■ 「神にしか指せない手」を表示したい

「SHOGI AI」自体の改良は常に続いている。去年12月には、判断の精度やスピードをアップさせる「SHOGI AI2020バージョンアップ」が発表された。

「今は1秒間に1千万手ぐらい考えてるんですけども、(それでも結構早いんですけども)それが4千万手くらい考えるようになるんですよ。つまり4倍くらい早いんですよね。これを導入することによって精度が非常に上がっていくのは間違いない」

ただ、こうしたAIの“進化”はジレンマを伴っている。

「精度を上げ過ぎると人間と乖離しちゃうんですよね、判断の結果が。このままAIをどんどんブラッシュアップしていくと、どんどん人間が指す手と違う手に行っちゃう」

そこで藤崎氏が今、構想している驚きの秘策がある。
AIが示す候補手を段階分けし、「人間が指し得る手」と「人間が指せなくても仕方がない手」を表示するというのだ。

「候補手のパーセントのところに『人』とか『神』とか入れようかと。
これが果たして人が指せるのか、『神』しか指せないのかを見えるようにすれば、例えば『人』と表示されれば視聴者の方も、人にはこれしか指せないのだろう、それで(『勝率』が)マイナス20%になってもしょうがないよね、ここは難しい局面なんだね、というのをわかってくれる。
例えば6億手分、考えないと出てこないような手を『神』って表示すれば、『あ、神様の手を指したということはこの人やっぱりすごいんだ』となる」

では、「人が指せる手」「指せない手」というのをどう定義づけ、どう判断するのか?

「実は羽生先生に『先生的にどう思われますか』と雑談レベルで聞いてみたら、『人が指せる』という判断は誰がやるんですか?と聞かれまして。
『そこはAIがやろうと思ってます』と答えると『なるほど、そこをAIがやるんですか。うーん、なるほど』って言われたんですよね(笑)。
まあそうですよね、人が指せるかどうかをAIが判断するのは矛盾しているところがあるんですけども」