パワーカップルのタワマン購入、自殺に等しい

そんな中でマンション業界は、夫の年収だけではなく妻の年収をも合算した世帯所得を基礎に、世帯所得の5倍程度でようやく手が届く範囲のタワマンの売り出し戦略としてパワーカップルに照準を当てた。実際に銀行の住宅ローンでは、場合にもよるが年収の7〜8倍程度まで融資を受け付ける例が多い。となると、もはやタワマンの主力となったパワーカップルの世帯年収が1000万円だとすると、おおむね7000万〜8000万円の物件まで融資を受けられ、購入の射程に入ってくる。

7000万円だと都内でも場所によるが敷地面積20坪程度の新築一戸建てが十分手に入るし、中古物件だとより安価になるが、どうせ長期ローンを組んで同じマンションを買うならタワマンのほうがいい、ということでタワマンブームは続いてきた、というわけだ。事実、東京都内の新築タワマン相場はおおむね5000万〜1億円である。

しかしすでに述べたように、取得倍率が5ないし7を超える住宅を、長期ローンを組み購入する行為は、自殺行為に等しい。住宅ローン返済費以外のあらゆる支出は耐乏を余儀なくされるのである。パワーカップルの定義は、前述した世帯年収だけではない。旺盛な購買意欲の存在もその定義入ってくる。だから室内の家具・家電にも最新のものを求め、子供の教育にも余念がない。

○○と煙は高いところが好き

しかしながら今やタワマン購入者の主力となったパワーカップルが、本当に有閑階級なのかというと全く違っている。夫婦の合算年収が1000万円という程度の所得は、他の先進国基準では至って中産階級、場合によっては中の下程度である。慢性デフレ下で貧乏になりゆく日本にあって、中産下位の世帯が有閑階級を気取らざるをえないということ自体が社会の病巣の一つであるが、マンションデベロッパーは現地説明会ではそんなマイナス要素を一切口にしないので、百戦錬磨の営業マンに「低金利時代の今なら憧れのタワマンが手に入ります」と調子に乗せられ、嬉々として契約書にハンコを押し、銀行や公庫に平均寿命の半分弱に近い超長期ローンを申し込んでいく。

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