家をあけていて夜遅く戻ったら太一さんのお嬢さんから何度も電話が入っていた。いやな予感がして電話を入れたら悪い予感が当たってしまった。山田太一さんが、今朝亡くなったとのことだった。電話を切りながら、空しさと、
そのことにさほどショックを受けていない自分がいることへの不思議さをぼんやりどこかで考えていた。電話帳の一行に、又黒い線を引かなくちゃならない。
太一さんとは、古い戦友だった。
テレビ界という戦場で60年以上一緒に戦った。最初は向田邦子さんというもう一人の戦友がすぐ傍にいた。だが向田さんは僕らを置いてアッという間に彼岸に消えた。生前三人で時々集い、テレビについて時々語った。テレビが最初の処女のような美しさときらめきを失いつつあることについてだ。
あの頃初めて世に登場したテレビという新しい媒体は眩しいぐらいに僕らを魅了し、僕らは若い全エネルギーを、その美しい処女の為に捧げた。それは純粋で夢中な、何の疑いもない行為だった。
向田さんの突然の死が、今考えれば一つのキッカケだった気がする。
あの頃から少しずつ、テレビというものは変わって来てしまった。
視聴率競争という醜いものが、テレビの世界を冒し始めた。テレビはどんどん怪物に成長したが、テレビドラマという僕らの少女はどんどん汚され、気品を失った。