「非難すればいい」という思考停止

 世間には『◯◯する力』『◯◯力』という本が溢れていますが、私たちにもっとも求められるのは、「訂正する力」ではないでしょうか。

 日本人の最大の問題は「訂正」が非常に苦手だということです。それを痛感したのが、ジャニー喜多川氏による性加害をめぐる騒動でした。

 彼の行為は犯罪であり、今回のジャニーズ事務所の対応も批判されて当然です。被害者の勇気ある声をきっかけに、ジャニーズ事務所や芸能界、黙認してきたメディアが正されていくのは、大切なことでしょう。

 ただ同時に、今回の騒動では「訂正」が必ずしもうまくいっていないように見えます。「ジャニーズを批判しない人間はおかしい」という同調圧力による一方的な糾弾になっているのは、それはそれで考えものです。

 これまで、芸能界やマスコミは喜多川氏が作り上げたジャニーズ事務所のルールに従属し、性加害に沈黙してきました。しかしひとたび状況がひっくり返ると、ジャニーズのやることは何でも否定するという構図になってしまった。
根本的には、「空気」に支配されていることに変わりありません。つまり「黙っていればいい」という思考停止が、「非難すればいい」という思考停止に入れ替わっただけ。その中間にあるはずの、多様な考えを拾い上げることはできていないわけです。