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髪の毛をいじりながら面倒くさそうに彼女の話は続いた。
「私聞いたんだよね、テレビに行った人から。快の原則、美の鉄則と言って、視聴率のためには綺麗なものを映像にしないといけないルールがプロにはあるんだって!」

「おお、言いたいことは分かった」
彼は鼻で笑い、そして目でも笑った。
「私たちって似ているのかな?」

「さあ? 似てねえよたぶん」
「3年前にみんなにばれたとき、みんなにお似合いって言われたけど、それって似ているのとは違うの?」

2人はお互いを見つめあったまま静かにほほ笑んだ。
同じことをNHKも思ったのかな?」

***
邪魔が入ったけど話の続き。どうしようか? 別れる?」
別れ話をしながら坂道を登っていたのか!

「私はクリスマスに誘われているのよ。東大の津島君。ラグビーの人、覚えている?」
「あ!  あいつな。サークルだろう?  体が大きいだけで接触もしていないのによく転ぶあいつ?」
「なにその言い方、面白い。嫌いなの?」

2人にしばしの沈黙が流れた。
「じつはおれも予定作りかけていたんだ。浅井有里さん、可愛いよな」
「そんなことしていたのか! あ〜〜。あの人可愛いんだよねー。私と歩いていると自分が周りの人に馬鹿にされた気がして頭にくるってにらんでくるの。可愛いでしょ?」

「浅井さんを嫌いなのかい? なんか面白いぞ?」  にやにやと笑っている。

有里さんはね、と彼女の話は続いた。
「私は別に恥ずかしい服ではないし可愛くないわけではない、と、あなたが変なんだよ異常なんだよ、可愛すぎる! って、冗談で言っているのかと思ったら真顔で怒っているの! 怖かったけど可愛かった! なんでこんな目にあうんだ、とかブツブツ言ってて」

「おやおや、きみは浅井さんをバカにしたな? はいはいわかった。嫌いなんだね」
2人の雰囲気が楽しそうになってきた。

「話の続きだけどどうする? 別れる?」
「似ているんだろ? おれたち。お似合い?」
あらら、2人はお互いをニコニコと見つめだした。

やがて楽しそうに腕を組んで店を出て行った。
窓から2人を追うと、2人で何かを指さしながら笑いあっていた。

* * *

今日から数えて2週間後、今年も渋谷の街にクリスマスがやってくる。
予報によるとその日、強い寒気団に低気圧がかかる。
雪が降るのだろうか。

その日、2人は坂道で早めにとつぜん配られたサンタの贈り物を開き、楽しいクリスマスを過ごすだろう。

ジングルベルの鐘の音がやさしく聴こえてきた気がした。

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