新人が入ってきた。元大手企業勤めのリストラ既婚子持ち中年。介護業界では珍しくはない。
バブル入社で仕事すらまともにできないポンコツがコロナ不況でリストラされ入ってくることも多いからだ。
まぁ新人はおむつ交換ばかりさせておくのが一番いい。
何か分からないことがあったら、聞いて来いと言ってクソ拭きの指示だけ出しておいた。
折りしも夜勤、窓の外は小雪がちらついていた。

長時間ひたすら汚物処理だけをやっていると、色々なことを考える。明けたらコンビニで何か買おうか?
今度の休みは何をするか?今までの人生。これからの将来。色々なことが頭を過ぎる。

別フロアの職員がヒョイと顔を出して、
「最近入った新人のオッサン、泣いているぞ。お前パワハラでもしたんじゃねーの?」と言ってきた。
「あ?何だと?」と思って見に行くと、本当にクソ拭きながら泣いている。

入居者は泣きながら糞尿処理しているオッサンを呆れながらみたり、怪訝な顔をしたり、
自分まで不穏な状態になったりと、反応は様々だった。

「どうした?」と声を掛けると、やや間があってようやく振り絞るような声で一言。
「つらいです・・・。」

よくよく話を聞くと、オバヘルやDQNにアゴで使われながら汚物処理している自分の今までの人生を振り返り、
何で俺はここまで堕ちてしまったのか?
なぜ年末年始の大晦日や元旦に奴隷のように高齢者のクソ拭きをしているのか
何で今、こんな所で罰ゲームのようなことをやっていなければならないのか?
そんなことを考えていたら、涙が溢れて止まらなくなってしまったそうだ。

結局、彼は明けに荷物をまとめ退職届けを置いて帰った。