http://blog.tatsuru.com/2022/12/29_1305.html

―なぜ、自身を「壊す」という勉強を重視するのですか?

内田 勉強するのは自我を強化するためではありません。逆です。自己解体・自己刷新のために勉強するんです。自分が知っていることを人に誇示するのって、まったく意味がないと思うんです。
だって、自分がもう知っていることなんだから。そんなことをしても自分の成長には1ミリも資するところがない。そんな暇があったら、自分が知らないことについてもっと勉強して、自分を壊してゆきたい。
自分を固めてしまったら、新しいことを学べなくなるでしょう。絶えず変化し、より複雑なものになってゆくというのは生物の本質なんですから。

 いまはもう中等教育から自分のキャリアについて精密な「キャリアプラン」を子どもに作らせていますね。
将来どういうところに進学して、どういう資格を取って、どういうところに就職して・・・ということについての具体的な見通しを、できるだけ早い段階で決定させようとしている。
僕はそんなことはしてはいけないと思います。だって、中学生の子どもが知っている職業なんて、本当にごくわずかでしょう。実際には子どもたちがその名前も知らないような無数の職業が存在する。
そして、かなり高い確率で、今の子どもたちがその名も知らない職業にいずれ彼らは就くことになる。

 アメリカでの研究によると、今年小学校に入学した子どもたちの65%は大学卒業後には「今はまだ存在しない職業」に就くんだそうです。そうだろうと思いますよ。
今の子どもがなりたい職業の第1位は「ユーチューバー」だそうですけれど、20年前にはそんな職業存在しなかったじゃないですか。

 だから、子どもたちに「将来、何になりたいの?」というようなことをうかつに訊くものじゃないと思います。
先日、ある中学校の講演で「子どもに『将来の夢は?』というような質問をうかつにしないように」という話をしたら、親たちも先生たちもかなり驚いていました。
でも、子どもに将来の夢をうっかり語らせてはいけない。あまり深い考えなしにであれ、一度「将来...になりたい」というようなことを口にしてしまうと、子どもにとってそれが呪縛になって、自分の人生を限定してしまうリスクがあるからです。
でも、子どもたちはこの世の中にどれほど多様な仕事があるかほとんどぜんぜん知らないわけです。その時点でうかつに「自分の夢」を語らせると、子どもたちはそれ以外の可能性を視野から遠ざけてしまうかも知れない。
子どもたちにはできるだけ開放的な未来を保証してあげることの方がずっと大切だと思います。