空海コレクション「十住心論」(ちくま学芸文庫)抜粋 02.愚童持斎心(ぐどうじさいしん) - 道徳の目覚め・儒教的境地3

・十善戒
「正法念処経」巻二に言う。
――殺生と怨みとを離れて、慈しみを生ずれば、神々に守護される。死後、天界に生まれる。
――盗まず、足るを知って施せば、みな信頼する。死後、天界に生まれる。
――異性に対する邪まな行為を離れて、煩悩の心がなければ、自分の妻に満足し、もろもろの善きことを摂める。死後、天界に生まれる。
――嘘を離れたならば、すべての人はみな信じる。死後、天界に生まれる。
――二枚舌を離れた者は、親しい人とも、疎い人とも関係が確かで、「怨みによって破られること」はない。死後、天界に生まれる。
――悪口を離れて、やさしい言葉で語れば、人はみな安らかである。死後、天界に生まれる。
――飾った言葉を離れた人は、正しい言葉を説くので、世の中で尊重される。わずかに、やわらかい言葉で説くと、他人に理解されやすい。死後、天界に生まれる。
――他人の財産を貪らず、心に願わなければ、現世に珠宝を得る。死後、天界に生まれる。
――怒りを離れた者は、人びとによって愛し念われ、「恐ろしい悪処(地獄)に関係をもつこと」もない。死後、天界に生まれる。
――邪まな見解を捨てた者は、すべての煩悩という、害をなすものから、みなことごとく離れる。死後、天界に生まれる。

――このような十善の、上と中と下の部類は、小国の王と転輪聖王と三乗(声聞乗・縁覚乗・菩薩乗)との、いずれかになるものである。