北野:今って、全部言わないと伝わらない感じがあると思うんです。
居酒屋なんかでも「どこそこのおいしい地酒と肴の店」みたいな、「全部言っちゃってるじゃん」みたいなことが日本のエンタメには多い気がしていて。そういうことも歌詞を書く上で気にされますか?

つんく♂:どうかな……。「説明はしっかりしなきゃ」とは思うようになったかな。「書かなくっても、曲聴いたらわかるやろ〜」って思ってたことも、何十年も気がついてもらえないことも多いからね。
なので、「セルフライナーノーツに書かないと伝わらへんやろうな」と思うことはいっぱいあって、最近は特にちゃんと説明してる気がする。

ただ、最近悩むのは、ジェンダーの問題とかそういう部分かな。「男だから、女だから」みたいに書いた方が理解しやすいけど、「突っ込まれるかな」とか思ってやめちゃうことはある。
それで、ちょっともったいない気がする歌詞も増えてきたかもね。なんとなく作品が弱くなる気がして。

北野:でも、つんく♂さんが歌詞で炎上することはないんですよね。そこがすごいなと思っていて。
今、「おじさんをアップデートしなくちゃいけない」と言われているけど、そういう感じもつんく♂さんからはそんなに受けないんですよ。だからそもそも人としてちゃんとしている人なんだな、と思ってしまいます。

つんく♂:まあでも、結婚して子どもができるまでとそれ以降では変わってきているとは思う。この15年くらいで、俺の中の歌詞を書く人がどんどん大人になってきている気はする(笑)。
かといって、過去の作品を振り返ってみて「この子たちにこんな曲を歌わせなければよかった」と思うことはないかもなぁ。もちろん自分のことを若かったなと思うことはあるけどね。

でもおそらくメンバーたちにとって、当初は「恥ずかしい」「なんでこんなセリフを……」なんて思うことがあっても、もっともっと大人になった時に
「あんな曲は歌いたくなかった」と思うようなことのは、あんまりなかったんじゃないかと思うね。

北野:僕は「本人たちが楽しそうにしていない感じ」を見るのはダメなタイプなんですけど、モーニング娘。にはそういうことが全然ないんですよね。みんなが本当に曲が好きでやっているのが伝わってきます。

つんく♂:だからやっぱり、「今のモーニング娘。の曲いいな」と卒業生が思ってくれるようにしたいとは思っているし、何よりも現役メンバーに「わたしたちの曲、ダサいからな〜」と思われないようにとは思っていて。
アイドルフェスとかで周りのアイドルたちと並んだ時に「売れ行き枚数は負けていても、曲として負けてへんし」という気持ちで歌って来いよ! と常に思っているかな。
https://note.tsunku.net/n/nf0f53060184f