中途半端なルックスとさえない芸でもういい歳になってしまった。
テレビやバーの仕事もめっきり減り、素人相手のマジック教室にも失敗した。
サラ金への借金も相当なものだが、いまさらマジック以外では食べていけそうになかった。
同じ境遇になったコンプリートマジシャンRと一緒に、地方の温泉の営業回りがはじまった。
自分たちの全盛期の芸はまったくうけない客筋だが、クラシックな鳩出しをしていれば日銭にはなった。
アルコールのはいった温泉客の視線は、Rのつまらんマジックよりアシスタントの彼女に集中した。
彼女をロープで縛る超能力ネタでは、男達の舌なめずりが聞こえる場末のいかがわしい劇場と化していた。
やがて、Rは友人からイリュージョンの道具を借りるようになる。
三十路を過ぎた彼女には、ヒンズーやオリガミは正直体力的に辛かった。
しかし、温泉客にイリュージョンはうけた。マジシャンにとって麻薬だよという先輩の言葉が浮かんだ。
Rは彼女のために露出度の高い衣装をいくつも用意し、ステージではまるで着せ替え人形のようだった。
おまえは何でも似合うからステージが盛り上がる、舞台に立てるのは幸せだろ、とRはささやいた。
Rはろくにマジックの練習もせず、酒量だけが増えていく。彼女の借金も減りそうにはなかった。
とあるステージが終わると、Rのところへ支配人が地元のやくざ風の男とやってきた。
「手品のにいちゃんよ、さっき出てたアシスタントの女、いい女だなあ。むちむちっとして感度よさそうじゃん。」
「どうだ、うちの兄貴の夜のお友達になってもらえんかなあ。
こんな商売してたらわかるだろ、恥ずかしいなんて年じゃねえだろうに。」
「あんたら困ってるんだろ。向こう1年レギュラーでギャラも割り増すぜ。」