でも、僕が十数年前からカブに乗るようになって以来、あるいはそれ以前、カブというバイクの存在を認識してからずっと、カブが「一番好き」になったことは一度もないんじゃないかと思います。
カブは実際に買う前から何度も購入候補に挙がり、その度にもっと好きなバイクに競り負けていました。カブを買ったときにも、生活の利便性のために原付が必要になり、偶然安価で譲ってもらえるという話があったので、安い原付なら何でもいいと思って購入。

それからも、あるときはアホみたいに金と手間を注ぎ込んでいたクルマや自転車、あるいはカブ以外のバイクなど、その時々の「一番好きな物」は変わっていき、カブはずっとそれらに次ぐ存在として、クルマや他のバイクにトラブルが発生したときに、それらの部品を運んだり代打を務めたりする道具でした。
自転車で行ける所でカブで行けないとこはない。バイクで運べるものでカブに運べないものはない。クルマに積めるものなら無理すりゃカブにも積むことができる。ずっと壊れることなく、壊れてもすぐに直るカブは、僕が一番の愛情を注ぐものの横にいつもいて、それらのクルマやバイクにはできない生活の用を粛々とこなしてくれる同居者でした。

実はもうひとつ、カブに乗るようになった理由があります。「カブに乗ったら女の子にモテるのではないか」。10代半ばの頃、本気でそう思っていました。原付から早々にレーサーレプリカに乗り換えましたが、そうした試行錯誤の末に、僕は愛らしい見た目のカブを買いました。
しかし、女の子が白馬に乗った王子様を待っているというのは幻想でした。真夏の夜にカブにふたり乗りして、タイやベトナムの恋人みたいなデートをしようと言ったときには、「うんまた今度ね、今日はクルマで行こ?」とあやされました。それに、カブを大事にしていると「私とカブのどっちが大事なの?」ってかわいい嫉妬じゃなく、静かな怒りが伝わってくるのも知りました。
結果? お察しのとおり―幾度も失敗を重ねた末、僕はようやく解答らしきものに辿り着きました。