私は今秋夜、家路を急ぐため、小峰峠にさしかかりました。
何時も通っている道なのに、なぜか、その時ばかり不気味でトンネルを
やっとの思いで通り抜けました。
その途端、私のハンドルが何者かにとられガケぷちの上にもってゆかれました。
私は慌てて、ブレーキを踏み、難を逃れました。
そのショックでしょうかエンジンは止まっておりました。
外はシーンと静まり返り、文字通り暗夜でした。
と、どうでしょうか。
遠くの方から鈴の音が聞こえ、だんだん近づいてくるではありませんか。
私は思わず「出たな!」と感じ、冷汗を流しながら小峰峠を脱出しました。
以来私は、小峰峠を通らず遠く瀧山街道を迂回しています。

(「秋川新聞」昭和63年11月6日付)