別府に一人旅したときのはなし。

あれは暑い夏の夜だった
温泉街の海沿いの道路にあるファミレスに寄ったんだ
ドアを開けると、店内のサラリとした涼しさが肌にしみて、
それが、それまでの海の潮風と湯けむりの混じった生暖かい
空気の感触からは程遠くて、旅のなかでも特に印象的だった
今でも不意に当時の感覚を肌で思い出すことがある
ひとり寂しい者の身には、真夜中のうらぶれた店内の
繁雑さが、妙に居心地のいいものでして、窓外をいろどる
温泉ビルのネオンの灯りをいつまでも眺めていた