ある時武田信玄公はこのように言われた

「世の中の人は色々である。既に分別が有っても才覚のない人が有り、才覚が有っても慈悲のない人が居る。
慈悲が有っても人を見知らぬ者もある。

人を見知らぬ者は大身の場合、彼をとりまいている者共はその十人の内八人ほどに、役に立たない者が多い。
小身の場合、彼が親しく付き合う朋輩の、悪しき友人に近づく。
このように、人は色々様々に変わって見えるが、要はただ、分別の至らぬ心のゆえである。

分別さえ能々優れている人は、才覚にも遠慮にも、人を知るにも功を成すにも、何事につけても能く
行うものだ。そのように、人間は「分別」の二文字を諸色の元であると認識し、朝に志し、夕べに思うほどに
分別をよくせよ。」

そのように信玄公は仰っしゃられたのである。

『甲陽軍鑑』