◆「全員攻撃、全員守り」の将棋

高野:昨年度、安全勝ちをしたのは竜王戦の挑戦者決定戦・永瀬戦の第2局くらいじゃないかなぁ。この対局は私が観戦記を書いたんですが、手厚く勝ったんですよ。だからどうしても勝ちたかった一局だったように感じました。

さくら:あまり玉を囲わないので、最後までハラハラしますよね。

高野:彼は、圧倒的な受けの力があるので、駒がバラバラになっても受け止める自信があるんですよね。ここも藤井将棋が面白い理由かもしれません。

岡部:あまり囲わないから面白い。

高野:玉が堅いということは、そこは動かないから、動く駒が少ないのは事実ですよね。でも、藤井将棋は、囲わないから全部の駒が動くんですよ。大駒が大きく動きやすく、角や桂馬がダイナミックに働く。銀も斜めから後ろに戻るみたいな動きが多い。これも面白さのひとつでしょうね。

さくら:まさに「すべての駒が躍動している」ですね。

高野:そうそう。全員攻撃、全員守りなんですよ。藤井将棋は、最後に思わぬ駒が働いてくる。「実はあなたが主役だったの」って感じのことが多いですよね。

さくら:なんか伏線を回収してるみたいですね(笑)。

図解「藤井聡太、八冠ロードの現在地」© 日刊SPA! 図解「藤井聡太、八冠ロードの現在地」
【棋士 高野秀行】

1972年、横浜市生まれ。中原誠十六世名人門下。日本将棋連盟六段。「経堂こども将棋教室」を主宰し、子どもたちに将棋を教える

【ライター 岡部敬史】

1972年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。ライター・編集者。文春オンライン「観る将棋、読む将棋」でも執筆

【観る将漫画家 さくらはな。】

千葉県出身。漫画家。2013年5月に突然将棋を始める。竹書房『本当にあった愉快な話』にて「えりりんの女流棋士の日々」を連載中

写真/産経新聞社