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改正前:拘留または科料

改正後:1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料

なお、拘留とは1日以上30日未満刑事施設に拘置する刑であり(刑法16条)、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭を支払う刑です(刑法17条)。
従来は、たとえ侮辱罪に問われても、これら以上の刑罰を科されることはありませんでした。
侮辱罪の法定刑は、従来、刑法の中でもっとも軽いものだったのです。

侮辱罪の定義

侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」が処される罪です。
これを分解すると、次の2点を満たす場合に侮辱罪が成立します。

「公然と」であること
1つ目の要件は、「公然と」行われたものであることです。

たとえば、公衆の面前で侮辱をした場合の他、X(旧Twitter)やInstagramのリプライ、YouTubeのコメント、インターネット上の匿名掲示板などで侮辱をした場合などが、これに該当するといえるでしょう。

2つ目の要件は、「人を侮辱した」ことです。
たとえば、「気持ち悪いから消えてほしい」や「目障りだから死ねばいいのに」などという言動などが、これに該当する可能性があります。

なお、侮辱罪が成立するかどうかは1つの言葉のみで判断されるわけではありません。
用いた表現のほか、頻度や侮辱に至った経緯など、さまざまな要素を総合的に加味して判断されます。
侮辱的な表現である以上、「〇〇という表現を使ったらアウトで、○○という表現ならセーフ」など、表現のみで一律の線引きがされるわけではないということです。

侮辱罪が厳罰化された経緯は、インターネット上での誹謗中傷が社会問題となっていたことです。

誹謗中傷は、インターネット上で誰もが気軽に発言できるようになる前から存在しました。
しかし、匿名での発信が容易なインターネットの登場により、誹謗中傷のハードルが非常に下がってしまったといえるでしょう。
中には単なる「憂さ晴らし」などのために他者を誹謗中傷する人さえ存在するほどです。

しかし、誹謗中傷を受ける側が生身の人間であることには変わりありません。
特に有名人などのもとには、非常に多数の心ない誹謗中傷が寄せられるケースもあります。

こうした中、2020年5月、テレビ番組に出演していた女子プロレスラーがTwitter(当時)上で誹謗中傷を受け、命を絶つ事件が発生してしまいました。
この事件では2名の男性が侮辱罪で略式手続で起訴されたものの、科された刑罰は9,000円の科料のみです

これを受け、侮辱罪の罰則が低すぎるとの指摘がなされ、厳罰化に至りました。
また、先ほど解説した名誉毀損罪に該当する場合と法定刑に差がありすぎたことも、厳罰化に至った理由の一つです。