スタジオに入り、フォトグラファーの水谷太郎と二、三、言葉を交わした羽生結弦がなにかに納得したようにスマートフォンを操作した。スピーカーから流れてきたのは、たおやかなピアノ曲。それは昨年逝去した坂本龍一が娘のために作曲した『aqua』だった。曲に身を委ねるように、しなやかに体を動かす。スタジオは美しく、凛とした緊張感が漂う、誰も踏み込むことのできない空間へと変わっていた──。

「真上のライティングを見て、太陽みたい、天国からの光のようだと思ったんです。さらに水谷さんから『上を見てほしい。上を見て、なにかを考えてほしい』という言葉を投げかけられて、これは“祈り”だなと思い、そのイメージに合う『aqua』を選びました」