「旭の友」に掲載されていた居木井警部の「捜査記録」を読むと、やはり平沢が
真犯人なのではないかという気がしてきた。

居木井警部自身、はじめて北海道に捜査に出かけた時は、「平沢については何ら疑念を
持ち合わせず、溺れんとするもの藁をも掴むような心理で『青函連絡船に乗船した際の
同室者の氏名を一人でも多く平沢に何等かの資料で思い出して貰おう』と願うの外は
他に何も期待していなかった」そうだ。

しかし実際に訪問して見ると、「家を見回すと、階下の障子は破れ長屋然としており、
雑然たる状態で、大画伯ともあろう者が斯様な家に永い間居住するとは・・・出身地
の小樽では綺麗な一間位画伯に提供してくれる後援者がないだろうか・・・と考えて
みると嫌な予感が脳裏に閃いた。兎に角身分と住宅の不釣合いは第一の疑念であった。」

そして面談が始まってみると、「約二時間、何と重苦しくまた長い時間に思えたか
知れなかった。逃れんとする者の心理と、その微妙な心理を瞬間的に解明して追う者との
『心理と心理の闘い』」という状況になったと書かれている。