■ 「評価値ディストピア」に監視されている…

「基本的には現在、人間とAIの差というのはかなり大きいものになっています。なのでAIが示す形勢判断も、ある程度信ぴょう性のあるものとして捉えています」

西尾明七段は将棋AIについて、その能力を認めざるを得ないとしたうえで、こんな本音を漏らした。

「例えば自分が1時間長考して、全然思いつきもしなかった手について、こうすれば優勢だったとかAIに言われると、『いやあ、そんなの指せないよ』って言いたくなるんですよ(笑)」

将棋がさほど強くないが、見るのは好きという「観る将」にとって、将棋AIはもはや必須のツールだ。
だが最近はAIの示す「候補手」が、とかく絶対視され、棋士が違う手を指すとコメント欄で厳しい声が飛ぶこともある。

名人3期の実績を持つ佐藤天彦(あまひこ)九段は、こうしたAIの判断が絶対視される現実を「“評価値ディストピア(暗黒郷)”に監視されている」と表現し、話題となった。

西尾七段も、この指摘には共感できるという。

「これはこっちがプラス何点です、みたいに(AIから)示されて、でも実際に勝つまでにはまだまだ山あり谷ありだったりするような局面でも、そこで評価値的にミスをして負けてしまうと『西尾が大逆転負けした』みたいな書かれ方をしてしまう…
いや実際はそうじゃないんですよって。違和感を感じている棋士は少なからずいるんじゃないでしょうか」

「SHOGI AI」開発責任者の藤崎氏もこの問題には心を痛めている。

「棋士の方が“ベスト”以外の手を指すと『悪手来た!』とか『もうだめだ』とか言われてしまうことが結構あって…。そこを何とかしたいというのが僕の中にもずっとありました」