2021年5月、戦車の歴史に大きな転換点が訪れました。
イギリス陸軍はこれまで使用していた「チャレンジャー2」主力戦車のアップデートを発表、新型となる「チャレンジャー3」は、その主砲がついに伝統的な120mmライフル砲から120mm滑腔砲へ換装され、新型砲弾もあわせて採用するというのです。
「ライフル砲」とは、砲身内部に溝(ライフリング)が施された砲全般を指し、その溝が入っていない「滑腔砲」と対をなすものです。
2022年現在、NATOなど西側諸国の主力戦車はほとんどがこの滑腔砲を搭載した車両であり、砲弾の進化に対応した結果、そのような状況になっています。
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当時、アメリカなどNATOに属する西側陣営の標準的な戦車砲は、イギリス製の105mm戦車砲「ロイヤル・オードナンス L7」というライフル砲でした。
APFSDS自体はライフル砲でも使えますが、ライフリングがある砲から発射すると回転の影響で威力が減衰してしまうという弱点があり、西側陣営では1960年代にこれを克服する新たな戦車と戦車砲の開発を、アメリカと西ドイツが共同で着手することになります。
この開発計画は両国の設計方針の不一致などで頓挫しますが、この際、西ドイツが搭載を主張した120mm滑腔砲の案を元にして、後に西側の標準滑腔砲となったラインメタル製の「120mm L44」が開発されます。
これはAPFSDSのほかに、歩兵用の対戦車ロケット砲弾にも見られる成形炸薬弾(多目的対戦車榴弾)なども使用できます。
120mm L44砲を装備する戦車として1979(昭和54)年に配備を開始した西ドイツの「レオパルト2」は、戦車が動いている状態での射撃「行進間射撃」でも120mmという大口径でありながら高い命中精度を誇りました。
また、アメリカ軍のM1「エイブラムス」戦車は、当初105mm戦車砲で制式化されたものの、これに代わって120mm L44砲をライセンス生産した「M256」が搭載されるようになります。
このように、最終的には西側のほとんどの国の戦車が120mm L44砲を搭載しました。日本の陸上自衛隊が使用している90式戦車の砲も同様のもので、10式戦車に採用されている10式戦車砲に関しては国産ですが、やはり120mm L44を参考にしたものです。
滑腔砲の弱点として、装弾筒と砲身に隙間があると弾道が安定しないというものがありましたが、それも技術発展により、砲身の隙間がほぼない状態で発射できるようになりました。こうしたことから、新たに画期的な技術が登場するまで、「戦車砲は滑腔砲」という時代は続くと思われます。
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