山口真由さんが財務省を辞めた理由

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44411

<直属の上司はハーバード出身の超エリートでした。私は彼とどうしても波長が合わず、それにも苦しみました。
彼は理論派、私はというとかなり感覚的なタイプなので、おたがいつらかったと思います。

財務省は女性のキャリア官僚を育てるのが苦手、とも言われていました。
もともと女性が少ないこともあり、女性の部下が甘やかされる傾向にあることが、その原因だと。
それを覆すために、私の上司は、私には意識的に厳しく接していたようです。

財務省の深夜バスの一便が出発する零時三十分の直前に仕事を与えられることもしばしば。
一便に乗り損ねると、二便まで一時間十五分も空いてしまう。上司のことをどんなにうらめしく思ったことかわかりません。

このかたはいつも、私に妙な課題を与えました。

「山口、小豆は赤いよね?」

真夜中に月餅を食べながら、彼はこう私に話しかけます。

「はい」

「でもさ、月餅の中のこしあんは黒いよね」

「はい……」

この時点で、どことなく嫌な予感がします。

「なぜ赤い小豆から月餅の黒いこしあんができるのか、今すぐ調べてくれないか」

私はたぶん、いやーな顔をしていたはずです。

「小豆の表面は赤いんですけど、中は黒かったりするのではないでしょうか」

面倒だし、仕事に関係ないし、サービス残業なんでもうこりごりなので、調べもせずに答えました。すると、上司はパソコンの画面を見ながら、こう言います。

「山口、この画面、ちょっと見てみて。ほら、小豆の中身の画像があった。小豆って言うのは、どうやら白いんだね。
小豆の中は黒ではなくて白だ。なのに、なぜ黒くなるんだろう。不思議だとは思わないかい??どういうことなのか、調べてほしい」

頻繁にそういうやりとりをくり返しました。

「なぜ歳をとると髪が白くなるのか、調べて」

「なぜ空は青いのか、調べて」

正直言って、上司のそんな質問の一つ一つに付き合うのはなかなか大変でした。
なにしろ、ものすごく疲れ切っていて、何としても早く帰りたくて、それなのに、とてつもなく忙しい深夜に話しかけられるのです。

ただ、上司は私に意地悪をしているわけではなさそうでした。むしろ善意だったのかもしれません。
「財務官僚として、どんなことでも常に人を説得できるストーリーを作るトレーニング」を、私に課していたのではないかと思います。
しかし、ひょっとしたら、それは私が自分に都合のいいように解釈しているだけなのかもしれませんが、
トレーニングと思わなければあまりにも理不尽な、意味不明な指示ばかりでした。>(107~109頁)
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