◆「終盤力」の源は詰将棋?

さくら:藤井さんの強さというと「終盤力」が挙げられます。

高野:先ほど「下地の力」と言いましたが、その源が「詰将棋」。長い手順の詰将棋を解いてきた人というのは、実戦でも長い手順で考えることを苦にしないんですね。途中で読みをはしょったりしない。ただこれは最後まで読まないと指せなかったりして、時間に制限のある“勝負”という面では不利に働くケースもあります。

さくら:藤井聡太さんって、詰将棋を解くときに盤面をイメージしないんですよね。あれはどういうことなんですか?

高野:彼が子どもの頃に通っていた教室では、盤面や紙を見ないで符号だけ言ってそれを解いていたんですね。その影響なのでしょう。ただあれは普通の教室ではなかなか難しいと思いますよ。というのは、口で言っただけで盤面を思い描いて解ける子ってすごく少ないですからね。

岡部:確かに(笑)。

高野:ただそのことが、今の力にどのように作用したのかはよくわかりません。彼自身も説明できないのではないでしょうか。「みんなは違うのかな?」と思っているかもしれません(笑)。

岡部:では、考えるのを苦にしないこと。そして詰将棋の力が強さの要因としてあると。

高野:そうですね。あと強くなる過程を見ていると、何か失敗したとき、それを修正するのがとても上手なんじゃないかなと感じます。

◆藤井聡太の将棋には「華がある」

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岡部:劣勢になっている藤井将棋を見るのも好きなんですが、悪くなってからが本当に粘り強いですよね。

高野:そこに大きな特徴があるんですよね。ポッキリ折れの将棋がないんですよ。2021年度でいえば、王位戦の1局目だけかな。

さくら:豊島さん(将之九段)との対局ですね。

高野:そう。大差で負けたのは、あれくらいじゃないですか。どんなときも、ギリギリの終盤戦で「藤井の王様はなかなか詰まない」と思わせるのは、すごいことです。あと負けた将棋であっても、なにかひとつ見せ場をつくるんですよ。あれも、普通はできることではないです。

さくら:藤井さんは、勝っているだけでなく将棋が面白いですよね。

高野:華がありますよね。思わず膝を打つような、棋士の誰もがこんな手を指せたらいいなという手がよく出てきます。それは安全勝ちをするというより、ギリギリのところを攻めて勝っていくからこそ生まれていると思います。

さくら:ギリギリのところを攻められるのは、やはり詰将棋の力があるからですか?

高野:だと思います。詰将棋って、正解の道が一本しかない。なので、攻めも自然とギリギリのところを行くようになるのでしょう。また、自分の「玉」と相手の攻めの距離感を保っていることも大きいですね。「危なそうだけど、まだ詰まない、大丈夫」と思えば、攻めることができますから。

岡部:安全勝ちをしない。