http://blog.tatsuru.com/2022/08/19_1428.html

 強大な国防軍を創設すべきか、常備軍は最低限のもの、暫定的なものにとどめておくべきか。この原理的な対立は結局、憲法制定までには解決を見なかった。
合衆国憲法は常備軍反対論に配慮して、常備軍の保持は憲法違反であると読めるような条項を持つことになったからである。連邦議会の権限を定めた憲法8条12項にはこうある。

「連邦議会は陸軍を召集し、支援する権限を有する。ただし、このための歳出は二年を越えてはならない。」

 常備軍はどの国でもふつう行政府に属する。しかし、合衆国憲法は陸軍の召集と維持を立法府に委ねた。さらも二年以上にわたって軍隊の維持費として継続的な支出をすることを禁じた。
「これは、よくみると、明らかな必要性がないかぎり軍隊を維持することに反対する重要にして現実的な保障とも思われる配慮なのである」 とハミルトンは8条12項について書いている。

 アメリカが常備軍を禁じた憲法を持っていることを知っている日本人は少ない。
改憲派は、憲法第九条二項と自衛隊の「矛盾」を指摘して、「憲法と現実の間に齟齬があるときは、現実に合わせて改憲すべきである」と主張するが、彼らが常備軍規定について合衆国憲法と現実の間には深刻な齟齬があるので改憲すべきであると米国政府に献策したという話を私は寡聞にして知らない。
私はむしろ憲法条項と現実の間に齟齬があることがアメリカの民主制に活力と豊穣性を吹き込んでいると理解している。
アメリカ市民は憲法8条12項を読むたびに、「建国者たちは何のためにこのような条項を書き入れたのか?」という建国時における統治理念の根源的な対立について思量することを余儀なくされるからである。
正解のない問いにまっすぐ向き合うことは、教えられた単一の正解を暗誦してみせるよりは、市民の政治的成熟にとってはるかに有用である。
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