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■ 為替の2大論点に変調

経常黒字と対外純資産という為替を語るうえでの2大論点に、明らかに変調が見られはじめた。

前者に関しては、2022年1月には史上2番目の経常赤字が記録された。資源価格の騰勢による貿易赤字の拡大が理由で、これが止まらないかぎり、
状況は大きく変わりそうにない。所得収支で稼ぐ以上に貿易収支の赤字が大きくなるという、「債権取り崩し国」の姿である。

かろうじて経常黒字を確保したとしても、それは第一次所得収支黒字によるもので、貿易赤字が巨額である状況は大きく変わらない。

為替市場において重視されるべきは円の買い切り・売り切りにつながる貿易収支である。貿易収支が黒字ならば、稼いだ外貨を円に転換するため、
円が買われる。第一次所得収支黒字は有価証券の利子・配当などが多く、これらは外貨のまま再投資される割合が非常に高いと推測され、
「円買い」につながらない。

第一次所得収支黒字に依存してきた日本の経常黒字は、円相場を支えるという観点に立てばかなり前から「張り子の虎」だった。
また、経常収支と対をなす金融収支(直接投資や証券投資など)においては過去10年で対外直接投資が猛烈な勢いで増えてきた。

結果、日本の基礎収支(経常収支+直接投資)は断続的に外貨への流出につながる構造になっている(下グラフ)。円安が肯定されやすい地合いだ。
このような需給の変調が見え始めたのはこの10年で、最近のことではない。

ただ、短期的な変化に反応しやすい為替市場では「経常赤字に転落」という事実がクローズアップされやすく、過去2番目の経常赤字が発表された
2022年3月8日の後、ドルが対円で高値を更新したことは偶然ではないだろう。