰せられる。
こんな罪でも1年の刑が言い渡された。

タカタ氏は小柄でやせ型、しきりにクスクスと笑う。犯罪を繰り返す人には見えない。
ましてや、刃物で女性を脅すような人物とはとても思えない。だが最初の刑を終えて出所した後、彼がしたことはまさにそれだった。
公園に行って脅しただけ。危害を加えるつもりは一切なかった。
ただ刃物を見せて、この中のだれかが警察に電話すればいいと思ったら、1人が通報してくれたとタカタ氏は話す。

タカタ氏はここ8年間のうち、合わせて半分を刑務所で過ごした。刑務所にいるのが好きなのかと尋ねると、金銭的に都合のいいことがもうひとつあると言う。
それは、服役中も年金の支給は続くということだ。

刑務所暮らしが好きというわけじゃないが、刑務所にはただで寝泊まりできる。
しかも出所した時には金がたまっている。だから、それほどの苦労ではない。そうタカタ氏は話す。