「残業手当? 付くわけないじゃん」

2022年10月の金曜日。首都圏のターミナル駅から徒歩7分のカフェで、美容師の船木みずほさん(仮名)と会った。栃木県出身の28歳、都内の大手チェーンの美容室に勤めて8年目。中堅のスタイリストとして働いている。

入社同期は15人いたというが、今は1人。半数以上は3年以内に辞めてしまった。

船木みずほさん(仮名)。パーマやカラーの薬剤の影響で入社当初は手が荒れた

「アシスタント時代の手取りは約15万円。年収は200万円台だったなあ……。店の休業日が週1日。
月に4~5回は休みがあったけど、ずっと立ちっぱで。体力使う仕事だよ」

美容師は給料が低いと専門学校時代から認識していたものの、改めて薄給に驚いたという。
同期みんなでハサミを買うためのローンを申し込み、入社早々に約10万円のローンを背負った。

「ハサミは1丁あたり、安くて2万円。高いと15万円を超える。人によって持っている本数も違うけど、私は2万円超えのハサミを全部で3本使っている。アシスタント時代は、朝8時にサロンに着いて雑用を済ませ、11時から営業開始。20時に営業は終わるけど、そこからマネキンやカットモデルなどで練習をしていた。サロンを出るのは22~23時が多かったかな。残業手当? 付くわけないじゃん」

それに加えて、タテの人間関係も合わなかった。

「超がつく男社会でした。アシスタントは雑用ばかり。別の店では、同期が蹴られたり、殴られたりのパワハラを受けて。スタイリスト・デビューも年数ではなく、いかに気に入られるか。嫌われた人は、いつまでもデビューができないのです。目の前に1000万円を置かれても、絶対に戻りませんね。もうやりたくない。美容師という職業がよっぽど好きでないと、あの環境下で働き続けるなんてできませんよ」

https://news.yahoo.co.jp/articles/a43c63e49c87f5df4620b9dbf3612835e1cc6605?page=3