おおおー!えええ?ほんま?

控室と大盤解説場を驚がくさせるに十分な異次元の好手が飛び出したのは、羽生の59手目▲8二金だった。
攻め落とすべき目標の藤井王は遠く3一にいる。むしろその位置に導いたのは羽生自身だ。
なのにとんでもなくあさっての場所に貴重なカナ駒を打ち込むなんて。

なんなんだこの手は。
涼しい顔の羽生とは対照的に史上最年少5冠は金縛りに遭ったような表情を浮かべる。
時間の経過とともにこの1手の意味が明らかになった。
藤井が放置した場合、▲7二金△同金▲5二飛の「詰めろ金取り」の必殺技がかかる。
ほぼゲームセットではないか。

結局56分の長考を相手に強いて王が4二に上がったのを確認した羽生は37分を投じて封じ手を選択。
かつてのライバルでもある正立会人・谷川浩司17世名人(60)に封書を手渡す背中には、
そこはかとなく力強さがみなぎっていた。