空海コレクション「十住心論」(ちくま学芸文庫)抜粋 02.愚童持斎心(ぐどうじさいしん) - 道徳の目覚め・儒教的境地2

・三帰戒
子牛に母牛がなければ、必ず死ぬことは疑いがなく、ヤマイヌや狼が、すべて走って、やって来る。
生けるものが仏に帰依しなければ、悪魔や鬼人が、みな、やって来て取り囲む。世間の道徳をたもって犯すことがなければ、来世に美名をはせる。
王は彼に語って、汝が恐れなきことを求めるならば、我が国境から出てはいけない。我が教えに違反してはいけない。必ず汝を救い護るであろう、と言うようなものである。
仏・法・僧の三宝に帰依し、仏の教えに違うことがなければ、悪魔に囚われることはない。

・五戒
そもそも五戒とは、中国の典籍にある五常の教えと同じである。すなわち、仁・義・礼・智・信である。
「あわれんで殺さない」のを仁と言い、相手を害なうのを防いで「男女の道を、乱すことをしない」のを義と言い、「ことさらに、心に酒を禁ずる」のを礼と言い、「清らかに思察して盗みをしない」のを智と言い、「道理にのっとった言葉でなければ語らない」のを信と言う。

「薩婆多論」に言う。――過去七仏中の第六の、迦葉仏のときに、在家の男性の信者がいた。彼は飲酒することによって他人の妻を犯し、他のものの鶏を盗んで殺した。他人がやって来て問うのに、「盗まない」と言って、嘘の罪を犯した。
偈に言う。――五戒は身をたすけて、人間界・天上界に生まれる果報を受ける。

・八戒
八戒とは、八斎戒の略で、在家の信者が一日一夜、守るべき戒めのこと。毎月の六斎日(8日、14日、15日、23日、29日、30日)に守る。
一には、生物を殺さない。二には、盗みをしない。三には、邪まな関係をもたない。四には、嘘をつかない。五には、酒を飲まない。六には、きらびやかに飾ることなく、歌舞を聴視しない。七には、高くゆったりとしたベッドに寝ない、という戒めである。

「善生経」に言う。「八戒を受ける者は、五逆罪(殺母・殺父・殺阿羅漢・出仏身血・破和合僧)を除いて、他のすべての悪はみな消滅する」と云々。