安倍晋三元首相が7月、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で演説中に銃撃されて死亡した事件で、現場近くの商業ビル「サンワシティ西大寺」の屋上に「スナイパー小屋があった」とする動画やツイートが広く拡散している。

テレビ局が事件直後に上空から撮影した映像に白っぽい物体が映っており、そこに安倍元首相を銃撃した「真犯人」のスナイパー(狙撃手)が潜んでいたというものだ。

しかし、同ビルを管理・運営する「三和住宅」(奈良市)はBuzzFeed Newsの取材に、白っぽい物体は「排煙ダクトの清掃作業などに使っていたテント」と説明した。

「ビル屋上に簡易テント。スナイパー小屋が事件後3時間で撤去されている。サンワシティービル屋上」

このような動画がYouTubeで配信されたのは8月16日。配信元は登録者数約2万人のチャンネルで、他の動画でも「スナイパーが安倍元首相を狙撃した」と語っている。

今回の動画では、事件直後にテレビ局が上空からヘリコプターで撮影した映像を引用。

白っぽい物体がサンワシティ西大寺の屋上にあるとし、「テントがある。ここにテントがあるなら(スナイパーが銃撃のタイミングを)ずっと待っていたのかも」「スナイパー説の証拠が揃ってきた」などと話していた。

そして、3時間後の映像にはこの白い物体が撤去されていることもわかるとも述べていた。

この動画は30万回以上再生されており、Twitter上でもこの動画や同様の見解を拡散するサイトや人が続出している。

では、この白っぽい物体は何なのか。

BuzzFeed Newsは、サンワシティ西大寺を管理・運営する不動産会社「三和住宅」を取材した。

担当者によると、事件当時はビルの屋上で、排煙ダクトの清掃や点検などのオーバーホール作業が行われており、その作業用に2畳ほどの大きさの白いテントを張っていたという。

この作業には、同社の社員が立ち会っていた。「不審者がいたということもないし、そもそもスナイパー小屋だなんて、ありえない」と話した。

テントはオーバーホール作業が終わった後に撤去。ビル(建物高30.9メートル)の屋上入り口は普段、施錠されており、関係者以外は出入りできない。

担当者は「悪質なデマを信じた人たちから『スナイパーがいた』などと電話も来ている。非常に迷惑しており、弁護士に相談のうえ法的に対処していくことを検討している」と語った。