関はファミレスの一番奥の席に荒々しく腰をおろした。それから机に両足を交差させてのせると、禁煙席にもかかわらず煙草に火をつけた。
 恰幅のいい体にガルフィ―のセットアップを着け、あらわになった胸元には金のネックレスがギラついている。
 誰がみても“その筋”の人間だった。
 実際、彼はヤクザで闇金のシノギが上手くいっておらず、ここへ来る前に債務者の男を刃物で半殺しにしている。
 シノギは下手だが凶暴な男だった。
「太田組の関さん?」
 声をかけられた関はうざったそうに声の方を向いた。
 猫に似た顔立ちの色白の女が立っていた。
「なんだねえちゃん、俺のファンか?」
「ううん。恨みはないっちゃけどね、」
 関は勢いよく立ち上がった。
 裏の世界に身を置いて20年の勘が、『この女は危ない』と知らせたのだ。
 ポケットに入れた折り畳みナイフを素早く取り出し女へ向けると、間髪入れずにその細い胴を刺しにいく。
 途端、ナイフを持つ手が肘のところでグシャリと曲がる。
 悲鳴をあげる間もなく次は両鎖骨が同時に砕かれ関はその場に膝から崩れた。
 何をされたのかまったくわからない。
 見上げると女が自分を見下ろしていた。
「あんた……まさか…………」
 女は薄く笑みを湛えて言った。
「選ぶと。今死ぬか、自首するか」
「わ、わかった自首する! 頼むから命だけはっ」
 当然、関に改心する気など毛頭ない。しかし女はにこりとして踵を返した。それから数歩進み足を止めると振り向いて言った。
「忘れとった。依頼者からは同じ目に合わせろって言われとったっちゃん」
「え?」
 関が思わず眉を寄せた瞬間――
 轟、と蒼い炎がその恰幅のいい体を包んだ。
 あまりの熱さに関は叫び声をあげながら転げまわった。
「火力は限界まで抑えとうから死にはせん」
 彼女の言う通り、数秒して炎が消えると関はまだ辛うじて生きていた。
 打ち上げられた魚へ女が言い放つ。
「死ぬ必要も自首する必要もないと」