三陸ではとしろという。
としろはねえ、昔、工場の前にリヤカーで引いてきて
バケツで売ったんだ。「とすろー、とすろー」って言って歩いてね。
アワビなんて海に潜ればゴロゴロしていたから。
あの辺ではもっとも安い食材で、生でも焼いても喰わせられた。
会社の独身寮のおかみさんが、としろを今で言うヅケにして
で、これで飯を喰えと出してくる。
飯くいながら笑うと口の中、真っ黒でな。
で来る日も来る日も、としろなもんだから、俺はもういい。
今では刺身の本体だけを喰いたいと思っているが、なかなか食えないね。
今から40年も前のお話し。