高橋愛が最初にその力を意識したのは15歳の頃だった。
 車に轢かれ横たわっている犬を確認した彼女は思わず駆け寄り、そっと撫でた。
 まだ辛うじて息はあったが、助からないのは明白だった。
 それでも救いたいと願うと、手の側からなにか靄のようなものが現れ、それが犬の傷口に触れた。
 犬は途端に眠りについた。もう二度と目を覚ますことは無かった。
 自分が命を吸い取ったのだとわかった。
 “彼”にとって安寧の眠りが救いだったのかはわからない。ただ少なくとも自分の心は救われた気がした。