私とて、作家にとっては、弱点だけが最大の強味となることぐらい知っている。
しかし弱点をそのまま強味へもってゆこうとする操作は、私には自己欺瞞に思われる。…

太宰のもっていた性格的欠陥は、少なくともその半分が、冷水摩擦や器械体操や規則的な生活で治される筈だった。
生活で解決すべきことに芸術を煩わしてはならないのだ。いささか逆説を弄すると、治りたがらない病人などには本当の病人の資格がない。

三島由紀夫
「小説家の休暇」より