描き上がった原稿を見せると奇妙な静寂だった
彼はまず漫画原稿用紙一面に赤のインクを塗り
予定していた構図をホワイトを使って描いた
そろは最早漫画雑誌の巻頭カラーではなかった
アートだ
どうだろう
いけませんかね
きみは
尋ねられた脚本家は窓の外に目を遣ったまま
うん
とだけ発音した
しかしね
納得のいかない顔でスキャナを見つめる男の
考えている事など見透していたので原稿をスキャナに挟んだ
そしてスキャンボタンを押そうとする手を
脚本家がとめた
デザイナの仕事はイラストレータの仕事ぢゃない
三次元化したければグラフィックデザイナがやる
ディジタル処理などした事の無い漫画家に
イラストレィションを超えたアーティスティックな作品を出させて
これ以上無機質化を図るというのはあったとしても
彼の仕事ぢゃ無い
そのうえにこれはアートと一言では表しがたい
完璧な二次元を造り出した物だ
赤と白の水墨画だ
滲めば灰色に成るように
滲んだ桜色が生っている
絵画だ
日本画だ
掛け軸だ
そんな真赤な掛け軸薄気味悪いがね
クケッとカエルの鳴き声のように笑うと
彼の手を放しスキャンボタンを押した